No.099 ゲラダヒヒ – おもしろ哺乳動物大百科 48 霊長目 オナガザル科

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ゲラダヒヒ属

ゲラダヒヒ属は、ゲラダヒヒ1種類ですので、ゲラダヒヒについて紹介しましょう。

ゲラダヒヒ

胸のピンクが印象的でしょう。写真家 大高成元氏撮影

東アフリカの標高1,500〜5,000mのエチオピア高地に生息しています。この地域は木が生えていない草原なので彼らは全くの地上生活です。昼行性のゲラダヒヒは、夕方になると他の動物が利用しにくい1,000m以上もある崖の途中に移動し、夜の泊まり場としています。群れはマントヒヒの群れの構成と似て、1頭の成獣のオスと数頭のメスとその子どもたちでおよそ5〜25頭の一夫多妻の群れとなり、ワンメールユニットとよんでいます。ワンメールユニットは、いくつか集まり50〜300頭の群れになると、バンドとよびます。乾季には餌場でバンドが集まり、ときにはおよそ600頭もの大集団となりますが、これをハードとよびます。出産時の性別はほぼ半々ですから、ワンメール以外のオスたちはオスだけのグループをつくり、バンドの周辺部にいます。メスたちは基本的にワンメールユニットから出ませんが、オスはユニットやバンドから出入りしています。チンパンジーやニホンザルの場合は、他の群れが中に入ろうとすれば攻撃しますが、ゲラダヒヒの場合、ユニットのリーダーは何組集まっても基本的に争うことはありません。このように協調し平和な集まりがゲラダヒヒの特徴です。

からだの特徴

体は全体的に褐色で、リーダーは背中にマントのような長い毛があります。オスは首から胸にかけてと尻の部位に毛がなく皮膚が露出し赤くなっています。メスの胸にも同じようにパッチ状の部位がありますが、その縁は小さなイボが数珠繋ぎのようになり縁取られています。この部位は発情の視覚サインの役割を果たし、発情期には膨らみ、赤みが増大します。一般にサルやヒヒの発情は、メスの臀部から性器にかけて腫脹する種が多いのですが、ゲラダヒヒは、座った姿勢で長時間採食するので、同じようなパッチが胸部にもある、と考えられています。瞼には色素が欠落し白い部位があり、急に目をむいて白い瞼を相手に見せたり、上唇をクルリと反転させて白い歯と歯茎をむき出したりしますが、いずれも威嚇、恐怖、嫉妬心のあるときに行います。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、門歯が小さく小臼歯と大臼歯の咬合面に複雑な溝があって、主食のイネ科植物を食べるのに適しています。尻だこは、他のヒヒは左右が中央で繋がっていますが、ゲラダヒヒは雌雄共に離れています。尾は先端には房毛があります。

えさ

野生時の主食はイネ科の草ですが、他にも果物、葉、種子、木の髄、根、昆虫などを食べます。かつて私も上野動物園でゲラダヒヒの飼育経験がありますが、食べ方に特徴があります。給仕した牧草を手に取ると、すばやく5〜10cm程度にちぎり何本か一まとめにして握り、それを口の中に放り込むのです。この草をちぎる動作がすばやく、草原に座り効率よく草を集め口の中に放り込んでいる姿を連想しました。

繁殖

月経周期は32〜36日、妊娠期間は150〜180日で、出産のピークが1月と6月の2回ある生息地もありますが、交尾期には季節性はないとの報告もあり、生息地により違いがあるようです。初産年齢は3.5歳で、1産1子です。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は約460gで、眼は閉じていて顔は赤く、体は黒い毛で覆われています。胸にある乳首は左右近い位置にあるので、赤ちゃんは2つの乳首を一緒にくわえてお乳を飲みます。授乳期間は18ヶ月〜24ヶ月間で、この間はふつう排卵しません。オスの性成熟は8歳です。
長寿記録としては、ニューヨークのブロンクス動物園で1999年2月18日に死亡した個体の飼育期間34年、推定年齢36歳という記録があります。

生息数減少の理由

人間が土地を開発して生息域を奪い、あるいは8歳以上なったオスは、立派なマントを飾りにするために撃ち殺され、減少しています。野生の外敵としては、ヒョウ、ジャッカル、サーバルキャット、ハイエナ、キツネ、イヌなどの肉食獣に狙われます。
現在はエチオピア北部のシミエン国立公園では狩猟が禁止され保護されています。

データ

分類 霊長目 オナガザル科
分布 東アフリカ エチオピアの高地
体長 オス70〜74cm メス50〜65cm
尾長 オス40〜50cm メス33〜40cm
体重 オス20〜21kg メス12〜14kg
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

ゲラダヒヒの社会は、国内の著名な霊長類学者河合雅雄博士らが4年間現地調査して、参考文献4)を出版されております。

主な参考文献

Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998
Gron,K.J.(Reviewed by Dunber, R.) Primate Factsheets: Gelada baboon, Theropithecus gelada , Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center(University of Wisconsin) 2008
ジョン・R・ネイピア
プルー・H・ネイピア
伊沢紘生 訳
世界の霊長類 どうぶつ社1987
河合雅雄 人類進化のかくれ里 平凡社 1984
Nowak , R.M. Walker’s Mammals of the World Six Edition
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
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