No.180 プロングホーン – おもしろ哺乳動物大百科 124 偶蹄目(クジラ偶蹄目)プロングホーン科

おもしろ哺乳動物大百科偶蹄目(クジラ偶蹄目)プロングホーン科ペットコラム

プロングホーン科

プロングホーン科は北アメリカだけに分布して1属(プロングホーン属)1種(プロングホーン)で構成される科なので、体の特徴などは種の解説で紹介します。

プロングホーン(別名エダツノレイヨウ又はアメリカレイヨウ)

カナダ南部、アメリカ合衆国西部及びメキシコ北部に分布しています。開けた草原、低木林、半砂漠、稀に針葉樹に生息しており、標高3,353mで見られたとの報告もあります。
本種は群れで生活しますが、季節によって群れのメンバー数が異なります。5月上旬から発情が終わる10月にかけての繁殖期には少数のグループに分かれます。オス同士で優劣を競い、闘いに勝ったオスは広さ0.23~4.43km²のなわばりを作り、15~30頭のメスとハーレムを形成します。なわばりの境界には排便や排尿で匂いつけをして、侵入してくる他個体に対し、にらんだり大声を出したりして威嚇するほか、時には角や頭を突き合せて戦います。メスは1~2歳の子どもと一緒になわばりの中にいますが1つのなわばりに留まることはなく、他のオスのなわばりも渡り歩きます。ハーレムを築けない成獣のオスは単独で過ごし、2~3歳のワカオスはハーレムの周辺部で過ごします。えさが豊富にあり、水場も近くにある条件の良い場所は、強いオスがなわばりで押さえているため、ワカオスの行動圏はえさとなる植物の質は劣っています。交尾の30~40%は最も条件の良いなわばり内で行われ、最優位のオスはふつう4~5年間なわばりを守るため、同じ個体と交尾し、年間15~30%のメスを受胎させます。一方、同年齢の50%近くは出産しないと報告されています。行動圏はメスと子どもの場合は6.35~10.50km²、ワカオスでは5.1~12.9km²、ワイオミング州の夏と初秋の行動圏は2.6~5.2km²でこの中にいくつかなわばりがあると言われています。妊娠中のメスは4月下旬に群れから一時離れて単独生活となり、出産後再び群れにもどります。
秋から冬にかけては年齢、性別に関係なく集まり、1,000頭もの大群になったこともあります。このような大きな群れが走る時はメスがリーダーで先頭を切り、1頭のオスが最後部につきます。昼夜問わず活動しますが、主な活動時間帯は日没直後と日の出前です。稀に眠るのが報告される程度で、あとは採食と反芻を繰り返しながら24時間を過ごします。日中の移動距離は春と夏が0.1~0.8km、秋、冬が3.2~9.7kmで、夏から冬にかけての総移動距離は約160kmに及ぶと報告されています。時速64~72kmで6~7kmの距離を走り続けることができ、最高時速85kmの記録があります。このように長距離を高速で逃げることで肉食獣から身を守っています。シカと同様に危険が迫ると群が一斉に臀部の白い毛を逆立てメンバーに知らせ、開けた草原や半砂漠では人でも約4km離れたプロングホーンを確認できます。寒いときには毛を伏せていますが、砂漠のような暑い場所では毛を逆立て皮膚に冷気を入れます。泳ぐのも上手です。
冬の大きな群れから分散し再びハーレムを築くことができたオスは元のなわばりに戻ります。視力と嗅覚が優れており、外敵の発見は主に視覚に頼るために視界の悪い地域は避けます。声によるコミュニケーションは親子間のブーブー音、小鹿のようなメーメ―音、オスが攻撃するときのうなる声が聞かれます。

体の特徴

レイヨウの仲間は1本角が多いのですが、本種の角は二又に分れ、毎年角芯を残して鞘の部分は抜け落ちます。写真家 大高成元氏撮影

  • 体長(頭胴長)100~150cm
  • 肩高 81~104cm
  • 尾長 7.6~17cm
  • 体重 36~70kg メスはオスより約10%小型です

体形はずんぐりして頭部はやや細長く、目は大きく直径約5cmあり、横に突出て眼窩環(がんかかん)で保護され360度の範囲を見ることができます。耳は長さ14.2cm、三角形で先端が尖っています。肢はすらりと細長く、蹄は先端部が尖り2つに別れていて、ひと跳びに3.5~8mの跳躍する時のショックをやわらげるのに役立っています。親指は欠如し、第3指と第4指が発達し、側蹄となる第2指と第5指はありません。長いまつ毛は日光よけの役割を果たしています。オスは皮脂腺が9ヶ所(耳下腺2、腰腺2、尾腺1、蹄間腺4)、メスは6カ所(蹄間腺4、腰腺2)あります。耳下腺の分泌物はなわばりや発情の印となります。眼下腺はありません。体毛は3色に分かれ、背中は赤味を帯びた褐色、四肢の外側と顔面は褐色、腹部、肢の内側、両肩の間の三角形の部位、尻、喉の盾形・三日月形は白です。顔面とオトナオスの耳下腺は黒くなっています。毛は折れやすく、頸背部の毛は長くたてがみのようになり、頭部は冠のような前髪となっています。
本種の特徴の1つに、目の上方から出ている黒くて変わった形状の角があります。オスの角は40~50cmあり、二又に分かれ上側の枝は先端が後ろにカギ状に曲がって、下方の枝は太く前向きに尖っています。角芯(骨の部分)は1本で、上にかぶさっている角鞘の部位が二又に別れます。角芯は毛の生えた皮膚に覆われており、1年の間に角質化し、外側の角鞘を押し上あげて鞘の部分だけが脱落します。メスの角は短く14~15cmで二又に分かれず、無角の個体もいます。角は毎年10月から11月にかけて脱落します。角ができあがるとその先端が黒く光るようになるまで角を木にこすり続けます。角は5歳まで伸び続けます。ウシの洞角は角芯の上に角質の角が被さり一生抜け替わることはありませんが、オスジカの角は頭骨の角坐(角が生える頭のつけ根)から脱落して頭部には低い台座が残るのみで、プロングホーンのように長い角芯はありません。これらのことからウシとシカの中間型と言われています。絶滅したプロングホーンの仲間には、いずれも枝に分れず真っすぐに2本が伸びた種や、4本角、6本角等の種類がいました。
歯式は門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。口吻は細長く、ウシ科と同じように頬歯(前臼歯+臼歯)の歯冠部(根ではない部分)は高くなり(長冠歯)、咬合面(かみ合う部分)は半月歯になっていて硬い草をたべるのに適応しています。乳頭は4個(2対)あります。

えさ

イネ科以外の雑草(広葉草本)が主食ですが、イネ科は春に良く採食し、雑草は夏の間の主食となり、秋から冬にかけては低木の小枝が主な餌となります。雑草は多くの種類を採食しますが、ヨモギ(キク目キク科ヨモギ属)は好物の1種です。その他砂漠に生息するグループはサボテン類を採食し、栽培植物も採食します。雪の下にある植物は前足で掘り起し採食します。臼歯は成長し続けて硬い植物をすりつぶすのに適合しています。青草が豊富な時期には、草の水分をとることで水は飲まなくても大丈夫ですが、夏には水を飲みに行きます。ワイオミング州のレッドデザートにおける調査によれば、5月の一日あたりの飲水量は0.3ℓ、8月は4.5ℓでした。水場までの距離は5~6km以内が普通ですが、成獣のオスは約10kmと遠くなっていました。また、反芻獣特有の塩分が含まれる地域が好まれます。

繁殖

発情期は生息地により異なり7月から10月初旬の間ですが、ふつうは8月下旬から9月上旬にみられ、2~3週間持続します。ハーレムを率いるオスはこの間に交尾をします。妊娠期間は240~252日です。出産のときメスは群れを離れてふつう目立たないように草のかげに出産します。出産時期は生息場所により違いが見られますが、5月下旬から6月上旬が普通で、初産の産子数は1頭ですが、2回目以降は2頭、稀に3頭を出産します。オスは新生児の面倒は見ません。生まれたばかりの子どもの体重は2~4kgで、波状の美しい灰色の毛で被われています。生後2日齢でウマより早く走ることができますが、群れと一緒に長距離を走ることはできません。出産後、母親は授乳の時だけ子どもを訪れ、1日に20~25分間の間に授乳したり、毛づくろいをしたりして過ごします。生後2週齢になると外敵に追いかけられても群れの仲間と一緒に逃げることができるようになります。そのため、子どもは生後21~26日齢までは草や木の陰に隠れています。生後3週齢ころから植物を少しずつ食べます。新生児には8月下旬まで授乳しますが、離乳はメスよりオスの方が攻撃的な習性が発現するため2~3週間早いと、言われています。成長は早く生後3ヶ月齢で親と同じ体色になります。メスはふつう生後15~16ヶ月齢で性成熟に達します。子どもは母親の交尾期の間は一時的に母親から離れ、子どもだけの小さな群れを作りますが、翌年の春から夏までには再び母親と一緒になります。オスは2歳で性成熟に達しますが、交尾が成功するのはハーレムの形成に成功したオスだけで、ふつう5歳くらいになってからです。初夏に生まれた子どもは7月下旬に雌雄共に角が萌芽します。最初は円錐形の突起ですが、12月になると2~5cmの長さになり、成長が止まり落角します。第2回目(1歳)の角は最初と同様の形ですが12~13cmになっています。第3回目(2歳)で初めて角が楕円形になり先端が二又に分かれます。そして6月になると完全に伸び切りますが、太さが親と同じになるのは5歳になってからです。

長寿記録

カナダのアシニボイン公園動物園で1985年4月21日に生まれて、2000年11月8日に死亡した個体(オス)の15歳6ヶ月という記録があります。

外敵

外敵としては、主に若い個体が稀にコヨーテ、ボブキャット、オオカミなどがあげられます。

主な減少原因

本種の生息地において、農地の開拓、都市化、および鉱山の拡張が進み、森が分断され生息域が減少したことに加え、狩猟によるものです。

絶滅危機の程度

2015年発行のIUCN(国際自然保護連合)レッドリストでは、放牧地の復興や家畜の放牧、道路、フェンス、違法な狩猟を禁止した結果、生息数が増え、種としてはLC(軽度懸念LeastConcern)に指定され、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種です。しかし、亜種の一つソノラプロングホーンは、アメリカ合衆国絶滅危惧種保護法により絶滅の恐れが非常に高いとして絶滅危惧種(EN)に指定されています。また、メキシコの個体群はワシントン条約では付属書Ⅰ表に掲載され、商業取引を禁止しています。

以下の4亜種に分類されています。

  1. Antilocapra americana americana アメリカプロングホーン(カナダ南西部、アメリカの大部分)
  2. A.a.peninsularis. カリフォルニアプロングホーン(メキシコのカリフォルニア半島)
  3. A. a.mexicana. メキシコプロングホーン(メキシコシティの北部、アメリカのニュ-メキシコ南部、アリゾナ中部)
  4. A.a.sonoriensis. ソノラプロングホーン(メキシコのソノラ地方西部、アメリカのアリゾナ南部)

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目) プロングホーン科 プロングホーン属
分布 カナダ南西部、アメリカ合衆国西部、メキシコの北部
体長(頭胴長) 100~150 cm
体高(肩高) 81~104 cm
尾長 7.6~17 cm
体重 36~70 kg

主な参考文献

D.W.キッチン プロングホーンIn 動物大百科 4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編) 今泉吉典 (監修) 平凡社 1986.
今泉吉典 偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
今泉吉典 プロングホーンの分類、プロングホーンの生態 In 世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ、(財) 東京動物園協会 1979.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981.
古賀忠道 「プロングホーン」、 「つののいろいろープロングホーンのつのー」 In 朝日=ラルース「週刊 世界動物大百科」52号 朝日新聞社 1972.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
O’Gara,B. W. Mammalian Species. No.90, Antilocapra americana. The American Society of Mammalogists. 1978.
Parker,S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
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