No.073 トラ – おもしろ哺乳動物大百科 23 食肉目 ネコ科

おもしろ哺乳動物大百科干支にちなんだ話食肉目ネコ科ペットコラム

2010年 寅年

新年明けましておめでとうございます

今年の干支はトラ、そこで番外編でトラを紹介しましょう。
トラはライオンよりひとまわり大きくなるネコ科で最大の肉食獣です。WWFの2008年の報告によれば、20世紀初頭10万頭もいたと推定されていたトラが、現在では3500〜5000頭に激減しているそうです。そして、1940〜1980代で、カスピトラ、ジャワトラ、バリトラは絶滅しました。いま、アジアの国々はトラを守るために様々な保護策を行っていますが、私たちもまた、地上最強の動物ともいわれるトラの窮状を知り、彼らの保護に寄与したいものです。
まずはジャングルの王者「トラ」の強さにあやかって今年もお互いに元気に頑張りましょう!!

トラ

新年おめでとう! 今年もよろしく、ウッフン!(トラの鳴き声です) 大高 成元氏撮影

トラは、北の寒い中国東北部やロシアのウスリー、アムール地方から、南のインド亜大陸(スリランカを除く)、インドネシアの島々など広い範囲に生息しています。体の模様や体格などの違いから8〜10亜種に分類していますが、島に住んでいるトラは大陸にいるものより小型です。生息する場所は、ウスリーや中国東北部では針葉樹林や落葉樹林に住み、インドやスマトラなど熱帯多雨林では沼沢地やマングローブ周辺、乾いた森など広い範囲に住んでいます。
夜行性で繁殖期以外は単独で生活し、なわばりの広さは雌雄や生息域で異なり20km〜180kmあります。獲物が少ない乾期や獲物になるシカなどが少ない場所でより広いなわばりが必要となります。泳ぎは上手で6〜8kmならば簡単に川を泳いで渡ります。暑い地方に生息するトラは、池や水たまりに浸かり体を冷やしますが、水場は多くの動物が来るので待ち伏せて捕らえる絶好の場所ともなります。また、トラの保護区で調査した結果によれば、数頭のメスがそれぞれ単独で持つなわばりの周りを、1頭のオスが巡回してなわばりとしています。オスはメスの3〜4倍の広さ持ちますが、大抵は数年で入れ代わります。

からだの特徴

からだの地色は赤褐色や黄色、あるいは黄褐色で、黒いしま模様が背中から腹部にかけてあり、尾は黒のリング状になっています。耳は黒い縁取りで背側に半月状の白い部分があり、これを虎耳状班と呼び、子どもが母親の後をついて歩くとき、目印にします。アルビノで体色がうすく黄色味を帯びたトラはアジア諸国で珍重されます。4肢はがっしりとしており、後肢の方が長くジャンプ力に優れています。爪は大きく頑丈で、ネコのように引っ込めることができ、木の幹を爪で引っかきなわばりを主張します。なわばりは排尿でも行いますが、動物園ではトラの排尿場所が決まっており、観客の顔にオシッコがかかり、苦情が寄せられたため「トラのオシッコに注意!」の看板をつけたことがあります。トラが近づいてきて尾を上げたら排尿の合図です。あまり顔を近づけて見ていると、霧状のオシッコをかけられるので、少しはなれて見ましょう。歯式は門歯3/3、犬歯1/1,小臼歯3/2、大臼歯1/1で左右上下合わせて30本です。乳頭は腹部に2対あります。

えさ

野生では、背の高い草や低い木の陰に隠れながらそっと獲物に忍び寄り、いっきょに襲ってしとめます。一晩に10〜20kmくらい歩きますが、狩の成功率は10%程度と言われます。獲物はシカやレイヨウの仲間が多く、そのほかにもイノシシ、幼獣のスイギュウやゾウ、ワニ、トカゲ、カメなどの爬虫類から魚類まで何でも食べます。テレビで、インドの保護区にすむトラが、ナマケグマの毛を口で毛をむしりとり終えてから食べるシーンがありました。保護区内のトラは獲物の毛をむしりとってから食べ始める、と解説していました。

繁殖

性成熟は3〜4歳です。熱帯地方のトラは発情期が決まっていませんが、北方系のトラは冬が発情期にあたります。発情は約3〜9週間ごとにきて、3〜6日間続きます。妊娠期間は、上野動物園で出産した11例では、100〜108日でした。通常は1産2〜3頭です。赤ちゃんの体重は1kg前後、体長は30〜35cm、目は閉じていますが、約10日間で開きます。生後1ヶ月齢で体重は3.5〜4kg、体長は45〜50cmになります。生後3週間齢で歯が萌芽し、生後40日齢で肉に興味を示します。離乳は8週間ころから少しずつ始まりますが、授乳は3〜6ヶ月間続きます。2歳〜2.5歳まで母親と一緒に生活し、狩の仕方を学びます。そして、メスは母親のなわばりの近くに、独立してなわばりをもち、オスはそれより遠く離れてなわばりを持たねばなりません。
上野動物園では、昭和35年(1960)〜昭和45年にかけて12回の出産で43頭の子どもを生んだチョウセントラがいました。母親が育てないことがあり、そんなときは獣医師や飼育係が人工哺育を行います。はた目には小さくてかわいい感じですが、抱いてみると骨太でがっしりとした体格はまさに未来の王者の片鱗を感じたものです。寿命は12年から18年ですが、オーストラリアのアデレード動物園で26年3ケ月の飼育記録があります。

天敵

幼獣の間は同じ生息域に住むヒョウやなわばりに侵入してくるオスのトラが天敵となります。しかし、なんといっても最大の敵は人間で、毛皮や肉、そして漢方薬として使うために行う密猟です。この他に人間による自然破壊は多くの動物たちの住処を奪い、餌となる動物も減少するので、自ずとトラの数も減ります。

データ

分類 食肉目 トラ科
分布 インド、ネパール、インドシナ、スマトラ島(インドネシア)、中国東北部、ロシアのウスリー、アムール地方(以前は中央アジア、バリ島、ジャワ島にも生息していましたが、現在は絶滅しました)
体長 140〜280cm
亜種によって体格差が大きく、最大はアムール(またはシベリア)トラ、最小は絶滅したバリトラ
尾長 約60〜110cm
体重 オス100〜310kg、メス75〜170kg
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。現在は国立公園や保護区で保護されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
今泉吉晴 著 野生ネコの百科 データハウス 1992
中川志郎 われら動物家族 芸術生活社 1972
成島悦雄 著 世界の動物 分類と飼育2 食肉目 ネコ科の分類 1991
財団法人 東京動物園協会
林壽朗 著 標準原色図鑑全集20 動物Ⅱ 保育社 1968
Nowak,R.M. Walker’s Mammals of the world Six Edition
The Johns Hopkins University Press 1999
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