No.151 干支「午:ウマ」にまつわる話 2014年

干支にちなんだ話ペットコラム

新年明けましておめでとうございます。

皆さん初詣に行き、絵馬を奉納されましたか?
昔、お金持ちは生きた馬を神社に奉納して1年の大願成就を祈ったそうですが、そのようなことができる人は限られています。そこで徐々に簡素化し1,000年前頃から板にウマの絵を描いた絵馬になったそうです。正月のご来光を仰ぎ絵馬を奉納するなんてすっきりとした気分になるでしょうね。合格祈願、就職祈願、健康祈願など何時の世もそれぞれお願いことは尽きませんね。
正月は気分一新するチャンス、お互い元気に頑張りましょう。

それでは今年の干支「午:ウマ」にまつわる話を紹介しましょう。

1.ウマのなかまの分類

モウコノウマの親子 親子の写真を見ると心が癒されますね。写真家 大高成元 氏撮影

ウマのなかまは奇蹄目ウマ科に属します。ウマ科はウマ属1属のみで、総種類数は11種です。ウマ属はさらに5亜属:①ウマ亜属、②アジアノロバ亜属、③ロバ亜属、④グレービーシマ亜属、⑤シマウマ亜属に分類されます。この中で家畜ウマの祖先と考えられる野生ウマはウマ亜属に属し、モウコノウマとタルパン(ターパン)の2種が知られています。タルパンはソウゲンタルパンとシンリンタルパンの2亜種に分類され、アジアの一部とヨーロッパに広く分布していましたが、人間が生息地に進出し、さらに食料にするために捕獲したことで野生のものは1879年に絶滅しました。
現存する唯一の野生ウマは中央アジアのモンゴル地方に生息するモウコノウマだけとなっています。

初めに野生ウマで唯一生存しているモウコノウマについて紹介しましょう。

2.モウコノウマ(別名:プルツェワルスキーウマ)Equus przewalskii Poliakov,1881

唯一生き残った野生ウマの1種モウコノウマは、ソ連の探検家プルツェワルスキーにより1879年にキルギスで発見されました。学名は彼の名前に由来しています。1897年に初めてモンゴルでモウコノウマの捕獲をおこない、黒海に面したアスカニア・ノバで1899年から飼育が始まりました。かつてモンゴル内に多数見られた本種は生息地へ人々が進出したことで生息環境の悪い半砂漠や乾燥地域に追いやられ、また人々の食料とされたため1960年代後半に野生個体は絶滅しました。しかし、幸運にもヨーロッパの動物園に送られた個体が絶滅を免れました。1959年にモウコノウマ保護国際シンポジウムがプラハで開催され、1960年以降プラハ動物園から本種の血統台帳が出され近親交配を防ぐようになりました。さらに1992年からモンゴル国内の動物保護区で野生復帰させるプロジェクトが始まって以降徐々に数がふえ、2013年現在保護区に約400頭がいるそうです。世界中では2,100頭以上、国内では多摩動物公園に8頭、千葉市動物公園に2頭が飼育されています。

生態と体の特徴

モウコノウマは中央アジアのモンゴル南西部の草原や乾燥地帯で、1頭のオスがメスとその子どもで数頭から10数頭でハーレムを形成して生活しています。種オスとなるにはオス同士で闘争して勝たなくてはなりません。
頭部が大きく、4肢は短めで頸部は太いため全体的にみるとがっしりした印象を受けます。たてがみは16~20cmと短く直立し、前がみはありません。たてがみから尾のところまで、背中の中央に暗褐色か黒色の線が通っています。他の亜属との相違点は後肢にも「タコ」(夜目:よめ、附蝉(ふぜん)ともいう)がある点と耳の短いところです。個体識別にはこの「タコ」と体色の特徴を合わせて判別します。体高120~146cm、体長(頭胴長)220~280cm、体重200~300kg、耳長14~17cmです。メスはオスより一回り小型です。なき声は家畜のウマと同じです。オスの歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計40本ですが、メスは稀に小さな犬歯が生えていますが、通常はなく36本です。乳頭数は1対で、鼠蹊部(そけいぶ)にあります。
交尾期はモンゴル地方では5~6月で、発情は3~8日間続きます。約340日の妊娠期間を経て翌年の春4~5月に1頭を出産します。授乳期間は6~7ヶ月間です。

それでは、いつごろウマは家畜化されたのでしょうか、そして現在ウマは私たちの生活とどのようなかかわりがあるのか紹介しましょう。

3.家畜のウマ

家畜として飼うようになった時期は、およそ6,000年前で、野生ウマの2種、ターパン(タルパン)とモウコノウマが関係していると推測されていますが、家畜への経緯については諸説あります。その中で最も可能性が高いと考えられている説は、最初に家畜化された野生ウマはタルパンで、その後野生ウマを家畜化する考えは東方と西方へと広がり、アジア東北部にはモウコノウマに似た小型のモウコウマが生まれ、西欧ではベルギーやフランスで大型の在来馬が誕生したのではないかというものです。
一方では、モウコノウマが中国で家畜化されたのが、世界におけるウマ飼育の始まりであるとする説もあります。

1)ウマの飼育目的

(a)食料として飼育

原産国の人々がさまざまな動物を飼う場合、親を殺し食料にしたあとで一緒にいた子どもを一時飼育してペットにする様子がみられます。とくに草食獣の場合、性質が穏健で生育が早く、数ヶ月間飼育することができれば大型のものでは数100kgとなり、大量の肉が手に入ることになります。先人たちはすでにウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどを、およそ1万年前から飼育しており動物を飼育するノウハウを経験的に会得し、ウマの飼育に応用したと考えられます。とは言え、同じ草食獣でもウシのような複数の胃を持つ反芻動物と、ウマのような単胃で反芻しない動物では、飼育の面で大差があり苦労したことでしょう。やがて食肉以外の目的でウマは人間にとって必要不可欠の動物となっていきますが、食肉の目的は現在も残り、馬肉を桜肉と称し脂肪分が少なく食べやすいと好む人も多く、日本では今もなお肉用のウマを約1万頭飼育しています。

(b)乗馬、農耕、運搬用などの使役動物として

家畜は当初肉用として飼育されていましたが、やがてウシやアジアノロバの1亜種であるオナガー(オナーゲル)の背に荷物を載せて使役に使うようになりました。5,000年程以前メソポタミアのシュメール人が車輪を考案すると運搬用の車が工夫され、動物に牽かせ農耕や牧畜に家畜を利用するようになっていきます。およそ4,000年前(時期には諸説あります)にはウマの飼育技術が進み、手綱を付けることに成功してウマを自由にコントロールできるようになると、使役動物の仲間入りをしました。モウコウマの競馬は片道30kmを走ることからもわかるように長距離を走ることができるのみならず、ウマは性格が穏健で粗食に耐え強力な牽引力を秘めています。そのために数千年の時を経て食料とするほかに乗馬、農耕、運搬そして戦争における活躍で圧倒的な存在感を持っているのです。

(c)軍馬として活躍

多くの動物社会においてなわばりや繁殖期に雌雄間で闘争が付きまといますが、人間社会も例外ではありません。国家間や個人の戦闘は古代から現在まで形態こそ初期の槍、弓矢、ワナなどから近代兵器に変わっていますが、闘争という点では同じです。ウマの馴化を行い戦車をウマに曳かせ、さらに乗馬できるようになると戦争における様相が一変しました。紀元前1,900年のヒッタイト人の戦車、あるいはクリミア半島周辺のスキタイ騎馬民族など、アジア大陸ではウマを多く所有する国は強国となり、13世紀にはモンゴル帝国の騎馬民族がロシアやヨーロッパに侵入し、16世紀になるとスペイン人がアメリカ大陸にウマを持ち込みます。最近100年でも戦争に使うために品種改良を重ね、例えば、大型で力の強いフランス原産の品種ペルシュロンは輓馬として第一次世界大戦以降武器や戦闘員の運搬で活躍し、その後世界中の国々に分散して行きます。このように戦時におけるウマの活躍は自動車が発明され実用化したつい最近100年前まで続いていたのです。

(d)馬具の発明

轡(頭絡)をつけたトカラウマのオス。写真家 大高成元氏撮影

戦争は殺戮兵器の開発を進化させますが、一方で平和利用すれば大きな恩恵を受けることになります。ウマを乗りこなす技術は4,000年前に口に轡(くつわ)を付けハミ(写真参照)と呼ばれる堅い木や骨で作った馬具を口にはめることで一挙に向上しました。ハミはウマの犬歯と前臼歯の間が大きく開いている点に着目し、口内を傷つけることなく入れて手綱とつなぎ乗り手の合図を送る方法です。

轡の口の中に入るハミ。世界中で約200種類以上あります。写真家 大高成元氏撮影

左の手綱をちょっと引けば左に曲がり、両手綱を引っ張るとブレーキになり、緩めると進むなど微妙な指示を伝えることができます。今では200種以上のハミがありますが、ウマの大きさや品種毎に使うハミも違い、個体とぴったりと合わなければウマもつけられるのを嫌がり乗馬を拒否されます。現在は焼き物や金属製の趣向を凝らしたものもあります。やがて鞍や鐙(あぶみ:足を乗せる器具)もできると両手を離して武器を使うことが可能になり、一層戦時におけるウマが重要視されるようになりました。

(e)パレード、競馬、そしてアニマルセラピー

各地域の長が行う儀式ではウマがパレードの先頭にたって行列を先導することも、重要な役割となります。スペインのアンダルシアン種は外観が美しく優雅で人気がありました。娯楽としては、競馬用にサラブレットやアラブをはじめ各国で多くの種類を作り出しています。また、ペルシャで紀元前6世紀に始まったウマに乗ってボールをゴールに入れるポロ競技や、17世紀以降イギリスの貴族の間で流行ったキツネ狩りは楽しみのひとつでした。最近ではアニマルセラピーとして日本ではイヌ、ネコが主役になっていますが、欧米では乗馬が活躍しています。肩高が147cm以下の品種をポニーと呼びますが、子どもの乗馬やペットに飼われています。ウマに乗った時の爽快感やウマの知性溢れる反応に心が洗われると言われます。これは欧米人が長い歴史を経て私たち日本人より深くウマと関わってきた結果かもしれません。

2)体の特徴

(a)蹄の特徴

草食獣が肉食獣から身を守る術として、ウマは素早く逃げる方法を身につけ、サラブレッドは最高時速77kmの記録もあります。化石で見ると、ウマの祖先は始新世前期の6,500万年前に現れたヒラコテリウム(エオヒップス)で、前足4本、後足3本の指がありました。その後第3指が太くて長くなった結果、6,000万年以上の時を経て、100万年前(洪積世)になると第3指だけが残りました。これは1本の蹄に体重を乗せて、できるだけ早く走って肉食獣から逃げるための適応と考えられています。野生ウマは長距離を移動するので、伸び続ける蹄も程よくすり減るのですが、飼育すると過剰に伸びたり、反対に使いすぎて摩耗し過ぎたりします。そこで装蹄師が蹄を保護するために定期的に削蹄して蹄鉄を付けているのです。日本では蹄鉄が普及する前、ウマは平安時代から軍馬として貴族や武士が所有し大きな戦力となっていましたが、平安時代末期には馬わらじを作り、蹄を保護していました。

(b)消化器の特徴

ウシとウマは良く比較されますが、それは消化器でも同じです。草食獣は胃や腸内に無数にいる微生物により食物繊維を発酵分解し、最終的には微生物をエネルギー源として吸収しています。内容物1ミリリットルの中に細菌が数千億、プロトゾア(原虫)が数十万いて、この中にセルローズを分解できる細菌と真菌がいます。十分に消化させるためには発酵をさせることが重要ですが、ウマの場合、繊維成分は小腸の後部にある盲腸や結腸の発酵槽まで行かなければ発酵分解されません。ウシは前胃が発酵槽の役割を果たし第1胃と第2胃で約200リットル入ります。胃と腸の容量比はウマの胃が1とすれば腸は20、ウシは胃が1に対し腸は0.5です。採食時間はウマが10~20時間と長いのに比べ、ウシは6~9時間ですが、反芻に9~11時間費やすのでほぼウマと同様になります。ウマは腸内滞留時間も短く約10時間(ウシは40~50時間)と短いので次々と食べて消化の悪いものは排泄します。そのため馬糞は粗繊維が残りパサパサですが、牛糞は良く消化され水分が多くペチャとなっています。

(c)歯と鼻の特徴

顔の長い人がウマのように長い顔と例えられますが、長い顔には大きな歯と鼻が収まっています。ウマは走るときに大量の酸素を必要としますが、その時鼻を円形に膨らませて取り込みます。また、口中には、オスは40本、メスはふつう犬歯を欠いているので36本の大きな永久歯があります。このように大きな歯と鼻を必要とするために長い顔となったのです。オスは門歯(前歯)と犬歯の間、メスは門歯と第一前臼歯の間が大きく開き、この部位を歯槽間隙と言いますが、この部位に轡(ハミ)を通しています。ウマは上顎と下顎の両方に歯が生えていて先端がきっちり合い、草を噛み切ることができ、樹皮も食べることができます。

(d)聴覚、視力、嗅覚

聴覚は人間の場合20~2万Hz(ヘルツ)の範囲が可聴域ですが、ウマはおよそ3万Hz(ヘルツ)の高音を聞くことができるので、私たちに聞こえない音を聞いていることになります。さらに耳は自由に動かすことができるので、長い首と共に音のする方向に向けて音を拾います。目はこめかみのすぐ下にはみ出すように外側に出て、瞳孔は横長なので真後ろ以外は320~340度の広範囲を見渡せることができます。視力自体はそれほど良くなくて停止していれば約300m、走行中はおよそ100m先の物を識別できると推定されています。色は赤、青、緑、黄色、灰色が見分けられます。嗅覚もまた優れており、仲間や人間、餌の識別は嗅覚に頼っています。他にも触覚や味覚など五感を駆使して、外敵の接近や仲間を認識しています。

3)家畜ウマの品種

世界中には約250の品種があり、日本にも地方にそれぞれの地名が付いた在来馬がいましたが、現在は天然記念物となっている宮崎県都井岬の三岬馬をはじめ、与那国馬、宮古馬、トカラ馬、対州(たいしゅう)馬、野間馬、木曽馬の8品種に留まっています。この他、世界の品種では最大種はシャイアーで体重が1,500kg以上あった個体がいますし、最少の品種はアメリカンミニチェアホースで体重は15kg位なので、4肢の長い柴犬程度しかなく大小様々です。サラブレッドの体重が450~650kgなので比較するとその大きさがお判りになるでしょう。また、ロバのオスとウマのメスを交配して生まれるのがラバで、体が丈夫で粗食にも耐えるので人間の役に立っていますが、この逆にウマのオスとロバのメスを交配して生まれるのがケッテイと呼ばれるもので、体もラバほど大きくなく、体も丈夫でないので実用化されていません。

ウマにまつわる話を簡単に紹介してきましたが、今年は目標に向かってまっしぐらに元気に進みましょう!

主な参考文献

秋篠宮文仁・小宮輝之 (監修・著) 日本の家畜・家禽 学研 2009.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988.
今泉吉典・中里 奇蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育4奇蹄目
(財)東京動物園協会 1984.
加世田雄時朗 「野生」馬の現在 どうぶつと動物園 Vol.42No.1
(財)東京動物園協会 1990.
近藤誠司 ウマー食べて走って どうぶつと動物園 Vol.54No.1
(財)東京動物園協会 2002.
松尾信一 馬の文化史 どうぶつと動物園 Vol.30No.1
(財)東京動物園協会 1978.
成島悦雄 鼻のはなし どうぶつと動物園 Vol.25No.10
(財)東京動物園協会 1973.
成島悦雄 ひづめのはなし どうぶつと動物園Vol.54No.1
(財)東京動物園協会 2002.
大高成元 (写真)・川口幸男・中里竜二 十二支のひみつ 小学館 2006.
實方 剛 獣医師の診たモンゴル国 どうぶつと動物園 Vol.65No.4
(財)東京動物園協会 2013.
坂田 隆 砂漠のラクダはなぜ太陽に向くか? 講談社 1991.
祖谷勝紀 ①ウマ科のウマ属について②ロバ、ノウマについて③モウコノウマ飼育の歴史
In世界の動物 分類と飼育4奇蹄目:
今泉 吉典(監修)(財)東京動物園協会 1984.
正田陽一 ウマ科の家畜についてIn世界の動物 分類と飼育4奇蹄目:
今泉吉典(監修)(財)東京動物園協会1984.
正田陽一 (監修) 世界家畜図鑑 講談社 1987.
正田陽一 (監修) 馬の百科 小学館 1982.
正田陽一 (監修) 人間がつくった動物たち 東書選書 1987.
タイトルとURLをコピーしました