No.124 ヒグマ – おもしろ哺乳動物大百科 72 食肉目 クマ科

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食肉目 クマ科

ヒグマ

ヒグマはヨーロッパ西部、北極圏からシベリア東部、アジア、ヒマラヤ、北アメリカではアラスカ、ハドソン湾から北西部、及び北海道など、クマの中でもっとも広範囲に分布しています。生息地はツンドラ、シベリアの森林、ヨーロッパでは山地の森林、そしてアルプスの草地や海岸線などの開けた空間にもいますが、このような地域では隠れるための森林が必要とされています。標高はヒマラヤの5,500mやカナダの北緯74度地点にも見られ、同地域に生息するホッキョクグマやツキノワグマの行動圏と重複しています。北米には灰色や灰白色で一般に銀色の外見からグリズリーベアと呼ばれている個体群や、彼らより一回り大型のブラウンベアが生息しています。行動圏は生息域によって差が大きく最近の報告では7~30,000km²としているように、ツンドラ地帯と海岸沿いの地域にすむクマで大差があります。しかし、一般にグリズリーは北部内陸地域のメスが200km²、オスでは400~1,100km²です。なわばりは見られず、ふつう成獣は単独で生活していますが、鮭の遡上する地域では、大きな家族のような集団で集まり一度に30頭以上の個体が集まります。このような場所では、一つの社会のような形態が見られ、順位の優劣は行動で示し、闘争せずに同じ場所で採食できます。それでも時には、劣位の若い個体が優位個体から攻撃されて殺されることもあります。活動時間帯は、北米の場合昼行性ですが、ヨーロッパでは夜行性で、若い個体は昼夜を問わず活動します。人間の狩猟対象となってきた地域では、人との遭遇を避けた場所と時間帯で活動する傾向があります。アラスカの個体群の活動ピークは午後6時から7時でした。ヨーロッパとアジアで生息するヒグマは木登りをしますが、北米のヒグマは稀です。
冬眠は10月から12月に始まり、3月から5月に目覚めますが、生息地の環境、天候、個体の健康状態により変わります。南部の地域群はごくわずかの期間冬眠します。巣穴は23度から40度の斜面にある大きな石の下や大木の根の下に作り、内部には乾燥した植物を入れてベッドにしています。この間平常時の体温は36.5~38.5℃ですが、平均5℃低下し、心拍数と呼吸数は25~43%低下します。
分布が広いので研究者によりちがいますが、4~16亜種に分類されます。日本には北海道に亜種エゾヒグマが生息しています。

からだの特徴

写真を撮るために、野生のヒグマに会いに行く人ってすごいね。写真家 大高成元氏 撮影

体色は普通暗褐色ですが、クリーム色から灰褐色や全身黒い個体もいます。からだは頑丈で肩部が筋肉で隆起し腰より高くなり力強く見えます。巨大な頭部と小さな目と立った丸い耳、額は盛り上がり鼻先は突き出ています。体毛は体の下部が最も長く15~20cmの長い上毛(刺毛)と8~10cmの厚い下毛(綿毛)が生えており、全身を守っています。前後肢ともにそれぞれ5本の指があり親指が最も短く、前肢の爪は5~8.5cmになり後肢より細く約2倍の長さがあり、木登りするにはツキノワグマほど向いていません。爪は引っ込めることはできず、巣穴を掘るときやネズミなどの小動物や昆虫の幼虫を採るときに使います。
体の大きさは地域差が大きいですが、一般的には体長150~280cm、尾長6~21cm、体高90~150cm、体重は80~550kgです。南アラスカのコディアック島とアドミラルティ島の個体群は最大になり780kgの記録があります。その他、シベリアと北ヨーロッパの個体群の体重は150~250kgですが、南ヨーロッパの場合、平均体重70kgという地域があります。基本の歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本ですが、前臼歯の前2本は上下とも痕跡程度残っているか失われていることがあるので、その場合は歯の総数は34本になります。肉食に適応した門歯と長い犬歯、減少の傾向がある前臼歯、植物質を磨り潰すのに適した大きな臼歯、これらは肉食から草食に移行している歯式を示していると言われます。乳頭は胸部に2対、鼠蹊部に1対計6個です。

えさ

雑食性で草、球根、果物、魚、無脊椎動物、昆虫、時には仕留めた哺乳類、家畜の牛や羊、死肉等々、生息地域や季節によって異なる食材を何でも食べます。エゾヒグマの調査例によれば、草類が約70種類、木の実が約40種類を数え、この他アリやハチは好物で20種類のアリが確認されています。鮭の遡上する地域では、秋に脂肪を蓄えるための重要な食料源となっていますし、北米のロッキー山脈では、グリズリーは大型の有蹄獣であるカリブーやムース、オオツノヒツジやシロイワヤギ、そして時にはアメリカグマも捕えて食べます。

繁殖

発情期は5月から7月の間で、雄は1~2頭のメスを1~3週間伴い、交尾するまで発情は続きます。初産年齢は4歳から10歳で、出産間隔はヨーロッパの場合2年ですが、北米ではさらに長くなります。妊娠期間は180~266日で着床遅延し、冬眠中に巣穴の中で出産します。産子数は1~4頭、生まれたばかりの赤ちゃんの体重は340~680g、目は閉じており、開くのは生後35~40日齢日です。鼻孔は開いており、口は動きます。体毛は全身に7~8mmの産毛が生えています。生後3ヶ月齢頃になると、体重は出産時の10倍、3~6kg位になり目も見え音も聞こえ、全身に毛が生えそろっています。子どもは生後2.5~3.5ヶ月齢で母親と一緒に生まれた巣穴から出ますが、離乳は生後約5ヶ月齢です。その後母親は子どもが1歳または2歳になるまで一緒にすごし、やがて子離れします。ヒグマは母系集団なので、子どもの養育はすべて母親が行い、父親は子どもにとって捕食者となる場合もあり遭遇を回避しています。同じ年に生まれた子どもは母親と別れてからも2~3年は一緒に生活します。メスの性成熟は4~6歳ですが、体の成長は10歳くらいまで続きます。
長寿記録としては、ライプチヒ動物園で1987年6月3日に死亡したメスの39歳4ヶ月、函館公園で1992年3月11日に死亡したメスの飼育期間38年10ヶ月、推定年齢40歳という記録があります。

エゾヒグマ

現在の生息地は北海道に限定していますが、70万年前から1万年前までは本州、九州、瀬戸内海で化石が出土しています。しかし、およそ1万年前に本州以南のヒグマは絶滅しました。現在は北海道の約50%に生息し、山地や丘陵地の森林が主な生息地です。エゾヒグマの大きさは、オスが体長(頭胴長)190~230cm、体重120~250kg、最大級で300~400kg、メスは体長(頭胴長)160~180cm、体重80~150kgです。

現在の生息状況

世界的にみると生息数は安定していますが、人口増加による過度の開発の結果、絶滅したり生息地が分断され個体数が極端に減少している地域もあります。また狩猟が許可されている地域では体の各部が肉用や薬用として流通していることも懸念材料となっています。
自然界での外敵は人間以外にいませんが、子どもがオオカミの犠牲になったとの報告があります。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 ヨーロッパ、アジア、北アメリカ北西部
体長(頭胴長) 150~280cm
体重 オス130~550kg(780kgの記録があります)
メス80~250kg(340kgの記録があります)
尾長 6~21cm
肩高(体高) 90~150cm
絶滅危機の程度 現在は世界中のヒグマの生息数は約200,000頭と推測されており、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
犬飼哲夫・門崎允昭 北海道の自然 ヒグマ 北海道新聞社1987
川口幸男 4.クマ科の分類,In.世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill
Publishing Company 1990.
Pasitschniak・Arts, M. Mammalian Species . No.439, Ursus arctos .
The American Society of Mammalogists 1993.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
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