ネコ科
ピューマ(アメリカライオン)
北はカナダのブリティッシュコロンビア州から南は南米のパタゴニアまで生息しています。高山、低地熱帯林、沼沢地、半乾燥地域、カルフォニア州では海岸から標高3,350mまで、エクアドルでは標高4,500m、アンデスでは標高5,800m。基本的に夜行性で、チリにおけるラジオテレメトリ―の調査によれば、活動時間のピークは夕暮れから日没後で、ときどき日中にもみられました。また、フロリダではピークは1時から7時まで、及び18時から22時までで、ある母子は22時に巣穴を出て翌朝8時に戻りました。単独オスも活動時間帯は似ていますがピークに違いがありました。子づれの母親を除いては、繁殖期以外は基本的に単独生活をしています。子どもがいる親子は木の茂みや岩の割れ目、洞穴などを隠れ場所にします。動きは機敏で地上から5.5mの木にジャンプし、またひと跳びで12~15m跳んだ記録があります。泳ぎが上手なことが知られていますが、めったに水に入らないようです。24時間で20km以上移動し、オスはメスの2倍以上活動します。行動圏は32~1,031km²と大幅な範囲が報告されていますが、通常オスは数100km²以上、メスは100km²以下です。行動圏には季節変化がみられ、1頭のオスは冬から春に145km²、夏から秋には293km²に増加し、再び春から冬に96km²になりました。オス同士の行動圏は重複しますが、メスとは一部重なります。しかし、カルフォニア州中部のディアブロ山ではオスの行動圏がメスと重複しない、との報告もあるので、ケースバイケースということでしょう。狩りは優れた視覚と嗅覚を頼りに足跡をたどり、排泄物の匂いから獲物を追跡します。聴覚も優れており、獲物となる動物の鳴き声や同種の鳴き声も聞き分けていると推測できます。コミュニケーションは母子の場合は、なめたりこすったりする接触によるものや鳴き声で行い、個体間では吠える声、シュシュや短くピュウピュウする声、及び大きな甲高い声も聞かれますがその機能は解明されていません。
からだの特徴
ネコ属の中では最大種で頭部は短く、長い4肢は太くがっしりとし全体的にスマートな体形です。前肢より後肢の方が長く掌は大きくて力強く、顎と肢の筋肉は良く発達しています。前肢には5本の指がありますが親指は小さく、後肢には4本の指があります。爪は鋭く、イエネコのように引っ込めることができます。尾はJの字に曲がり体長の二分の一程度あり、耳は小さく先端は丸くなっています。瞳孔はイエネコと違い丸く収縮し虹彩は淡黄色です。舌は粗い小乳頭突起で被われており、他のネコ科動物と同様に骨についた肉をなめとり、あるいは自分の毛を舐めてきれいにします。被毛の色は亜種により変異がありますが、大別すると淡褐色~褐色と灰色の2系統になり、いずれも腹部は白色、鼻鏡と耳のうしろ、及び尾の先端は黒です。毛は季節変化が大きく、冬季には長く上毛は約4cmになり、下毛が柔らかく根元でよじれて密になり、春には換毛して短くなります。
体の大きさは生息地により大きな違いがみられ、頭胴長97~19cm、尾長53~8cm、体重36~10kgになります。体重の最大のものとしては13kgの記録があります。
歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯3/2、臼歯1/1で合計30本です。乳頭は8個ありますが、機能するのは6個です。
えさ
北米ではエルク、オジロジカ、ミュールジカ、カナダヤマアラシ、アライグマ、ビーバー、南米ではダマジカ、マザマジカ、プーズー、ナマケモノ、オオカワウソ、キノボリヤマアラシ、カピバラ、アグーチ、その他にネズミやウサギの仲間など多くの哺乳類、トカゲやワニなどの爬虫類、魚、昆虫、カタツムリ、時には死肉まで何でも食べます。北米の西部では冬季の餌の約75%がミュールジカで、夏季にはその割合は約60%に減少し、平均で6~9日に1度食べた報告があります。一般に夏季には小型の獲物が多く、冬季に大型動物になりますが、狙われるのは多くの場合年老いたオスか幼獣です。ユタ州では1頭のピューマがオジロジカを16日に1頭、生後3ヶ月齢の子連れの場合は9日、生後15ヶ月齢頃の子連れは3日に1頭捕食しました。しかし、南米などでは大型のバクなどは稀に獲物になるだけで、通常は小型や中型動物で、まれに家畜のウシ、ヒツジも狙われます。チリではグアナコ1頭の代わりに25頭のヨーロッパノウサギが食べられました。ヨーロッパノウサギは90年まえに南米に移入されて以来肉食獣の餌となっています。余った肉は葉や瓦礫、パインの葉などで覆い隠し、後日その場所に戻り数日間は食べます。1回に約10kgの肉を食べることができます。
繁殖
繁殖期は特に決まっていませんが、北米では4月から9月、チリ南部では2月から6月にかけて生まれます。発情周期は約23日、発情は4~12日間(平均で8日間)続き、もし新生児が24時間以内に死亡した場合は、ふつう数週間以内に再発情します。妊娠期間は90~96日、産子数は1~6頭、ふつう3~4頭です。新生児の目と耳は閉じて生まれ、生後1~2週齢で開きます。新生児の体重は250~600gで、生後10~20日齢で1kgになり、生後6週齢頃に固形物の肉を食べ始めます。授乳期間は生後1~2ヶ月齢までですが、この頃体重は3~4kgになります。生まれた時は黒い斑点のある毛が密に生えています。この斑点は生後3~4ヶ月齢ころから消えはじめ、およそ生後6ヶ月齢でなくなりますが、上腕の縞は3歳まで残る個体もいます。乳歯は門歯が生後10~20日齢、犬歯は20~30日齢、前臼歯は生後30~50日齢で生えはじめ、生後約5.5ヶ月で門歯が、犬歯は生後8ヶ月で永久歯に生え代わります。春に出産した場合、秋には母親の狩りに同行し、冬の終り頃には自分で獲物を殺すようになりますが、その後も数ヶ月あるいは年が変わっても母親と一緒にいることがあります。成獣の体重になるのは2~4歳です。メスの性成熟は生後2~3年、オスはメスより遅く3歳で性成熟します。若い個体は自分の行動圏をもつまでは繁殖しません。繁殖はメスで12歳頃まで可能です。長寿記録としては、フランスのツアーパーク動物園で、2004年2月27日現在飼育中の個体(メス)の飼育期間23年9ヶ月があります。
亜種
亜種については、諸説あり約30種に分類する説と、最近ミトコンドリアDNA分析結果を踏まえて6亜種とする学者がいます。
データ
分類 | 食肉目 ネコ科 |
分布 | 北はカナダのブリティッシュコロンビアから南は南米のパタゴニアまで。 |
体長(頭胴長) | オス 105~196cmメス 97~152cm |
体重 | オス 67~103kgメス 36~60kg |
尾長 | オス 66~78cmメス 53~82cm |
絶滅危機の程度 | 生息地の消失と狩猟圧により生息数は減少していますが、ピューマは分布域が広く、現在の生息数は50,000頭以下と推定されることから、IUCN(国際自然保護連合)発行の2012年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。生息地により約30亜種に分類した場合、フロリダピューマ、ペンシルバニアピューマ、コスタリカピューマの3亜種はワシントン条約では付属書Ⅰ表に、他の亜種はすべてⅡ表に該当し商取引が制限されています。生息数は各地で減少を続けているので、多くの地域で狩猟の禁止や保護区を設定するなどしていますが厳しい状況のようです。 |
主な参考文献
Currier,M.J.P. | Mammalian Species . No.200, Felis concolor. The American Societyof Mammalogists 1983. |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社 1968. |
今泉忠明 | 野生ネコの百科 データハウス 1993. |
Nowell, K. & Jackson, P.(ed) ジョン・ボネット・ウェクソ編 |
Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan― IUCN 1996. |
増井光子訳・監修 | ライオン/ネコ 誠文堂新光社 1985. |
成島悦雄 | ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育 □2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009. |