No.165 インドサイ – おもしろ哺乳動物大百科 110 奇蹄目 サイ科

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サイ科の分類

サイ科は新生代の6,550万年前から現代にかけて生存していますが、とりわけ漸新世(ぜんしんせい:約3,400万年前から約2,300万年前)に栄えていました。しかし、更新世(258万年前から約1万年前までの期間)が訪れると、その大部分が氷河時代であったために約1万3,000年前に多くの動物と共に絶滅しました。
現存するサイ科は3亜科、4属、5種に分類されています。生息地はサバンナ、藪地、熱帯から亜熱帯の森林で、アフリカに生息する種類はアジア産の種類より開けた空間を利用しています。いずれの種類も決まった場所に排便し、糞塊ができてサインポストとして情報交換の場となっています。体全体は厚い皮膚に被われ、スマトラサイ以外は尾端と耳先以外は皮膚が裸出しています。頭部の正中線に沿って1本又は2本の角が生えています。サイの角は牛の角と異なり、骨質の角心がなく毛の塊(ケラチン質)が頭骨の上に乗っているだけで一生伸び続けます。大きな頭部と短い首、強力な筋肉を付けた広い胸部、がっしりとした臀部で構成され、このように大きくて頑丈な体を太くて短い4肢が支えています。現存する種類の蹄は3本ですが化石種で4本の蹄をもつ種類もいました。体長は200~420cm 肩高100~200cm 尾長60~75cm、体重1,000~3,500kgです。目は頭部の横、鼻孔と耳の間に位置しているために両サイドは良く見えますが真正面は死角になります。嗅覚と聴覚が鋭く糞貯め場でお互いの情報を収集したり、大きく自在に動く耳で音を拾ったりしています。口先はやわらかく、シロサイ以外は上唇と鼻端が少し長く指のような役割を果たしています。歯式は門歯(切歯)0-1/0-1、犬歯0/0-1、前臼歯3-4/3-4、臼歯3/3で合計24-34本と、種類によって違いがあります。精巣が陰嚢に降下しないところはゾウと同じです。

現存するサイ科の分類

  1. スマトラサイ亜科
    a)スマトラサイ属 1種
    (1)スマトラサイ
    分布 現在確実なのはスマトラ島とボルネオ島の北東部。
    生息場所は熱帯雨林で繁殖期と育児期の母子以外は単独で生活しています。体長236~318cm 肩高110~150cm 体重600~950kg。5種の中で最小です。角は2本あり、オスの前の角は通常30cm前後、後ろは10cm程度です。メスの前の角は約15cm、後ろはこぶ状になっています。皮膚にはインドサイのようなひだがありますが、はっきりとしていません。インドサイの臀部にあるような横のひだは本種にはありません。生息数は275頭前後といわれ、IUCN(国際自然保護連合)発行の2014年版レッドリストでは近絶滅種(CR絶滅寸前の状態にある種)に指定されています。
  2. イッカクサイ亜科
    b)インドサイ属 2種
    (2)インドサイ
    (3)ジャワサイ
    分布 ジャワ島
    生息場所は低地の熱帯雨林でふつう繁殖期以外は単独生活をしています。水浴や泥浴びを好むため川や入り江付近に生息しています。5種の中で最も絶滅が危ぶまれ、IUCN(国際自然保護連合)発行の2014年版のレッドリストでは近絶滅種(CR 絶滅寸前の状態にある)に指定されています。ジャワ島西端にあるウジュンクロン半島の森林で保護されながら50~60頭が生存していると推測されています。
    体長300~320cm 肩高150~170cm 体重1,200~1,500kg。角は1本で長さはオスでも25~30cmしかありません。メスでは角がない場合がしばしばあります。
  3. クロサイ亜科
    c)クロサイ属 2種
    (4) クロサイ:おもしろ動物大百科No.111で紹介。
    (5) シロサイ:おもしろ動物大百科No.111を参照。

インドサイ

インドサイはサイの仲間で最も北に分布し、インド北東部のアッサムとベンガル地方、ネパールといったヒマラヤ山脈の低地にも分布しています。川や水辺に近い湿地帯で丈の高い草地やサバンナに生息しています。
筆者が訪れたアッサム地方のサンクチャリーでは公園の森林保護官が生息数を把握しており、ゾウに乗って視察することができました。万一のためにライフルを手にした保護官が別のゾウに乗って同行しました。高さが2~4mのカヤの茂みに点在する小さな水たまりがあり、サイはそこで水浴や泥浴びをしていました。トラはめったに見ることはできないと言っていましたが、帰途で私たちの目の前をヒョウの子どもが横切るハプニングがあり生息環境の代表的な場面を垣間見たと感じました。インドサイは保護官を識別しており、近づいてもさほど警戒心を見せることなく過ごしていました。
インドの沖積地平原の川や沼地では高さが8mにもなる草地を好むとされています。成獣のオスは単独生活ですが、保護区内では2~3頭の亜成獣のオスと育児中の母子が一緒に暮らす混合グループも観察されています。明確なテリトリーはないという報告もありますが、個体間の強弱は見られメスの集まるところではメスとカップルになるために強いオスが幅を利かせています。
活動時間は早朝や夕方の薄暮で日中の暑い時間帯は水浴や泥浴しながら休憩します。水中生活に適応し、採食時に顔を水中に入れたり、大きな川を泳いで渡り、潜ったりすることもできます。メスの移動距離はどのシーズンでも24時間で5km以内でした。
行動圏はチタワン国立公園で繁殖オスは2~8km²、年間平均で繁殖メスが3.4km²、オスが4.3km²、もっとも狭い例ではモンスーン時の2頭のメスが0.22km²と0.28km²でした。1日の47~54%を採食に費やすと報告されています。ふだんはおとなしいのですが驚くと、時速35~40km、短距離であれば時速55kmで走ることができると言われています。跳んだり跳ねたりすることもできます。
コミュニケーションは聴覚と嗅覚が発達しているため声と排泄物の匂いで情報交換しています。声は、金切り声、キイキイ音、うなり声、ブウブウ音、プーと吹きだす音、鼻を鳴らすなど10種類以上出すことが知れています。オスのペニスは後ろを向いているため排尿すると後肢の指にかかります。指の付け根には匂いを分泌する腺があり、個体の痕跡を残します。

体の特徴

野生で生活している動物はたくましさを感じます。ラッパのような耳を立てているので、警戒しているかもしれません。写真家 大高成元氏撮影

体長310~380cm、肩高は148~186cm、尾長70~80cm、体重1,600~2,200kg、メスはオスより小型で体重も軽くなっています。
角は一生伸び続け、ふつうオスで25cm、メスで24cmになりますが、メスの角はオスより細めです。また、雌雄ともに長い個体では約60cmになります。体毛は耳の先端と尾端に短い黒い毛がありますが、あとは裸出しています。インドサイの特徴は鎧(よろい)を連想させる皮膚の厚い隆起がある点で、肩と臀部で顕著です。首の後ろの皮膚のひだは肩部で止まり左右は連結していません。体色は灰色から黒色まであり、腹部とひだの部位はピンクがかっています。鼻と少し長めの上唇を指のように使い、餌となる草や果物を引き寄せたり掴んだりして採食します。
歯式は門歯(切歯)1/1、犬歯0/1、前臼歯4/4、臼歯3/3で合計34本です。門歯の長さはメスは3cm以上、オスでは折れたりしなければ5.1~8.9cmになります。特に下顎の門歯はよく発達して牙のようになり、攻撃と防御の両方に武器として使われます。乳頭数は1対で、鼠蹊部(そけいぶ)にあります。

えさ

草、木の葉、低木の小枝、果物の他に農作物の米、穀類、コーン、実った小麦を好みます。種類としては、フタバガキ科、アジサイ科、マメ科、ジャケツイバラ科、クマツジラ科、トウダイグサ科のほかに果物23種が含まれていました。ネパールのチトワン国立公園での調査では、採食した種類数は57科183種でしたが、そのうち草類が季節によっては70%~89%を占め、その他に果物、木の葉や枝が含まれていました。米、トウモロコシ、麦のような穀類も好みますが、公園の境界線1km以内が被害を受けています。少し長めの上唇を指のように使い草などを引き寄せてりつかんだりして採食します。モンスーンが襲来したときはトウダイグサ科Trewiaの大きな実が地面に大量に落ちるときに待ち受けたインドサイによって採食されます。未消化の種子は糞として排泄されますが腸内を通過することで発芽率が向上すると考えられています。モンスーンの季節は湿度が高く、気温も低いので日中も採食しています。

繁殖

発情周期は幅があり46~48日、21~42日、マイソール動物園では21~33日、野生では27~42日の報告があります。発情中のメスは尿を飛ばしたり、呼吸時に笛を吹くような音を出したりします。1回の発情は24時間続き、発情が始まるとすぐにオスはフレーメンをしながらメスの後を追いかけ、数日間一緒に過ごします。交尾は約1時間持続します。発情したメスや良い餌場を巡ってオス同士争うこともあり、その結果重傷を負ったり死亡したりすることもあります。妊娠期間は462~491日で、31例の平均値は479日でした。出産は年中見られますが、2月から4月が多く、一産一子で稀に双子が生まれます。出産直後の子は体長96~122cm、肩高56~67cm、体重40~81kgです。出産の所要時間は分娩開始後約30分で、生まれた子どもは30分以内に立ち上がり母乳を飲みます。子どもの成長は早く1日あたり2~3kg増加しました。肩高は1歳で120cm、2歳で145cmでした。子どもはプールが大好きで中に入ると必ず排便したと報告されています。メスは4歳で初発情がみられますが出産は6~8歳、オスは約10歳で繁殖可能となります。体の成長はメスで6.5歳、オスは10歳くらいまで続きます。出産はネパールの場合、3~5年間隔で、メスの性成熟は7~7.5歳でした。新生児が生まれると前の子どもは親から離れます。
野生での外敵はトラで主に生後8ヶ月齢未満の個体が狙われ、約10%が殺されると報告されています。
飼育下の長寿記録としては、オスでは、ロンドン動物園に1862年7月25日搬入され、1904年12月6日に死亡した個体の飼育期間40年4ヶ月、推定年齢42歳、またフィラデルフィア動物園に1955年9月14日に搬入され、1996年1月6日に死亡した個体の飼育期間40年3ヶ月、推定年齢43歳という記録があります。
メスではインドのアッサム国立動物園で1963年7月10日生まれた個体が、サンディゴ動物園からサンデイエゴ野生動物公園をへてフロリダのガルフブリーズ動物園に移動し、2004年1月9日に40歳6ヶ月で死亡した記録があります。

主な減少原因

生息地の沖積平野を農地にしたこと、家畜の放牧、外来植物の進攻で生息地が大幅に減少したことに加え、アジア諸国で漢方薬、北アフリカ、中東では装飾品として角だけでなく皮や体の各部位も高額で取引がされるため古くから密猟に晒され続けたことが主な減少原因となっています。

データ

分類 奇蹄目 サイ科 インドサイ属
分布 インド北東部のアッサムとベンガル、ネパール南部
体長 オス 368~380cm メス 310~340cm
体高(肩高) オス 170~186cm メス 148~173cm
尾長 70~80cm
体重 オス 約2,200kg メス 約1,600kg
絶滅危機の程度 アジアのサイ専門家グループ(AsianRhinoSpecialistGroup2007)が2007年5月に発表したインドサイの生息数は、インドに2,200頭、ネパールに378頭と報告し、1,900年代前半より200頭回復している反面、ネパールのロイヤル・チトワン国立公園では2000年に544頭が確認されていましたが、2005年には政治的に不安定な状況から密猟の増加により372頭に減少していると報告しています。
インドサイの保護活動はインドのカジランガ国立公園、マナス国立公園、オラング国立公園、ダファー国立公園、ロイヤル・チトワン国立公園他で継続しておこなわれています。
国際自然保護連合(IUCN)発行の2014年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献

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D.W. マクドナルド編
今泉吉典監修
動物大百科4 大型草食獣 サイ 平凡社 1986
Laurie, W.A., Lang, E.M. and Groves, C.P. Mammalian Species. No.211, Rhinoceros unicornis The American Society of Mammalogists. 1983.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典・中里竜二 奇蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育4 奇蹄目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
桑原 久 インドサイの繁殖と成長 In世界の動物 分類と飼育 4 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
中里竜二 2.世界のサイ In世界の動物 分類と飼育 4 奇蹄目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parkers, S. P. (ed.) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals volume 4 Mcgraw-hill publishing company 1990
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals,Lynx Edicion. 2011.
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