アライグマ科
アライグマ科は6属:(1)カコミスル属 (2)ヤマハナグマ属 (3)オリンゴ属 (4)アライグマ属 (5)ハナグマ属 (6)キンカジュー属に分類されます。
本科の仲間はアメリカ全般にわたり広く分布する食肉類です。木登りが上手で、ハナグマ属以外は夜行性です。基本的に雑食性ですが種によって肉食傾向が強いものと植物食の傾向が強いものがいます。盲腸はありません。足の裏を踵(かかと)まで地面につけて歩く蹠行性(しょこうせい)と半蹠行性のものがいます。
歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯3~4/3~4、臼歯2/2で左右上下合わせて36~40本で、カコミスル属では裂肉歯が発達しています。
今回は6属の中から良く知られている(1)アライグマ属 (2)ハナグマ属 (3)キンカジュー属の3属を取り上げ、3属の中から各1種ずつ紹介します。
アライグマ属
この属の中にアライグマとカニクイアライグマの2種が含まれますが、近年亜種としていたものを種として分類し、次の6種とする学者もいます。(1)アライグマ (2)カニクイアライグマ (3)バルバドスアライグマ (4)トレマリアアライグマ (5)グアドル-プアアライグマ (6)コスメルアライグマです。
本稿は今泉先生の分類に従っているので、2種としてアライグマとカニクイアライグマを紹介します。
アライグマ
カナダ南部からアメリカ合衆国、中央アメリカ及びその周辺の島々に分布しています。生息域は川や湖、湿地や沼地の森林、マングローブ、そして乾燥地でも近くに水があれば、そこに生息している動植物を餌として生活している地上でもっとも雑食性に富んだ種のひとつです。一夫多妻で泳ぎや木登りが得意で、夜行性のため日中は高い木の洞や岩の割れ目、シマスカンクやオッポサムなどが使った巣穴を利用して休憩しています。他にも移入種となり都市部まで入り込んだ本種は家屋の屋根裏、用排水路、暗渠にも生息しています。カナダのように寒い地方にすむ個体は、冬季に食事をとらないで半冬眠のように巣穴にこもり、夏から秋に蓄積した脂肪分を使うので体重が半減します。行動圏は都市部では狭く0.05~0.79km²(5~79ha)、田園地帯では広くなり0.5~3km²(50~300ha)、荒地になるとさらに広くなりノースダコタ州で8.0~25km²(800~2,500ha)でした。また移動距離では一夜に14kmとの報告があります。
からだの特徴

ほんとうにかわいいんだけど、これがけっこう乱暴者なんだ!写真家 大高成元氏 撮影
体は長い上毛と豊富な下毛があり、寒冷地でも対応ができます。体色は全体に銀白色から銀黒色ですが淡褐色や赤褐色が混じることもあります。仮装に使う黒メガネのような形に目の周囲から口角にかけて黒くなり、鼻端と顎は白です。尾の地色は灰色で、黒いリングが5~7本あります。体長は41.5~60cm、体高22.8~30.4cm、尾長20~40.5cm、体重は2~12kgです。フロリダ・キーズ(フロリダ州南部のサンゴ島群をさす)で5頭の成獣オスが平均で2.4kg、一方ウイスコンシン州では体重は6~11kg、1頭のオスの最高体重は例外的に28.3kgもありました。からだは湾曲して丸みを帯びており、4肢にはそれぞれ5本の指があります。前肢の指は長く広げることができて物をつかむのに適応しています。爪は鋭く鉤爪となっていますが引っ込めることはできません。足の裏には毛は生えておらず蹠行性で、後肢で立つこともできます。嗅覚は鋭く食物を探すときに役立ち、指先の触覚も発達しており、水中に手を入れてかき混ぜて触った感触で餌となる生物を察知して捉えます。この水中に手を入れてかき混ぜる行動が、アライグマという名前の由来になっています。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/4、臼歯2/2で左右上下合わせて40本です。乳頭数は4対です。
えさ
雑食性でカエルなどの両生類、ヘビやトカゲなどの爬虫類、ザリガニ、カニ、エビなどの甲殻類、小型の哺乳類、鳥類とその卵、昆虫などの無脊椎動物、死肉、また嗅覚が優れているので地下に埋もれている木の実、淡水産のカメやウミガメの卵を匂いで察知し掘り出して食べます。植物では、その他に野イチゴ、果実、木の実から農作物のトウモロコシや野菜など手当たり次第何でも食べます。夏から秋にかけて脂肪を蓄積する季節には動物質を好むと言われます。
繁殖
繁殖期はアメリカ合衆国では12月から8月の間と分布域が広大なため地域差が見られますが、ピークは交尾期が2月と3月、出産期は4月~6月です。発情期になるとオスは複数のメスと交尾し、最初の発情で妊娠しないときは、次の発情がきてほぼ妊娠します。発情周期は80~140日で妊娠期間は60~73日、平均63日です。産子数は1~7頭、通常3~4頭です。生まれたばかりの赤ちゃんは体長約10cm、体重は約70g、灰黄色の毛でおおわれ、すでに顔の黒い部位の模様がはっきりしており、尾のリングもわかります。目は閉じており生後約3週齢で開きます。新生児は樹上にある木の洞を巣穴として生後7~9週齢まで過ごしますが、その後地上に移ります。固形物は生後約9週齢から食べ始め、生後7週齢から16週齢までの間に離乳します。生後約20週齢で夜間1頭または同腹の子と巣穴から出て付近を歩きます。ひとり立ちするのは翌年冬の終わったころとなります。子どもたちの育児は母親がすべて行います。通常は1歳で性成熟に達します。移入したアライグマの調査結果では、多くのメスは1歳で出産し、しない場合も2歳では妊娠します。
長寿記録としては、アメリカ合衆国にあるフォルサム動物園で1992年3月6日に死亡した個体(メス)の飼育期間19年8ヶ月、推定年齢21歳という記録があります。
外敵
ピューマ、ハイイロオオカミ、コヨーテ、アカギツネ、オオヤマネコ、ボブキャット、クズリ、ワシミミズクなどの大型猛禽類、ワニ(アリゲーター)、大型のヘビなどがいます。ピューマやハイイロオオカミが減少した地域ではアライグマの増加が見られます。
現在の生息状況
多くの動物が絶滅への道を突き進んでいく中で、本種は現在も森林から都市部へと分布を広げ、生息数も増加している珍しい例といえます。その原因としては環境への適応性が非常に高いこと、繁殖力が高いこと、雑食性で食性の幅がひろくほとんどのものを採食することなどが考えられます。しかし、毛皮を採るための狩猟や農作物の被害から守るために行う罠が一部地域でおこなわれているため、将来減少していくことが懸念されています。
特定外来生物
アライグマは特定外来生物に指定されているので、飼育するには許可が必要です。
2004年「特定外来生物による生態系などに係る被害の防止に関する法律」が制定されました。
この法律は日本国内の生態系、人の生命・身体又は農林水産業に被害を及ぼし、又は及ぼす恐れのある外来生物を「特定外来生物」として指定し、その飼養や輸入等を規制するとともに、被害を防止ために必要があるときは国などが防御することなどにより、生態系等の被害の防止を図ることを目的としています。このため指定を受けた動物は原則として飼養が禁止され、一定条件を満たした場合にのみ、環境大臣等の許可を得て飼養などすることができます。
現在、アライグマは全国的に定着し特定外来生物に指定されています。一見すると愛らしい外見ですが、原産国以外で野に放された結果、在来種の動植物をはじめ、家禽、養殖魚類、農作物が甚大な被害を受けています。日本以外でも、ドイツに導入された個体が近郊各国に広がり同様に大きな問題となっています。
また、飼育していたアライグマが蛔虫症に罹患し、飼育されていた隣の動物に感染した例や、北米では狂犬病の媒介動物として危惧されています。
データ
分類 | 食肉目 アライグマ科 |
分布 | カナダ南部、アメリカ合衆国、中央アメリカ |
体長(頭胴長) | 41.5~60cm |
体重 | 2~12kg |
尾長 | 20~40.5cm |
肩高(体高) | 22.8~30.4cm |
絶滅危機の程度 | 分布が広く、生息数も増加しているので、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ない低危急種(LC)に指定されています。 |
カニクイアライグマ
カニクイアライグマは中米のコスタリカ、パナマから南米のコロンビア、ブラジル、アルゼンチン北部に分布しています。アライグマにくらべ毛は粗く下毛が少ないため体がスマートに見えます。尾長は20~41cmで、7~8本の黒から灰色、あるいは黄色を帯びたリング状の縞があります。体長は45~61cm、体重は3.1~7.7kgです。生態については2種共に類似しているのでアライグマの項を参考にしてください。
主な参考文献
池田 透 | 14外来種問題 アライグマを中心にIn.日本の哺乳学(2)中大型哺乳類・霊長類:高槻成紀・山極寿一編、東京大学出版会2008. |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
林 壽朗 | 標準原色図鑑全集 動物II 保育社1981. |
中里竜二 | アライグマ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
Lotze, J.-H. & Anderson, S. | Mammalian Species . No.119, Procyon lotor. The American Society of Mammalogists 1979. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parker, S.P.(ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |
Zeveloff, S. I. | Raccoons ― A Natural History ― , Smithsonian Institution 2002. |