No.020 手の話(1) サルの手

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インドやミャンマーに行くと、食事は右手を上手に使って食べる。かれらは、まず手で味わって、それから口で味わうので食事を二度楽しめる、と言う。食べ方を見ていると親指と人差し指をたくみに使い、一口大にまとめて食べている。日本人は何時から箸を使うようになったのだろう。

チンパンジーがご馳走の野菜をにぎりしめている。人間の手とそっくりでしょう。

サルの握力は非常に強く恐らくどんな力持ちの人間でもかなわないだろう。かつてのゾウ舎は隣が類人猿舎で、担当者から類人猿の話を聞く機会があった。ある日、「今日はオランウータンに抱きつかれて放すのに往生したよ」と話し始めた。彼によれば、オランウータンは手はもちろん、足の握力もとても強く、抱きつかれたときには、片手を振りほどくと足でつかまれ、足をほどけば手でつかまれて、容易に逃げることができないそうだ。オランウータンにすれば大好きな担当者と離れまいとして、抱きついていたのだろうが、それでは他の仕事ができないので、なんとか放さなければならずお互いに辛いところだ。また、直径6〜7mmの太さの5寸釘を簡単に曲げたり伸ばしたりして折ってしまう、と聞いた話が印象に残っている。ゴリラ、オランウータン、チンパンジーなどの握力を正確に測ることは難しいが、一説によればチンパンジーの握力は400〜500kgあるらしい。オランウータンの手の長さはおよそ40cmもあるのでチンパンジーより握力は強いと思う。私はサル山のニホンザルの担当も長い間受け持っていたが、子ザルたちは壁面のちょっとした窪みに指1本を引っ掛ければ指1本で体重を支えることができる。フリーハンドクライマーにとってはうらやましいかぎりだろう。

手とは、簡単に言えば手袋をはめる部位を指すそうだ。一口にサルといってもおよそ200種類もいるのだから、環境や食性に応じてさまざまな形に進化している。上野動物園では、エチオピアの高地に生息するゲラダヒヒを飼育していたが、このヒヒは野草をあげると手で器用に美味しそうな部分をすばやくもぎりとり一口で食べられるくらいにまとめて食べていた。ニホンザルも結構器用で麦や米をばら撒くと親指と人差し指でつまんで食べる。一方、樹上生活で主に木の葉を食べているコロブスや、果実が主食のメキシコからパナマにすむチュウベイクモザルの共通点の一つは、両種とも手の親指がないかとても小さいのだ。彼らは空中ブランコのように枝から枝へ移動するので、枝を握るのではなく親指を除いた4本の指を引っ掛けている。そのため親指を使わなくなり退化したので、人間やニホンザルのように米粒を指先でつまみあげることができない。

上野動物園の120周年記念のシンボル動物はマダガスカル島に生息するサル・アイアイである。細長い中指が特徴の一つで、昆虫が主食とされていたが、島泰三先生の研究によると、昆虫も食べるが、主食はラミーの果実で、硬い実に切歯で穴を開けて、長い指でかき出して食べることが分かっている。

人間の手は器用で、親指と人差し指はもちろん、他の指同士でもつかもうと思えばつまみあげられるが、こんなことができるサルはいない。

子どもの頃は、指を内側に曲げると腕に中指の先が付いたような気がしたのでやってみたが、痛くてだめだ。今度母親に内緒で孫の指をそっと曲げてみよう。

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