スカンク属
1属2種、セジロスカンクとシマスカンクに分類されます。セジロスカンクは北米のアリゾナ州、テキサス州南西部から中米のニカラグアにかけて生息しています。セジロスカンクの背中は白色か黒色の場合は白色の縞が細く別れていますが、シマスカンクの背の白帯は広くなっています。分布域が一部シマスカンクと重複していますが、本種の方が臆病で劣勢です。体格は体長が30~40cmでシマスカンクよりやや小柄ですが、尾は長めで35~38cmで体長と同じくらいあり白色です。また、乳頭数は5対でシマスカンクより1~2対少なくなっています。
本稿では日本でもなじみの深いシマスカンクについて紹介しましょう。
シマスカンク
カナダ南部からアメリカ、メキシコ北部に広く分布しています。標高4,200mの地点で見られたこともありますが、通常は平地から標高およそ1,800mまでの地域で良く見られます。生活地域はまばらな森林、草原、砂漠から人家近くまでさまざまで、開けた場所では土手や雑草の生い茂った場所、峡谷の谷や藪のある所を好むようですが、耕作地など餌と隠れ家があるかぎり特定の場所を選びません。活動時間帯は朝夕および夜間で、日中は巣穴の中や人家の下の乾燥した場所で休んでいます。北部に生息する個体は冬季に浅い冬眠に入りますが、この期間はカナダのアルバータ州で120~150日、アメリカのイリノイ州では62~87日との報告があります。一方南部で生活するものは冬眠せずに活動を続けます。普通は単独で生活していますが、冬季になると巣穴の中に1頭の成獣のオスと数頭のメスが体を寄せ合い同居していることから寒さを凌いでいるのかもしれません。アルバータ州では、1頭のオスと平均5.8頭のメスや母と子供が同じ巣穴の中にいました。地下の巣穴は自分で掘ることもありますが、普通はウッドチャックやアルマジロ、ウサギ、アメリカアナグマなどが掘った穴を使います。行動圏は、6頭の発信機を付けた調査結果では1.1~3.7km²、平均で2.1km²やそのほかに0.5~12km²などの報告があります。北方に生息するものや、餌が十分ある地域では狭くなる傾向がありますが、南方では1年中変わりません。歩行速度はギャロップ(駆け足)で時速16.5kmの記録があり、また、平常は水を避けますが水温22度のときに7.5時間以上泳いだとの報告例があります。普段は声を出しませんが、低いチーや、甲高い声、小鳥のさえずりのような声を出します。
スカンクは外敵を撃退するときに肛門腺から極めて強い悪臭がする液体を相手の目に向かって噴射して撃退することで有名です。その際は予め相手に尻を向け、尾を上げて威嚇する行動が伴います。それでも近づく相手に対し発射し約6m飛びますが、正確に届く範囲は3m程度で、もし目に入ると一時的に目が見えなくなります。さらにこの匂いが付着すると簡単には取れないので、この臭いを体験した哺乳類は2度とスカンクを襲うことはないそうです。肛門腺の分泌物は他のイタチ科の仲間より発達しており肛門嚢(のう=ふくろ)に蓄えることができ、数度続けて発射すると量も少なくなり匂いも弱くなります。主成分はブチルメルカプタンで毛やニンニク、ゴムを焼いたときに出る硫黄と二酸化炭素を混ぜたような強烈な匂いがします。動物園やペットで飼育する場合は肛門腺を除去しています。
分布により13亜種に分類するのが一般的です。
からだの特徴

背中から尾にかけて白い模様がきれいでしょう。でも尾を上げて威嚇(いかく)されたら逃げるべきです。写真家 大高成元氏 撮影
体の大きさは、頭胴長(体長)で、オス23~40cm、メス17~34cm、尾長オス20~47cm、メス15~36cm、体重オス0.8~4.1kg、メス0.6~3.6kgです。冬の間に減少する体重の割合はメスで31.6~55.1%、オスでは13.8~47.7%の報告例があります。体形は4肢が短くがっしりとしており、後肢の方が前肢より長くなっています。指は前後肢ともに5本で、前肢の爪は長く曲がり、後肢では短く真っ直ぐ鋭くなっています。前肢の長い爪で地面や倒木の下を掘って中にいる昆虫や齧歯類、無脊椎動物を食べます。人間のように足裏全体を地面に付けて歩く蹠行性ですが、時折後肢の踵を地面に付けずに歩くことがあります。耳は丸く小さくて、尾は体長と同じくらいでふさふさとした長い毛におおわれています。体色は背が黒、茶、時には赤い個体も野生では見られています。後頭部から背中を尾にかけて2本の縞があることからこの名前が付けられましたが、個体差が大きく中には尾の先端や横、前頭部の他、体のいたるところが白い個体もいます。嗅覚と聴覚は優れていますが視覚は良くありません。体温は冬季に活動している時は36.2~39℃、北極圏に近いカナダのマニトバにおける飼育下の巣穴では28.4~34.6℃に下がりました。乳頭数は10~15で平均6対あります。肛門腺は生まれた時にすでにあり、生後8日齢頃には悪臭のする液体を発射できますが、実際に正確に相手に向かって発射できるのは目が見えるようになってからです。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯1/2で左右上下合わせて34本です。
えさ
雑食性ですが季節によって主食となる内容は変化します。春から夏は昆虫が主食となり、甲虫、バッタ、コオロギ、ガ(蛾)、根切り虫、ミツバチ、スズメバチを食べます。冬と春の間は小型の哺乳類のマウス、ハタネズ、リス、モグラの仲間などの割合が増えます。そのほかに爬虫類のヘビ、両生類のカエル、鳥類とその卵、魚類、死肉、そのほか、ミミズ、カタツムリ、ハマグリ、ザリガニ、野生の果物、イチゴ、穀類、トウモロコシ、ナッツ、廃棄したごみから、外に出してあるペットの餌まで食べます。
繁殖
交尾期は2月中旬から4月中旬、出産は5月から6月初旬です。年に1回の発情ですが、最初の出産で失敗したときは再度発情します。メスの発情はおよそ10日間続き、この間に交尾したあと40~50時間後に排卵し、着床までには若干の遅延が見られます。妊娠期間は59~77日で着床遅延を含みます。産子数は1~10頭、平均で4~5頭です。生まれたばかりの赤ちゃんのしわのある地肌はピンク色で、白黒の縞模様の毛が2~3mm生えています。体重は32~35gです。目と耳は閉じており約3週齢で開き、目が見え耳も聞こえるようになってきます。授乳は生後6~8週齢まで続きます。この頃から母親と徐々に離れ、夏の終わりから初秋までに母親と別れます。メスは1歳で繁殖可能になります。飼育下の平均寿命は6歳程度ですが、長寿記録としては、オレゴン動物園で1962年9月から1976年8月まで飼育された個体(メス)の飼育期間13年11ヶ月があります。
外敵
外敵の筆頭は人間で、スカンクの毛皮は1991~1992年北米では1頭2ドルで売られ、45,148枚の毛皮の取引がありました。他にも交通事故で死亡したり害獣として処分される個体もいます。野生の外敵としては、アメリカワシミミズク、イヌワシ、ハクトウワシなど猛禽類がいます。ピューマ、コヨーテ、アメリカアナグマ、アカギツネ、ハイイロギツネ、ボブキャットなどの捕食者は死亡しているスカンクを食べます。
データ
分類 | 食肉目 イタチ科 |
分布 | カナダ南部、アメリカ合衆国、メキシコ北部 |
体長(頭胴長) | オス23~40cm、メス17~34cm |
体重 | オス0.8~4.1kg、メス0.6~3.6kg |
尾長 | オス20~47cm、メス15~36cm |
絶滅危機の程度 | スカンクはネズミや昆虫を食べてくれるので人間にとって有益な点もありますが、家畜の伝染病とりわけ狂犬病の仲介動物としても知られ、家畜や他の動物、人間への感染もあること、農場にとって害獣であるために銃、毒餌、罠を用いて処分されることもあります。しかし、生息域が広いだけでなく、雑食性で餌となる対象が幅広く餌に困ることは少なく困りません。そのため国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは絶滅の危険が少ないと判断され低懸念種(LC)にランクされています。 |
主な参考文献
林 壽朗 | 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981. |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988. |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科1食肉目 平凡社 1986. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
齋藤 勝・伊東員義・細田孝久・西木秀人 | イタチ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目: 今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991. |
Wade-Smith, J. & Verts, B. J. | Mammalian Species. No.173, Mephitis mephitis. The American Society of Mammalogists 1982. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |