No.164 アメリカバク – おもしろ哺乳動物大百科 109 奇蹄目 バク科

おもしろ哺乳動物大百科奇蹄目バク科ペットコラム

バク科 バク属

アメリカ大陸に生息するバクの種類は、中央アメリカと南アメリカに①べアードバク ②ヤマバク ③アメリカバク、の3種があげられます。しかし、2013年に新たにカボマニバクの発見に伴い4種目として新種登録する学者もいます。
今回は主としてアメリカバクについて説明し、他は簡単に紹介します。

①ベアードバク

メキシコから南の中央アメリカとコロンビア、アンデスより西側のエクアドルの熱帯林に生息しています。湿地の丘陵地の林で近くに水場がある場所を好み、水草や周辺の草や茎を採食しています。体には短くて硬い毛が生えています。色は濃い赤褐色で、毛は耳の縁は白色です。短毛で幅の広いたてがみがあります。体長(頭胴長)200~230cm、体重250~350kg。鼻はアメリカに生息する種の中で最も長くなります。

②ヤマバク

別名をアンデスバクとも呼ばれるように南アメリカ北西部のコロンビア、エクアドル,ペルーのアンデス山地に分布し、森林限界となる標高2,000~4,400mの高地に生息、寒さに適応し長い体毛でおおわれています。体色は黒から赤褐色で口のまわりと耳の先端が白色です。バク科の中では小型の種類で、体長(頭胴長)180cm、体重130~140kgです。口の周囲と耳の先端の内側白く、皮膚は他の3種類に比べ薄く、頸部の背側は堅い短毛がたてがみのように生えており、ジャガーなどの外敵に頸筋を噛まれるのを防いでいます。

③カボマニバク(英名:Kabomanitapir)

2013年に、ブラジルとコロンビアに生息するバクが、カボマニバク(英名:Kabomanitapir、学名:Tapiruskabomani)として新種登録され、話題になりました。アメリカバクに似ていますが、アメリカバクが体重180~300kg、ヤマバクが130~140kgであるのに対し、このカボマニバクは110kg程度で現生種の中で最小種です。

アメリカバク(別名 ブラジルバク、ナンベイバク)

分布地域は南米のブラジル、ギアナ、ベネズエラ、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチンです。
通常、川や湖沼、池等の近くで、標高は2000mの高地まで生息します。これらの地域は、通常年間降雨量が2,000~4,000mm、平均気温27.4℃、湿度75%の湿潤な広葉樹林、山地林、草原やサバンナ、山地草原、マングローブですが、さらに乾燥林にも生息しています。半水生と言われることもあるくらい水中生活に適応し、泳ぎや潜水が得意で外敵に襲われると川や沼沢地に逃げこみます。また、ダニなどの外部寄生生物から逃れるために泥浴びや尿浴びを行います。
単独生活者ですが、繁殖期には一時的に雌雄が一緒にすごし、子どもが1歳になるまで一緒に暮らします。世界最大の熱帯雨林であるブラジルのモロ・ド・デイアボ州立公園(以下モロ公園と表記)における、81頭の調査によれば、単独個体は77.78%、ペア(成獣の雌雄、成獣のメスと子ども)は12.35%で、3頭のグループもいました。
行動圏は生息地や季節によって差が見られ、最も広い行動圏を持つモロ公園では、平均4.67km²(1.12~14.19km²)を利用して30%が他個体と重複していました。一方、狭いのはペルーのアマゾンで、平均2.612(1.06km²〜3.86km²)で、両者の中間がボリビアのグランチャコ国立公園で平均2.48km²でした。モロ公園の場合、なわばりは明確でありませんでしたが、ペルーのアマゾンでは、GPSテレメトリを通じて監視したところ、定期的に行動圏の境界に沿って歩き、なわばりを確認していました。なわばりを巡って2頭が優劣の決着を付けようとする場合、当初、耳は前方に立てていますが、負けた個体は耳を伏せます。
通常の活動時間帯は主として薄暮と夜間ですが、モロ公園の場合、満月に活動する割合は低く、その理由として、明るいので肉食獣に狙われ易いためと考えられています。アルゼンチンのエルレイ国立公園では人間の危険が及ばない場所では昼間も活動していました。
飼育下における一日の行動パターンの報告例によれば、採食15.5%、餌探し8.6%、歩行13.4%、休息(睡眠を含む47.9%)でした。授乳中の子どもと妊娠しているメスは一日の多くを睡眠時間にあて、採食時間が少なくなります。深い睡眠が見られるのは22時~23時及び1時~2時で、これらの時間帯を除いた時間に採食や排泄、一般行動が見られます。
ゆっくり移動する時には、ふつうは頭を下げて歩きますが、トロット(速歩)になると頭部を上げ、さらにギャロップ(駆け足)もできます。傾斜地も難なく登り、高いフェンスも飛び越えることができ、筆者(川口)は約1.5mのフェンスを助走なしで軽く飛び越えられた経験があります。
コミュニケーションは主に鳴き声と尿による匂いつけで行います。鳴き声は発情期に多く、お互いにかわす鳴き声では4種類の声が知られ、鋭い声は危険や痛みを伴う時に発せられます。また虫がうるさく付きまとう時に鼻でプープーと吹き飛ばします。他にも、探索やなだめる時には、舌と口蓋でカチリと鳴らしたり、鼻から息を吹きだしたりします。
感覚はとくに嗅覚に優れ排泄物から他個体の発情や多くの情報を得ていますが、夜行性で視界が悪いジャングルでは効率的な方法と考えられます。

からだの特徴

赤ちゃんはきれいな縞模様です。保護色となり静かにしていると見つかりません。写真家 大高成元氏撮影

体長は191~242cm、体重は180~300kg(オスは180~280kg、メスは200~300kgでメスの方が若干重い)、体高(肩高)はオス83~118cm、メス83~113cmです。
体色は背面が暗褐色から赤褐色で、頬、頸、胸の下面は淡色です。耳の先端は白く縁どられています。全身が短く硬い毛で被われ、鼻の基部から頭頂にかけて走る幅の狭い硬いたてがみが直立しているのが特徴で、外敵から急所の頸部を守っています。このたてがみはアメリカ大陸の他の3種ではあまり発達しません。若い個体の体の毛は成獣に比べると柔らかです。頭頂と鼻の間はへこんでいるので、横から見ると種を見極める目安になります。
前肢が後肢よりも長く頑丈で、前足には4本の指がありますが、肢の主軸は第3指が中心となり開き奇蹄目の特徴を持っています。4本目は小さく他の指より高い部位についており、水辺の柔らかい地面を歩くときに役立っています。後肢には3本の指があります。すべての指は蹄に被われて底部の接地する部位はタコのように硬くなっています。
歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/3、臼歯3/3で左右上下合わせて42本です。上顎の第3門歯は円錐状で犬歯より長くなっています。犬歯と頬歯の間には歯隙があり、頬歯(前臼歯+臼歯を含めた呼び名)はセメント質がなく歯冠は低い単純な臼状をしていますが、横に走る顕著な隆起があり堅い植物を磨り潰すときに効果的に働きます。
唾液腺と耳下腺は発達し、肛門の左右に肛門腺が2つあり、排泄の時に匂いつけをしています。乳頭は鼠径部に1対あります。

えさ

ヤシの実、木の葉、木の芽、小枝、果実、水草、草、樹皮、時には魚も採食したことが報告されています。この他、塩分を多く含む場所を探しミネラルを補給します。
胃の内容物の調査結果から見ると、グレイザー(地面に生えている草を主に食べる種類)と言うより、ブラウザー(木の葉を主に食べる種類)に近いようです。果実と木の葉の採食の割合は地域差があります。ペルーのアマゾンでは、果実33%、木の葉66%を採食。ボリビアのチャコでは、果実16.8%、木の葉62%、食物繊維21.2%でした。植物の種類は60科、果実の170種以上が同定されています。ヤシの実は、乾季の果実が少ないときに利用できる重要な食料資源の一つで、地域によってヤシの種類は変わります。ミリチーヤシ(Mauritiaflexuosa)はペルーのアマゾンで最も重要な食料となり76%を占めています。これらのヤシはパッチ状に分布しているため、移動パターンに影響を与えると共に、結果的として糞中から萌芽するヤシの種子が効率的に分散されていきます。ボリビアのチャコでは、干ばつ時にはサボテンも餌として採食しています。この他、農作物のココア、メロン、トウモロコシ、穀類も採食します。

繁殖

発情周期は28~32日で発情は1~4日間続きます。交尾は陸地で行い、その際、甲高い声や、フレーメンを呈しながら、互いに陰部の匂いを嗅ぎ合い、肢やわき腹、耳を咬んだりわき腹を突っついたりします。妊娠期間は385~412日。一産一子ですが稀に2頭を生みます。出産は年中見られますが、野生では雨期の始まる前に交尾し、翌年の雨期の初期に出産するのが多く見られます。新生児の体重は4~7kgです。飼育下の観察では、「新生児は出産当日に口を動かし、生後3日齢に少量の餌を採食し、授乳のとき母親は横臥し、後肢を上げて乳房を出して子供が飲みやすくしていた。生後2ヶ月齢で固形物の人参、サツマイモを少しずつかじるようになり、生後3ヶ月齢頃から、背側、頬、4肢などの斑点が消えはじめ、生後6ヶ月齢で体全体の斑紋が薄くなり、完全に消えるのは生後8ヶ月齢頃でした。生後300日齢では体重が134kgになり、母親と同じくらいまで成長した」と報告されています。完全に成獣の体格になるのは生後18ヶ月齢です。離乳は生後3ヶ月齢頃から始まり、母親は10ヶ月齢迄授乳し、10~11ヶ月齢まで母親と一緒に過ごします。
新生児は飼育下の場合、生後14~24ヶ月齢で性成熟を迎え、初産は平均で生後32ヶ月齢(2.7歳)です。早熟の例では生後23ヶ月齢の妊娠と、高齢出産では28歳の報告があります。しかし、野生の場合、初産は4歳で繁殖行動は雌雄ともに20歳までと推定されています。乳歯は切歯(門歯)が生後1週齢頃、犬歯は23日齢頃、前臼歯は25日齢頃に萌芽し始め約18ヶ月齢までにすべての歯が永久歯に交換します。
長寿記録としては、1966年6月20日にトワイクロス動物園で生まれ、2003年12月13日にハウレッツ野生動物公園で死亡した個体(メス)の37歳5ヶ月という記録があります。

外敵

最大の外敵である人間のハンターは夜間農園で待ち伏せて撃ちます。人間以外の天敵としてはジャガーとピューマ、ヤブイヌ、クロコダイルがいます。母親は子どもを守るときにジャガーや猟犬を蹴って撃退します。

生息数減少の原因

IUCN(国際自然保護連合)の報告によれば、バクの生息数が減少している主な原因は①農地開発やダム建設のための森林伐採による生息地の破壊と分断 ②狩猟 ③家畜の感染症④交通事故 ⑤焼畑などです。
バクの毛皮から良質の皮革がとれ、鞭や手綱に珍重されていました。しかし、一番の脅威は農地開発やダム建設などのための森林伐採で、局所的に絶滅の危機に脅かされています。

亜種

諸説ありますが、分類学者として著名なリチャード・ライデッカー(RichardLydekker 1849-1915)は次の4地域に生息するバクを亜種に分類しています。①ブラジル、パラグアイ ②ベネズエラ ③アマゾン河口のメキシアナ島、④アルゼンチン。

データ

分類 奇蹄目 バク科 アメリカバク
分布 南アメリカのコロンビア、ベネズエラからブラジル南部、アルゼンチン北部まで
体長(頭胴長) 191~242cm
体高(肩高) オス83~118cm メス83~113cm
体重 180~300kg(オス180~280kg メス200~300kg)メスの方が若干重い
尾長 約8cm
耳長 約12cm
絶滅危機の程度 IUCN(国際自然保護連合)は、2014年にアメリカバクをレッドリストでVU(危急種)に指定し、絶滅の恐れが増大している種としています。また、ワシントン条約で国際的な商取引が禁止され「附属書I」にランクアップされています。

主な参考文献

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D.W.マクドナルド編
今泉吉典 監修
動物大百科4 大型草食獣 ゾウ、ウマ,ロバ他 平凡社 1986.
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今泉吉典・中里竜二 奇蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育4 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
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祖谷勝紀 2.世界のバク バク科バク属について  In世界の動物 分類と飼育[4] 今泉吉典 (監修) (財)東京動物園協会 1984.
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吉野重雄 アメリカバクの繁殖 In世界の動物 分類と飼育[4] 今泉吉典 (監修) (財)東京動物園協会 1984.
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