ネコ科
ライオン
砂漠と赤道周辺の熱帯多雨林を除いたアフリカのサハラ砂漠以南およびインド北西部に生息しています。茂みのあるサバンナ、開けた森林、やぶ、ときには半砂漠、そしてケニアのエルゴン山では標高3,600m、エチオピアのベール山で標高3,240m、さらに標高5,000mの高地でも見られ、またインドでは森林が生息地として知られています。ふつうヒョウ属の仲間は繁殖期と子育て以外は単独生活をしていますが、アフリカに生息するライオンは群れで生活し、この群れをプライドと呼んでいます。プライドの通常の構成メンバーは1~3頭の成獣オスと、1~4頭のメス及びその子どもたち1~3頭で、合わせて4~12頭です。
タンザニアのセレンゲテイ国立公園のプライドは4~37頭で、平均15頭でしたが、しばしば5頭ぐらいずつに分散していました。プライドの構成員の間に順位はなくリーダーもいません。基本的に母系集団で母から娘に行動圏と共に代々引き継がれており、そこに成獣オスが入れ替わり入ってくるため成獣オスとメスの間に血縁関係はありません。プライド内が過剰になると余分なメスの子どもは追い出されてしまい、新たなプライドを作るか生涯放浪メスで終わることになります。一方、インドのギル森林ではプライドを作らないで雌雄は発情期にのみ一緒に行動しています。また、カラハリ砂漠では獲物が減少した乾季にプライド間でメスの出入りが見られたとの報告もあり、ライオンはすべてプライドを作るのではなく、生息環境に応じて変化しています。アフリカライオンのオスは2~3才で群れから追い出されて、性成熟すると近くのプライドにやってきて乗っ取る機会を狙っています。プライドの乗っ取りに成功したオスは、そこにいる子どもを殺してしまいますが、これは自分の遺伝子を効率よく残すための有効な手段と考えられています。狩りは多くの場合メスが中心となって行いますが、オスもまた大型の獲物を倒すときは手伝い、最初に満足するまで食べて、その後メスと子どもが食べます。オスの仕事はおもに行動圏とメスを他のオスから守ることで、数年から10年で別のオスと入れ替わります。
活動時間はアフリカの場合、基本的に夜行性で主に薄暮の時間帯に活動し、1日のうち20~21時間は休憩しています。プライドのメンバーが狩りに出かけるときは、1頭の年長のメスがプライドに留まり外敵となるハイエナなどから子どもを守ります。乾燥地域にも適応して生活しているのですが水は良く飲み、湿った砂地に寝転がるのを好み、また泳ぎも巧みです。若い個体は木に登り、アフリカ中部にあるタンガニーカのマニヤラ湖畔の個体群は木登りライオンとして有名です。行動圏は20~500km²と生息域により幅があり、セレンゲテイ国立公園では約80%が1年中行動圏にとどまりますが、約20%は有蹄獣と一緒に移動します。ナイロビ国立公園での調査によれば、一晩に0.5~11.2km移動したと報告されています。一方、インドのギル森林にすむライオンは日中も活動しています。歩行速度は時速約4kmで、獲物を襲う時には時速50~60kmで追いかけ、ひと跳びで12m、高さ3.6m飛びあがった記録があります。コミュニケーションとしては少なくとも9種類の声を出すとことが知られ、とりわけ咆哮(ほうこう)は食肉目中最大の大声で9km先に届くことが知られ、オスでは1歳頃から吠え始めます。他にも尿をスプレイして匂いをつける、足で地面をひっかく、足を引きずるようにして歩く、尿をなめるなどがあります。
からだの特徴
体は全体的にがっしりとして、頭部は大きく咬合力が強いことを示しています。百獣の王と称される由縁はオスにのみ生える立派なたてがみです。たてがみはオス同士の戦いの際急所の頸部を守ることや、黒くて立派なたてがみを持つ個体がメスに好まれると言われていましたが、北米の動物園の調査結果によれば、寒い地方の動物園で飼育されているライオンほど黒く立派なたてがみを持っていたとの調査結果もあります。
また、たてがみは湿地帯ほど黒いことも知られており、防寒にも役立っているようです。1~2歳から生えはじめ立派になるまでには5~6年かかります。体の大きさは生息地により大きな違いがみられ、アフリカに生息する亜種の方がアジアのインド産より大型になると共に、オスはメスより20~27%大きくなります。アフリカライオンの体長(頭胴長)は、オス170~250cm、メス140~175cm、尾長は、オス90~105cm、メス70~100cm、体重はオス150~250kg、メス120~182kgです。一方、インドライオンの体重はオスが160~190kg、メスが110~120kgです。
大きな記録としてはアフリカライオンの体長で330cm、また、体重では272kgの報告があります。4肢は力強く、指向性で前肢に5本、後肢に4本の指があり、それぞれ引っ込めることのできる鉤爪があります。尾は長く先端に黒い房毛があります。耳先は丸く短く、裏側に黒い部位があります。瞳孔は丸く、乳頭は2対、稀に3対あります。体毛は下毛が0.6~0.8cm、上毛は1.0~1.4cmで、体色は生息地で違いがありますが、黄褐色から赤褐色で腹部と4肢の内側は白色です。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1、合計30本で、犬歯の長さは4.3~5.2cmあります。分泌腺は肛門の両側に肛門腺があり、他にも指間、顎、頬、唇等にもあります。
えさ
アフリカライオンはメスが共同して獲物を倒しますが、インド北西部の森林にすむインドライオンは交尾期以外日中も行動し、単独で小型のアクシスジカを捕捉し主食としています。アフリカライオンも又、見通しが悪い森林や深い藪のある場所や曇りや雨で視界の悪いときは日中も狩りを行います。彼らは自分の体重の2倍、時には4倍もあるヌー、シマウマ、アフリカスイギュウ、キリンも倒します。ふつうは成獣で1日に5~7kg食べれば十分ですが、1頭で体重約120kgの獲物を1年間に20頭、一度に22~27kg食べた、との報告があります。
狩りの成功率は低く61回獲物を狙い、仕留めることに成功したのは10回だけという報告や、単独で狩りをおこなった時の成功率は17~19%、複数の場合は約30%との報告もあります。獲物を襲う距離は50~100mが普通で、稀に500mと言う記録があります。
獲物は生息地ごとに若干の違いがありますが、主食は有蹄獣です。アフリカでは主な種類として、ハーテビースト、ヌー、シマウマ、キリン、アフリカスイギュウ、若いアフリカゾウ、カバ、ウオーターバック、セーブルアンテロープ、クズ―、インパラ、イボイノシシの他にウサギ類、げっ歯類、鳥類、爬虫類、昆虫(バッタ)、死肉、水分補給のために草類やウォーターメロンも食べる場合があります。インドではアクシスジカが主食ですが、そのほかにサンバー、また家畜のウシの占める割合も高くなっています。
繁殖
決まった繁殖期はなく、発情は平均すると16日間周期で4~7日間続きます。プライドのメスたちはほぼ同時に発情するので同時期に出産し、自分の子ども以外にも授乳することが知られています。ネコと同様に交尾排卵し、交尾は1日におよそ100回、妊娠までには約1,500回もの交尾をすると推測されています。
妊娠期間は105~110日で、1産で1~4子を、約2年に1回出産します。出産は外敵から子どもを守るためプライドから離れた巣穴や藪などで行い、その後も何回か巣穴を変えます。出産時の新生児の体重は1,300~1,700g、体長は約20cm、尾長約10cm、目は稀に開いている場合もありますが多くは閉じて出産し、生後3~11日齢で完全に開きます。子どもの体には暗褐色の斑点がありますが、生後10ヶ月齢頃にはほとんど消えてしまいます。生後2週齢頃になるとヨチヨチと歩きはじめ、生後25~30日齢で走ることができ、生後4~5週齢で動くものを追い始めます。親子が自分のプライドに合流するのは生後6~8週齢です。生後8週齢頃から固形物を食べ始めますが、授乳期間は生後7~9ヶ月齢になります。乳歯は生後21~30日齢で萌芽しはじめ、生後9~12ヶ月齢で永久歯に代わります。生後11ヶ月齢で狩りに参加しますが生後16ヶ月齢まで親の獲物に依存し、オスは2歳~4歳で独立します。性成熟の年齢はオスでは3~4歳ですが、メスではやや早く3歳ぐらいです。
飼育下での長寿記録は、アメリカのアイオワ州にあるノックスビル動物園で1973年4月11日に生まれ、2000年2月10日にインディアナ州のナッシュビル動物園で死亡した個体(メス)の26歳10ヶ月という記録があります。
外敵
成獣は人間以外に外敵はいませんが、子ども、老齢、病気の個体はブチハイエナ、ヒョウ、リカオンなどに殺されることがあります。
亜種
亜種について今泉吉典博士は生息地によって7亜種に分類していますが、すでにバーバリーライオンとケープライオンの2亜種が絶滅しています。現在はアンゴラ、トランスバール、マサイ、セネガル、インド地方に生息する個体群の5亜種が生存しています。
亜種の分類についてはアフリカとインドの2亜種に分類する学者もいます。
データ
分類 | 食肉目 ネコ科 |
分布 | アフリカのサハラ砂漠以南及びインド北西部(ギル森林)。赤道沿いの熱帯多雨林及び砂漠を除いて広く生息しています。 |
アフリカライオン | |
体長(頭胴長) | オス170~250cmメス145~175cm |
体重 | オス150~250kgメス120~182kg |
尾長 | オス90~105cmメス70~100cm |
インドライオン | |
体重 | オス160~190kgメス110~120kg |
絶滅危機の程度 | 1800年代にはアフリカの大部分からパキスタン、インド全域にかけて生息していましたが、現在はアフリカではサハラ以南の東部、および南部を中心に生息し、2002-2004年の調査では生息数は16,500~47,000頭と報告されています。一方、インドでは2005年の調査で、北西部のギル森林(1,412km²)の保護区に350~370頭が生息しています。IUCN(国際自然保護連合)発行の2013年版のレッドリストでは、インドライオンは絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に、アフリカライオンは絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。ワシントン条約ではインドライオンが付属書Ⅰ表に、他の亜種はすべてⅡ表に該当し商取引が制限されています。生息数は各地で減少を続けているため、多くの地域で狩猟の禁止や保護区を設定する一方で、一部の国では外貨獲得の手段のひとつとして、スポーツハンティングングが許可されています。 |
主な参考文献
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
Haas, S.K., Hayssen,V. & Krausman, P.R. | Mammalian Species . No.762, Panthera leo. The American Society of Mammalogists. 2005. |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968 |
今泉忠明 | 野生ネコの百科 データハウス 1993 |
成島悦雄 | ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育 □2食肉目 (財)東京動物園協会 |
Nowell, K. & Jackson, P.(ed) | Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan― IUCN 1996 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol. The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009. |
山崎晃司 | ライオンの生態 どうぶつと動物園 Vol.50 No.9, (財)東京動物園協会 1998. |