No.122 ツキノワグマ – おもしろ哺乳動物大百科 70 食肉目 クマ科

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ツキノワグマ属

1属1種でツキノワグマが中東から東アジアにかけて広く分布しています。分布が広いために通常7亜種に分類され、日本には亜種ニホンツキノワグマが生息しています。
本属はクマ属に含まれる場合もあります。

ツキノワグマ

立ち上がると胸部にある三日月形のマークが良くわかるでしょう。写真家 大高成元氏 撮影

別名をアジアクロクマ、ヒマラヤグマとも呼ばれています。アフガニスタン、パキスタン、南東イラン、ヒマラヤ、ミャンマー、タイ、インドシナ、中国、南東シベリア、日本、台湾、海南島に分布しています。 生息域は沿岸などの低地から夏には3,600m(インドの北東部では4,300m)の高地までのぼり、冬には低地におりてきます。年間を通じて一番活動する時間帯は朝と夕、及び夜間ですが、生息域や季節によって違います。日中は洞穴や岩の割れ目、樹の洞などの中で休息していますが、春から秋にかけて豊富に果物が実る時期には日中も活動します。泳ぎも上手で、また前足の爪も頑丈で木登りがうまく樹上の木の実から地下の根まで広く食物を採ることができます。冬季に寒くなる大陸や日本では、餌が手に入らないため秋から翌春まで樹洞、岩穴、土穴などで冬眠して寒さをしのぎます。シベリアや日本に生息するクマは11月から4~5ヶ月間冬眠しますが、南パキスタンや中東などの暑い地方では、1年中食物があるので冬眠をしません。冬眠の期間中絶食するため胃は空になり消化管の働きが少なくなって一時的に委縮します。このとき不消化の食物、植物の枯れた残りかす木片、堅果類の殻、毛などが混じった固い便が肛門の括約筋の出口に栓(肛門栓)をするようになり、排便しません。巣穴から出るのは3月下旬から4月上旬で、最初に肛門栓をとるために、下剤の役割を果たすカンバ類の樹液をなめて排泄を促します。交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は基本的には単独生活をします。行動圏は地上のラジオトラッキングによる調査例では20~60km²ですが、他にもシベリアで5~6km²、GPS(全地球測位システム)を使った調査で100~250km²の報告もあります。嗅覚は鋭く果実の熟れ具合を木に登らなくとも嗅ぎ分けることができ、聴覚も100m以内の物音を聞き分けます。

からだの特徴

体色は普通光沢を帯びた黒ですが、赤茶色や濃茶色の個体もいます。頸部と肩から胸部にかけて毛が長めで、夏に換毛します。顎は白く、前胸部には三日月状のVの字型の白い模様があり、この模様が月に似ていることからツキノワグマと命名されましたが、地域によっては、この白斑をもたない個体もいます。からだは頑丈で前肢は後肢よりやや長く、足裏の肉球表面積は広く力が強いので木登りをするのに適しています。各肢に5本の指があり、爪の長さは約5cmで湾曲しており、前足でしっかりと樹幹につかまり木登りをします。
体長(頭胴長)は120~180cm、体重はオスで110~150kg、まれに250kg、メスは65~90kg、まれに170kg,尾長は7~11cmです。日本や台湾などの島国の亜種は、大陸より小型です。歯は生後6ヶ月から2歳齢までに乳歯から永久歯に生え変わります。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。臼歯は扁平で植物をすりつぶすときに役立っています。乳頭数は3対です。

えさ

雑食性で、草の茎、根、葉、木の新芽、果物、小型の脊椎動物、無脊椎動物、昆虫、ハチの巣や蜜、死肉、まれに魚などを食べます。季節によって食べ物が変化しています。名著、G・F・ブロムレイ著(藤巻裕蔵、新妻昭夫 訳)「ヒグマとツキノワグマ」に詳しい調査例が報告されています。本書によれば、春、冬眠明けの主要な食物は、草本、チョウセンゴヨウの堅果、ドングリ、コケ、地衣類、針葉樹の葉などで食物の約87%を占め、動物質は12%で、おもに昆虫や軟体動物でたまにネズミ類を捕えて食べる程度です。夏には植物質が約76%、動物質が24%と増えますが、このうち11%はアリです。秋には植物質が約96%で主なものはドングリやチョウセンゴヨウなどの堅果や種々の漿果、コケ、地衣類、草本類が主な食べものとなり、動物質は約4%で昆虫と軟体動物、と報告されています。

繁殖

交尾期はシベリアでは6月初旬から7月下旬、パキスタンでは10月、出産期の多くはいずれも2月です。着床遅延するので、妊娠期間は160~210日間と大きな幅があります。冬眠中にふつう2頭の子どもを出産します。新生児の体重は300~400gです。歯は生えておらず、目は閉じており、生後約1週齢で開きます。生後40日齢で全身に新しい毛が生え、前肢が後肢に比べ長く、爪が鋭くなります。授乳期間は生後4.5~5.5ヶ月齢まで続きます。生後70~80日齢で上手に木に登り、体重は2~2.5kgになっています。生後2~3歳までは母親と一緒に生活します。母親が2腹の子どもと一緒にいた例が観察されています。性成熟は3~4歳です。
長寿記録としては、広島市安佐動物公園で1987年4月7日に死亡したメスの個体の推定年齢39歳2ヶ月という記録があります。

生息数減少の原因

天敵としては、ソ連極東南部ではトラ、ヒグマ、オオカミなどの例が報告されていますが、人間による狩りに比べればごく僅かです。人間にとってクマの肉は食料、薬用として胆嚢、毛皮は敷物や防寒衣として余すことなく利用され、現在でもかなりの数が捕られています。また、過度の開発によって生息地が減少、分断されたことが生息数減少の大きな原因となっています。

ニホンツキノワグマ

ツキノワグマの亜種の一つで、本州、四国、九州に生息しています。九州では1990年代にも目撃情報がありますが、確実な生息の証拠がないために、現在では絶滅した可能性が高く、生存しているとしてもその個体数は非常に少ないと考えられています。体格は大陸の亜種より一回り小型です。西日本での分布域の減少が顕著で、日本全体の正確な生息数は不明ですが、環境省は約15,000頭と推定しています。四国や九州他いくつかの地域では絶滅の心配があり、環境省のレッドデータブックではこれら地域のツキノワグマを「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定しています。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 アフガニスタンから東アジアまで(日本、台湾、海南島を含む)
体長(頭胴長) 120~180cm
体重 オス110~150kg メス65~90kg
尾長 7~11cm
肩高(体高) 60~100cm
絶滅危機の程度 IUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは、すぐに絶滅する恐れはないが、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定され、積極的な保護が必要とされています。

主な参考文献

Domico,T. BearsoftheWorld,FactsOnFile,1988.
ブロムレイ・G・F.
藤巻裕蔵 新妻昭夫 訳
ヒグマとツキノワグマ 思索社 1987.
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981
川口 幸男 クマ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育(2) 食肉目:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
環境省自然環境局生物多様性センター編 平成22年度自然環境保全基礎調査―特定哺乳類生息状況調査及び調査体制構築検討業務報告書、環境省 2011.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill
Publishing Company 1990.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
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