No.052 アカカンガルー – おもしろ哺乳動物大百科 3 有袋目 アカカンガルー

おもしろ哺乳動物大百科ペットコラム有袋目

有袋目

有袋目のなかまは、16科74属300種近くの種類がいます。哺乳類は一般にヘソの緒があると思っている方もいるかもしれませんが、前回紹介した単孔目と有袋目の仲間にはヘソがありません。ヘソの緒は母親の胎盤とつながっていて酸素、栄養、排泄などの作用を行っていますが、有袋目の仲間は胎盤がないかあるいは不完全なため、子どもは未熟な状態で生まれて、腹部にある袋(育児のう)や皮膚のひだに開口している乳首から直接乳を飲んで成長します。
それでは代表的な種類をいくつか紹介していきましょう。

アカカンガルー

動物園では、動物ごとに世話をする人・担当者が決まっています。担当者が休みのときに、代わりに世話をする係を代番者と言います。私がアカカンガルーの代番者として、初めて大きなアカカンガルーのいる部屋の中に入ったときのことでした。見慣れぬ人が入っていったので興奮したらしく、立ち上がると、突然私に抱きつき、あの太い後肢で思い切り蹴飛されました。あわてて振りほどいて逃げましたが、私の足にはみごとにアザができていました。翌日、その話を担当者にしたら、
『あ、そうそう、気をつけるように注意するのを忘れた!』の一言。

生態

アカカンガルーは尾をあげてバランスをとってジャンプしている 写真家、大高成元氏撮影

群れの基本は母と子の2〜4頭で、これが集まって100頭くらいの大きな群れをつくり採食や休息をします。昼間は木陰で休み、夕方から明け方まで活動します。汗腺が発達していないので、ネコのように腕や胸をなめて唾液が蒸発する気化熱で体温調節しています。旱魃(かんばつ)などで餌が不足すると200kmくらい移動しながら生活します。

からだの特徴

カンガルーの中で最大種のひとつで、直立すると2m近くになります。カンガルーといえばメスに育児のうと呼ばれる袋があることで知られています。オスメス共に後肢が発達しており指は4本あります。尾は長く体長と同じくらいの長さがあり、直立しているときは支柱のようになり、ジャンプして走るときはバランスをとるのに役立っています。耳は左右を別々に動かすことができて、周囲の音を良く聞き取ることができます。鼻鏡(鼻先の毛のない部分)の形でカンガルーの種類を見分けることができます。また、アカカンガルーの場合は、臼歯の生え変わりがゾウと同じように奥から前に移動して行われます。

えさとからだ

主食は草ですが、そのほかに木の葉や芽を食べます。胃は大きく湾曲し、反芻(はんすう)動物の第1胃のように、中に微生物がすみ粗繊維の消化を助けています。採食後に食物を口にもどすのが観察されていますが、その理由はまだ明確ではありません。ただ離乳のころに育児のうから出た子どもが母親の吐き戻したものを食べるのが観察されています。これは離乳食として、母親の体内にいる消化を助ける微生物と取り入れることになります。

繁殖

交尾期は決まっていません。発情したメスがいるとオス同士で争い、勝ったオスが交尾します。性周期は約35日で、分娩後に発情します。また、育児のうに子どもがいる場合、受精卵は胚盤胞の段階で着床しないで休止しますが、この現象を着床遅延といいます。妊娠期間は約33日でふつうは1回に1頭出産し、まれに2頭、あるいは3頭の記録もありますが、野生の場合は1頭しか育ちません。子どもは全長2〜3cm、体重約1gで体に毛は生えていません。発達した前足を使って、自力で袋まではって行き袋の中に入り、4つある乳頭のひとつに吸い付きます。生後60〜70日で初めて乳頭から離れますが、その後も同じ乳頭を使います。体毛は生後3ヶ月で生え始め5ヶ月過ぎで生えそろいます。そして約8ヵ月後、完全に育児のうから出ますが、1歳になるまで顔を入れて乳を飲みます。離乳後も生後15ヶ月頃までは母親と接触します。オスでは生後24〜36か月、メスで生後15〜20か月で性成熟にたっします。長寿記録では25歳が報告されています。

データ

分類 有袋目 カンガルー科
分布 オーストラリア(北部、東部の海岸地帯、南西部を除いたほぼ全域)
体長 オス95〜140cm メス75〜110cm
尾長 オス70〜100cm メス65〜90cm
体重 オス25〜85kg メス20〜35kg
絶滅危機の程度 LR(低リスク種。現在は絶滅危機ではないが、そのおそれがある種)
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