霊長目 オナガザル科
シシオオザル
インド南西部、デカン高原の西側ゴーツ山脈のゴアからデカン半島のコモリン岬の高度およそ1,600mの湿潤な広葉常緑林に生息しています。昼行性で樹上性が強く、高さが30mもある頂上付近で過ごし、地上に降りるのはわずか1%程度との報告があります。群れは数頭の成獣オスを含む10〜20頭(3〜34頭の報告もある)の家族で混成群をつくり生息しています。群れは100〜500ha(ヘクタール)のテリトリー(なわばり)をもち、ラウドコールと呼ばれる低く響き渡るような声は、遠方まで届くので、テリトリーの主張や、危険を知らせる声の場合はいち早く樹の頂上に避難します。年間を通じ川で水を飲むことはありませんが、湿潤な森林を好むことから、水分補給は樹の葉や幹から伝わる水を飲むことで充当しています。
からだの特徴

顔のたてがみは立派ですし、全身をみるとライオンを連想させるでしょう。写真家 大高成元氏撮影
体は全体的に黒く、顔の周りには灰色で長くたてがみのような毛があります。シシオザルの名前の由来は、尾の先端には雌雄ともに房毛があり、たてがみのような毛と共に、ライオンの姿を連想させることから命名されました。現地ではワンデルーと呼ばれていますが、これは顔のたてがみがモジャモジャと生えていると意味で、インド人の立派なヒゲを彷彿させたのでしよう。オスの体重は4.5〜8.5kg、メスは3.5〜4.5kgで性差が顕著です。頬には頬袋があって一時食べ物を蓄えておくことができます。4肢に5本ある指の爪はすべて平爪で、親指は他の4本の指と対向しており、物をつかんだり、握ったりできます。手の使い方が器用で、飼育下では留め金をぐるぐると回して外した、などの報告もあります。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯はメスより長くて強力です。また、尻だこがあります。
えさ
野生時の主食は、果実と種子で約90%を占めていますが、ほかにも木の芽、葉、茎、昆虫、卵、ネズミ、トカゲ、カエルなどの小動物など食べることが知られ、食性の幅が広く雑食性です。動物園では、リンゴ、バナナ、煮甘藷、青菜、ニンジン、パン、煮干、サル用ペレット、など与えています。
繁殖
交尾は群れの中の優位なオスがメスとの交尾権を持っています。オスは群れの間を渡りあるいていますが、これによって近親交配を避けています。野生時における交尾期のピークは1月から2月ですが、出産は年間を通じて見られています。月経周期は約34日で臀部が腫脹しピンク色になり、臭気を伴います。妊娠期間は約5ヶ月半(162〜186日)、1産1子で、赤ちゃんの体重は約450gです。赤ちゃんは未だ顔の長い房毛はなく、顔や指は白くなっています。授乳期間は約半年で、メスはその後も群れに留まりますが、オスは性成熟後に群れから出て行きます。性成熟は、メスで2.5〜4歳、オスで3.5〜5歳ですが、初産年齢は5〜8歳です。
飼育下の寿命は約30年です。長寿記録としては、日立市かみね動物園で1965年に生まれた個体が、2004年8月現在、仙台市八木山動物公園で生存中の記録があります(飼育期間 38年8ヶ月以上)。
保護
世界の動物園では協力して絶滅危惧種を守る活動をしており、シシオザルもまた国際血統登録がされています。血統登録者は国内外の動物園間におけるブリーディングローン(繁殖のために動物園の間で貸し借りすること)などを行い、種の維持に努めています。国内の動物園における飼育頭数は合わせて70頭くらいです。
データ
分類 | 霊長目 オナガザル科 |
分布 | インド南西部 |
体長 | オス45〜60cm メス42〜49cm |
尾長 | オス4.5〜8.5cm メス3.5〜4.5cm |
体重 | オス25〜40kg メス25〜32kg |
絶滅危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。現在、3000〜4000頭が生息していると推定されます。 |
主な参考文献
伊谷純一郎 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社1968 |
杉山幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Nowak , R.M. | Walker’s Mammals of the World Six Edition The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999 |
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) | Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998 |