管歯目
管歯目は1科(ツチブタ科)1属(ツチブタ属)1種(ツチブタ)で構成される非常に特異な目です。
門歯と犬歯はなく、前臼歯(4対)と臼歯(6対)があります。これらの歯は小さな六角形の柱の集合体で出来ていて、その柱の中央に穴が開いていて管状になっていることが“管歯目”の名前の由来となっています。1科1属1種なので形態ならびに生態などの特徴などの詳細は種の解説の項を参照してください。
ツチブタ
ツチブタはアフリカのサハラ以南の砂漠を除くほとんど全地域に分布しています。
生息地はおもに開けた疎林、低木林、サバンナ、草地、そして、エチオピアでは標高3,200mでも見られています。稀に多雨林に生息しますが岩場には生息していません。生活場所は主食となるアリとシロアリのいる地域に限られています。夜行性で昼間は地下の巣穴で休憩し、夜間にえさを探しに出て行きます。巣穴は強い前肢で地面を掘り、後肢で土を後方にかき出しながら掘り進み、5~20分で素早く掘ることができます。大きさは入口は狭く直径40~50cm、ふつうは長さが2~3mで奥に広い部屋がひとつあり、穴から外に出る時もそこで方向転換して頭から先に出てきます。さらに大きな巣穴では長さが13mもあるトンネルが発見されています。この場合にはトンネルの奥の部屋や出入口も複数あります。およそ100×300mの面積の中に集中して掘られ60ヶ所の出入口がある例が報告されています。自分で掘る以外に、同じ地域に住むシロアリの巣を利用することもあります。皮膚が厚いためシロアリに咬まれても平気です。
巣穴は以下の3つの目的に使われます。
(1)アリやシロアリを探す。
(2)避難所として使い行動圏のいたるところにある。
(3)子どもを産む場所。
生息地は年に何回か水害に遭いますが、泳ぎも上手で安全な場所に避難できます。また、浅い穴で排泄して上から土を被せます。
オスは単独で暮らしていますが、交尾期になるとメスと一緒に過ごします。子どもは次の繁殖期まで母親と一緒にいます。メスは一定の行動圏内を巡回して餌を探していますが、オスは放浪しています。
主に夜行性で活動時間のピークは夜8~12時で、一晩に歩く距離は10~30kmですが、他にも2~5km、ウガンダでは一晩に14kmの移動、などの報告があります。通常、外敵を察知すると穴を掘って逃げ込んだり、走って逃げたりします。おっとりしているように見受けられますが、実際には動作は敏捷で力も強く、追い詰められると後肢で立ち上がり、前足で叩き、また仰向けになって前肢の爪で引き裂こうとします。
行動圏はオス、メス共に共に平均すると3.5km2で、南アフリカのカルー盆地の内陸部の調査によれば、1.3~3.5km2でした。眠るときは丸まって鼻を後肢と尾で被ってガードしています。
視覚は貧弱ですが、聴覚と嗅覚は優れており、シロアリが群れで移動する音を察知しています。
体の特徴
- 体長 100~158cm
- 肩高 60~65cm
- 尾長 45~60cm
- 体重 50~70kg 82kgの記録があります
成獣のメスはオスよりわずかに小さいのですが、子ども期には性的二形はありません。このため動物園ではDNAで子どものオスとメスの判別をしたと報告しています。皮膚は厚く、頭部は灰白色か淡黄白色、あるいは灰褐色から灰黄色で尾は白色が強くなります。メスの方が体色はやや薄くなる傾向があります。毛の長さは1.79±0.36cmで、頭と尾の毛は短く、四肢は長めでしばしば黒い毛が生えています。首は短く顔は細長くて、背がアーチ形に湾曲しています。口先は管状で、先細りの長い鼻は良く動きます。先端はブタに良く似た形状で2.5~3.0cmの毛が鼻孔のまわりに生えており、さらに鼻孔を閉じることができるので、ゴミや土が中に入ることはありません。また、目や鼻の周囲など顔に生えている毛は触毛の働きをしています。大顎腺(唾液腺)が発達し頸部から鎖骨にかけて長く伸びています。粘液性の強い舌は口から30cmも出すことができ、餌のアリを簡単に舐めとることができます。耳は長さが15~21cmもあってロバの耳と似て聴覚に優れています。穴にもぐるときは折りたたむことができるため土や砂の侵入を防ぐことができます。前肢は太く短くて力が強く、前肢に4本、後肢に5本の指があります。指には大きなさじ状の鋭い爪があり、アリ塚を壊すときに使います。半蹠行性で指の下には小さな肉趾がついています。尾の基部は太く先端に行くにしたがって細くなります。カンガルーは立ち上がるときに尾を支柱にしますが、ツチブタもまた同様にして立ち上がり他個体とじゃれ合います。胃は単胃で、十二指腸につながる幽門部近くに強い筋肉があって消化を助けています。オス、メス共に肛門腺があり強い匂いの黄色い分泌物を出します。また、ペニスの基部には分泌腺(臭腺)の襞(ひだ)があります。さらに双角子宮で、乳頭は腹部に1対、鼠蹊部(後肢の付け根)に1対あります。体温は32.2~34℃です。
管歯目は主食のアリを採食するために特化した歯を構成しています。臼歯は中央に穴が開いた6角形の管状の柱が集まって出来ています。臼歯の象牙質はエナメル質ではなく周囲をセメント質で囲まれています。歯根はなく一生伸び続けます。歯式は、門歯0/0、犬歯0/0、前臼歯2/2、臼歯3/3で合計20本です。
えさ
主食はアリ(ハチ目アリ科)とシロアリ(ゴキブリ目シロアリ科)です。前肢の強力な力でアリ塚を叩き壊し、舌で舐めとって、ふつう嚙まずに飲み込みます。南アフリカで最もよく食べられているアリの種類はAnoplolepis custodiens (アフリカ南部に生息するアシナガキアリのなかま)で約70%を占めます。シロアリの種類は主にHodotermes mozambicus(アフリカ南部に生息するシュウカクシロアリのなかま)及びTrinervitermes trinervoides(アフリカ南部に生息するシロアリのなかま)です。その他にバッタやイナゴ、コウチュウ目のコガネムシやカブトムシの幼虫、その他の昆虫、乾季にはキノコ類(fungi)からカミンマウス(Steatomys pratensisアフリカ南部に分布する小型のマウス)まで採食しています。胃の中に入っているのは食べ物の他に土、砂、小石などがあり、内容物の47%に及んだと報告されています。餌は生息環境や乾季、冬季でも変わり、乾季はアリが多く、雨季にはシロアリが多くなります。夜間、アリを探すところを観察すると、およそ30mの幅を平均約10km、最高30kmにわたり、耳を地面に向け鼻面を地面に付けるようにしてジグザグに歩くことから、聴覚と嗅覚を使ってアリを探していると考えられています。1万匹以上のシロアリが長さ40mに渡り移動している様子を、音と匂いから見つけて探し当て、舌で一度に数百匹のアリを飲み込むこともあります。
動物園で育てた人工哺育の餌は、馬肉のミンチ、ドッグフード、卵、トマト、パン、煮イモを混ぜ合わせたものですが、他の品目としてミルワーム、炊いた米、ミルクなどあります。
繁殖
発情時には性器が腫脹しますが、その腫れは時々消失することがあります。妊娠期間は飼育下での記録(6例)によると平均243日(235~258日)でした。出産期は生息地によって異なり、コンゴ民主共和国(旧ザイール)では10~11月、南アフリカ5月~7月、ボツワナ5月~8月です。飼育下では1年中繁殖が見られますが、ピークは2月、3月、6月でした。妊娠すると腹部が増大し、乳首が腫脹し、出産1ヶ月前になると、乳をしぼることができます。1産1子ですが稀に2頭生まれます。目は開いて生まれ、成獣の皮膚は固いのですが、子どもの皮膚は柔らかく毛は生えていません。生まれたばかりの子どもの体重は平均1.7kg(1.3~1.9kg)です。生後3日齢で白い毛が生えはじめ、生後1ヶ月齢で臀部と頭部は白く、他は黒みがかった灰色になりました。生後1.5ヶ月齢で体重5.35kg、体長55cm、尾長28cm。生後3ヶ月齢の体重は9kg、体長93cm。生まれて2週間までは子は巣穴で過ごします。生後14週齢でアリを採食し、生後16週齢で離乳します。生後6ヶ月齢で自分の巣穴を掘ることができます。さらに、生後7ヶ月齢で体重が33kg、体長120cmになりました。
国内で初めて出産に成功した浜松市日本平動物園の記録よれば、出産時の体重1.65kg、体長39cm、尾長23cm、体毛はほとんどなく皮膚は皺が多く色は淡赤色と報告されています。
性成熟は約2年。飼育下における若い出産例では3歳の報告があり、2歳5ヶ月齢で妊娠したと考えられます。16年間で11頭の出産記録があります。
長寿記録
アメリカのワシントン州タコマにあるポイントデファアンス動物園で1975年1月27日に生まれて、2004年11月19日に死亡した個体(メス)の29歳9ヶ月という記録があります。
外敵
大型肉食獣のライオン、ヒョウ、リカオン、ハイエナ、アフリカニシキヘビに捕食されます。アフリカではしばしば、ブッシュマンやホッテントット族によって肉用や皮革のために捕獲されるほか、狩猟の対象にもなります。
絶滅危機の程度
国際自然保護連合(IUCN)発行の2016年版のレッドリストの評価によれば軽懸念種(LC)に分類され、絶滅のおそれもなく、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種である、としています。
ツチブタはアフリカの広範囲にわたり分布していることや、夜行性で昼間は巣穴で生活していることから十分な生態研究がされていません。このため野生における生息数は不明です。
また、主食がアリのため人間の生活に被害が少なく競合対象としての被害は少ないのですが、豚肉と似ているともいわれる肉を得るために捕獲されています。また、皮膚、丈夫な爪や特殊な歯などの各部位は骨董品や伝統的な薬用に利用しています。狩猟機器が昔より格段に発達した現代では、見つかれば容易に捕獲されため、生息数が減少している地域もあるのでこれからも注意が必要です。
アフリカのモレ国立公園、ムワビ野生動物保護区、マシャトウ野生動物保護区などにおいて他の動物と共に保護されています。
亜種
研究者によって15~18種に分類されますが、今泉吉典先生はまだ全体に調査不足ではっきり分類できないとしています。
データ
分類 | 管歯目(ツチブタ目) ツチブタ科 ツチブタ属 |
分布 | アフリカのサハラ以南のほぼ全土(砂漠地域を除きます) |
体長(頭胴長) | 100~158 cm |
体重 | 50~70 kg(82kgの記録あり) |
体高(肩高) | 60~65 cm |
尾長 | 45~60 cm |
主な参考文献
R.J.ヴァン・アーデ | ツチブタ In 動物大百科 4. 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編) 今泉吉典 (監修) 平凡社 1986. |
斎藤 勝 | ツチブタの分類 In世界の動物 分類と飼育 [4]奇蹄目+菅歯目+ハイラックス目+海牛目 (財)東京動物園協会 1984. |
今泉吉典 (監修) | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968. |
川畠 実・八木智子 | ツチブタの人工哺育 どうぶつと動物園 Vol.41 No.10 (財)東京動物園協会 1989. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999. |
Shoshani,J.Goldman,C.A. and Thewissen,J.G.M. | Mammalian Species.No.300,Orycteropus afer. The American Society of Mammalogists. 1988. |
大津 晴男 | 1.ツチブタの飼育 In世界の動物 分類と飼育 [4]奇蹄目+菅歯目+ハイラックス目+海牛目 (財)東京動物園協会 1984 |
田隅 本生 (監修) | 朝日=ラルース 週刊世界動物大百科59 貧歯目、有鱗目、管歯目 朝日新聞社 1972 |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed) | Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011. |