No.098 マンドリル – おもしろ哺乳動物大百科 47 霊長目 オナガザル科

おもしろ哺乳動物大百科オナガザル科霊長目ペットコラム

マンドリル属

マンドリル属は、ドリルとマンドリルの2種類に分類されています。アフリカのナイジェリア、コンゴ、カメルーン、ギニア、ガボンの熱帯多雨林に生息していますが、それぞれ生息域はわかれています。サルの仲間で最大となり、オスでは体重が50kg台という報告もありますが、一般に両種とも20kg〜30kgというところでしょう。昼行性で日中は森林の地上が主な生活場所ですが、夜間は外敵を避け,メスや子どもは樹冠で、成獣のオスは低い木の枝で眠ります。マンドリルとドリルの区別は容易で、ドリルの顔が漆黒であるのに対し、マンドリルの成獣のオスは極彩色に彩られ一目瞭然です。

マンドリル

親子3頭 今年もよろしく。オスの顔がひときわきれいでしょう。写真家 大高成元氏撮影

カメルーンからコンゴにかけて、赤道ギニア、ガボンに生息します。熱帯雨林の密生した森林や山地林の地上から樹上まで利用しています。
生息地では、果実の実る頃は小川に沿って探し、乾季にはときどき農場に侵入している群れも観察されています。群れが草原まで出るときは、移動で低い山地林の草地を横切るくらいです。
生息域の広さは、5km²〜50km²で、1日3〜15km移動するとの報告があります。群れは1頭のオスと5〜10頭あるいは15〜50頭のメスと子どもで暮らし、乾季にはこれらのグループが集まり200頭前後になる、という記録や、複雄複雌の群れという報告があり、群れに関する詳細は不明です。いずれにしても熱帯雨林の奥地で広い行動域を持つマンドリルの調査は容易ではなさそうです。
音声によるコミュニケーションの手段として3種類の声、メスと子どもの間で交わされる声、メスとワカモノの間で交わされる警戒の音声、オスのリーダーによる集合の合図の声が知られています。

からだの特徴

オスは成獣になると大きな鼻梁がラッカーを塗ったような艶のある赤と、その両側の溝が青銅色で鮮やかなコントラストになっています。さらにあごひげと頬ひげが黄色で一度見たら忘れられないほど派手な顔になります。臀部から性器にかけて、うすい青、赤、紫色がまじり、後ろから見てもオスとわかります。これらの色は、暗いジャングルの中でも目立ち、群れで移動するときに、後に続くほかの仲間が認識するのに役立っている、と考えられています。
メスの場合は成獣になっても鼻梁の両側の溝はあまり発達せず、色もオスほど鮮やかではありません。尻だこもあります。雌雄で体重が倍近く違い、オスでは体重が54kgという記録もありますが、普通は20kg〜30kg、メスは12〜13kgです。また、類人猿の仲間は親指が短いのですが、ヒヒやマカク、マンドリルは親指も長くて、ものを摘むのに適しています。歯式は門歯2/2、犬歯1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯はメスより長く、平均で4.5cmになります。体の大きさや体色、犬歯などで性的二型が顕著です。オスの胸部には匂いを出す分泌腺があって7歳以上のオス、とくに順位が1位のオスは胸部を木にこすりつけ、におい付けを頻繁に行います。飼育下のオスは、担当者の顔を見ると、あくびをするように大きく口を開けて、長い犬歯を見せつけるように、顔を左右に振りますが、これは相手を威嚇している行動と考えられています。

えさ

野生時の主食は果実ですが、他にも種子、葉、木の髄、新芽、キノコ、木の根、昆虫、ヘビ、卵、稀に小型のアンテロープの子どもなどを捕らえて食べる雑食性です。
動物園では、サル用のペレット、季節の果物、野菜などを主に与えています。

繁殖

発情周期は33〜35日、妊娠期間は167〜176日で1産1子です。ガボンの交尾期は6月から10月で、出産期は1月から4月です。出産間隔は13〜14ヶ月、性成熟はメスが3.5歳、オスは5歳,育児のときは叔母や他のメスも赤ちゃんの面倒を見ます。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は900gぐらいで、顔はピンク色をしています。生後35日ぐらいになると固いものを口に入れるようになります。離乳時期は生後約8ヶ月です。
長寿記録は、1964年6月にボルティモア動物園で生まれたメスの個体が、2004年6月現在40歳でダラス動物園で飼育中という記録があります。

生息数減少の理由

一番の減少理由は、人間が土地を開発して生息域を奪い、あるいは、スポーツとしての狩猟や、食料にするためワナや狩猟で捕らえていることです。野生の外敵としては、ヒョウと子どもは猛禽類のワシやタカ、ヘビに狙われます。
ガボンのWong−Wonue国立公園とカメルーンのCampo保護区ではハンターから保護されて生息しています。

データ

分類 霊長目 オナガザル科
分布 カメルーン、赤道ギニア、ガボン、コンゴの熱帯雨林
体長 オス65〜90cm メス50〜65cm
体重 オス20〜30kg メス12〜13kg
尾長 オス、メス7〜10cm
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定され、絶滅が懸念されています。
一方近縁種のドリルはさらにきびしく、絶滅危惧種(EN)に指定され、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が高いと、懸念されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998
Gron,K.J.(Reviewed by Joanna Setchell) Primate Factsheets: Drill Mandrillus Taxonomy, Morphology,&Ecology, Behavior & Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2009
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
ジョン・R・ネイピア
プルー・H・ネイピア
伊沢紘生 訳
世界の霊長類 どうぶつ社1987
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社 1968
Nowak , R.M. Walker’s Mammals of the World Six Edition
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
タイトルとURLをコピーしました