ウマ属の分類
ウマ属の総種類数は家畜種をふくめて11種です。ウマ属はさらに5亜属:①シマウマ亜属 ②グレビーシマ亜属 ③ロバ亜属 ④アジアノロバ亜属 ⑤ウマ亜属に分類されます。
今回紹介するグレビーシマウマはグレビーシマウマ亜属に属し1種だけが含まれます。
ウマ属は乾燥した地域で生活していますが、最も乾燥した地域にはアフリカノロバが生息し、次がグレビーシマウマ、そしてシマウマ亜属となり、グレビーシマウマは両者の中間地点にいます。シマウマ亜属のサバンナシマウマとヤマシマウマは1頭のオスと数頭のメスで恒久的なハーレムを作り、80~600km²の広い行動圏を持っています。アフリカの気候は乾季と雨期の2季に別れ、乾季の前には草と水を求めて各ハーレムは集合し、ヌーやレイヨウの仲間と共に100万頭以上の大集団となり移動します。一方、グレビーシマウマは質の悪い植物が広い範囲に点在するような場所で生活しているため、個体数の多い集団が複数で長期間留まることはできません。そのためハーレムを形成することができず、群れを作るのは数ヶ月間を過ごす一時的なものです。
シマウマは名前の示す通り体全体に縞模様があるのが特徴の1つですが、種ごとに縞模様が異なり、種類を見分けることができます。グレビーシマウマの縞模様は腹部にはなく、他の2種のヤマシマウマ、サバンナシマウマに比べ縞が細く、肢にまで縞があるので簡単に種類を見分けることができます。グレビーシマウマはウマ科の中で最も大型で美しいとされています。
グレビーシマウマ
アフリカ東部のケニア北部と中部、エチオピアに分布し、スーダン南部にも少数が生息している可能性があると報告されていますが、より詳細な検証が必要とされています。
グレビーシマウマはジャングルのような木の密生した場所は好まず、石がある半砂漠の平原や丘でアカシアやハーブ、カンラン科コミフォーラ属の植物(アフリカに自生する多肉植物)など棘のある小さな藪や草地で生活しています。授乳期のメスは水分が必要なため水場近くで生活しますが、授乳期以外のメスとなわばりをもてないオスは毎日水を飲まないでも平気で5日間水を飲まない例も報告されています。社会構成は①1頭でなわばりをもっているオス②ワカモノ又は母と子のグループ③混成グループに分かれています。ふつう乾季になり水と餌が不足すると一時的に群れを作り、1日におよそ35kmを移動することも珍しくなく、水場周辺部では40頭、あるいは100~200頭になります。群れにリーダーは存在せず、オスはメスより優位ですが、ハーレムを作りません。生活場所に水源があれば移動しないでエランドやダチョウ、ヌー等と一緒に留まることもあります。メスの行動圏は10~15km²です。雨期(7~8月、10~11月)には水と餌があるため移動せず、ふつう10頭以下の群れですごします。なわばりは基本的に6歳以上の優位なオスが単独で水場周辺部に6~10km²を持っていますが、劣位なオスとワカモノはもつことができません。ケニア地方ではオスのなわばりの広さは2.7~10.5km²、平均で5.75km²でした。なわばりの境界線20~50mでは糞や尿スプレイで目印とし、侵入者が近づくと噛みついたり、蹴ったりして守ります。オスはなわばり内に入るメスと交尾するため、乾季に群れが山の涼しい草地に移動してもなわばり内に留まります。なわばりが急速に大きくなるとオスの間で闘争が起き単独で維持できる広さに改良されます。サバンナシマウマと同じ場所で過ごすときに2種が同じ群れにいることはありません。日中は人間を避け、夜間は肉食獣を警戒して過ごしています。
コミュニケーションの1つである鳴き声は、サバンナシマウマがイヌのような大きな声で「クヮッ、ハッ、ハッ」と2~3節の鳴き声を出すのに比べ、ロバに似た「ヒーホー、ヒーホー」に近い鳴き声を出します。嗅覚も発達しており、排泄物の糞塊や尿で発情を判断します。長い耳は自由に動くことで体の位置を変えずに左右の音を聞くことができます。目は顔の横に位置し瞳孔は横長の楕円形で広範囲を見ることができます。このように嗅覚、聴覚、視覚などの感覚が鋭くライオンやハイエナなどの外敵の接近を常に警戒しています。走るスピードは時速64km(60~70km)の記録があります。
体の特徴

大きな耳と、顔、体、4肢の細かい模様がきれいですね。写真家 大高成元氏撮影
野生ウマの中では最も大型のグレビーシマウマは、体高140~160cm、体長250~300cm、尾長 38~60cm,体重は350~450kgになります。
大きな頭部に長い顔は、堅い草や樹の葉も咬みきり咀嚼できる大きな臼歯とよく発達した強い筋肉から成っています。また、鼻孔は大きく開閉できることで呼吸を助け、太く長い頸部は走行の際振ることでバランスを取っています。耳は大きく幅が広く先端は丸みを帯び、内側は毛が密生して砂やごみの侵入を防いでいます。胴は太くがっしりとしており、大腿部から臀部にかけて筋肉が発達していて走行や蹴るときの原動力となっています。4肢は大腿部が太く、肘、脛から蹄にかけて筋肉質で細く、体重は中央の指(第3指)1本で支えられ、爪が蹄となっています。奇蹄目の名前の由来は指の数(蹄の数)が奇数であることからきています。前肢だけにある「たこ=夜目=附蝉」は他のシマウマでは発達していますが、本種は小さいか、ない個体もいます。体の縞模様は細くて数が多く、肢にまでありますが、腹部にはありません。また背中から正中線上に沿い尾まで長い縞があり、腹部と尾のつけ根周辺は白、鼻先は褐色です。たてがみは長くて直立し、尾の先端には房があります。縞模様の効果として、外敵に襲われた時に一斉に逃げるとライオンなどが個体を絞ることができない、また木々に同化して保護色の役割を果たしている、子どもが親の識別をするなどの理由が挙げられます。夜間グレビーシマウマがじっと静止していると、月明かりの中では15m、星明りでは5m離れると存在がわからなくなり、また小枝の陰にいると、その細い美しい縞模様によって距離が100m離れなくても姿がぼやけてしまうとの報告もあります。この他、2014年にカリフォルニア大学デービス校の生物学者ティム・カロ氏らは、アフリカの草食獣にとって悩ましい害虫に刺されない防虫効果がある、と報告しています。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯3/3で合計44本です。門歯は上下がきっちりと合うので草を噛み切るのに適し、堅いイネ科の草を大きな臼歯で咀嚼するために下顎は大きく咬筋が発達しています。長い口先は感覚が鋭く、鋭敏で草を選んで採食するのに適しています。消化は胃で消化された後、消化できないセルロースは結腸(大腸)と盲腸に送られ、無数にいる腸内細菌によって発酵され約45%が分解、吸収されます。消化効率は反芻動物より悪いため、長時間かけて多量に採食します。胆嚢はありません。乳頭は鼠径部(そけいぶ・後肢のつけ根)に1対あります。体温は生息地の高温に対応して他のシマウマ亜属より高く37.0~37.3℃、あるいは39℃≦の報告があります。
えさ
グレビーシマウマは1日の大半(14~19時間)を採食時間に費やします。主にウシや他の有蹄獣が食べない、イネ科やカヤツリグサ科などの堅い茎の草を採食しますが、そのほかに樹の葉やマメ科の植物も食べます。マメ科植物は草や樹の葉より繊維が少なく、より多くのタンパク質やリンを供給するのに役立っています。本来生息域としていた地域まで家畜が進出した地域や、旱魃の時には樹の葉も全体の30%ていど採食します。
動物園では、青草(冬は乾草)ウマ用ペレット、家畜用配合飼料をあたえています。
繁殖
繁殖は年間を通じて見られますが、ピークは長い雨季の7~8月及び短い雨季10~11月の2回あります。発情周期は19~33日で発情は9~14日続き、このうちオスを受け入れるのは2~3日です。オスはなわばりに入ったメスと交尾しますが、メスは発情中に複数のオスのなわばりを移動して交尾します。なわばりをもつオスはもたないオスより多くのメスと交尾できます。妊娠期間は358~438日、平均409日で、ふつう1産1子です。多摩動物公園の例によれば、発情期間は1週間で、1~2日間追尾行動をおこない、続いて2~3日間交尾するパターンを繰り返し、腹部の増大は妊娠8ヶ月以降に見られ、妊娠期間は最終交尾から数えて415日でした。他のウマの妊娠期間は1年以内なのでウマ科で一番長い妊娠期間となります。野生時の観察によれば、分娩時メスは群れを離れて深いヤブに入り、横臥姿勢で分娩しました。生まれたばかりの赤ちゃんは体長80cm、体高(肩高)90~110cm,体重約40kgです。からだは明るいチョコレート色の柔らかい毛に被われ、頭部、頸部、肢はあずき色の縞があり、たてがみは縮れていて後頭部から尾まで続いています。生まれて1時間後には母親について群れに戻り、最初の2日間で母親の匂いや声、尻の模様を識別して付いて行きます。生後10日齢から母親の糞を食べるのが時々観察されました。母親は水場に行くとき群れに子どもを残していきます。被毛は生後3ヶ月齢で頸部の淡い茶色の縞模様が茶色に代わり、生後4ヶ月齢頃に急速に成獣の模様になります。生後約5ヶ月齢で柔らかい毛から成獣の短い毛に代わって縞模様が黒くなりますが、親と同様にはっきりとした白黒になるのは1歳半ころです。生後約7ヶ月齢で母親から半ば独り立ちして、このころは母親が放っておいたり、あるいは子どもは自分から短時間離れたりします。生後8ヶ月齢で肩高が132cmになり、主に草を食べます。生後9ヶ月齢までには離乳しますが、まだ母親のもとにとどまり、一緒に走り、跳び、遊び、追いかけっこをしたりします。メスの子どもは生後13~18ヶ月齢で母親から独立します。このとき母親はすでに妊娠2~7ヶ月です。オスの子どもは3歳まで母親と一緒にすごし、その後ワカモノグループや混合グループに参入します。野生の場合、オスは5~6歳まで交尾できないと言われています。メスの初産は2~4歳です。
飼育下の長寿記録としては、1964年にケニアで生まれ、1995年1月2日にイギリスのマーウェル動物園で死亡した個体(メス)の飼育期間30年3ヶ月、推定年齢31歳という記録があります。
主な減少要因
開発による生息地の破壊や損失、人と家畜との競合による水場の減少、観光客の水場利用、食料と毛皮を得るための密猟、生きた個体を捕獲して売却する、ことなどが減少原因となっています。かつてアフリカ北東部のソマリアやジブチ共和国にも生息していましたが1973年以降の目撃例がなく絶滅した、と考えられています。野生の生息数はIUCNの調査によれば、1970年代にはケニアで約14,000頭、エチオピアで約1,500頭、その後ケニアでは1988年に約4,000頭に減少しました。最近の報告ではケニアに2,000~2,300頭、エチオピアの一部に約150頭が生息していると言われています。また、スーダン南部に少数が生息しているとの報告もありますが、現在のところは不確かでさらに調査が必要とされています。現在の生息地は保護区の5%程度にしかすぎません。ケニアでは狩猟規制はありますが法律による保護規制はありません。エチオピアでは法律で守られています。
データ
分類 | 奇蹄目 ウマ科 ウマ属 |
分布 | アフリカの東部:ケニア、エチオピア、スーダン(?) |
体長(頭胴長) | オス・メス 250~300cm |
体重 | オス・メス 350~450kg |
体高(肩高) | オス・メス 140~160cm |
尾長 | オス・メス 38~60cm |
絶滅危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2014年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。またワシントン条約では付属書の第Ⅰ表に該当し国際商取引の禁止対象種となっています。 |
主な参考文献
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D.W.マクドナルド編 今泉吉典監修 |
動物大百科4 大型草食獣 ウマ,ロバ,シマウマ. 平凡社 1986. |
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
今泉吉典 (監修) | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典・祖谷勝紀 | 奇蹄目 ウマ科 Ⅰ. ウマの分類 2. シマウマのなかま. In世界の動物 分類と飼育 4 奇蹄目+管歯目+ハイラックス目+海牛目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984. |
今泉吉典・中里竜二 | 奇蹄目総論 In 分類と飼育 4 奇蹄目+管歯目+ハイラックス目+海牛目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984. |
Moehlman, P.D. | Equids: Zebras, Asses, and Horses ―Status Survey and Action― IUCN. 2002. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
関井照治・近藤忠男・目沢康生 | グレビーシマウマの繁殖 In世界の動物 分類と飼育 4 奇蹄目+管歯目+ハイラックス目+海牛目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984. |
祖谷勝紀 | 奇蹄目 ウマ科 Ⅰウマの分類 1.ウマ科ウマ属について. In世界の動物 分類と飼育 4 奇蹄目+管歯目+ハイラックス目+海牛目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals,Lynx Edicion. 2011. |