オマキザル科
オマキザル科は、マーモセット科と共に、中央及び南アメリカに生息し、新世界ザルと呼ばれ、また、鼻の穴が外側に向いて開いていることから別名を広鼻猿類として区分することもあります。オマキザル科について今泉吉典博士は以下の11属に分類しています。(1)オマキザル属(2)ヨザル属(3)ティティ属(4)リスザル属(5)サキ属(6)ウアカリ属(7)ヒゲサキ属(8)ホエザル属(9)クモザル属(10)ウーリークモザル属(11)ウーリーモンキー属。
この中からみなさんになじみ深いと思われるサルや、特徴のあるサルを8種類選んで紹介しましょう。
オマキザル属
オマキザル属は、(1)フサオマキザル(2)シロガオオマキザル(3)ノドジロオマキザル(4)ナキガオオマキザルの4種類がいます。新世界にすむサルの中でもとりわけ知能が高いと評価され、人の介護をするサルとして訓練し、活躍している個体もいます。知能が高いと称される理由の一つは、道具を使うことで、木の実を割るのに石を使って割ることや、動物園では棒を使って餌を手元に引き寄せることなどから推測しています。かつて子どもの頃から飼って馴らし、その器用さを利用し曲芸を教えて人々を楽しませていました。
フサオマキザル
オマキザルの中でノドジロオマキザルは中米にしかいませんが、フサオマキザルは他のオマキザルと分布域を重複させ、コロンビア、ブラジル大西洋岸、ブラジル南部と、最も広い地域に生息しています。熱帯、亜熱帯の常緑林、海岸林、二次林、川辺林などさまざまな樹林の中層部から下層部が生活空間で、地上に降りるときもあります。昼行性で夜間は外敵からの攻撃を避け高い樹上で個別に眠ります。
群れは成獣の雌雄がそれぞれ3〜6頭とその家族で構成されています。群内の優位個体は成獣オスで次に優位メスが続き、オスの中には優位のメスより劣位な個体もいます。群れ同士の間にはなわばりがあり、お互いに敵対していますが、主な原因は食べ物を巡るもので、大きな群れの方が有利となります。なわばりの主張は、胸部や生殖器の皮脂腺を使った匂いつけのほかに、尿を手の掌につけて更に足の裏にこすりつける尿あらいと呼ばれる方法で、通った跡に臭いをつける行動もあります。また、さまざまな鳴き声は、外敵の侵入を知らせ、あるいは群れの中のコミュニケーションに使われています。
からだの特徴

とても器用なサルとして有名で、頭の房はいろいろな形があります。写真家 大高成元氏撮影
体重は3〜4kgで真猿類の中では中くらいのサルです。からだの色は褐色か黒褐色、4肢は黒く、毛が粗く、色は淡褐色から黒褐色で腹部は薄くなっています。本種は頭部に毛の房があることに由来して命名されましたが、房のかたちは、三角形の山が2つあり角のような形をしたものや、逆三角形のように生えている個体など変化に富んでいます。尾は先端まで毛が生えており、把握力がありますが、クモザルのような力はなく、器用に使うこともできません。また手ほど器用ではありませんが足で物をつかむことができます。4肢に5本ある指の爪はすべて平爪です。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。犬歯と小臼歯は大きく、第三大臼歯は小さいです。頬袋はありません。
えさ
野生では、ヤシの実をおよそ1kgもある石を使って割って中身を食べることが知られています。しかし、食性は雑食性で、昆虫、小鳥、卵、トカゲ、カエル、木の芽、花、水場があればカニと多種類のものを餌にしています。食物が少量で群れの中で取り合うときは、優位なオスとそばにいるのを許可された個体が確保する回数が増える、との報告があります。
繁殖
はっきりした繁殖期はなく、発情や出産時期は生息地や雨期の状況、餌の多少、日照時間などによって変わってきます。月経周期は15〜20日、発情は1〜8日間ですが多くは5日間くらいで、この間発情中のメスは優位のオスにたえずつき添い交尾し、その前後には他の劣位のオスとも交尾します。妊娠期間は150〜160日(180日の記載もあります)、1産1子で隔年に生まれます。メスの性成熟はおよそ4歳、オスは8歳で成獣の体格になります。赤ちゃんの体重は約200g〜250gで、生まれると自分でしっかり母親の背中にしがみついき、授乳されるときだけ胸に抱かれてお乳を飲みます。生後1ヶ月齢までの移動は母親が面倒をみますが、その後母親が餌を食べる間や移動のときなど仲間が協力して面倒を見ます。そして生後3ヶ月齢を過ぎる頃には一人で優位なオスの近くで過ごすのが増えてきます。授乳期間は野生で生後14〜15ヶ月齢、飼育下13〜14ヶ月齢までと推定されています。長寿記録は飼育下では、1934年5月から1979年7月まで45年2ヶ月飼育された報告があります。
天敵
人間以外では、フクロウ、タカなどの猛禽類、ジャガー、ピューマ、ジャガランディ、コヨーテ、タイラ、ヘビなどがいます。
データ
分類 | 霊長目 オマキザル科 |
分布 | 南アメリカ北中部(コロンビアからブラジル大西洋岸、ブラジル南部まで) |
体長 | 32〜55cm |
尾長 | 35〜50cm |
体重 | 2.5〜4.0kg (オスはメスより約1kg重い) |
絶滅の危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。 |
主な参考文献
伊谷純一郎 監修 D.W.マクドナルド 編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社 1986 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社1968 |
杉山幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
Gron, K.J. (Reviewed by Linn, G.) | Primate Factsheets:Tufted capuchin (Cebus appella) Taxonomy,Morphology,Ecology, Behavior & Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2009 |
Parker. S. P. (Editor) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2 McGraw-Hill Publishing Company, New York 1990 |
Nowak , R.M. | Walker’s Mammals of the World Six Edition The Johns Hopkins University Press , Baltimore 1999 |