No.081 ワタボウシタマリン – おもしろ哺乳動物大百科 31 霊長目 マーモセット科

おもしろ哺乳動物大百科霊長目マーモセット科ペットコラム

タマリン属

今泉吉典博士は本属を10種に分類していますが、最近の学者は更に細分化する傾向にあり、次のように11種あるいはそれ以上細かく分類するのが一般的となっています。
(1)フタイロタマリン(2)セマダラタマリン(3)エンペラータマリン(4)ダスキータマリン(5)シロクチタマリン(6)シロテタマリン(7)ブラックタマリン(8)クチヒゲタマリン(9)クロクビタマリン(10)ジェフロイタマリン(11)ワタボウシタマリン。
ジェフロイタマリンを除いてはそれぞれの種類は和名がその体の特長を表しています。今回紹介するワタボウシタマリンは、頭部にふんわりした冠毛があり、それが綿帽子を連想させる姿から命名されました。

ワタボウシタマリン

生息地は南米のコロンビア北西部の限られた地域です。森林に住んでいますが、湿潤な地域より乾燥した二次林や熱帯林の蔓(つる)植物の絡まった場所を好みます。小型のサルにとって蔓の繁茂している場所は、日中や夜間の休息場所として、また猛禽類のワシやフクロウなどの外敵から身を隠すために都合が良いのでしょう。
8〜10haもある広い行動域を遊動しなら採食するところは、他のマーモセットの仲間と同じです。タマリンの仲間は、生息域が重複しますが採食場所を樹層の高さを変えることでお互いに競合しません。本種は、樹層の下部0〜10mの低い空間を利用し、地面に降りることもあります。樹上では強力な4肢と鉤爪を利用してすばやく動き、餌の昆虫や地面の小型のトカゲなどを捕まえることができます。群れは通常2〜7頭の範囲で、構成メンバーの多くは成熟した雌雄が2〜3頭とその子どもです。なわばり内に侵入してきた群れに対しては排他的で敵対しますが、群内では攻撃的な行動がなく仲良く暮しています。なわばりの主張は、胸部、肛門、生殖器の分泌腺を木にこすりつけて行います。

からだの特徴

アップにすると、ワタボウシの命名がうなずけますね。写真家 大高成元氏撮影

毛が生えていない顔に頭から真っ白な綿帽子のような毛が肩辺りまで垂れ下がっているので、際立って白が美しく感じます。背中は黒く、腹部と4肢は白か白黄色、尾は赤茶色から先端にいくにしたがって黒くなっています。4肢には5本の指があり、前後肢共に親指は人間のように対向せず、他の指と同様な向きとなり、肢の親指のみ平爪で他は全て鉤爪です。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯2/2で左右上下合わせて32本です。下顎の犬歯は門歯にくらべて長く、牙のようになっています。

えさ

野生では、果実、昆虫、クモ、カエル、小鳥、卵、トカゲ、カタツムリ、キノコ、樹液、樹脂、などを食べる雑食性です。動物園では、いろいろな果物のほかに、鶏のササミ(煮たもの)、ゆで卵、ミールワーム、コオロギなどを与えています。

繁殖

野生及び飼育下共に、一つの群れでは、1頭の成獣メスが繁殖します。もし上位の繁殖メスが群れを離れた場合は、年長のメスか、順位の高い娘が代わって繁殖します。初発情年齢は生後15〜18ヶ月齢で、このころまでには、性成熟に達していると考えられます。発情周期は外見上わかりませんが、血中ホルモンと尿中ホルモンの分析結果から15日〜23日と推測され、この間発情のピーク時に交尾します。妊娠期間は約6ヶ月間で、野生の場合、1産1子が多く、飼育下では、1〜2頭、まれに3頭うまれます。繁殖回数は、野生の場合は通常、1年に1回、4月から6月ですが、この時期は果物が豊富に実り、昆虫も多い時期にあたります。飼育下では、7ヶ月ごとに出産したとの報告があります。赤ちゃんの体重は母親の15〜20%で、約40gです。2頭の赤ちゃんが生まれた場合は、メンバーの援助が必要で、父親や兄姉たちが赤ちゃんを背に乗せて移動し、授乳のときに母親のもとに連れて行きます。生き残るためには群れが協力して育児を手伝い、外敵から守っているのです。赤ちゃんは生後3.5月齢になると自分で移動します。乳頭数は胸部に1対です。飼育下での平均寿命は約13年、長寿記録では、1978年10月に生まれて、2005年1月現在26年2ヶ月飼育されてなお生存中という個体がいます。

天敵

減少の最大の原因は、人々が農地の開墾のために森林を伐採したことで生息域が激減したことです。また、かつてはペットと実験動物にするため密猟で捕獲され続けて生存が危ぶまれています。人間以外では、フクロウ、タカなどの猛禽類、ネコ科のマーゲイやヘビなどに狙われます。

データ

分類 霊長目 マーモセット科
分布 コロンビア北西部
頭胴長 20〜30cm
尾長 30〜40cm
体重 350〜450g
絶滅の危機の程度 野生での生息数はわずかに1,000頭以下、その他に飼育されている個体は約1,800頭にすぎないと考えられています。このため国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅寸前の状態にある種として絶滅寸前種(CR)に指定し、保護されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
伊谷純一郎 監修
D.W.マクドナルド 編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社 1986
Cawthon Lang KA Factsheets: Cotton-top tamarin( Saguinus Oedipus) Taxonomy,
Morphology,Ecology, Behavior & Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2005
Parker. S. P. (Editor ) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals Volume 2,
McGraw-Hill Publishing Company 1990
Nowak , R.M. Walker’s Mammals of the world Six Edition
The Johns Hopkins University Press 1999
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