チンパンジー属
本属は、ボノボとチンパンジー(ナミチンパンジー)の2種類がいます。ボノボは体がチンパンジーより一回り小型で、ピグミーチンパンジーと呼ばれていましたが、現在は一般にボノボと呼ばれています。両種は生息地、体色、食性、繁殖行動などで大きな差があるので、1種類ずつ解説していきましょう。
ボノボ
中央アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)のコンゴ川左岸の標高1,500m以下の地域に生息しています。熱帯多雨林の中で25〜40mの高い樹上が主な生活圏です。複数の成獣の雌雄と子どもで10頭前後からなるオスを中心とした父系集団を作っています。さらにこの群れがいくつか集まって、40〜120頭の大きな群れとなります。雌は7歳ころに生まれた群れを出て違う群れに入り、そこで繁殖をします。群れのリーダーはオスですが、メス同志の関係は親密で息子との関係は生涯続き、リーダーとなるには母親のバックアップが必要とされています。チンパンジーとくらべ、群れ内の闘争が少ないのですが、それは発情や妊娠の有無に関係なく、雌雄の他にも、メス同志やオス同士、子どもまでがお互いに性器を接触させ、子ども時代からあいさつ代りに行うことによってセックスを巡る闘争の必要がないからです。
昼行性で、樹上生活に適応しており、4本足歩行で樹の上を歩き、時には枝から枝へ飛び移り、地上では4本足でナックル歩行(軽く手を握り、指の背を地面につけて歩く方法)や、手で物を持つときには2本足で歩行します。夜間はそれぞれ枝を集めて寝床を作り、数日間使います。遊動域は20〜50km²、1日の移動距離は2.4kmとの報告があります。ボノボのコミュニケーションは顔の表情の変化など直接的な行動が多く、鳴き声のレパートリーはチンパンジーほど複雑でないと考えられています。
からだの特徴

チンパンジーよりボノボの方が人間に似ていると思うのですが、いかがですか。写真家 大高成元氏 撮影
体色はチンパンジーに比べ、黒くて毛が長いのが特徴です。尻の毛は白で大人になってもそのまま残り、年をとると頭の毛は薄くなってきます。頭髪は頭部の中央部で左右に分かれているので、外見上簡単にチンパンジーと区別できます。
頭部や耳は小さく、胸郭(きょうかく)の幅は狭く、手足が細長いので、2本足の立ち姿は一番人間に似ています。足の親指は手のつくりと似ており、握力が強くて手のように使うことができます。また、足の第2と第3指は融合し、水かき状になっています。チンパンジーは水に入るのを嫌がりますが、ボノボは水中に浸かりイグサを採食することから、水のある生活に慣れていると考えられます。歯は小さくオスは犬歯が長くなっています。歯式は、門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で臼歯にはヒダがあります。胸腰椎は16〜18個、肋骨は12〜13対あります。
えさ
雑食性ですが、主食は果実で、そのほか、木の葉、花や茎、樹液、キノコ、シロアリ、昆虫、はちみつ、卵、土、は虫類、リス、コウモリ、ダイカーなどの採食が報告されています。また最近になって、死亡した自分の子どもを、群れの仲間と一緒になって食べた母親の例が報告されています。食べ物を分配する行動も見られます。
繁殖
月経周期は30〜34日で、排卵前後の性皮の腫脹は非常に大きく、1〜3週間持続します。妊娠期間は230〜240日で通常は1産1子、まれに双子が生まれます。出産は年間を通じて見られますが、ピークは3〜5月の雨期の間です。出産間隔は4〜6年と生息環境によって差があります。赤ちゃんの体重は、1〜2kgで生まれた時から体全体が黒く、唇がピンクです。生後1ヶ月齢まではお腹に抱いて離さず、生後3〜6ヶ月齢で1m、生後10ヶ月齢で3〜4m、3歳になりやっと動きがスムースになり、背に乗るのが見られた、との報告があります。授乳は生後4歳近くまで見られますが、実際に1〜2歳以降も乳が出ているか否かわかりません。4歳まで同じ巣で寝ますが、1歳のころから母親の巣作りを横で見て、自然に覚えて4〜5歳ころに自分で巣を作ります。メスの性成熟は6〜11歳ですが、初産は13〜14歳です。オスの性成熟は9歳ですが、その後も体の成長は続きます。
長寿記録は、ベルギーのアントワープ動物園で2005年1月現在飼育中の個体の、飼育期間50年1ヶ月、推定年齢55歳という記録があります。
生息数減少の原因
人工の増加による住み場所の確保、農地の開発、木材の輸出などのために、森林を伐採したことによる生息地の減少が最大の原因です。そのほか、食肉用やペット、漢方薬の材料としても捕らえられています。野生の外敵はほとんどいませんが、まれにヒョウに狙われます。
データ
分類 | 霊長目 ヒト科 |
分布 | 中央アフリカ |
体長(頭胴長) | オス 73〜88cm、メス 70〜76cm |
体重 | オス 約39kg、メス 約31kg |
絶滅危機の程度 | 現在の生息数は29,500〜50,000頭と推測されて、国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来、野生では絶滅の危険性が高いとしています。 |
主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) | Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998 |
古市剛史 | Primate Research Institute, Kyoto University 類人猿ボノボ:メスたちの平和力 2010 京都大学霊長類研究所 |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968 |
ジョン・R・ネイピア プルー・H・ネイピア 伊沢紘生 訳 |
世界の霊長類 どうぶつ社1987 |
Lang,K.C. (Reviewed by Frans de Waal. ) |
Primate Factsheets: Bonobo, Pan paniscus, Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2010 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1 ,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Estes,R,D. | The behavior guide to African mammals, The university of Calfonia press , 1991. |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
杉山幸丸編 | サルの百科 データハウス1996 |