No.065 イエコウモリ(またはアブラコウモリ) – おもしろ哺乳動物大百科 15 翼手目 ヒナコウモリ科

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ヒナコウモリ科

サルやクマはなじみが深いのですが、コウモリはあまり一般に知られていない哺乳類かもしれません。ところが、コウモリの仲間は、全哺乳類の約5000種の中で1000種類近くを占めているのです。コウモリは翼手目に分類され、大型で果物を主食としている大翼手亜目と昆虫などを主食にしている小翼手亜目に大別し、それらを合わせて19科に分類しています。
小翼手亜目の中でもヒナコウモリ科の仲間はとりわけ種類が多く350〜360種を占めています。体重は4gから60gくらいまで幅があり、食物は昆虫から魚を食べる種類、単独や小群から100万頭の大群を作るもの、冬眠や夏眠をする種類など実に多彩です。
私は埼玉県に住んでいますが、春になり蚊や蛾などさまざまな昆虫たちが空を舞い、宵闇のせまる頃、庭にヒナコウモリ科のイエコウモリが乱舞する姿が見られます。イエコウモリは、日本の固有種に分類する学者と、シベリア東部、ベトナム、台湾に生息する種類と同じとする学者がいます。

イエコウモリ(またはアブラコウモリ)

北海道から沖縄まで各地の住宅の近くで見られる種類です。12月頃から3月まで冬眠し、4月になると夕方まだ陽のあるうちから住家の近くを飛び回っています。哺乳類で唯一皮膜をパタパタと動かせて飛ぶことのできる動物ですが、鳥の飛翔と明らかに違い急旋回したり、ヒラヒラと舞うように飛んだりするので鳥と簡単に識別できます。イエコウモリは口から超音波を出して、獲物になる蚊や蛾などの昆虫を捕らえますが、この方法をエコロケーションといいます。そして、音波の反響から相手を特定するのですが、最近ではこの音波を簡単に聞くことができる機器もあります。それはバットディテクターといってコウモリの出す超音波を人間が聞くことができる音に変換するものです。イエコウモリの場合は、周波数を45kHz(キロヘルツ)くらいに合わせて飛んでいるコウモリに当てると声が聞こえます。夏になるとイエコウモリの声を聞く会を催している動物園もあります。

すんでいる場所

私たちが住んでいる家の近くに生息しています。私が動物相談員をしていた頃、千葉県の人が、動物のフンを持って来て、天井から落ちてきたのだがこの動物の正体を教えてほしい、と依頼がありました。大きさは小豆くらいで、色は灰褐色、一見するとネズミのフンのようですが、ネズミの糞にしては軽いのです。しかし、私と一緒に相談員をしていた相方は即座にわかったようで、虫眼鏡で見ましょうと、言いました。そして、フンをピンセットで分解し、虫眼鏡で見るとすると一目瞭然で蚊や蛾の頭や羽の残骸を見ることができました。これはイエコウモリのフンです。きっと屋根裏や壁の隙間に入り込んでいるのでしょう。そして、もうすぐ子どもが巣立つのでそれまで我慢してそっとしてほしいと付け加えました。いまではビルの排気孔まで住処にしており、私たちの生活に巧みに適応しています、と明解答をしたのでした。

からだの特徴

アブラコウモリ – イエコウモリの飛行と指のつき方

はじめてイエコウモリの子どもが保護されて我が家の動物病院に持ち込まれたときは、体の色は黒く光沢があり、顔や鼻の形が普通の動物と大差なくかわいいのでびっくりしました。成長すると、体色は背側が灰褐色で腹側は灰黄色になります。コウモリの前肢の第1指(親指)は鉤爪となり、岩や木に引っ掛けてぶら下がっています。第2指から第5指まで、そして第5指から足の親指の甲、尾まで皮膜があり翼となります。飛ぶときは人間が手を開いたり指をくっつけたりするときと同様で、膜が伸び縮みし方向転換や止まるときに小さくなるのです。鳥類には胸部に竜骨突起と呼ばれる骨があり、羽を動かす筋肉が付いていますが、コウモリも同様の仕組みで翼を動かす筋肉があって飛んでいます。また、膝が他の哺乳類と反対方向に曲がるのも大きな特徴です。耳は大きく超音波を聞くのに適しています。歯の数は門歯2/2、犬歯1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3、左右上下合わせて合計34本です。

繁殖

冬眠する前の10月中旬から下旬にかけて交尾をしますが、精子はそのまま子宮に貯留し、メスは冬眠から覚める春に排卵し、貯留していた精子と受精し着床します。他のコウモリの産子数は1頭が多いのですが、本種は、妊娠期間約70日を経て1頭から4頭、平均2頭の赤ちゃんを生みます。とくにオスは死亡率が高く巣立ちできるのは1頭が多くなります。出産のとき、母親は頭を上にして後肢と尾の間の膜で赤ちゃんを受け止めます。赤ちゃんは体長が2〜3cm、体重が平均で0.86g、毛が生えていなく、耳も垂れています。目は閉じていますが生後8〜9日目に開きます。親指と足はしっかりしており母親の胸にしがみつくことができ、そのまま親子で逆さにぶら下がります。生後25〜30日齢で自由に飛びまわり、巣立ちは約1ヶ月齢で、秋には雌雄ともに交尾します。寿命はオスが約3年、メスが5年生きれば長寿といわれています。

えさと飼育ケージ

イエコウモリのえさは、おもにカやユスリカ、ブユなどですが、1日に体重の3分の1くらい食べるそうです。以前動物園の講演会で大橋直哉さんのお話を拝聴しましたが、飼育するときは、あらかじめ餌にするミルワームにニンジン、小松菜、キャベツ、煮干、ドッグフードを与えて栄養価を高くして与えているそうです。飼育ケージは幅1.5cm、下側に隙間を開け出入り口にしているそうです。

冬眠

11月から12月にかけて冬眠に入りますが、リスなどのように食物を貯蔵したり、クマのように採食量を増やして皮下脂肪を蓄積したりするのではなく、代謝を抑えて皮下脂肪を蓄積します。冬眠中は平均で約16日に1回目覚め、排尿、排便及び水を飲みます。

データ

分類 翼手目 ヒナコウモリ科
分布 日本(北海道、本州、四国、九州、から屋久島、奄美大島、沖縄、西表島など周辺の島々)及び、シベリア東部、ベトナム、台湾。
体長 4〜6cm 翼開長約20cm前腕長は3〜3.5cm
尾長 3〜4.5cm
体重 5〜10g
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
内田照章 著 こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
Kawai,K. The Wild Mammals of Japan
S.D.Ohdachi, Y.Ishibashi, M.A.Iwasa&T.Saitoh,eds.
SHOUKADOH Book Sellers 2009
コウモリの会 コウモリ学入門 (財)東京動物園協会 2002
三笠暁子 身近にいながらなぞも多いアブラコウモリ どうぶつと動物園
(財)東京動物園協会 2002
野生動物救護
ハンドブック編集委員会編
—日本産野生動物の取り扱いー
野生動物救護ハンドブック 文永堂出版 1996
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