ホエザル属
今泉吉典博士は(1)アカテホエザル (2)クロホエザル (3)ブラウンホエザル (4)マントホエザル (5)メキシコクロホエザル、そして今回紹介するアカホエザルの6種に分類しています。一方、アカホエザルについて、3亜種に分類している学者もいます。ホエザルはメキシコ南部からアルゼンチン、ブラジル南部まで広い地域で生息しています。ホエザルの名前の由来は、森林でおよそ3km、水辺では5km先まで届くというラウドコールと呼ばれる大声です。
アカホエザル
コロンビア北部とベネズエラ南部からアマゾン川上流地域に分布しています。生息地は乾燥地から雨林、沼沢地、マングローブ、サバンナと広範囲に適応し、樹上で生活しています。昼行性でふつうは森林の中高層の樹冠にいますが、ときどき餌を拾うために地上に降ります。移動は4足歩行で、樹幹を跳びはねることはしませんが、下の枝に飛び移ることはあります。ふつう1頭又は複数のオスを含む10頭前後の群れで生活しています。群れ間の行動域は重複しており、大声で鳴き交わすことでお互いに認識しています。オスは群れ内の争いの収拾を行うほか、餌となる木を他の群れから防衛します。主食は葉ですが、栄養価が低いので余分な体力を使いエネルギーを消費しないように行動はゆったりとしています。1日にうち約80%は休息していますが、外敵が近づいたときは敏捷に動きます。群れの中で最強のオスが地位を追われると、新しいオスは前夫の子殺しを行い、新たに自分の子をもうけるといいます。匂いつけは、太い木の枝に喉袋部や鼻孔部、顎、さらに排泄後に肛門をこすりつけて行います。
からだの特徴

オッ、大声でほえているね!写真家 大高成元氏撮影
オマキザル科のなかでは大型で、オスの体重は6kg前後です。体色は赤褐色ですが、淡黄色のものもいます。顔は毛がなく黒紫色の肌が露出し、あごひげが長く喉まで覆っています。尾は長く先端部の内側に毛がなく、枝をつかむことができます。また、尾と後ろ足で枝にぶら下がりながら葉を採って食べることができます。手で物をつかむときは、オマキザル科の1種であるサキのように第2指と第3指の間でつまみます。オスの下顎骨はよく発達して上下に広がり、卵形の大きな舌骨があって、この下の空洞部に共鳴袋がありライオンのような低いうなり声を出すことができます。舌骨はメスよりオスが大きく、さらに群れの中で優位の個体が著しく発達しています。鳴くのは早朝が一般的ですが、他の群れが近づくと日中も鳴きます。鳴き声でお互いの状況がわかり無益な闘争を避けているようです。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。大臼歯が大きく葉を食べるのに適応しています。頬袋はなく、乳頭は胸部に1対あります。
えさ
主食は葉で大腸がふつうのサルの仲間よりやや長くなっています。また、季節によって葉を食べる比率は変わり、果物が実る頃は花や花の蜜、未成熟の果物の量が増加し、少ないときは葉が多くなるほか、蔓や茎や葉柄、若菜、木なども食べます。また、シロアリや塩分を含んだ土を食べた例もあります。
繁殖
繁殖は年間を通じて見られます。妊娠期間は186〜194日で通常1産1子でまれに双子が生まれます。発情周期は約17日で、発情は2〜4日続きこの間に交尾をします。群れ内のオスとコンソート(配偶者)関係を結び、また他のオスとも交尾をします。初産は4〜5歳、オスは7歳くらいまで父親になれません。赤ちゃんは出産直後に自力で母親の腹部につかまります。生後4週齢までは尾を巻きつけることはできませんが、10週齢以降になると、母親の背に乗り、母親の尾の付け根に巻きつけています。自分の尾を使ってぶら下がることができるようになるのは19週齢以降です。離乳は10〜14ヶ月齢です。育児に関しては、オスが手伝うことはなく、赤ちゃんは群れ内のほかのメスや子ども、そして若者と過ごします。母親の育児は17〜18ヶ月齢で終わります。ほとんどメスは2〜4歳で群れから出ますが、オスは4〜6歳です。
長寿記録は、フランクフルト動物園で2005年1月現在22年1ヶ月飼育されてなお生存中という記録があります。
天敵
人間の森林伐採による生息域の減少や分断、及び食料にするための狩猟が大きな脅威になっています。野生動物の外敵としては、猛禽類のオウギワシ、ネコ科のジャガー、ピューマ、オセロット、ヘビなどがいます。
データ
分類 | 霊長目 オマキザル科 |
分布 | 南米北部:コロンビア、ベネズエラ、ブラジル、ペルー |
体長 | オス51〜63cm メス48〜57cm |
尾長 | オス57〜68cm メス52〜68cm |
体重 | オス5.4〜9kg メス4.2〜7kg |
絶滅の危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、アカホエザルは現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。 |
主な参考文献
伊谷純一郎 監修 D.W.マクドナルド 編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社 1986 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社1968 |
杉山幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
Gron,K.J.(Reviewed by Crockett, C.) | Primate Factsheets: Red howler(Alouatta seniculus) Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior & Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2005 |
Welker, C. and Schaefer-Witt, S. | New World Monkeys, In (Parker S.P editor) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990 |
Nowak,R.M. | Walker’s Mammals of the World Six Edition The Johns Hopkins University Press ,Baltimore 1999 |