No.166 クロサイ – おもしろ哺乳動物大百科 111 奇蹄目 サイ科

おもしろ哺乳動物大百科サイ科奇蹄目ペットコラム

サイ科

クロサイ

クロサイはコンゴ盆地を除くサハラ以南のアフリカ中南部、東アフリカの熱帯から亜熱帯に分布し、熱帯雨林には生息していません。深い藪、まばらな森林、開けた草原や山岳地で生活しており、ケニアでは山岳地帯の森林、ナミビアのクネネ州の半砂漠にも見られます。
成獣のオスは繁殖期以外単独で、オスが2頭一緒にいるのは稀です。メスは子どもがいる場合は、母子が一緒に生活していますが、他の時期は単独で生活しているのが普通です。しかし、まれに複数のメスが一緒にいる場合もあります。ンゴロンゴロ地区において2頭のメスが13ヶ月一緒に過ごし、交尾後成獣オスとメス、彼女の子ども、そして亜成獣のオスで4ヶ月間一緒に過ごしました。ひとつのグループで13頭が一緒にいるのが観察されたことがあります。その他、水場や塩場では短期間一緒にいます。
行動圏の報告は次のようにいくつかあります。①ところどころ林のある地域で約3km²、半砂漠などの乾燥した場所では90km²②南アフリカのナタール自然公園でラジオトラックを付けた調査で、オスのなわばりは3.9~4.7km²、メスの行動圏が5.8~7.7km²③ンゴロンゴロではオス、メス共に平均16km²(2.6~4.4km²)④セレンゲティでは43~133km²と幅があり、最も広い行動圏を持っているのは亜成獣。
メスの行動圏は重複してなわばりはありませんが、成熟したオスは可能ならばなわばりをもって防衛し、母子以外は追い出します。排便は決まった場所で行うので糞塊になりますが、テリトリーの役割を果たしていないようです。ふつう時速3~4kmで移動し、睡眠は夜中、採食の多い時間帯は早朝か夕方です。性質はシロサイより荒いと言われ、危険が迫ったり、驚いたりすると時速45~50kmで走ります。水浴とで泥浴は好みますが、泳ぎはうまくありません。水浴で体を冷やし、泥浴びは乾燥すると吸血するサシバエから守る効果があります。クロサイの皮膚は厚いのですが、うすい表皮の下に血管が走行しているのです。皮膚に寄生する虫はサギやウシツツキが食べてくれます。
視力は弱く、20~30m離れると、人と木の区別ができませんが、臭覚と聴覚はすぐれています。コミュニケーションは主に排便と尿スプレィ及び声で行います。オスは尿スプレィを藪に向かって2~4回噴射します。声は警戒音、脅し、交信に使われ、サイ同士が出会ったときにはプップッという声、交尾の時はキィ、キイ声、メス同志の闘いの時にはキンキン、ブウブウやうなり声、子どもを呼ぶときはニャーニャーと鳴きます。

体の特徴

尾を上げて草原を軽やかに走るクロサイ親子。立派な角を持っていますね。写真家 大高成元氏撮影

体長300~375cm、肩高は140~180cm、尾長60cm、体重800~1,400kg。角は骨質の角心がなく、ケラチン質の繊維(毛)の塊が頭骨の上に乗っています。前後に2本あり、前の方が長く約50cmで、最長記録では135.9cmの報告があります。角は防御と威嚇に用いられます。皮膚の厚さは後躯で13mmと厚く、生息地の棘のあるアカシアや低く密集した藪地を突っ走るのに適応しています。視力は弱く25~30mの範囲と推測され、周囲の状況判断は聴覚と嗅覚に頼っています。嗅覚は鼻腔の体積が広く情報分析に適応しています。4肢は太く短く頑丈で、蹄は3本で中指(第3指)が大きく、第2指と第4指は小さめです。足の裏は厚く層になっていて、足を保護しています。耳は大きくラッパ状で、音のする方向に自在に動かし音を拾うことができます。尾の尖端には房毛があり、腰回りにとまる害虫を追い払う時に使います。体色は暗黄褐色から暗褐色、灰色ですが、土浴びをした時の色が全体的に付着するので生息地の環境により異なります。
歯式は門歯(切歯)0/0、犬歯0/0、前臼歯3/3、臼歯3/3の合計24本で、門歯と犬歯はありません。乳頭数は1対で、鼠蹊部(そけいぶ)にあります。
オスの精巣は陰嚢内に降下しなく、ペニスは後ろ向いているのでメスと同様に尿は後方に飛ばします。単胃で消化は後腸(盲腸と結腸)にいる微生物の発酵による後腸発酵動物です。体温はストレスがない状況下では37.0~37.8度です。

えさ

採食の時間帯は朝夕で、夜間に水を飲み、昼間は木陰や泥地で休息しています。餌は主に木の葉や小枝ですが、草、果実も採食します。200種以上の植物を採食し、タンザニアのンゴロンゴロでは191種、ツアボで102種の報告があります。好みの植物はEuphorbia(トウダイグサ科トウダイグサ属の一年草または多年草)、ビャクダン、高さが1m以内のアカシアなどがあげられます。角で塩の塊を掘り、木の皮をそいで採食もします。1日平均で成獣は23.6kgの樹の葉を採食します。
乾燥した地域では水がなくても4~5間多汁植物から水分を摂り生きることができます。ふつう水場に近い場所に生息し、毎日8~26㎞の距離を水場に通い、あるいは川底の砂場を掘って水を探り出し飲むこともあります。

繁殖

発情周期は約3週間で発情は6~7日続きます。発情すると雌雄共に食欲が減退し、オスがメスの後を追いかけるようになります。一般に決まった交尾期はないと言われますが、ケニアにおける交尾のピークは9月から11月、及び3月から4月でした。また、南アフリカのズールランドでは10月から12月と4月から6月でした。出産は雨期に見られる傾向があります。妊娠期間は平均463日(438~480日)で1産1子です。出産直後の子の体重は27~45kgです。生後4ヶ月齢まで体重は1日平均で1.25kgずつ増量した報告があります。
神戸市王子動物園で繁殖した3回の出産例では、いずれも生後約4時間後に授乳し、一回の授乳時間は4~9分間でした。生後3~4日齢になると動きがしっかりしはじめました。生後20~25日齢迄はもっぱら乳のみですが、その後柔らかい草や草の粉末を食べ始めました。生後30~40日齢で親と同じ餌を採食し始めますが、この間も乳は飲み続けたと、報告しています。
完全に離乳するのは約2歳です。普通は2.5~3.5歳まで母親に依存していますが、メスの子どもは母親に次の子どもが生まれるまで一緒にいます。
角は出産時に生えていず、前角の部位がわずかに膨らんでいます。生後2ヶ月齢で少し採食するようになると、1.5cmほどの角が生えました。後角は前角が10cm位に伸びた生後6~7ヶ月齢に萌芽してきました。
出産は2~5年ごとに見られますが、最も長い間隔としてはアド国立公園の9年6ヶ月の記録があります。メスの性成熟は4~6歳、オスは7~9歳です。飼育下のオスは4.5歳~9歳で初めて交尾をしますが、繁殖に結びつく交尾は6~9歳と考えられています。野生の場合、最初の妊娠年齢は生息密度の差により3~9歳まで幅があり、生息密度が高いほど、また体調が悪いと遅くなる傾向があります。
広島市安佐動物公園では、クロサイの繁殖が順調で、昭和46年(1971年)に来園したメスのハナとオスのクロの間に10頭が生まれたほか、ハナとクロの孫にあたる誕生もあり、合計17頭が生まれています。

長寿記録では次のような記録があります。

  1. 東アフリカで1952年に生まれた個体(オス)が、ヘンリー・ヘリベルトフレドリックTrefflichから1954年7月にニューヨークのセントラルパーク動物園、そして1988年7月13日にデトロイト動物園に移動し、2001年12月5日に死亡しました。飼育期間は47年、推定年齢49歳でした。
  2. 東アフリカで1951年に生まれ、1953年にバーゼル動物園で飼育、1954年にアメリカのコロンバス動物園に移動し、2000年12月18に死亡した個体(オス)は飼育期間は47年、推定年齢49歳でした。

外敵

野生での外敵としては、成獣では病気の個体が、幼獣はまれにライオンやブチハイエナなどに襲われます。

主な減少原因

生息地の破壊はアフリカの全ての動物にとって大きな減少要因ですが、クロサイも例外ではありません。加えて、成獣のクロサイの死亡原因の90%は角を得るための密猟によるものです。1970~1987年に計200,000kgの取引があり、1本の平均重量は2.88kgでした。これらの角はアジアでは薬用に中東では短剣の柄として高額で取引されるために乱獲や密猟が続いてきました。

亜種

クロサイの亜種についてはいろいろな説がありますが、現在は次の4亜種に分類するのがふつうです。このうち④のニシクロサイは絶滅したと考えられています。

  1. ナンセイクロサイ(Dicerosbicornisbicornis/ South-westernBlackRhinoceros)
    ナミビアから南アフリカ西部、南東部に分布しています。IUCN(国際自然連合)発行の2014年版レッドリストでは、亜種として絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。
  2. ミナミクロサイ(D.b.minor/South-centralBlackRhinoceros)
    タンザニア中央部、南アフリカ北部、北西部、北東部に分布しています。ボツアナ、ザンビア、ジンバブエ、モザンビーク、マラウイに再導入されています。亜種としてIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅寸前種(CR)に指定されています。
  3. ヒガシクロサイ(D.b.michaeli/EasternBlackRhinoceros)
    ケニア、タンザニアに分布しています。以前はスーダン南部、エチオピア、ウガンダ、ソマリアにも分布していました。亜種としてはIUCN(国際自然連合)のレッドリストで絶滅寸前種(CR)に指定されています。
  4. ニシクロサイ(D.b.longipes/WesternBlackRhinoceros)
    かつてはアフリカ西部に広く分布していましたが、最後の分布域であったカメルーン北部でも2006年の調査で姿を発見できず、その後も目撃情報はなく絶滅したと考えられています。

データ

分類 奇蹄目 サイ科 クロサイ属
分布 サハラ砂漠以南のアフリカ中南部
体長 300~375cm
体重 800~1,400kg
体高(肩高) 140~180cm
尾長 60cm
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2014年版レッドリストでは、絶滅寸前の状態にあるとして絶滅寸前種(CR)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。
野生の生息数の推移をみると、1980年に15,000頭生息していましたが、1986年に3,800頭、1996年に2,400頭に激減しました。その後、保護政策が功を奏し、国際サイ基金によると徐々に回復しつつあり、2003年に3610頭、2007年に4180頭、2013年に5055頭と徐々に回復していますが依然として危機的な状況にあります。

アフリカにはクロサイのほかにやはり2本の角を持つシロサイが生息しているので簡単に紹介します。

シロサイ

現存するサイの中で最大の種類です。クロサイ同様に角は前後に2本あり、前の方が長く約60cmあり、最長記録では158cmの報告があります。
5種のサイの中では最も社会性に富んでいます。3~4頭の家族で生活し、餌場では6~7頭が集まることもあります。クロサイの子どもは母親の後をついて歩きますが、シロサイの子どもは母親の前を歩くことが多く見られます。

データ

分類 奇蹄目 サイ科 シロサイ属
分布 南アフリカ、スーダン南部、ウガンダ、コンゴ、中央アフリカ
体長 360~500cm
肩高 160~200cm
体重 2,300~3,600kg

シロサイとクロサイの見分け方

クロサイは頭部が小さく、肩に筋肉の塊がないことや、上唇が尖っています。一方、シロサイは長く大きな頭部を支えるために肩にたくましい筋肉の隆起があります。また食性がシロサイは草が主食ですが、クロサイは樹葉が主食なため口の形が違います。クロサイの口は樹の葉を掴めるように上唇が尖っているのに比べ、シロサイは草を噛み切るのに幅広の口になっています。
シロサイは種としては、国際自然保護連合(IUCN)発行の2014年版のレッドリストでは、現在は絶滅の恐れは少ないとしてNT(近危急種)に該当しています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

亜種

シロサイはキタシロサイとミナミシロサイの2亜種に分類されます。
キタシロサイ(Ceratotheriumsimumcottoni)は、絶滅の危機に瀕していて、レッドリスでは亜種としてCR(絶滅寸前種)指定されています。アフリカ公園基金とAfRSG(アフリカサイ専門家グループ)の調査結果によれば、わずかに生存していたコンゴ共和国ガランバ国立公園の4頭も、2007年以来確かな生存の記録がなく、おそらく絶滅した可能性が高いとされています。現在はチェコのドゥブール・クラローベ動物園からケニアの保護施設へ移動された4頭が最後の個体と考えられています。激減の原因はサイの角を目当てとする密猟によるものです。保護策が行き届かないと瞬く間に減少してしまいます。
ミナミシロサイ(Ceratotheriumsimumsimum)は100年ほど前に約50頭でしたが、2010年には20,160頭まで増加しています。亜種としてレッドリストではNT(近危急種)に該当します。

主な参考文献

D.W.マクドナルド編
今泉吉典監修
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今泉吉典・中里竜二 奇蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育4 奇蹄目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
中里竜二 2.世界のサイ In世界の動物 分類と飼育 4 奇蹄目 今泉吉典(監修) (財)東京動物園協会 1984.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parkers, S. P. (ed.) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals volume 4 Mcgraw-hill publishing company 1990
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Weigl, R. Longevity of Mammals in Captivity; from the Living Collection of the World , E. Schweizerbart’sche, 2005 .
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