エリマキキツネザル属
エリマキキツネザル属は一種ですが、クロシロエリマキキツネザルとアカエリマキキツネザルの2亜種に分類されます。いずれもマダガスカル島の東部の熱帯多雨林に生息していますが、毛の色や生息域が異なります。キツネザルの中では最大でワオキツネザルより一回り大きく、樹上生活者で枝の上を歩いたり走ったり、あるいは木から木へ身軽に飛び移って活発に過ごしています。
エリマキキツネザル
住んでいる場所

木の上で大きく口を開けて何をしているのでしょう。大高成元氏撮影
東海岸の森林に生息し、樹林の上層部の大きな木に実る果実を主食としています。昼行性で朝、日光浴をして体を温めてから活動を開始し、群れによって差はありますが、1日におよそ1kmを移動しています。暑い日中は樹上で過ごし、夕方再び活動を開始する薄暮動物で夜は活動しません。5月から10月の乾期と11月から4月にかけての雨期は群れの構成が変わります。乾期には一夫一妻とその子どもが集まっていますが、雨季になると、単独や小群、あるいは地域によっては8〜16頭の大きな群れで過ごすなど集合離散し群れの構成は一定していません。母子を中心とした母系集団で、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。また群れ同士でなわばりがあります。
近年、焼畑農業などの森林破壊が加速し生息地を奪われ続ける中で絶滅が心配されています。
からだの特徴
クロシロエリマキキツネザルは、腹、手足の先、4肢の内側、前頭部と目の回りが黒、背中と首、耳は白くなっています。大きさは、頭胴長が45〜55cm、体重は3.0〜4.5kg、尾が約60〜65cmと長いのが特徴です。鼻鏡にある長い毛は感覚毛として働き、また、嗅覚も発達しており、発情すると肛門腺を木にこすりつけて匂い付けをしますが、そこから情報収集をしています。目は正面に向いていますが視野は真猿類より狭くなっています。後肢の第2指が鉤爪となって毛づくろいをするときに使いますが、他の指はすべて平爪です。産子数が1頭から6頭と多いことに関連して乳頭は3対あります。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。鳴き声は力強く1km先まで届きコミュニケーション手段として使っています。
えさ
野生では、果実、花の蜜、若葉、花、木の芽、キノコなどです。
繁殖
交尾期は5〜7月、発情は約30日間周期で約6日間続きます。妊娠期間の90〜102日間を経て、9〜10月が出産期になりますが、北半球で飼育すると3〜6月に変わります。出産は1年に1回で、通常1産に2〜3頭です。出産のとき巣を作るところが本種の大きな特徴です。巣は高さ10〜20mの樹上に小枝や葉、蔓を利用して作りそこで出産します。赤ちゃん(新生児)の体重は約100g、目が開き、毛に被われています。1〜2週間はこの巣の中で過ごし、後に移動するときは母親が口にくわえて運びます。他のサルより乳成分の栄養価が高く、そのため赤ちゃんの成長速度が極めて速く、生後4ヶ月齢時には体重が成獣の70%くらいになります。生後3週間齢では母親と声でコンタクトをとり、40日齢で固形物を食べ始めますが、授乳は4〜5ヶ月続けます。幼児の死亡率は高く3ヶ月齢までに65%の年もあったと報告しています。オスは32〜48ヶ月齢、メスでは18〜20ヶ月齢で性成熟に達し、飼育下では3歳半で最初の子どもを産みます。飼育下の長寿記録はデューク大学キツネザルセンターで、2004年の調査時に推定36歳で生存中という報告があります。
天敵
人間による生息域の破壊やワナ、狩猟が最大の天敵となるでしょうが、他にも野生のフクロウ、タカなどの猛禽類、ときにはフォッサ、ジャコウネコ、ヘビなどに狙われています。
データ
分類 | 霊長目 キツネザル科 |
分布 | マダガスカル東部 |
体長 | 50〜60cm |
尾長 | 55〜65cm |
体重 | 3.0〜4.5kg |
絶滅の危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、クロシロエリマキキツネザルは絶滅寸前の状態にある絶滅寸前種(CR)に、アカエリマキキツネザルルは絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986 |
京都大学霊長類研究所編著 | 新しい霊長類学 |
杉山 幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
淡輪 俊監修・宗近功編著 | レムール マダガスカルの不思議なサルたち 東京農業大学出版会 2009 |
NickGarbutt | MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007 |
Nowak,R.M. | Walker’s Mammals of the world Six Edition The Johns Hopkins University Press 1999 |
Weigel,R. | Longevity of Mammalsin Captivity, From the Living Collections of the World. E. Schweizerbart’sche, 2005. |