No.109 ニシローランドゴリラ – おもしろ哺乳動物大百科 58 霊長目 ヒト科またはショウジョウ科

おもしろ哺乳動物大百科ヒト科霊長目ペットコラム

霊長目 ヒト科

ゴリラ属

アフリカのルワンダで撮影した、野生のマウンテンゴリラ一家だそうです。貴重な一枚です。写真家 大高成元氏 撮影

ゴリラはアフリカに分布し、かつては1種類とし、その中で2亜種または3亜種に分類していました。しかし、最近はDNAの研究が進んだ結果、ヒガシゴリラとニシゴリラの2種に分け、前者をマウンテンゴリラとヒガシローランドゴリラの2亜種、後者をニシローランドゴリラとクロスリバーゴリラの2亜種に分類しています。
マウンテンゴリラは、ザイール、ルワンダ、ウガンダの1,500〜4,000mの高地に生息し、体色は黒く長い体毛でおおわれています。オスは後頭部が突出し、ヒガシローランドゴリラと似ています。ヒガシローランドゴリラはコンゴ民主共和国(旧ザイール)東部に生息して、体毛は短く、顔が長くて4亜種類の中で体が最も大きくなります。クロスリバーゴリラはナイジェリアとカメルーンの国境だけに分布していていますが、生態などはまだよくわかっていません。世界中の動物園で飼育している種類はほとんどがニシローランドゴリラで、マウンテンゴリラの飼育は皆無、ヒガシローランドゴリラも、世界中で10頭に満たない貴重な種類です。
今回は日本国内でも飼育しているニシローランドゴリラを紹介しましょう。

ニシローランドゴリラ

生息地はアフリカ中西部のカメルーン、中央アフリカ、ガボン、コンゴ、赤道ギニアの標高0〜1600mの熱帯多雨林、低地多雨林、二次林、などの湿地林がおもな生息域です。昼行性でほとんどの時間を地上で生活していますが、体の軽い子どもやメスは樹上も利用します。夜間は、地上や樹の上に枝を折って寝床を作りその上で寝ます。
群れの大きさはふつう10頭前後で、背中が銀色になったシルバーバックと呼ばれる成獣のオス、そしてメスとその子どもたちで構成されています。他にも単独でいる成獣のオスや、ワカモノだけのグループもいます。遊動域は開放的で群れ同士が重複するところも多いのですが、若者が成長し群れを乗っ取ろうとするときは、群れのリーダーとの間で激しい闘争もあります。遊動域は4亜種のなかで最も広く約15km²で、1日に500〜1000mを移動します。移動は地上が多く、ゴリラとチンパンジーに見られる独特のナックル歩行をします。ナックル歩行とは、手首を伸ばし親指以外の指の第2関節を直角に曲げて指の背を地面につけて歩く方法です。彼らのコミュニケーションはさまざまな声の他にも、アイコンタクトで相手を見つめ意思表示をします。また、威嚇するときに二本足で立ち上がり、胸を叩くドラミングと呼ばれる行動が見られますが、このときは独特な声や近くの木の枝をとって投げるなど、一連の行動を伴います。メスは性成熟を迎える6歳ころに生まれた群れを出て違う群れに入り、そこで繁殖をします。

からだの特徴

体色は茶褐色から灰色で、短毛です。オスは12〜13歳に成長するとシルバーバックと呼ばれるように、肩から腰にかけて背中の毛が白くなります。とくにリーダーは成獣になると短い脚と胸囲が150cmにもなる大きな胸で上半身が筋肉隆々とした4頭身のような体形になります。
足の親指は手のつくりと似ており、握力は霊長類の中で最も強くて餌になる枝や竹をいともたやすく折ることができます。オスは長い犬歯と、顎を動かすための大きな筋肉が顎から頭部にかけてついており、巨大な頭部となっています。ゴリラはチンパンジーのように他の動物を積極的に狩りで捕えて食べる行動は観察されていません。基本的に植物食のため、腸内の微生物の力を借りて、消化しにくいセルロースを分解して栄養源としています。コロブスは前胃で発酵させているのに対し、類人猿をはじめ他のサルの仲間は大きな大腸に貯めて発酵させています。歯式は、門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本です。胸部には、共鳴袋と呼ばれる部位があり、ドラミングすると音が響く構造になっています。尾はなく、尻には白い毛が生えていますが、5〜6歳ころまでに消えて親と同じ毛色となります。

えさ

ニシローランドゴリラは季節によって食べる内容が変わり、果物が実る季節はそれらが主食になり、シロアリやアリも重要なタンパク源となります。このほかに草や竹のすべての部分、キノコ、昆虫、はちみつ、卵、土も食べます。生息域によっては、腰まで水中に浸かり水草を食べるところも観察されています。マウンテンゴリラは高地の生息地に果物が少ないことから木の葉や草などが主食となっています。世界各地の動物園はゴリラが多種類の植物を食べるところを参考にして、イギリスのハウレッツ野生動物園では120種余りのレパートリーを誇っています。これは別格としても、海外の動物園では動物たちの給餌をエンッリチメントの一環として捉え、多くの動物園が餌をチップの下に隠して探すように仕向けたり、給餌回数を多くするなど工夫しながら、30〜50種類を給餌しています。

繁殖

交尾期は決まっていなく、通年繁殖します。月経周期は30〜33日で、排卵される2〜3日の間に交尾します。山極寿一博士の野生ゴリラの調査結果によれば、初発情が6歳頃で、初産は10歳ころと報告していますが、飼育下では2年程度早くなります。妊娠期間は250〜270日です。出産後3年間は授乳期間中で発情はなく、出産間隔は約4年となります。上野動物園における出産例をみると、赤ちゃんの体重は1800〜2200g、色は黒みのあるピンクで毛はほとんど生えていません。生後1ヶ月齢ころ、自分で手足を動かし、目が見えるようになり、首が座ってきます。母親はお尻をなめて排泄を促します。生後2ヶ月齢ではまだ4肢でたてません。生後3ヶ月齢でリンゴやトマトを生えてきた前歯でかじった、と報告しています。野生の観察例によれば、生後2歳まで母親の乳首をくわえているそうですが、成獣まで生き残るのは約半数という厳しい世界です。
長寿記録は、フィラデルフィア動物園で1984年12月30日に死亡したニシローランドゴリラの飼育期間53年3ヶ月、推定年齢53歳6ヶ月という記録があります。

生息数減少の原因

森林を伐採して農地に転用したことや、木材の輸出、食肉用の狩猟が主な減少原因ですが、他の野生動物を捕えるために仕掛けたワナにかかることもあります。そのほか風邪や伝染病など人間の病気が感染して死亡する例が報告されています。野生の外敵は、まれにヒョウに子どもが捕えられるくらいです。

データ

分類 霊長目 ヒト科
分布 アフリカ中西部
体長(頭胴長) オス 約110cm メス 約90cm
身長(立ち上がった時の高さ) オス 160〜180cm メス120〜150cm
体重 オス 150〜250kg メス 80〜120kg
絶滅危機の程度 ゴリラの生息数は4亜種合わせて110,000〜130,000頭と推測されています。生息地の破壊、分断化、密猟が続いていることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、ニシローランドゴリラ、クロスリバーゴリラ、マウンテンゴリラは絶滅のおそれが非常に高い絶滅寸前種(CR)に、ヒガシローランドゴリラは絶滅のおそれが高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。

国内の霊長目の研究は、1950年代から京都大学の今西錦司博士らが中心となって始まりました。現在は、先生と一緒に研究した方々と、その門下生たちがそれぞれ世界で著名な霊長目の研究者として活躍しています。今回、参考文献に挙げているサル学者たちは世界中にその名を知られている人ばかりです。名前を列挙すると枚挙にいとまがありませんが、今回の参考文献は、伊沢紘生、伊谷純一郎、河合雅雄、水原洋城、和秀雄、西田利貞、島泰三、杉山幸丸、山極寿一、各博士ほか多くの研究者たちのご高著を参考にしています。動物を飼育するうえで一番知りたいことは、野生状態の実態で、それらの情報を基に飼育してきました。ネットでサルの研究者を引けば著作もわかり、図書館で借りることもできます。詳しいことが知りたければ探してください。

次号からライオンやオオカミなどに代表される食肉目について、紹介していきます。

主な参考文献

Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998
Estes,R,D. The behavior guide to African mammals, The University of California Press , 1991.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
黒鳥英俊 モモタロウが生まれた  フレーベル館  2001
今 西亮 ニシローランドゴリラの繁殖 どうぶつと動物園 東京動物園協会 春号2011
Lang,K.C. (Reviewed by Stoinski,T . ) Primate Factsheets: Gorilla, Gorilla , Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2005
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス 1996
山極寿一 ゴリラ・雑学ノート ダイヤモンド社 1998
山極寿一 ゴリラ図鑑 文渓堂 2008
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