No.170 カバ – おもしろ哺乳動物大百科 115 偶蹄目(クジラ偶蹄目)カバ科

おもしろ哺乳動物大百科偶蹄目(クジラ偶蹄目)カバ科ペットコラム

カバ科

カバ科の特徴は吻(くちびる)が幅広く、鼻孔がその頂上に開いていることです。指はそれぞれ4本あって中央の1対は皮膚でつながっています。蹄の内側はサイやイノシシは平らですがカバの足裏は凹凸があり、肢の中手骨と中足骨は離れています。頚骨の数は7個で多くの哺乳類と同じです。
カバ科はカバ属とコビトカバ属の2属に分類されます。

カバ

アフリカのサハラ砂漠以南、西はセネガル、ギニアから東はケニア、エチオピア、南はアンゴラ、南アフリカ北東部まで広く分布しています。
生息地は平地から標高2,400mまで広く分布していますが、ミオンボ森林地帯(アフリカ中央部、南部に広がる森林地帯で多くの大形哺乳類が生息する)や、草原の川や湖の周辺で生活しています。日中は、ほぼ水の中に入るか、水辺で寝転んでいます。夜間になると陸にあがり5~6時間を採食に費やします。餌場まで自分の排泄物の匂いを頼りに、平均で1~5km、中には30km歩いた個体もいました。足が短い割には短距離ならば時速約40km、ふつう30kmで走り、急こう配な坂も登りますが、ジャンプはできません。座るときは先に腰を落として座り、起きるときは前足から立ち上がります。
カバは群れを作って生活しています。群れの個体数は乾季に多く、雨季には拡散し少なくなります。ふつうは10~15頭ですが、2~50頭くらいの幅があり、時には150頭くらい集まる場合もあります。
生息密度は水辺沿い100mあたりにすると、湖では平均7頭、川の場合は平均33頭でした。かつて1987年にザンビアのルアングワ川で165kmの範囲に推定6,554頭が集まっていた記録があります。
オスは縄張りを持ちますが、持てるのは通常20歳以上の成獣で、川ならば50~100m、湖沼では250~500mの浅瀬に交尾用の縄張りを持ち、中心には保育所があってメスが交代で子どもの面倒をみます。オス同士が縄張りの境界線で出会ったときは、糞を飛ばしながらしっぽを立てて見つめ合いますが、大抵はそのままお互いに向きを変えて自分の縄張りにもどります。オス同士で戦う時は、ブタのようにブーブー声を上げながら、巨大な牙を使ったり、ぶつかり合ったりする本格的な闘争もあれば、糞を飛ばし合って穏やかに決めることもあります。湖で8年、川で4年同じ縄張りを維持した記録があります。縄張りに侵入したワニを殺したりするほか、人身事故も多いと報告されています。
水中に5分間は潜ることができますが、平均で104秒に1回水面に鼻を出して息継ぎをします。生後2ヶ月齢の子どもでは20~40秒と短くなります。成獣は体の比重が水より大きく体が沈むため、泳ぐのではなく後ろ足で水底を蹴って進みます。子どもは犬かきのようにして泳ぎますが、水底は歩きます。
アマサギやウシツツキが皮膚の傷口につく虫をつついて食べてくれます。ワニやカメの子どもはカバの背中で日向ぼっこをすることもあります。

体の特徴

体長(頭胴長) オス 320~420cm メス 280~370cm
尾長 30~40cm
肩高 130~165cm
体重 オス 1,500~3,200kg メス 1,350~2,500kg
胴回り 400~450cm オスはメスより一回り大きくなります。

カバのオスは最強の猛獣として有名です。オスが威嚇しているときは誰も近寄らないと言います。写真家 大高成元氏撮影

体色は灰褐色ないし青黒色で腹部と耳と目の周囲はピンクです。アルビノ(白化型)は全身が輝くようなピンクです。頭部は大きく足 は短くて前後肢ともに4本の指と蹄があり、第3指と第4指(中指と薬指)の間には水かきがあって泳ぐと考える人もいます。しかし、実際には爪のそばまで皮 膚でつながっているので広げることはできず、水かきの役割は果たせないようですが、柔らかい泥の上を歩くときに役立つでしょう。耳は長さが10cm程度 で、水に潜るときは耳を倒して水が入らないようにしています。水から上がると耳をくるくると回して水を払い落とします。目は突き出て頭部の上に位置し、鼻 の孔もまた上向きにつき自分の意志で開閉できます。これら耳、目、口の位置は、横一線に水面に出ますが、これは水中生活に適応したワニやカエルと同じで す。このためうっかりすると川や湖の水中にカバが潜んでいるのを気付かない場合があります。口の幅は約50cmあって、顎は150度まで開くことができま す。上唇には剛毛が生え、ネコのひげのように敏感で探知機のような働きをしています。大きな口いっぱいに貯めた水を一挙に吐き出したり、鼻から水を吹きだ したりして驚かすことがあります。尾は長三角形で長さが35~50cm、先端には針金のような毛が生えています。排便の時に左右にはげしく振って糞をまき 散らす独特の行動があります。これは水陸共に行われ、縄張りや道しるべの役割を持っています。体には短い剛毛が生えていて、この根元から粘液が出ます。皮 膚の厚さは上野動物園における解剖結果によれば、胸部がもっとも厚く4cm、腹部が最も薄く1.5cmでした。この皮膚の下には3~5cmの脂肪層がある ので合わせると5~10cmになります。この厚い皮膚のお蔭で長い間水中にいても体が冷えることはありません。このように厚くて硬い皮膚をもつカバやゾ ウ、サイは厚皮動物とも呼ばれています。
かつてカバは血の汗をかくと言われていましたが、実際には体の表面に分布する粘液腺から分泌されるアルカリ性で粘りのある赤い粘 液で汗ではありません。この粘液は乾くと皮膚が赤く見えますが、これは赤い色素が沈着しているのです。粘液の分析結果によれば、赤い色素は紫外線を遮断す る効果があって強い陽射しから皮膚を保護できます。さらに、群れで生活して水中で絶え間なく排便しますが、汚れた中で感染症に罹患しないのは細菌の感染防 止効果もあると考えられています。このように半ば水中生活に適応した体は、乾燥に弱く水や泥などで絶えず湿らせないと表面がひび割れを起こすため粘液に よって皮膚を保護するようになったのです。
歯式は、門歯2/2、犬歯1/1、前臼歯3-4/3-4、臼歯3/3で合計36~40本です。下顎の門歯は前方に伸び続け、上顎 犬歯の周囲は23cm、下顎の犬歯は上方に70cm位まで伸び、重量が3kgになった報告もあります。下顎の前方に突き出た門歯はスコップ代わりになって 地面から草を引き抜くときに役立っています。
胃は3室に分かれていますが、反芻動物のようにはっきりした区分がなく反芻もしません。盲腸はありません。睾丸は腹腔内にあり、 排尿のときにはペニスは後方に曲がり飛ばすようにします。視力、聴力は優れています。乳頭数は1対で、鼠蹊部(そけいぶ)にあります。

えさ

カバの特徴の1つは、頬の筋肉と舌で喉を塞ぎ、水中で採食できる点です。幅広の口は短い草を採食するのに適応しています。採食量 は一般に草食獣が体重の2.5%採食するのに比べ1~1.5%、20~45kgと少なめです。これは夜間の採食後日中を休憩することで体力を消耗しないの でエネルギーをそれほど必要としないからと考えられています。
本来は草食動物で草や水草、畑の作物も採食しますが、稀に肉食の報告もあります。
1997年のナショナルジオグラフィックに、インパラの死体を食べるところが報道され話題になりましたが、他にシマウマやカバの死体を食べている例が報告されています。

繁殖

繁殖期にははっきりとした季節性はありませんが、多くの地域で乾季に交尾し雨季に出産をします。ウガンダでは多くの場合2月と8 月が交尾期、10月と4月が出産期です。南アフリカでは雨季(10-4月)がピークです。野生のカバは発情すると水中から鼻だけ出してブーブー声を出しあ い、オスは排便をしながらメスの後を追いますがメスは尾を振りながら逃げまわり、やがて交尾します。動物園の場合、発情の兆候はメスの食欲減退や落ち着き がなくなった例や、変化が見当たらないとの報告もあります。交尾は水中で行われます。妊娠期間は227~240日です。飼育下では妊娠末期の5~6ヶ月目 にはオスを嫌うようになるため、メスは単独で生活させます。1産1子ですが稀に双子がいます。野生ではふつう浅い水辺や水中で出産しますが、陸上での出産 例も報告されています。生まれたばかりの赤ちゃんの体色はピンク色で、体重は25~55kgです。水中で産まれた赤ちゃんはまだ泳ぐことができず、母親が 下に潜って鼻先で体重を支えます。赤ちゃんは潜って乳をのみますが、潜水時間は30秒以下なのでこまめに潜ったり浮いたりして飲みます。陸上でヨチヨチ歩 く程度でも、水中では上手に泳いで母親の腹の下に潜り乳を飲むことができます。授乳は10~12ヶ月齢まで続きますが、1歳半や2歳まで続いた例もありま す。また、飼育下では陸上で授乳する場合も観察されています。出産間隔はふつう2年です。性成熟は3~4歳ですが、野生のオスが交尾できるのは6~13 歳、メスの初産は7~15歳です。子どもは母親の背に上り、子ども時代の外敵となるワニから身を守ります。
保護された野生個体の平均寿命は41歳。飼育下の長寿記録としては、ドイツのライプチヒ動物園で1934年4月26日に生まれ、 ドイツのミュンヘン動物園で1995年7月12日に死亡した個体(メス)の61歳2ヶ月という記録があります。

外敵

人間以外の外敵としては、主に若い個体がライオン、ハイエナ、ヒョウに襲われます。

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目)カバ科 カバ属
分布 アフリカのサハラ砂漠以南
体長(頭胴長) オス 320~420cm メス 280~370cm
体重 オス 1,500~3,200kg  メス 1,350~2,500kg
体高(肩高) 130~165cm
尾長 30~40cm
主な減少原因
絶滅危機の程度
牧草地や農地への転用による生息地の分断や減少、食用や 犬歯を目的とした密猟と乱獲により、急激に生息数が減少し、アフリカで第2の生息地であったコンゴ民主共和国で95%以上減ってしまいました。このため、 IUCN(国際自然保護連合)発行の2014年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。またワシントン条約では付属書 Ⅱに該当し商取引が制限されています。

主な参考文献

Estes, R.D. The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
D.A.マクドナルド編
今泉吉典(監修)
動物大百科 4 大型草食獣 R.A.ペルー著 カバ 平凡社 1986.
今泉吉典 カバの分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
松崎 勝 カバの出産と育児  In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
中川志郎(監修) カバ 創育 1988
中川志郎 カバの皮ふ  In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
西山登志雄 カバの飼育 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
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