No.155 ウンピョウ – おもしろ哺乳動物大百科 101 食肉目 ネコ科

おもしろ哺乳動物大百科食肉目ネコ科ペットコラム

ネコ科

ウンピョウ

ウンピョウは、ネパール、インド、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、ブータン、中国南部、インドネシナ、スマトラ、ボルネオに分布し、低地のマングローブ林から普通は標高2,500mぐらいまでに生息していますが、ヒマラヤでは標高2,500~3,720mの地点で、設置しておいた自動カメラにより撮影され生息が確認されています。
生活圏は常緑の熱帯雨林から二次林や伐採された森林、草原や雑木林、マングローブの沼地など多様な環境で見られています。目には夜間のわずかな光を増幅してみることができる反射板があることや尾が長く後肢だけで木の枝にぶら下がることができること、そして樹上から下を通る獲物に襲いかかったり樹上で昼寝をしていたりするのが目撃されていることから樹上生活者と考えられていました。一方、狩りは地上の方が多く、本来は地上生活だが暑さや外敵から逃れるために樹上にいたのが観察された、という報告もあります。タイにおいてラジオテレメトリーを付けて調査した結果、活動時間の割合は昼間が35~45%、日暮れ時は約85%、夜間は約60%で、日中(11時~14時)と夜明け前(2時~5時)はほとんど活動していませんでした。さらに設置した自動カメラに昼夜とも写っていたことから両者の割合に差があるものの昼夜ともに活動していると考えられます。行動圏の調査報告は少ないのですが、タイで捕獲した成獣メスにラジオテレメトリーを付けた追跡調査では33.3km²、成獣オスは36.7km²でした。この2頭は休息には主に樹上を利用し、移動の時はほとんど地上を利用していました。他にも4頭に発信機を付けた追跡調査でメス2頭が25.7km²と22.9km²、オス2頭は29.7km²と49.1km²の報告もあります。群れで生活することはなく、繁殖期と子育て以外は単独生活をしています。ボルネオのサバ州やベトナムの小島では、泳いで獲物を追っている様子も観察されていることから泳ぎも得意のようです。飼育下の報告によれば、なわばりを主張する排尿スプレーと頭部を樹木にこすり付ける行動がみられ、また複数の鳴き声を出して個体間で交信することや発情期には特有の声を出すことが知られています。

からだの特徴

大きな口を開け、長くて鋭い牙(犬歯)を見せ威嚇のポーズです。写真家 大高成元氏撮影

ウンピョウの名前は横腹に大きな雲形の班紋があることに因み命名されています。似たような班紋を持つネコ科動物にはマーブルキャット(マーブルネコ)がいますが、体重が2~5kgで半分にも満たない大きさで班紋も小さめです。頭部はチーターより一回り大きく長めでがっしりとし、鼻づらは幅広です。犬歯はネコ科の中では体の大きさに比較して最も長く3.8cm~4.5cmあります。
歯の特徴からウンピョウは、漸新世後期から更新世にかけて(2,500万年前~200万年前)生息していた、サーベルタイガーの子孫ではないかと言われたこともありますが、ウンピョウはヒョウ属に近縁で、サーベルタイガーとの関係は単なる収斂進化(種の系統が違っても、すむ環境や餌が同じ生物は姿や形が似通ったり、同じ機能を持ったりするようになる現象)であり直系の子孫ではないということです。
体毛は短く、体色は生息地により褐色から灰色、黄褐色と多様で、横腹に黒褐色に縁取られた雲形の大きな黒い斑紋があり、腹部にかけて白くなっています。中国南部やインドシナに生息する個体は頸部に6本の縞があり、外側のものは幅広になっています。ヒョウの黒変種であるクロヒョウと同様に黒色のウンピョウも見られます。丸い耳は背面が白く虎耳状斑となっています。目は頭部の前面に位置して獲物を立体視でき、瞳孔は縦長の楕円形に収縮し、虹彩は多くが淡黄色です。指向性で4肢は短く、前肢の掌は大きく掌底は堅くなっています。前肢に5本、後肢に4本の指があり、自由に引っ込めることのできる鋭い鈎爪をもっています。後肢の足首が柔らかく方向転換がスムースにでき、頭部を下方に向けて樹上から降りることができます。尾は毛が密生して黒いリング状の模様があり先端は黒くなっています。胴長短足で力強い4肢と大きな掌、長い尾は樹上生活するときにバランスを取るときに役立っています。体長(頭胴長)60~100cm、尾長60~90cm、体重16~23kgでオスの方が一回り大きくなります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。第1前臼歯は小さく、欠損している個体もいます。大型のヒョウ属のトラやライオンは舌骨の一部が伸縮自在の靭帯でできているので、咽頭を自由に上げ下げして咆哮します。ウンピョウ属やチーター属、ネコ属は舌骨が4対の骨の鎖でできており、喉をゴロゴロさせることはできますが吼えることはできません。
休息するときの姿勢は飼いネコと異なり、尾と前足を伸ばしてヒョウやトラと似た格好になります。ウンピョウはネコ科最大のヒョウ属(トラ・ライオン)とチーター属、そして彼らより小型のネコ属の中間と言われます。その理由は体格が両者の中間であること、休息の姿勢や長い犬歯は大型のネコ科に似ているものの、ライオンやトラのように大きな咆哮はできないことなど、両者の特徴を合わせ持っていることがその由縁でしょう。そして、ネコ科の中でウンピョウ属1種に分類されます。

えさ

主な獲物はサンバー(スイロク)の子ども、ホエジカ(インドキョン)、マメジカ、スイギュウの子ども、ヒゲイノシシ、テングザル、カニクイザル、ブタオザル、ラングール、スローロリス、ヤマアラシ、稀にオランウータン、インドシナシマリス、アジアフサヤマアラシ、マレーセンザンコウ、ニワトリ、ブタ、ヤギなどの家禽と家畜です。鳥類、卵、魚類の報告もありますが、他の肉食獣の食性を考えると、おそらく小型の爬虫類、両生類、昆虫なども食べると推定されます。飼育下では植物も与えている動物園もあります。

繁殖

飼育下の繁殖報告によれば、発情周期は約30日で6日間続き、交尾は6月と10月以外の月にみられ、最も多いのは12月でした。出産は12月を除き全ての月に見られ、3月がピークです。オスは交尾するときに攻撃的になり、メスの首筋に噛みつき殺してしまうことがあります。妊娠期間は93±6日(85~109日)で、産子数は1~5頭でふつう2~3頭です。生まれたばかりの子どもの体重は140~170g、目は閉じて生まれ、生後12日齢ころに開眼します。新生児は生後7~10週齢の間に固形物を食べ始めますが、授乳は11~14週齢まで続きます。生まれたばかりの子どもは全体的に黒色で、生後約6ヵ月齢頃に成獣と同じ模様に変わります。性成熟は生後20~30ヶ月齢です。
飼育下の長寿記録としては米国ヴァージニア州のフロントロイヤルにある、スミソニアン保全生物研究所で1982年2月24日に生まれ、2001年12月27日に死亡した個体(オス)の19歳10ヶ月があります。

生息数減少の原因

ウンピョウの生存に深刻な影響を与えている主要原因は、農業や牧畜のために生活圏である森林の開発を進めた結果、餌となる動物が減少したことが挙げられます。また鋭く長い歯と美しい毛皮、肉や骨を薬用にするために、現在も密猟が続けられていることも大きな原因の一つと考えられています。これらの現状を踏まえ原産国のバングラデシュ、ブルネイ、中国、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ネパール、タイ、ベトナム、台湾は狩猟禁止にしています。狩猟が規制されているのはラオス、ブータンですが、保護区以外は規制がありません。

データ

分類 食肉目 ネコ科
分布 アジア大陸南東部、スマトラ島、ボルネオ島
体長(頭胴長) 60~100cm
体重 16~23kg
尾長 55~90cm
絶滅危機の程度 ウンピョウはアジア大陸南東部からボルネオ島、スマトラ島と周辺の島、および台湾に広く生息していましたが、台湾では1960年以降少数の報告があったものの1988年、1991年の時点では誰もウンピョウの存在を実証できていないと報告され絶滅が懸念され、1996年の報告によると台湾ではすでに絶滅したとされています。ボルネオ島は天敵となる大型の肉食獣のトラやヒョウがいないため、人間の影響を受けない場所で少数が生息していると推測されています。その他、スマトラ島、中国南部の広範囲、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インドの北東の一部に点在する森林保護区内でわずかに生息しています。
このような現状からウンピョウは国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献

林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉忠明 野生ネコの百科  データハウス 1993.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988.
今泉吉典 監修 動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986.
成島悦雄 ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修、 (財)東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition ,Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Nowell, K. & Jackson, P. (ed) Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan IUCN 1996.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.
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