有鱗目 センザンコウ科
かつては主食がアリとシロアリで、口が細長くて小さいことからアリクイの仲間と考えられて貧歯目としていました。しかし、精査してみると、貧歯目に特有の背骨の関節突起がないことや乳頭が脇の下にあり、さらに子宮が2つに分かれ胎盤が違う点などから現在は、有鱗目(センザンコウ目)に分類しています。
多くの野生動物は肉食獣から身を守る方法として、ウマの仲間のように高速で長距離を走って逃げるか、ネズミのように地下にもぐったり、サルのように木に登ったりして逃れています。有鱗目は一種独特で、屋根瓦と形容される鎧のように固い鱗を持ち、危険が迫ると体を丸めてボール状になって体の全面をおおうことで身を守っています。
今泉吉典博士は以下の1科2属7種、学者によっては8種に分類しています。総体的にみると地上性と樹上性の種がいて、樹上性のほうが小型で尾は長くなっています。また、アフリカ大陸とアジア大陸に生息する種類で2属に大別され、森林から開けたサバンナにかけて生息しています。体格は、頭胴長30~88cm、尾長28~88cm、体重2.05~33kgで種によって体格差が顕著で、ほとんどの種でオスはメスより10~50%大きくなります。
アフリカセンザンコウ属4種。
- オオセンザンコウ。セネガル、ウガンダ、アンゴラのサバンナと森林に生息。
- サバンナセンザンコウ。スーダン南部から南アフリカのサバンナに生息。
- オナガセンザンコウ。セネガル、ウガンダの森林に生息。樹上性。
- キノボリセンザンコウ。セネガル、ケニア、アンゴラの森林に生息。樹上性。
センザンコウ属3種又は4種に分類。
- インドセンザンコウ。インド、スリランカに分布
- マレーセンザンコウ。ミャンマー、ジャワ、ボルネオ、パラワン諸島に分布
- (パラワンセンザンコウ。パラワン諸島に分布する個体群を独立種として扱う場合)
- ミミセンザンコウ。インド北東部、ネパールから中国南部、台湾に分布
本稿では我が国で飼育例、繁殖例があるミミセンザンコウについて紹介しましょう。
ミミセンザンコウ
インド北東部、ネパールから中国南部(台湾、海南島を含む)まで広く分布しています。アリやシロアリのいる草原、亜熱帯の低木棘林、多雨林、竹林に生息し、やせた高地のネパールと台湾では標高1,500~2,000mの場所でも観察されています。ふだんは隠れ場所として地面に巣穴を掘ってその中で生活しています。掘るときには、前足の大きな鋭い爪で土を崩してから後方へ送り、後ずさりしながら後肢で土を穴の外へ押しだすので、入り口には掘り出した土が山になっています。1時間で2~3mの穴を掘ることができ、入口は直径15~20cm、深さ2.4~3.6mでその奥に直径約2mの部屋があって、中に入ると入口を閉ざすと言われています。繁殖期以外は単独で生活をし、夜行性で昼間は巣穴で眠って休憩します。中国の調査では、夜7時頃に餌を探しに巣を出て夜10時ころに戻ります。外に出る時間は個体差や生息地よって異なりますが、平均すると24時間のうち5.6%でした。急いで外敵から逃げるときは体を丸めて30mを10秒で転げて逃げた報告もあります。通常地上生活ですが木登りも上手で、泳ぐこともできます。視覚と聴覚は弱く餌は嗅覚で探します。野生の行動圏は情報が少ないのですが、2頭に発信機を付けて調査した結果によれば、一日の移動距離は平均0.7kmと1.8kmと報告されています。歩行は前肢の長い爪を保護するように内側に曲げてナックルウオーク歩様ですが、後肢は蹠行性で足のかかとまで地面につけて時速3~5kmで歩きます。足の裏は固く皮膚がむき出しになっています。
排便するときに肛門腺からの分泌物が付着するので情報交換していると考えられています。威嚇するときシュー・シューやハーッ・ハーッと声を出しますが大声ではありません。
センザンコウは赤ちゃんを背に乗せて移動します。これ以上安全な場所はありませんね。
体の特徴
- 体長(頭胴長)40~58cm
- 尾長 25~38cm
- 体重 2.5~7kg
- 体は腰部を頂点に湾曲し、長い尾は頑丈な鱗でしっかり守られています。
ふつうオスの方がメスよりも体重は重くなります。頭部から頬にかけて強い咬筋が付いているハイエナやゴリラなどは、大きな頭部と頬部を持っていますが、センザンコウはアリやシロアリを舐めとっているので歯はなく、また強い筋肉もないので頭骨は小さく単純な形をしています。口は小さく下顎骨は薄い刃物のような形をしています。頭部は円筒状で、舌は幅約1cmで平たく、大きな唾液腺の分泌液でべとつき、口から約15cm出してアリを絡めとります。大きな唾液腺はPH=9-10のアルカリ性のやや強い唾液を分泌しています。鼻孔と耳は開閉ができ採食中は閉じています。厚い瞼はアリの攻撃から目を保護しています。胃はふたつに仕切られていて、最初の室は全体の80%を占めて胃壁は薄くなっていて貯蔵庫の役割をはたしています。二番目の容積は小さいですが胃壁は固い筋肉でできていて内部の表面には沢山の襞(ひだ)があり、飲み込んだ小石と一緒に餌をすりつぶして消化しています。胃には0.5kgの餌を入れることができ、盲腸はありません。四肢は短くそれぞれ5本の指があって鉤爪がついています。前肢の第2.3.4指の爪は長く5cmにもなり頑丈で後肢の2倍あり、アリ塚を壊したり穴を掘ったりするときに使います。
ミミセンザンコウと呼ばれるようにセンザンコウの仲間では耳介が比較的大きく2~2.6cmあってはっきりわかります。鱗と鱗の間に短い剛毛があることで、毛のないアフリカの種と区別できます。鱗は鼻づら、喉、腹、四肢の内側、尾の先端の内側以外にあって真皮の上に生えています。鱗の生えていない部位は体を丸めることですべて覆うことで外敵を防ぐことができます。鱗は半透明の褐色で、縁は鋭く固いため捉えようとすると尾を振って攻撃します。鱗は毛が角質化し固くなったもので、定期的に落ちて替わります。尾の下面の先端は毛がないので木などに巻き付け、ぶら下がることもできます。乳頭は脇の下に1対あります。
排便時には5~10cmの穴を掘り、その穴をまたぐように尾と後肢で立って排便後、その後前肢で土をかき寄せてかぶせるのが観察されています。体温は33~34.5℃です。
えさ
主食はアリとシロアリの成虫、幼虫、卵です。食べる種類は季節により異なり夏季にはPolyrhachis(トゲアリ)、冬季にはMacrotermes(オオキノコシロアリ)、Coptotermes(イエシロアリ)となります。その他に柔らかい体の昆虫や昆虫の幼虫も採食します。落ち葉や朽木の下にいる餌は、0.8~2mのトンネルを掘って嗅覚を頼りに探します(冬季にはトンネルはより深くなります)。トンネルは前肢3本の5cmにもなる長い爪で掘ります。平均的な大きさの巣のアリならば30分ほどで採食してしまいます。例外的に直径90cmもある巣では腹いっぱいになるとトンネルの入り口に土をかぶせふたをして翌日の夜、また食べます。夏には50~100mの距離を数日かけて穴を掘り採食し餌が少なくなると移動していきます。夏ならば5~7日間、冬は10日間餌を食べなくとも大丈夫です。水はアリを採食するのと同様に舌を出し入れして飲みます。
飼育下では、イヌ用の人工ミルク、ネコ用液状エスビラックを始め、冷凍アリ、種ごとに開発が進んでいる食虫目用ペレット、ドッグフードやキャットフード、さらにオカラ、ヨーグルト、ミールワーム、卵、煮干しから赤土まで各園で工夫しながら給与して成功させています。
繁殖
メスの発情は夏から秋にかけて始まり3~5日間続きます。発情したメスを巡りオス同士の戦いに勝った個体がこの間に交尾します。出産は11月から3月の冬期です。しかし、飼育下では一年を通じて繁殖の報告があります。
ミミセンザンコウの妊娠期間は明確な記録がありませんが、アフリカのサバンナセンザンコウでは約139日の報告があります。地下に掘った巣穴で出産し、ふつうは1産1子ですが、稀に2子を出産します。生まれたばかりの子の体重は70~100g、体長15cm~21cm、で、体は柔らかい紫がかった褐色の鱗で覆われ、1枚ごとに体に密着しています。腹部の毛は白色から暗い褐色です。冬の間は母子で巣穴の中にいますが、春になると子どもは母親の尾につかまって巣穴から出てきます。メスは1歳で性成熟に達します。
上野動物園では1965年12月25日に繁殖例がありますが、その時の報告は次のとおりです。生まれた時の子どもの目は閉じていて、生後9日齢で開きました。母親は丸くなって子どもを腹の下に入れていましたが、授乳時には仰向けになり、腕をあげて脇の下の乳頭に吸い付かせました。乳を飲むときは舌が横にはみ出していました。生後7日齢で鱗の間に毛が生えてき、生後9日齢で鱗の内側が黒くなりはじめました。体重は、生後16日齢で210g、生後4ヶ月齢で1,250g,生後6ヶ月齢で2,700gになりました。生後50日齢頃になると母親の腰の下には入れきれずはみだしていましたが、それでも母親は前足で子どもをかき寄せて無理に腰の下に入れようとしていました。生後80日齢頃になると体重があまり増加せず、母乳も出ていないと考えられたので、離乳の準備をはじめ112日齢で親から分けました。
長寿記録
1988年12月20日に名古屋市東山動物園で飼育を始め、2004年2月10日に東京都上野動物園に移動し、2010年10月31日死亡した個体(オス)の飼育期間21年10ヶ月という記録があります。
外敵
外敵としては、中型から大型の肉食獣、トラ、ヒョウ、ヤマネコ、ニシキヘビなどが挙げられます。
主な減少原因
生息地の開発による被害はもちろんですが、アジアではミミセンザンコウの鱗を漢方薬にしたり,食用にしたりするために乱獲され続けています。生息地では保護されていますが、それでも密猟は絶えず減少の一路を辿っていると報告されています。
絶滅危機の程度
IUCN(国際自然保護連合)発行の2016年版レッドリストによるとミミセンザンコウは絶滅寸前にあたる種として「絶滅寸前種(CR)」に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載され、商取式は可能ですが輸出入に際しましては相手国政府の輸出許可証が必要です。
データ
分類 | 有鱗目(センザンコウ目)センザンコウ科センザンコウ属 |
分布 | インド北東部、ネパールから中国南部(台湾、海南島を含む)まで広く分布 |
体長(頭胴長) | 40~58cm |
尾長 | 28~38cm |
体重 | 2.5~7.0kg |
主な参考文献
C.R.ディクマン | センザンコウ In 動物大百科 6. 有袋類ほか D.A.マクドナルド(編)今泉吉典(監修)平凡社 1986. |
今泉吉典 (監修) | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 | 動物分類学講座 アリクイ・センザンコウおよびツチブタ—貧歯目・有鱗目・管歯目について—どうぶつと動物園 Vol.16 No.9 1964. |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社 1981. |
増井光子 | センザンコウの赤ちゃん誕生 どうぶつと動物園 Vol.18 No.6 1966. |
大滝亜友美 | ミミセンザンコウの飼育 どうぶつと動物園 Vol.66. No.3 (財)東京動物園協会 2014. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Heath,M. E. | Mammalian Species. No.414, Manis pentadatyla The American Society of Mammalogists. 1992. |
Parker,S.P.(ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
田隅本生 | 有鱗目 In 朝日=ラルース「週刊 世界動物大百科」59号 朝日新聞社 1972. |
玉村 太 | ミミセンザンコウの人工哺育 どうぶつと動物園 Vol.42 No.11 (財)東京動物園協会 1990. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011. |