No.154 ユキヒョウ – おもしろ哺乳動物大百科 100 食肉目 ネコ科

おもしろ哺乳動物大百科食肉目ネコ科ペットコラム

ネコ科

ユキヒョウ

ユキヒョウはヒマヤラ山脈、天山山脈、アルタイ山脈、ヒンズークシ山脈などの高山に分布し、これらの山脈があるチベット、中国、インド、ネパール、ブータン、アフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ロシア、モンゴルといった国が含まれます。
生息地は標高1,500~6,000mの範囲に及び、獲物を求めて夏季と冬季でこの間を移動します。ヒマラヤ山脈では夏季は2,700~6,000mにいますが、冬季には餌となる草食獣が低い地域に移動するのに伴い標高1,800m位までおりてきます。生活圏は岩地の断崖や高山地帯の草地、ステップ(木のない大草原)の叢林、高山の針葉樹林です。日中は岩場の洞穴や割れ目で過ごし、早朝や午後遅くに狩りを行います。モンゴルにおけるラジオテレメトリーを装着した調査結果によれば、24時間のうち37%を活動し、活動時間帯が低いのは12時と18時の間、高いのは20時と朝4時の間でした。移動距離は直線で平均5kmでしたが、このうち18%は10km以上になりました。行動圏は平均18.6km²、(10.7~36.2km²)で、子づれの1頭のメスはわずか13.5km²、2頭のオスは61~141km²を徘徊していました。一方、ネパールの調査では、5頭の行動圏は12~39km²、雌雄で重複していましたが、一緒に行動することはほとんどなく、ペアーで移動しながら狩りをしているのが数例目撃されました。繁殖期以外は単独生活者で行動圏の境界線にあたる稜線や川辺は尿と排便および爪で引っかくことで匂い付けをして、なわばりのサインとしています。ユキヒョウは身が軽く傾斜度を利用してひと跳びで15~16mジャンプできると報告されています。鳴き声は単調な震えた声を発情時に多く発します。ライオンのように吼えることはできませんが複数の声が報告されています。また、飼いネコのように喉をゴロゴロさせます。

からだの特徴

ゆったりと横たわっていますが、雪山に生息する王の風格が感じられます。写真家 大高成元氏撮影

丸くがっしりした頭部、筋肉質で長めの4肢は指向性で前肢には5本、後肢には4本の指があり引っ込めることのできる鈎爪をもっています。足裏には肉球があって獲物に音を立てないで近づくことができます。大きな掌は接地面積が大きく、足裏をおおっている毛と共に冬季の積雪や岩地の生活に順応しています。良く発達した胸筋は強いジャンプ力をうみ、長く太い尾は足場の悪い岩場で狩りをするときバランスを取るために役立っています。目は頭部の前面に位置して獲物を立体視できます。網膜には光を増幅する仕組みがあり夜間でも獲物を見つけることができ、虹彩は黄色がかった灰色で、瞳孔は縦長の楕円形に収縮します。毛の地色は薄灰色からクリームがかったスモークグレイで、冬毛は明るく夏毛は濃くなります。背の正中線には1本の黒条が走り、頭部と4肢の下側は黒色ないし暗褐色の斑点が列をなしています。脇腹には黒、あるいは暗褐色で縁取られた褐色で大きな梅花状の斑があり、腹部にかけてわずかに白っぽくなっています。耳介の縁は黒色です。冬毛は長く背中が3~5.5cm、脇腹は約5cm、腹部は約12cm、尾は約6cmで、全体に羊毛状の下毛が豊富にありますが、夏毛は短く脇腹で約2.5cm、腹部と尾は約5cmです。体長は100~130cm、尾長は80~100cmで尾端は丸くなっています。体重はオスが45~55kg、メスは35~40kgで、オスの方が一回り大きくなります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。乳頭数は3対です。

えさ

主な獲物は、バーラル、ヒマラヤタール、マーコール、シベリアアイベックス、アルガリ、アジアムフロンですが、生息地によっては野生のロバ、ジャコウジカ、ヨーロッパイノシシ、ガゼルのなかま、マーモット、ナキウサギ、ノウサギ、マツネズミのなかま、キジ類などが挙げられ、夏は餌の約45%をマーモットが占め重要な糧となっています。このほか、家畜のヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヤク、イヌも対象となり、体重の3倍もある獲物を倒すことができます。糞の分析結果によれば、動物以外に、稀に南ヨーロッパからシベリア、中国の乾燥地にみられる落葉低木のギョリユウ(御柳)科の小枝も食べます。狩りをする時は峡谷に沿って稜線や川辺を歩き、襲うのに有利な傾斜面の上手から不意打ちに襲い、あるいは200~300m追いかけて倒します。倒した獲物のところには3~5日間かけて骨だけ残して食べきるまで留まっています。2頭の子どもを連れているメスは、成獣のバーラル(体重40~60kg)1頭を約2日間で食べますが、1頭の場合は3~5日間食べることができます。死体はカラスやハゲワシに横取りされないように動かして隠します。体格は大型のネコ類ですが、小型のヤマネコと同様に屈んだ姿勢で食べるのも特徴の一つです。

繁殖

交尾期は1月~3月、発情は15~39日周期で通常2~12日間続き、鳴き声や匂いつけが増加します。飼育下の記録によれば、発情は5~8日間続き、このうちの3~6日の間に1日に12~36回交尾した、と報告されています。野生での出産場所は洞窟、岩の割れ目、樹木の洞などを利用して、母親の毛を敷いた所で行われます。妊娠期間93~105日、ふつう2~3頭の子どもを出産します。生まれたばかりの子どもは厚い羊毛状の毛でおおわれ、斑紋は明瞭でピューマの幼獣と似ています。体重は450±90g、頭胴長は23~23.7cm、尾長は16.8~18.1cmです。目は閉じて生まれ、生後約1週齢で開きます。出産後最初の1週間、母親は巣穴で一緒に過ごすか近くにいて、グルーミング、授乳、休息をします。子どもの体重はこの間に300~500g増加し、生後2ヶ月齢で約4kgになり、生後10週齢ごろ離乳し、体重は約6kgになります。固形物は生後約2ヶ月齢で食べ始めます。生後2~4ヶ月齢で子どもは母親の狩りについてゆきますが、この頃は母親の狩りの助けとなるより邪魔になっています。生後1年間は母親と一緒に狩りを行いますが、一人前になるのは生後約18ヶ月齢です。飼育下の場合、性成熟は2~3歳ですが、4歳前の繁殖は稀です。
飼育下での長寿記録としては、フィンランドのヘルシンキ動物園で1974年5月12日に生まれ、1995年7月18日にアメリカのインディアナ州にあるコロンビアパーク動物園で死亡した個体(メス)の21歳2ヶ月があります。

生息数減少の原因

大規模な農業や牧畜のために生息地が乱開発された結果、生息環境が著しく悪化するとともに、餌となる有蹄類が減少したことや捕食が簡単な家畜を襲う害獣として駆除されたことが大きな要因のひとつとなっています。また、美しく良質な毛皮や薬用としての骨、肉、爪などが高価に取引されるために、密猟が後を絶たないことも大きく関係しています。一方、生息地が軍事地域となっているアフガニスタンや周辺国では地雷や生息環境の破壊が大きな問題となっており、戦争当時国同士ではユキヒョウの共同保護政策がとれないのが現状です。
世界の動物園はユキヒョウの血統登録を行い血統管理しながら種の保存に努めています。国内の飼育状況(2013年10月) 9園館(円山動物園、旭山動物園、群馬サファリ、多摩動物公園、浜松市動物園、東山動物園、アドベンチャーワールド、王子動物園、熊本市動植物園)で合計25頭前後が飼育されています。

データ

分類 食肉目 ネコ科
分布 中央アジアのヒマラヤ山脈、天山山脈、アルタイ山脈、ヒンズークシ山脈などの高山地帯
体長(頭胴長) 100~130cm
体重 オス45~55kg メス35~40kg
尾長 80~100cm
絶滅危機の程度 野生における生息数は4,080-6,590頭と推定され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2013年版レッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定され絶滅が懸念されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献

福田愛子他 ユキヒョウの繁殖 どうぶつと動物園 Vol.60No.4,(財)東京動物園協会 2008.
Hemmer, H. Mammalian Species . No.20, Uncia uncia. The American Society of Mammalogists 1972.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
今泉忠明 野生ネコの百科  データハウス 1993.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
成島悦雄 ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修、 (財)東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition ,Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.
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