No.123 アメリカグマ – おもしろ哺乳動物大百科 71 食肉目 クマ科

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クマ属

クマ属はアメリカグマとヒグマの2種類に分類され、北米では同じ地域に生息しています。
ヒグマはヨーロッパからアラスカ、そして北海道などに広く生息しています。形態などの差からアラスカのコディアク島に生息するコディアックヒグマ(アラスカクヒグマ)とハイイログマ(グリズリー)をそれぞれユーラシア大陸のヒグマとは別種とする説もありますが、これらをヒグマに含める説が一般的です。アメリカグマとヒグマを較べると体格はヒグマの方が一回り大きく、肉食の割合が多いとされています。ヒグマは森林から草原まで行動圏が広く、アメリカグマは行動圏の重複する地方では、ヒグマから攻撃を受けた時、木に登り難を逃れるために森林で生活しています。共に冬眠してメスは冬眠中に出産、授乳して子育てをしています。また、ツキノワグマやホッキョクグマをクマ属に含める場合もありますが、本稿では今泉吉典博士の分類に従い、クマ属は1属2種とし、アメリカグマとヒグマについて紹介します。

アメリカグマ

生息地の北米では絶滅の恐れが少ない種というのでホッと一息ですね。写真家 大高成元氏 撮影

生息域によって差があるため16~18亜種に分類されています。北米のメキシコ、カリフォルニア北部からアラスカ、及び五大湖、ニューファンドランド、アパラチア山脈にかけての一帯、フロリダからメキシコ湾岸の一部に孤立した小群が生息しています。生息域は温帯と亜寒帯の森林が主ですが、他にも亜熱帯地域、乾燥した雑木林、湿地帯、アラスカの降雨林にも生息しています。さらに南カリフォルニア山中やツンドラの不毛地帯ではヒグマの仲間であるグリズリーが減少したため、アメリカグマが進出しています。行動圏は生息地により異なり、3~1,100km²と大幅に差がありますが、平均すると5~500km²です。極端なケースでは、餌の少ないカナダのラブラドールでの調査によると、オスの行動圏が7,000km²を超えたとの報告もあります。オスはなわばりをもち、メスも地域によってはなわばりをもち防衛しますが、餌が豊富なゴミ捨て場周辺は共同で使います。
グレート・スモーキー・マウンテンの場合、春は朝と夕、夏は朝から夕方まで活動し、秋では朝夕のピークはありますが、一日中活動していました。冬眠は10月初旬から5月末ですが、寒い地方では、9月下旬から5月まで続きます。ワシントンの平均冬眠期間は126日、ルイジアナ州では74~124日間で、いずれも秋に十分なえさを食べて脂肪を蓄積しています。この間体温は38℃から31~34℃に低下し、呼吸数が平常時の毎分40~50回から8~19回に減少し、新陳代謝が50~60%低下します。そして体重は20~27%減少します。巣穴は倒木や樹の洞、岩の割れ目、地面に掘った穴などで、ハドソン湾の地域では雪の中に自分で穴を掘り中に入ります。通常の場合クマの動きはゆっくりですが、本種は素早く動くことができ、短距離ならば時速56kmという記録があり、また、木登りと泳ぐのは上手です。野生のクマは子どもだけが遊びます。交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は基本的に単独で生活しています。

からだの特徴

体色は多彩でどの亜種にも黒色はおり、とりわけ北米の東部に多くみられます。他にもチョコレート色、シナモン色、時には胸部に白い斑紋のある個体や、全身白色、まれにブルーブラックの個体など多様で、同腹で色が違う事もあります。からだは頑丈で前肢は後肢よりやや長く、足の裏の肉球は後足では足底球と足根球が一緒になって表面積が広く人間の足裏のようになっています。前足では掌球と手根球が離れており、着地するときは掌球部が付くので速く走れます。各肢には5本の指があり、爪の長さは短めで湾曲し前足でしっかりと樹幹につかまり木登りができます。えさは視覚と嗅覚で探します。特別な鳴き声は発達しておらず、威嚇や痛みがあるときに出すうなり声くらいです。
体の大きさは地域差が大きく、体長120~190cm、尾長約12cm、体高約90cm、体重はオスで60~270kg、メスで45~140kgですが、まれにオスでは400kg、メスで180kgに達する記録があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。前臼歯の前3本は痕跡程度です。乳頭数は3対です。

えさ

全体の75%は植物質で、果物、イチゴ、ハシバミ、マツ、ドングリなどの堅果、茎、根、葉、木の新芽、乾燥地ではサボテン、ユッカ(イトランの一種)、動物質では小型の脊椎動物、鳥、卵、魚、無脊椎動物、昆虫、ハチの巣や蜜、時には仕留めた哺乳類、死肉等々、生息地域や季節によって得られるものを何でも食べる雑食性です。

繁殖

発情は匂いで察知し、オスは放浪を止めて交尾相手を探します。この時期はテストステロンの値が上昇し攻撃的になります。交尾期のピークは5月中旬から7月で、発情は2~5日間続き、オスとメスはこの間一緒に過ごし交尾します。出産期は1月から2月で冬眠中に巣穴の中で生みます。妊娠期間は約220日ですが、着床遅延があり受精卵は11月中旬から12月初めにかけて子宮に着床し、胎児は成長を始めます。産子数は1~5頭の範囲ですが平均すると2~3頭で出産間隔は隔年から3~4年に1回です。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は225~330gで、体には短い灰色の毛がうすく生えているだけです。歯は生えておらず、目はしっかりと閉じています。子どもは生後2.5~3.5ヶ月齢で母親と一緒に生まれた巣穴から出ます。母親がえさを探しに行くとき、子どもは外敵を警戒し樹上に登って待っています。固形物は晩春ころから食べ始めますが、授乳は秋まで続きます。子どもは生後16~17ヶ月齢まで母親と共に暮らし、その後餌場を確保するまで母親のなわばりの中で生活しています。メスの性成熟は4~5歳ですが、オスはそれより1年くらい遅れます。長寿記録としては、アメリカのカリフォルニア州にあるフォルサム動物園で、1995年8月7日に死亡したメスの個体の飼育期間31年8ヶ月、推定年齢34歳という記録があります。

現在の生息状況

アメリカグマの生息状況に最も大きな影響を与えるのは、過度の開発による生息地の破壊と分断と考えられていますが、その他に森林を破壊する害獣としての駆除、食料や薬用に利用するための捕獲、狩猟による死亡などがあげられます。一部地域では生息地が分断され、生息数が極端に少なくなり、法律で保護されている亜種もいます。しかし、一方ではアメリカグマは雑食性で環境への適応力が非常に高いので、ヒグマ(グリズリー)が減少したり、絶滅した地域に分布を広げ生息数を増やしている場合もあります。狩猟頭数も年間40,000~50,000頭になりますが、生息数に影響を与えないように良く管理されていると言われています。
最近の報告によると、生息数は毎年約2%の割合で増加し、北アメリカ全体で850,000~950,000頭と推測され、種としては現在絶滅の恐れは少ないと考えられています。
成獣は人間以外の外敵はほとんどいませんが、若い個体や子どもはヒグマ(グリズリー)、オオカミ、コヨーテ、ボブキャット、あるいは他のアメリカグマにも襲われます。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 北アメリカ(アラスカ、カナダから南はメキシコ北部、フロリダの一部まで)
体長(頭胴長) オス 140~190cmメス 120~160cm
体重 オス60~270kg メス45~140kg
尾長 12cm以下
肩高(体高) 約90cm
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)になっています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
川口幸男 4.クマ科の分類,In.世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
川道武男他編 冬眠する哺乳類 東京大学出版会 2000.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill
Publishing Company 1990.
Larivière, S. Mammalian Species . No.647, Ursus americanus .
The American Society of Mammalogists 2001.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
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