No.064 マレーヒヨケザル – おもしろ哺乳動物大百科 14 皮翼目 ヒヨケザル科

おもしろ哺乳動物大百科ペットコラム皮翼目ヒヨケザル科

皮翼目

皮翼目は1科、1属で、ヒヨケザル科、ヒヨケザル属に分類しています。ヒヨケザルもまた、ツパイと同様に分類に悩まされ、モグラの仲間、あるいはコウモリの仲間に入れたこともありました。その後、歯の特徴や滑空するための皮翼、育児などの特徴を考慮し独自の目に分類しています。最近では分子生物学の学者も又、DNAの分析から独自の目として分類し、霊長目に最も近い目としています。

ヒヨケザル属

ヒヨケザル属には、マレーヒヨケザルとフィリピンヒヨケザルの2種類がいます。両者の体の大きさを比較すると、フィリピンヒヨケザルは、少し小型で、体色が濃く斑点が少ないことや、上顎の門歯と犬歯が特殊化してないところが、大きな違いです。
今回はより研究が進んでいるマレーヒヨケザルを紹介していきましょう。
ヒヨケザルの母親と子供
ヒヨケザルの母親と子供
体の模様が樹皮そっくりで、木にしがみついていれば見つけるのは容易ではありません。

マレーヒヨケザル

ヒヨケザルの母親と子供 – 体の模様が樹皮そっくりで、木にしがみついていれば見つけるのは容易ではありません。

マレー半島、スマトラ、ボルネオ、ジャワ、インドシナ半島のミャンマー、タイ南部などの山岳地帯原生林の熱帯多雨林から低地のゴム園やココヤシ農園まで広く生息しています。夜行性で、普通は単独で生活していますが、1本の木に何頭もの個体がいる様子も観察されています。夕方になると、活動を始め明け方近くになると戻って休息します。1日の活動時間は、合わせて3〜4時間程度で、そのほかは昼も夜も休んでいます。休息は、決まった巣やねぐらがなく、ココヤシ幹にかじりついたり、太い木の枝に逆さまにぶら下がったり、樹洞に入って丸まって休息したりするのですが、いったん静止すると皮膚の模様が樹幹と一体化して見つけることが困難です。
空を飛ぶ動物には、コウモリのように翼をパタパタと動かせて鳥のようにとぶ動物と、高い木から飛膜を広げてグライダーのように滑空するムササビやモモンガがいますが、ヒヨケザルも同じように滑空する動物です。

からだの特徴

ヒヨケザルの滑空 – 滑空するときは、尾の先まである皮膜を広げて飛び、方向転換もできるそうです。

大きさはネコ程度ですが、体の大きさはメスのほうが大きく、体色もメスは斑点が明瞭で灰色がかかり、オスは褐色が強くなっています。きわだった特徴の一つは、両顎から4肢、尾の先まで大きな凧のような飛膜を持っていることです。他の滑空する動物は、尾や手が皮翼から出ていますが、ヒヨケザルは指の間にも水かきのような膜があります。そのため滑空能力に優れ、約100mの距離ならば、高度が10〜15%くらい下がる程度で滑空して、手の飛膜を巧みに使って舵を取り着地点をコントロールすることができます。
もう一つ大きな特徴は歯にあります。歯式は門歯2/3、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて34本で他の動物と大差ありませんが、上顎の第一門歯はなく、第二門歯が小さいこと、及び極めつけは下顎の門歯が櫛状になっていることです。

ヒヨケザルの下の前歯 – 下顎の前歯が髪をとかすクシのようになっています。

この門歯の役割は未だ明確ではありませんが、樹液や葉の汁をこし取ったり、毛づくろいのときに役立っていると考えられています。4肢の長さはほぼ同じで、5本の指がありますが親指は短く、各指にするどく曲がったかぎ爪があります。木を登るときは両足を蹴って体を浮かせ、両手で上方をつかみながらゆっくりと移動します。目は大きく、他の夜行性動物と同様に、瞳孔の奥に反射板があって光を増幅して見ることができ、また両眼が正面を向いているので立体視することができます。ふだんあまり鳴くことはありませんが、アヒルのような声、又はカラカラという声で鳴きます。

えさ

野生では、木の葉、芽、花、果実などで、食べ方は手で手繰り寄せた木の葉を門歯でしごきとって食べます。1日の採食量は少なく、植物を消化するために、盲腸が長く、小腸よりも大腸のほうが長い点はヒヨケザル独自のものです。食べる植物の種類数は10種類程度という報告例があります。水分はぬれた葉をためる程度で足ります。

繁殖

決まった繁殖期はなく年間を通じて出産が見られます。妊娠期間約60日を経て、1回に1頭、まれに2頭の子どもを産みます。赤ちゃんは毛が生えていず、出産時の体重は35g程度です。その後移動は離乳するまで母親の腹の中に抱かれています。生後2ヶ月齢で、母親の糞をなめて体内で植物繊維を分解するのに必要なバクテリアを取り込み、また母親の食べている木の葉の匂いを覚えていきます。生後3ヶ月齢になると、飛膜の外にでて自分で採食します。生後6〜7ヶ月齢で離乳し、親から離れますが、その頃、母親は次の子を妊娠しています。また体の成長は3歳くらいまで続きます。飼育はむずかしく、長期間の飼育例はありませんが、唯一17年半飼育した後で逃げられた記録があります。

天敵

人間以外では、フクロウ、タカなどの猛禽類、ヒョウ、ネコなど肉食獣に狙われています。

データ

分類 皮翼目 ヒヨケザル科
分布 インドシナ半島からインドネシアまで
体長 34〜42cm
尾長 22〜27cm
体重 1.0〜1.8kg
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

安間繁樹 著 ボルネオ島 文一総合出版 2002
安間繁樹 著 熱帯雨林の動物たち 築地書館 1991
今泉吉典 著 世界哺乳類図説 食虫目・皮翼目 新思潮社 1966
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
片山龍峯 著 空を飛ぶサル?ヒヨケザル 八坂書房2008
Nowak,R.M. Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Parker,S.P.(editor) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals. Volume1,
McGraw-Hill Publishing Company 1990
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