偶蹄目(クジラ偶蹄目)
偶蹄目(ぐうていもく)の起源は約6,000万年前の始新世下部に北米に出現したディコブネ科でカバやイノシシと近い仲間と考えられています。現生の偶蹄目は3亜目:イノシシ亜目、ラクダ亜目、ウシ亜目(反芻亜目)に分類されキリンはウシ亜目(反芻亜目)に入っています。
今泉吉典先生は偶蹄目の仲間を約81属に分類し、その中にはウシ、ヤギ、ラクダ、ブタなど家畜化され、私たちになじみの多い動物が含まれています。体格でみると熱帯林に暮らすマメジカの仲間は小型で、体長30cm、体重約2kgの種類から、大型動物ではキリンの体高が4~5m、カバは体長約4m、体重2,000~3,000kgになります。偶蹄目は南極大陸とオーストラリア、ニュージーランド以外の地域に広く生息しています。奇蹄目は蹄が奇数でしたが、偶蹄目は名前の示すとおり偶数の指を持ち、その先端は蹄で包まれています。例外的にペッカリーは後肢の指が3本ですが、他の科は2本か4本の指があります。4本の指のうち、第3指(中指)と第4指はほぼ同じくらいの大きさで、第2指(人差し指)と第5指(小指)は属ごとに異なった変化をしています。偶蹄目の仲間は反芻するラクダ科、キリン科、ウシ科、マメジカ科、シカ科、プロングホーン科と反芻しないイノシシ科、ペッカリー科、カバ科の二つに大別することもできます。
最近はDNAの検査や、化石の解析結果からクジラ類が偶蹄目の中でも特にカバと近い関係にあることが判明したので、クジラ目と偶蹄目を統合してクジラ偶蹄目と呼ぶようになりました。そしてこのクジラ偶蹄目はクジラ亜目(類)、カバ亜目(類)、反芻亜目(類)、イノシシ亜目(類)、ラクダ亜目(類)に分類されます。クジラ類はおよそ5,500万年前に陸上から海に入り、当初はまだ4肢もありましたが、その後進化し前肢はヒレにかわっています。多くの哺乳類は息を吸う(呼気)と、気管支を通り左右の肺に入りますが、クジラ目も偶蹄目も右肺に入る気管支が余分にあります。また偶蹄目はくるぶしの骨の両端が滑車のような形(両滑車)をしていますが、初期のクジラの祖先もくるぶしの骨の両端は滑車のようになっていて間接が良く曲るようになっていました。
キリン科
キリン科の特徴は長い首と4肢ですが、頚骨の数は7個で多くの哺乳類と同じです。角は短く大部分を毛の生えた皮膚でおおわれています。顔には分泌腺はありません。上顎の犬歯はありませんが、下顎の犬歯は幅が広く、2葉あるいは3葉以上に分かれています。胃はシカ科と同様に4室に分かれ反芻をします。胆嚢は成獣ではありません。最も古いキリンの仲間は中部中新世(約1600万年前)と上部中新世(約1000万年前)にユーラシアにいたパラエオトラグス(Palaeotragus)です。角はありましたが、頸は短くアカシカ程度でした。
キリン科は原始的なオカピ亜科とキリン亜科の2つの亜科に分類されますが、共に1属1種です。
オカピ
オカピはアフリカのコンゴ民主共和国(以下DRコンゴと表記)北東部の西はウバンギ川、北はウエレ川、東はウガンダの国境とセムリキ川の間に位置するイツリ森林、ウバンギ森林の周辺部に生息しています。生活場所は水辺に近く、餌となる若い木や低木の茂る二次林を好み、大木の下は林冠が閉じて低木が茂らないので避けています。DRコンゴ北東部では標高500~1,000m、また、1956年の報告によれば1,450mのホヨ山(Mt.Hoyo)で観察記録がありますが、標高500m以下やDRコンゴ西部の沼沢林には生息していません。主として夜行性で、単独で生活し、交尾期にだけメスは1頭のオスと一緒にいて、子どもを連れている、と報告されている一方で、2頭の成獣、1頭の亜成獣、1頭の子ども、及び単独で生活するワカモノが同じ場所で生活していた例や、1頭の成獣とワカモノ、1歳児が一緒に食事をしている所も観察されています。また、活動時間はラジオコレクターを装着して調査した結果から昼行性と報告していますが、他の報告では夕方と言う報告もあり、野生での調査報告が少ないためはっきりしません。交尾期が終わると、すぐに雌雄は別れます。
行動圏は平均数km²でオスは広く10.5km²以上、メスと亜成獣は狭いと報告があります。また、ラジオトラッキングの調査結果によれば、繁殖したメスが3.0~5.5km²、オスは15km²で重複していました。発達した嗅覚は排泄物や分泌腺の痕跡からメスの発情情報を嗅ぎ取り、フレーメンを呈します。声によるコミュニケーションは主に母子間で使われ、低周波音を聞くことができます。母親との距離が離れると、ウシの子どもが出すような声やホイッスルに似た鳴き声を頻繁に出し母親を呼びます。社会的なグルーミングも行われ、セルフグルーミングでは舌が届かない耳の裏や頸の一部をお互いに行います。
オカピはその歩き方も変わっていて、普通の動物のように歩き出す時に前肢とは反対側の後肢を前に出す〈斜対歩〉ではなく、キリンやラクダと同じように右前肢と右後肢を同時に踏み出す側対歩という歩行方法で歩きます。
体の特徴
体長(頭胴長)200~210cm、尾長30~40cm、肩高150~180cm、体重はオスで220~300kg,メスで280~350kgです。体重はメスの方が20~50kg重く、背も少し高いところが特徴の1つです。
頸部と4肢はキリンほど長くありませんが、全体的にみると前駆が高くキリンの首を短くしたような体形です。オスは前頭部に約15cmの角が一対後ろ向きに生えていますが、メスにはなく、前額が少し盛り上がっています。角は軟骨性の角心が頭骨と一体化し表面は皮膚で覆われてますが、とがった先端部には皮ふがなく骨が出ていることもあります。また、若いうちは先端には角質の鞘があって抜け替わります。耳介は大きくて幅が広く、長さは約25cmあり縁には毛が生えています。目はキリンと比べると小さく、目と目の間が広く開いていません。尾は短めで先端にある房が小さく踵に届きません。鼻孔の間に溝があり、わずかに鼻鏡が残っています。円柱状の舌は濃い紫色で、多くの乳頭突起があってざらざらして、長さは約50cmあり、口の先端から約30cm伸ばすことができます。舌のつけ根から先端まで伸縮性に富んで餌を絡め取ることができます。この舌で目や耳の他肛門から前方の部位をセルフグルーミングでき、また採食の時小枝を選択します。未成熟の間は頸部の背面正中線に短いたてがみがありますが成長に伴いなくなります。被毛は短く艶があり、体色は頭頂と耳介、及び体は暗い栗色か濃い紫色で、メスは赤味みがかっています。腰の下と前足には黒と白の鮮やかな縞があり、シマウマの肢を連想させます。縞模様は熱帯雨林の森林でカモフラージュになり25m離れると見つけるのがむずかしいとされています。
歯式は、キリンと同じで、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。下顎の犬歯は2葉に分かれ、枝から葉をしごきとるのに適応しています。乳頭数は2対で、鼠蹊部(そけいぶ)にあります。前後肢共に蹄間腺があり、前肢の方がややおおきいです。またオカピの毛皮はビロードに似ており、手触りが良いそうです。
えさ
野生のオカピは森林の上層部の高い木は避け、主に低木林の若葉を食べていますが、その他に苗、果物、シダ、キノコ類も食べます。便の中から落雷によって焼け焦げ木炭が見つかったこともあります。植物の種類は、トウダイグサ科(ユーフォルビア科)、マメ科、キョウチクトウ科、ノウゼンカツラ科、トウダイグサ科、イイギリ科など、野生では100種類以上を採食していると報告されています。塩分やミネラル補強のため硫黄を多く含んだ高濃度の泥を食べることもあります。オカピの餌となる植物にはドウダイグサのなかまが含まれていますが、これは毒性が強く、人間は食べることができません。
動物園では、ブナ科(コナラ、アラカシ、クヌギ、シラカシ)モクセイ科(トウネズミモチ)、モチノキ科、スズカケノキ科(プラタナス)、ヤナギ科、などを与えています。排便場所が決まっており、便状は小さくコロコロしています。
繁殖
飼育下の発情周期は年間を通じて約15日ですが、しばしば不規則となりさらに長くなる時もあります。発情期には前肢にある分泌腺や尿スプレイのよって木に匂いを付着させます。オカピは穏やかな性質でふだんは攻撃的な動物ではありませんが、発情期には荒くなって、攻撃するときには頭(角)で突いたり、肢で蹴ったりして、勝者は頸を伸ばし、敗者は頭を下げ服従のサインを示します。妊娠期間は414~493日、平均すると440日で、妊娠中も交尾が見られることもあります。出産時期は主に8~10月です。通常は1産1子ですが、1978年に1例、双子の報告があります。出産時の新生児の体重14~30kg、肩高は72~83cmです。生れたばかりの子どもは、小さな頭部、短い頸と細く長い4肢で、後頭部から臀部にかけて長さが約4cmある黒色のたてがみが目立ちますが、生後12~14ヶ月齢で消えてしまいます。オスの角の成長は1歳ごろから始まり、3歳ぐらいまでの間に10~15cmになります。新生児の体色はほぼ成獣と似ています。目の周りに偽まつ毛がありますが、生後2週齢頃に消えます。授乳は分娩して20分後にみられ、子どもは生まれて30分後には立ち上がった、との報告例があります。母乳は乳牛の3倍のタンパク質があり、低脂肪です。子どもは生後1~2日間は茂みに隠れていて、母親は子どもが呼んだときにはすぐに戻ります。新生児は生後3週齢で固形物を食べ始め、6週齢で反芻を始めます。生後2ヶ月齢迄は80%を母親と一緒にすごし、ふつうは生後1~2ヶ月齢に初めて排便をし、生後3ヶ月齢には毎日定期的に排便するようになります。新生児の体重は生後約1ヶ月齢の後半に倍になり、2ヶ月齢の終わりでは3倍になります。離乳は生後6ヶ月齢ごろに始まりますが、しばしば1年以上授乳が続くこともあります。母親だけでなく、近くにいる他のメスからも乳を飲みます。3歳ぐらいで成獣と同じ大きさになります。飼育下ではメスが1歳7ヶ月で繁殖し、オスは2歳2ヶ月で種オスとなったとの報告があります。
オカピの長寿記録
オランダのロッテルダム動物園で1976年5月31日に生まれ、2003年12月1日にイギリスのマーウェル動物園で死亡した個体(オス)の33歳6ヶ月という記録があります。
外敵
外敵としては、主に若い個体が稀にヒョウ、サーバルキャット、ゴールデンキャットに襲われます。
主な減少原因
オカピの生息地であるDRコンゴで続く内戦や過度の焼畑農業による生息地の環境破壊が主な原因です。そして、内戦による貧困からオカピの肉や毛皮を狙う密猟が横行していることも減少の原因の一つにあげられます。2012年には、オカピの保護施設が襲撃され14頭のオカピとレンジャーが殺害されたと報告しています。さらに、近年希少金属のレアメタルが発掘されたことで、開発が進んだ結果、森が分断され生息域が減少しています。
データ
分類 | 偶蹄目(クジラ偶蹄目)キリン科 オカピ属 |
分布 | アフリカ中央部 DRコンゴ北東部の熱帯雨林 |
体長(頭胴長) | 200~210cm |
体重 | オス 220~300kg メス 280~350kg |
体高(肩高) | 150~180cm |
尾長 | 30~40cm 房毛を除く |
絶滅危機の程度 | 個体数は減少傾向にあり、2013年には国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで近危急種(NT)から絶滅の危機が高い種として、絶滅危惧種(EN)に引き上げられました。生息地が深い森林のため正確な野生個体数ははっきりしませんが、10,000~20,000頭と推定されています。オカピはワシントン条約の付属書に含まれていませんが、DRコンゴ国内では国のシンボルとして完全に法律で保護はされています。 オカピは発見当初から珍獣として扱われ、世界中の動物園で飼育している個体を血統登録して合理的に繁殖を目指しています。日本には1998年に初めて横浜市金沢動物園に導入後繁殖に成功し、2014年12月1日現在、金沢動物園、横浜ズーラシア、上野動物園の3園で10頭を飼育しています。 |
主な参考文献
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
Bodmer, R.E. and Rabb,G.B. | Mammalian Species. No.422, Okapia johnstoni. The American Society of Mammalogists. 1992. |
今泉吉典 (監修) | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
D.A.マクドナルド編 今泉吉典 (監修) |
動物大百科 4 大型草食獣 R.A.ペルー著 オカピ 平凡社 1986. |
今泉吉典 | 偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ(財)東京動物園協会 1977. |
葛西宣宏・田島日出男 | オカピを迎えるまで どうぶつと動物園 Vol.53.No.9 (財)東京動物園協会 2001. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parkers, S. P. (ed.) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals volume 4 Mcgraw-hill publishing company 1990 |
竹内ひろし | オカピの検疫に付き添って どうぶつと動物園 Vol.53.No.9 (財)東京動物園協会 2001. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals,Lynx Edicion. 2011. |