No.096 マントヒヒ – おもしろ哺乳動物大百科 46 霊長目 オナガザル科

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ヒヒ属

サハラ砂漠以南のアフリカ及びアラビア半島の一部に分布しています。今泉吉典博士は、本属をアヌビスヒヒ、キイロヒヒ、ギニアヒヒ、チャクマヒヒ、そしてマントヒヒの5種に分類しています。このうちマントヒヒは半砂漠に生息していますが、他の4種はサバンナにすみ、アフリカをほぼ4分した地域に生息し、重複する地域は限定されています。体はサルの仲間では大きく、オスの体重は17〜37kgになります。体に模様がなく1色ですが、この方が開けた土地では目立たないと考えられています。また、全てのオスはワカモノ期に生まれた群れを出ます。
エジプトでは、マントヒヒは古代から神の使いとして崇められ、パピルスの巻物や神殿の中に絵や彫刻があります。

マントヒヒ

エチオピア、エリトリア、ソマリア、サウジアラビア南部、イエメン南部に生息します。エチオピア北部では海岸から海抜2,000〜2,500mの高地まで、半砂漠や乾燥した岩山の谷間や、荒れた草原のような場所の地上で生活しています。
群れの最小はワンメールユニットと呼ばれる1頭の成獣オスと数頭のおとなメスとその子どもたちです。ワンメールユニットがいくつか集まり、クランと呼ばれる集団になります。そして、クランがいくつか集まり60頭前後になり、バンドと呼ばれます。このバンドが一つの基本社会となり、日中の採食行動ほかさまざまな社会行動が見られます。エチオピアのバンドのテリトリーは約30kmでした。さらに昼行性の彼らは夜間になると、外敵のヒョウなどが近づくことができない崖縁の場所に移動します。これをトゥループ(休眠集団)と呼んで、バンドがいくつか集合し、数100頭の大群になります。
ワカモノが自分のユニットを持つにはいくつかの方法があります。一つは1歳児のメスに近づき彼女たちの世話をしながら母親から離し、自分に追従するように馴らして新たなユニットを作ります。他にも、別のバンドに属しているオスが幼いメスを強引に誘拐し、成長したとき配偶者にすることもあります。
また、エチオピアの一部地域には野生のアヌビスヒヒとマントヒヒの種間雑種が見られます。

からだの特徴

真ん中にどっかり座っているのがオス。手前にいるのが母親ですが大きさが半分くらいですね。写真家 大高成元氏撮影

若いオスやメスにはありませんが、成獣オスのリーダーの肩部から背にかけて銀色の長い毛がマントのようになり、これが名前の由来です。
鼻は長くイヌ顔で、耳は成獣のオスの場合毛に隠れています。顔と股間部には毛がなくて肌色の皮膚が見えます。メスと子どもは褐色ですがオスは成長すると灰色となります。雌雄で体重が倍近く違い、大きなオスでは20kgを超えますが、メスは10kg程度です。
歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯はメスより長くて強力で、歯や体の大きさなどの性的2形が顕著です。飼育中の群れでは競い合って頬袋に食べ物を詰め込む様子が見られます。尻だこは大きくて赤いのが特徴の一つです。

えさ

野生時の主食は、何種類ものアカシア花、豆、果実が多く、雨期と乾季で若干異なります。雨期の初めには草の若葉、実ると穂を歯でしごいて食べ、乾季になると木の葉の基部や、根、球根などのほか昆虫やトカゲ、ごく稀に小型のガゼルなども食べる雑食性です。
動物園では、サル用のペレット、季節の果物、野菜などを主に与えています。

繁殖

月経周期は約30日で、妊娠期間は170〜173日、1産1子です。出産は1年を通じて見られますが、エチオピアでは5〜6月と11〜12月に出産のピークがあります。赤ちゃんの体重は600〜900gで、体は黒色です。授乳期間は約8ヶ月です。性成熟はメス5歳、オス7歳です。ヒヒの中でもマントヒヒのメスは、発情中も妊娠中の区別なく特定の1頭に追従し、さらに若いオスが将来配偶者にするために1歳児のメスの子どもの世話をするなど他のヒヒにない行動がみられます。
飼育下の長寿記録は、ブルックフィールド動物園で37歳6ヶ月まで生存した記録があります。

外敵

野生の外敵としては、ヒョウ、ライオン、ジャッカル、ハイエナ、ニシキヘビ、大型のワシなどがいます。また、他種の動物たちと同様に、土地の開発により生息域を人間に奪われ殺されているほか、スポーツとしての狩猟や、食料にするためワナや狩猟で捕らえられて地域によっては減少しています。

データ

分類 霊長目 オナガザル科
分布 アフリカ北東部のエチオピアからソマリア、アラビア半島南西部
体長 オス60〜94cm メス50〜65cm
体重 オス18〜25kg メス13〜18kg
尾長 オス約55cm メス約39cm
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

伊谷純一郎 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社1968
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
ジョン・R・ネイピア プルー・H・ネイピア
伊沢紘生訳
世界の霊長類 どうぶつ社1987
H・クマー著 水原洋城訳霊長類の社会 社会思想社1978
Nowak , R.M. Walker’s Mammals of the World Six Edition
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
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