No.138 ビントロング – おもしろ哺乳動物大百科 86 食肉目 ジャコウネコ科

おもしろ哺乳動物大百科食肉目ジャコウネコ科ペットコラム

ビントロング属

1属1種でアジア南東部にビントロングが生息しています。分布により6亜種、あるいは学者によっては9亜種に分類します。

ビントロング

アジア南東部のネパール、インド北東部のシッキムやアッサム、ブータン、中国南部、北ミャンマー、マレー半島、スマトラ、ボルネオ、フィリピン(パラワン島)、及び周辺部の島に生息しています。原生林や二次林、草原などの混合林にすみ、ボルネオでは標高1,500m、スマトラでは標高700~2,500m、インドの北東部では熱帯や亜熱帯の深い森林で標高2,000m位まで生息しています。ジャコウネコ科で唯一長い尾をもつ種で、樹上生活するうえで木の枝に巻きつけることができるため5番目の手のような役割を果たしています。枝から枝へ跳ね移ることはできません。休むときは樹上で尾を体にくるりと巻いて心地良さそうにしています。野生では単独か小さな群れで生活し、動作は他のジャコウネコ科に比べゆったりとしています。野生状況を再現した動物園の展示はタイの動物園で見られ、動物舎内にある1本の樹上に5~8頭が枝々に分散して眠っていました。ふつうは夜行性で日中は樹の洞などで休み、夜間おもに樹上で餌を探しますが、時には地上に降りたり、水中に潜ったりして魚を獲ることもあります。活動時間はタイで無線機を付けて行った調査によれば、ピークは午前4時から6時、及び午後8時から10時の2回ありました。他にも日暮れから早朝までの報告や、ボルネオでは昼夜ともに活動するのが観察されています。行動圏はタイの成獣オス5頭の調査例では、年間行動圏は4.7~7.7km²(平均6.2km²)で一部重複し、雨期には拡大します。1日の移動距離は平均688mでした。声によるコミュニケーションも盛んで、飼育下の観察では、すすり泣き、ギリギリやブウブウ、うなり声やシューという威嚇音などが報告されています。
ビントロングの和名を熊猫と言う時代もありましたが、クマのような顔とネコのような体形を併せ持つ外見から命名されたものと思われます。

からだの特徴

太い尾でバランスをとりながら樹上を上手に歩きます。写真家 大高成元氏 撮影

ジャコウネコ科では体長は最大で61~97cmあります。体重は本種が9~15kg(メスの方が約20%重くなります)に対し、アフリカジャコウネコの方が重く約20kgになります。尾長は56~89cmです。頭部の毛は短く黄褐色か灰色で霜降り状になっているか、ほぼ白い個体までいます。毛は粗くて長く黒い毛が肩から尾端まで生えており、上毛の先端が白や銀色の個体もいます。インド北東部や北ミャンマー、ネパール、ブータンに生息するものは、肩部の毛が約6.5cm、臀部で約11cmあり、冬季は下毛がさらに多くなります。鼻づらは短く、長い口ひげが生えていますが、ネコと同様に触覚の役割を果たしていると推測されます。耳は丸く白く縁取りされて、耳先の背面から長い毛が伸びて房毛のようになり、一見するとリンクスの耳を連想させます。手のような役割も果たす尾は筋肉が発達し太くなっているのが特徴です。4肢は短くそれぞれ5本の指があり、掌部と足底部の肉球は大きく、後ろの足の裏は踵まで裸出しています。爪は短いですが強く、少し曲がっていて、不完全に引っ込めることができます。後肢の第3と第4指球の基部はくっついています。歩行はクマのように足裏全体を地面に付けて歩く蹠行性です。臭腺は会陰部にありますが匂いは強くありません。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯2/1‐2で左右上下合わせて38~40本です。犬歯は大きく、臼歯は丸く小さいです。盲腸は小さく、ない場合もあります。乳頭数は2対です。

えさ

雑食性でイチジク、マンゴー、バナナなどの果実が主食ですがこの他、昆虫、小動物、甲殻類、カタツムリも食べます。水中に潜り魚も捕まえて食べます。他にも死肉、葉、茎なども食べます。スマトラでは地面に落ちたジャックフルーツも食べた報告もあります。

繁殖

繁殖は一年中見られます。飼育下での調査によると、メスは季節に関係なく発情する多発情型を示し、発情周期は平均82日で、交尾は樹上で行われます。妊娠期間は84~99日、平均91日で、出産のピークは1~3月でした。産子数は1~6頭の範囲で、ふつう2頭です。生まれたばかりの赤ちゃんの体長は約20cm、体重が300g~320g、全身に毛が生えていますが、毛の色は親よりもやや淡い色をしています。生まれた時閉じていた眼は9~10日齢で開きます。生後6~8週齢で固形物を食べ始め、1年で親と同じ大きさに成長します。性成熟は2.5歳です。飼育下での初交尾は雌雄ともに生後13~48ヶ月齢で見られます。
長寿記録としては、ベルギーのアントワープ動物園で1997年7月11日に死亡した個体(メス)の飼育期間26年3ヶ月、推定年齢27歳があります。

外敵

生息域にいるトラ、ヒョウ、オオカミなどの肉食獣、ワシやタカ、フクロウ、ミミズクなどの猛禽類、大型のニシキヘビが挙げられます。特に幼獣は犠牲になる率が高いといわれています。

データ

分類 食肉目 ジャコウネコ科
分布 アジア南東部:インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、中国南部、マレー半島、スマトラ、ボルネオ、フィリピン(パラワン島)
体長(頭胴長) 61~97cm
体重 9~15kg(1kgの個体が捕獲されたことがあります)
尾長 56~89cm
絶滅危機の程度 生息数の減少が顕著ですが、一番大きな要因は原生林の伐採による開発です。他にも人に馴れやすいことからペット目的の捕獲や食用、薬用、毛皮に使うために密猟されています。これらの現状を踏まえて国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)にランクされ、生息地ではそれぞれの国にある自然保護区域で保護されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修 動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林 壽郎 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker, S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3 , McGrow-Hill
Publishing Company 1990.
祖谷勝紀、伊東員義 ジャコウネコ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores,
Lynx Edicions 2009.
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