No.132 キンカジュー – おもしろ哺乳動物大百科 80 食肉目 アライグマ科

アライグマ科おもしろ哺乳動物大百科食肉目ペットコラム

キンカジュー属

1属1種で、キンカジューが中米から南米にかけて分布しています。分布により次の7亜種に分類されます。
(1)ギアナ (2)アマゾン川流域 (3)中央アメリカ、メキシコ (4)コロンビア、パナマ (5)ベネズエラ (6)エクアドル西部 (7)ブラジル東部
なお、生態が夜行性で夜間に樹幹を走りまわる点や、体型が似た種類に別属(オリンゴ属)のオリンゴがいますが、キンカジューの方が全体にずんぐりとしていて、体も2~3倍大きいこと、尾を枝などにまきつけることができることなどから区別できます。

キンカジュー

生息地はメキシコ南部からブラジル中央部のマットグロッソ州に至る海抜0~2,500mの熱帯雨林、雲霧林、乾燥林、拠水林に生息しています。夜行性で木登りが上手でほとんど樹上で生活し、めったに地上に降りません。昼間は木の洞などで休息していています。
キンカジューは他の夜行性で樹上性の動物とはちがう珍しい社会構造をしています。多くのキンカジューは2頭の成獣オス、1頭の成獣メス、1頭の亜成獣、1頭の子どもで群れが構成されています。採食、移動など夜間の活動時間帯のほとんどは群れを離れて単独で行動しますが、日中の休息時や果実がたくさん実る大きな木では群れで行動します。この時にいくつかの群れが集まり大きなグループを作ることがあります。休息時には別の群れと少なくとも55%を同じ巣穴で一緒に過ごします。行動圏は0.1~0.5km²でメスよりオスの方が広範囲で一部は重複し、夜間は平均2㎞移動します。パナマの調査例では、彼らは行動圏の近くで年間44ヶ所の穴を利用していました。
社会行動の一つとして、群のメンバーはお互いに体の各部をグルーミングしますが、耳や頭など自分でできない部位も行い、頻度は成獣と亜成獣のオス、メスと子どもが最も多くなっています。声を使ったコミュニケーションについては1940~1970年代の調査で、親愛を表す優しい声から悲鳴のような警戒音として、(1)チチチといったかん高い鳴き声(2)吠える(3)クンクン(4)チュウチュウ(5)うなる(6)シュー(7)キャーなどの報告があります。また、イヌ科やネコ科の仲間に見られる肛門のうはありませんが、下顎部、喉、腹部の3ヶ所に分泌腺があり、それぞれ目的によって「なわばり」「通行したしるし」「発情の有無」などに使い分けることで重要な情報源となっています。

からだの特徴

フカフカとぬいぐるみのような毛をしています。写真家 大高成元氏撮影

かつては体つきが食肉目の仲間よりキツネザルに似ていたため、サルの仲間に分類されたこともありましたが、現在は食肉目に分類しています。体は全体的に丸みをおび、頭は丸く、目が大きく前方を向き、先が丸い耳は側頭部に付き、鼻づらは短く先が尖っています。舌は細くて長いため柔らかい果実、花の蜜やハチミツを食べるのに適応しています。4肢は短く、後肢の方が前肢より長くなっています。前後肢ともに指は5本で、爪は短く先が鋭くなっています。長い尾にはリング状の模様はなく、枝に巻きつけることができます。体の上面と尾の上面はオリーブがかった褐色、黄褐色、赤褐色といろいろで、背の正中線が黒いものもいます。下面は黄褐色、バフ色あるいは褐色を帯びた黄色で、毛は柔らかく、羊毛状でふかふかしています。
乳頭は鼠径部(そけいぶ)に1対あります。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯2/2で左右上下合わせて36本です。前臼歯はアライグマ科の他の仲間にくらべ上下共に1本少なくなっていますが、食性が柔らかい植物質やハチミツが主食のためと考えられます。

えさ

雑食性で、主にグアバ、アボガド、マンゴーなどの果実を食べていますが、その他に花の蜜、ハチミツ、木の実、昆虫、小鳥、鳥の卵などを食べます。パナマにおける調査例によれば、餌の果実は全体の90~99%を占め、採食した植物の種類数は29科で78種類を食べた報告があります。一方で、ボリビアの1例によれば、6頭のキンカジューから9種類のアリが胃の中に見られたと報告しています。生息域や果実の豊富な時期か否かなどにより差がみられますが、餌はすべて樹上で採ります。尾は枝に巻きつけることができるため、前足と尾の両方を使ってぶら下がり餌を採ることもあります。動物園の餌では、果物以外にも、煮イモ、パン、卵、ハチミツなどを与えています。

繁殖

繁殖期は特に決まっていなませんが、4~5月に多く生まれる地域もあります。この時期は果物が実る時期と一致しています。発情周期は46~92日で、この間12~24日間発情が続き、雌雄が配偶者関係として続くのは1~3日間でこの間に交尾します。妊娠期間は112~118日で、ふつうは1産1頭ですが稀に2頭のこともあります。群れは2頭のオスと1頭のメスですが、交尾するのは優位のオスです。出産は巣穴として使っている樹上の洞で行われます。生まれた時の赤ちゃんの体重は150~200gで、体には褐色がかった灰色の毛が生えていますが、腹部には毛がほとんど生えていません。生後8週齢で固形物を食べ、生後3ヶ月齢で樹間を移動します。雌雄の群れで生活していても、オスは生まれた赤ちゃんの世話はしません。メスは自分が餌を探す間、子どもを木の枝に置いていきます。性成熟に達する年齢は、オスで1.5歳、メスで2.25歳です。
長寿記録としては、アメリカのホノルル動物園で2003年に死亡した個体の40歳6ヶ月、ドイツのウィルヘルマ動物園で1997年9月22日に死亡した個体(オス)の38歳5ヶ月などの記録があります。

外敵

外敵の筆頭は人間で、1960年代にはペルーだけで年間100頭以上の生きた個体と数百枚の毛皮が輸出された記録があります。現在は皮が市場に出回ることはありません。また、現地の人が食料として捕獲することもあります。
野生の外敵としては、オウギワシやアカクロクマタカなどの猛禽類、ジャガー、オセロット、大型のヘビなどが挙げられます。

データ

分類 食肉目 アライグマ科
分布 メキシコ南部からブラジル中央部のマットグロッソ州
体長(頭胴長) 40.5~76cm
体重 1.4~4.6kg (オスはメスより大きい)
尾長 39.2~57cm
肩高(体高) 約25cm
絶滅危機の程度 家畜を襲い田畑を荒らす動物、人間に危害を加える種は人間から厳しく迫害されてきました。しかし、本種は体が小さく人間社会への脅威も少ないことや、餌が果実で豊富である点が幸いして、少ない産仔数でも個体群が維持されていると推測されています。また、樹上性で夜行性のために生息数などの調査が不十分なこともあり、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは絶滅の危険が少ないと判断され低懸念種(LC)にランクされています。

主な参考文献

林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988.
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
中里竜二 2.アライグマ科の分類 In.世界の動物 分類と飼育(2)食肉目:今泉吉典 監修、(財)東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Ford, L. S. & Hoffman, R. S. Mammalian Species. No.321, Potos flavus . The American Society of Mammalogists 1988.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.
タイトルとURLをコピーしました