No.140 シママングース – おもしろ哺乳動物大百科 88 食肉目 マングース科

おもしろ哺乳動物大百科食肉目マングース科ペットコラム

シママングース属

本属にはガンビアマングースとシママングースの2種類がいます。
ガンビアマングースは、西アフリカのガンビアからナイジェリアのサバンナに生息しています。体長は32~35cm、体重0.6~1.8kg、尾長19~21cmでシママングースとほぼ同程度ですが、模様に違いがあります。本種にはシママングースの背面にあるような横縞がなく、喉部に淡黄色がかった白色がある点と、頸部の両側に狭い黒い帯があることで区別ができます。昼行性で主に早朝や夕暮れに活動します。
今回は動物園でもよく見かけ、また最近は特定外来生物としても関心を持たれているシママングースを紹介します。

シママングース

アフリカのサハラ以南のコンゴ及び南西アフリカを除く、セネガル、ガンビア東部から東はエリトリア、ソマリアにかけてと南はアンゴラ、ナミビア、南東アフリカに広く分布します。生息地によって17亜種に分類されています。パックと呼ばれるふつう10~20頭、まれに40頭にもなる家族を中心とした群れで生活しています。メンバーは成獣の雌雄と子どもで構成されておりメスよりオスの方が優位です。まばらで棘のある低木の藪、岩地、水のあるサバンナ周辺を好みますが、時には水のない場所にもいます。森林地帯、町や村でも見られますが、砂漠や半砂漠地、山岳地帯、高地には生息していません。昼行性で夜間は巣穴としてアリ塚など他の動物が作った穴、岩陰、樹洞、溝を利用します。日中の活動時間は7時から8時ころに巣穴を出て数時間餌を探し、日中の暑い時間帯は日陰で休憩し、それから再び採食をして日没前に巣穴に帰ります。巣穴には1~9ヶ所の出入り口があって、中央に1~2m3の寝室、他にもいくつかの部屋があります。各グループは行動圏の中に約40ヶ所の巣穴を持ち、大抵数日間すごすと他の巣穴に移りますが、授乳中の子どもがいるときは同じ巣穴に長く留まります。行動圏は一部重複し、ウガンダのクイーンエリザベス国立公園では約0.9km²、ルエンゾリ国立公園の行動圏は0.38~1.3km²、タンザニアのセレンゲティでは4km²以上などの報告があります。また、1日の移動距離はウガンダの2~3kmからセレンゲティの約10kmと生息地による違いがあります。群れはふつう長さ60m、幅40mに満たない場所一面に広がって、チイッ、チイッと鳴きながらゆっくりと前進して、岩の間や植物の間で食べ物を探しますが、狩りは共同ではおこないません。群れ内の絆は固く、お互いのグルーミングやオスは肛門腺からの分泌物をこすり付け合い、あるいは巣穴の入口に匂いをつけます。声によるコミュニケーションも盛んで、警戒、威嚇、親子間の呼び声などが知られています。外敵に対しては共同で防衛し、空からの猛禽類と地上の外敵を警戒して両後肢に尾を加え3点支柱で立ち上がり、敵が近づくと警戒音を発し穴の中にメンバーを避難させます。外敵以外にも、パックの巣穴は隣接しているため、お互いに激しく抗争することもあります。

からだの特徴

勝気そうな顔をしてますね。鋭い犬歯と頑丈な爪が武器です。写真家 大高成元氏 撮影

頭部は長くキツネ顔で、胴は長く体長が30~45cm、尾長18~25cm、体重は0.9~2.3kgです。4肢にはそれぞれ5本の指があり、指間に小さな水かきが付いています。前足の爪の長さは親指が短く約0.8cm、他の指は約2cmで後肢の爪の2倍ぐらい長く強力です。体の色は上面が灰褐色、肩部から尾の基部までに10~15本の暗褐色の横縞があります。頭部の上毛は短く約0.6cm、臀部は約4.5cm、西部に生息する個体は約3.5cmと短く、下毛はうすく短いです。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯2/2で左右上下合わせて36本です。犬歯は特に強く、上顎ではわずかにそして下顎でははっきりと内側に曲がっています。裂肉歯は切り取るより押しつぶすのに適応しています。外側の前歯は内側より大きくなっています。乳頭は3対です。視覚、聴覚、嗅覚はいずれも優れています。

えさ

雑食性で主食は甲虫とその幼虫、及び他の昆虫とヤスデなどの多足類、クモ類、サソリで、その他に小型の哺乳類、爬虫類のヘビ、トカゲ、両生類のカエル、貝類、鳥類とその卵、地下茎、果実も食べます。アフリカゾウの糞を餌にする大型のフンコロガシは、格好の餌となります。地面を嗅ぎまわり昆虫を見つけると飛びついて捕り、地中にいるものは長い前足の爪を使って掘って捕まえます。卵のように割りにくいものは地面や岩に叩きつけて割ります。水かきもあり泳ぎも上手なので水中に生息する節足動物や甲殻類も食べると推測されます。動物園では、馬肉、鶏頭のほか、バナナなどをあたえています。

繁殖

繁殖期は北部では春、南アフリカでは春から夏(10月から3月)ですが、雨期に多く乾季の方が少ない傾向があります。発情は出産後6~7日以内に始まるので授乳しながら妊娠し、年間4~5回の出産が可能となります。発情は1週間ぐらい続き、この間は群れ内の優位なオスはメスをガードして、ひそかに交尾をしようと近寄ってくる劣位のオスを追い払います。しかし、メスはこのガードから逃れて群れ内のあるいは他群のオスとも交尾し、その結果グループのメスの約75%が出産します。妊娠期間は約60日です。パック内の出産は同じ巣穴でほぼ同じ日に見られます。産子数はふつう2~3頭、まれに6頭で、生まれたばかりの赤ちゃんは体重が約20~50g、短い毛が生えており、目と耳は閉じています。目は生後約10日齢で開きます。子どもの成長ははやく、生後5ヶ月齢で体重は親とほぼ同じの1.75~2.2kgに達します。授乳期間は生後3~4週齢まで続きますが、この間は他のメスからも授乳されます。パックのメンバーが採食に出かけるときはオスのベビーシッターが巣穴に残りますが、この役割は毎日変わります。子どもが巣穴から出るときはオスがエスコートして、外敵から守り、餌の捕り方を見せて学ばせます。ウガンダにおける生後1ヶ月間の死亡率は約20%で、成獣まで生き残るのはわずか18%です。性成熟はメスが生後9ヶ月齢、オスが生後約1年です。野生における寿命は10歳くらいですが、飼育下では12歳を超えた報告もあります。
長寿記録としては、イギリスのコツワルズ野生生物公園で2002年7月7日に死亡した個体(オス)の飼育期間17年5ヶ月があります。

外敵

アフリカハゲコウ、ゴマバラワシ(マーシャルイーグル)などの大型猛禽類、ナイルオオトカゲ、アフリカニシキヘビ、セグロジャッカル(ジャッカル)、ヒョウなどの肉食獣です。他にも、隣接するパックとの抗争で殺されることもあります。

日本に移入したマングース

シママングースは、現在、国内において未定着となっており、ジャワマングースのような外来種として生態系、農業、畜産業へ被害はありません。しかし、現在国内各地の動物園で飼育していることから、今後定着した場合被害が予測されるので、2010年2月1日から、特定外来生物に指定されました。
ジャワマングースは、かつて日本には、沖縄や奄美大島でハブによる被害が多く、コブラやハブの天敵として知られていた同種を1910年(明治43)に沖縄本島や渡名喜(となき)島に移入しました。しかし、ハブ以外の希少種であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナなど在来生物が捕食され、養鶏被害や農作物への被害も出て生息数が大幅に増加しました。このため環境省から特定外来生物の指定を受け、鹿児島県奄美大島及び沖縄島北部地域(国頭村、東村及び大宜味村)について、平成18年~平成27年にかけて、当該地域からの完全排除及び当該地域への再侵入の防止を目指しています。

データ

分類 マングース科 シママングース
分布 サハラ以南のアフリカ(アフリカ南西部を除く)
体長(頭胴長) 30~45cm
体重 0.9~2.3kg
尾長 18~25cm
絶滅危機の程度 生息域の開発が進められた地域では生息数が減少していると推測されます。しかし、環境への適応性が高いので多くの地域で生息数が安定しています。また主食が昆虫類や多足類など人間と競合しないことから、養鶏のニワトリや卵、及び作物に被害が出ない限り駆除されません。そのため現在のところはまだ絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。

主な参考文献

Estes, R.D. The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修 動物大百科 食肉類 平凡社 1986.
林 壽郎 標準原色図鑑全集 動物II 保育社 1981.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
祖谷勝紀・伊東員義 ジャコウネコ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目: 今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009.
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