No.137 ハクビシン – おもしろ哺乳動物大百科 85 食肉目 ジャコウネコ科

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ジャコウネコ科

学者によって分類が異なりますが、本稿は基本的に今泉吉典博士の分類を参考にしているので、ジャコウネコ科とマングース科の2科に分類して紹介します。ジャコウネコ科は18属35種に分類され、大型の種類ではアフリカジャコウネコが体長90cm、体重約20kgになるのに比べ、最小の種類ではアフリカリンサンが体長約33cm、体重約650gです。新世界とオーストラリア以外に広く分布しています。
また、学者によってはジャコウネコ科を1科にまとめマングース類は亜科として、他と合わせて6~7亜科、35~37属、70~76種に分類することもあります。
食肉目の中でも最も原始的なグループと考えられ、いずれの種も頭部、胴、尾が細長く、4肢が短いです。4肢の指数は前後肢ともに5本あるビントロングや、各肢に4本ずつあるミーアキャット(スリカータ)のような種類がいます。肛門腺、皮膚腺、会陰腺などの臭腺をもっており、会陰部に溜まる分泌液はシベットと呼ばれ香水の原料に使われています。動物間では分泌された液体を排泄時や痕跡として各所に残し行動圏の印としたり、また直接匂いを嗅ぐことでお互いにコミュニケーションを取り合ったりしています。繁殖期や子育て中、及び北部で寒い時期以外はふつう単独で生活しています。夜行性のため視覚は弱く、聴覚や嗅覚が優れ、聴覚ではパームシベット(マレージャコウネコ)が10万Hz(ヘルツ)の音を聞きとることができるとの報告があります。生活空間は地上や樹上で木登りが上手で、よく果実の実った木に登っています。多くの種は雑食性ですが、主食が肉食、昆虫食、魚食までさまざまな種類がおり、餌に応じて体形も若干異なっています。キノガーレとミズジャコウネコの主食は魚や両生類、甲殻類です。パームシベット(マレージャコウネコ)は樹上生活で果実が主食です。マダガスカル島に生息する食肉目の中では最大のフォッサ(2012年現在、上野動物園で飼育中)は肉食で、同地に生息しているキツネザルやテンレック、ネズミのなかま、鳥類、両生類、爬虫類、昆虫などを食べます。タイガーシベット(ヘミガルス)の主食は昆虫、ミミズ、カタツムリ、カエルです。歯式は食性によって若干異なり、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3~4/3~4、臼歯1~2/1~2で左右上下合わせて32~40本です。
今回はこの中からハクビシン属、ビントロング属の2属を紹介しましょう。

ハクビシン属

1属1種で東アジアにハクビシンが分布しています。分布により6亜種、あるいは16亜種に分類する学者もいます。

ハクビシン

分布域は東アジアのインド、パキスタン、ネパール、チベット、中国(陝西省~河北省)、ミャンマー、タイ、西マレーシア、スマトラ、北ボルネオ、台湾、ハイナン島、南アンダマン諸島、及び日本です。日本に生息する種類は在来種か外来種か不明とされていますが、最近のDNA鑑定では台湾産と同系列と言われています。昭和20年(1945年)代初めに四国、静岡、山梨、福島に散在していましたが、分布域を拡大し、現在は北海道を含め全国的に生息域を拡大し各地で目撃情報が報告されています。国内産はやや小柄でずんぐりとし体色が濃く寒さに強いと言われています。繁殖期と子育て以外は単独で生活しています。アジア大陸に生息するものでは、森林や藪に住んでいます。タイでの調査によると乾燥常緑樹70%,混合落葉樹30%,乾燥落葉樹(おもにフタバガキ科の樹木が占めています)3%で構成された混合林内を移動し、2,500mの高地にも生息していますが、日本では高地では見られていません。木登りが上手で、日中は巣穴として使う土の穴、岩穴、樹の洞や人家の天井裏や物置に住みつき同じ場所に排泄することが知られています。巣穴に12頭が一緒に入っていた記録もありますが、冬季の寒さ対策かもしれません。夜行性で夕暮れや早朝、夜中に活動し、行動圏はタイで無線機を付けて行われた12ヶ月間の調査結果によれば、成獣オスで5.9km²、成獣メスが3.7km²、1日の平均移動距離がオスで840m、メスが620mでした。また、中国の南東部における調査では、成獣オスの3頭がそれぞれ1.8km²、3.5km²、4.1km²で、メスはこれより少なくなっていました。これらの報告から2~6km²が行動圏と推測されます。

からだの特徴

ハクビシン(白鼻心)は顔の真ん中を白い模様が通っているのですぐにわかります。写真家 大高成元氏 撮影

体は胴が長くほっそりとしており長く柔らかい毛が生えています。額から鼻端にかけて白い模様が入っていることからハクビシン(漢字で白鼻心と書きます)と名付けられています。白い部位が耳の前から顎にかけてと目の下にあります。顔の模様は亜種によって異なり、ほとんど白色のものもいます。体全体の色は生息地により明褐色、黄褐色、褐色、黒色のものまで多様ですが、斑点はなく、頸部、耳、4肢は黒味を帯びています。尾の半分より先端が黒いものや、白いものではボルネオ産がいます。体長は51~76cm、体重3.6~6kg、尾長は40~60cmです。4肢は短くそれぞれ5本の指があり、後肢の第3と4指の基部はくっついています。肛門腺が発達しており、排泄のときに匂いのついた排便をします。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯2/2で左右上下合わせて40本です。歯は小さく歯冠が低く、臼歯はお互いに離れています。乳頭数は2対です。

えさ

雑食性でミカン、カキ、ナシ、イチジク、マンゴー、バナナなどの果実が主食ですが、生息地や果物が実らない時期には野菜やげっ歯類が主食となります。この他、昆虫、小動物、甲殻類、カタツムリも食べます。日本では、38頭の胃の内容物を調べたところ果実73%、葉が56%、その他8%が哺乳類でした。なかでも果実と哺乳類は体重の増加に密接に関わっているようです。動物園では、果物を中心に煮イモや鶏頭を与えています。

繁殖

飼育下では早春と晩秋に2回繁殖した報告もありますが、生息域の西部では年に1回、春から初夏にかけて生まれ、ボルネオでは10月に生まれた報告があります。日本国内における発情期は本州中部から関東地方では3~5月です。発情は1~13日間(平均5日間)持続し、妊娠期間は51~56日、産子数は1~4頭です。生まれたばかりの赤ちゃんは体重約125g、頭胴長15cm、うすい灰褐色の毛で被われています。目は閉じて生まれますが、生後約9日齢で開きます。離乳は生後約3ヶ月齢で、この頃親と同じ大きさになります。性成熟は生後10~12ヶ月齢です。
長寿記録としては、横浜市野毛山動物園で1964年2月に生まれ、1991年6月に死亡した個体(オス)の27歳4ヶ月があります。

外敵

一番の外敵は人間で、食用だけでなく果樹園や農園を荒らす害獣として大量に捕獲されています。野生の天敵としては、ヒョウやトラなどの大形の肉食獣、ワシやタカ、フクロウ、ミミズクなどの猛禽類、大型のニシキヘビの仲間が挙げられます。なお、食肉目の天敵に対し、肛門腺から悪臭のする液を引っかけると報告がありますが、ハクビシンの臭腺がどの程度撃退効果があるか不明です。

データ

分類 食肉目 ジャコウネコ科
分布 東アジア(日本では北海道から本州、四国、九州にかけて散在しています)
体長(頭胴長) 51~76cm
体重 3.6~6kg
尾長 40~60cm
絶滅危機の程度 中国南東部、ラオス、ベトナムではレストランで食事に供される所もあり、食料用として取引されています。1960年代には1年間に野生個体が80,000~100,000頭捕獲された記録や、2003年には660ヶ所の農場で40,000頭を飼育していたと言われています。このような商取引の対象としてだけではなく、生息地の減少、農園や果樹園を荒らす害獣としての処分などで、生息数は減少していると思われます。しかし、雑食性で環境への適応性が高いことから、現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。
日本ではハクビシンは保全対象種ではなく、1994年に鳥獣保護法(鳥獣保護及び狩猟の適正化に関する法律)によって狩猟獣となっています。また外来動物か在来動物かはっきりしないため、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で特定外来動物には指定されていないので一方的な駆除の対象にはなっていません。鳥獣保護法ならびに鳥獣被害防止特措法(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)があるので、有害鳥獣として捕獲する場合は、各市町村の鳥獣担当部署に申請、狩猟による捕獲の場合には、狩猟免許の取得と登録が必要となります。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修 動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林 壽郎 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981.
三宅 隆 ハクビシン 動物園教室 どうぶつと動物園 Vol.22 No.12
(財)東京動物園協会 1970.
日本哺乳類学会編
責任編集 川道武男
レッドデータ 日本の哺乳類 文一総合出版1997.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
祖谷勝紀、伊東員義 ジャコウネコ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores,
Lynx Edicions 2009.
増田隆一 日本のハクビシンは台湾からやってきたー遺伝子から探る起源と多様性―どうぶつと動物園、Vol.63 No.4, (公財)東京動物園協会, 2011.
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