キリン科
キリン
かつてはアジア各国に生息しており、日本にも洪積世前期(約100万年前)の化石が出土しています。現在は、サハラ以南のアフリカで低地から標高2,000mに及ぶ高原で生活し、泥湿地帯や深い森林以外の乾燥した草原や半砂漠、アカシアがまばらに生えているような疎林地に群れで生活しています。群れは1頭の成獣オス、2~3頭の成獣メス、およびその子どもから構成され、10~15頭以上の群れはめったにいませんが、これらの群れが何組か集まって数十頭になることもあります。ふつう年取ったオスは単独か2~3頭で生活します。群のメンバーは一定していなくて、結びつきはゆるやかで、24時間群れの構成が変わらないのは極まれです。群れはシマウマやレイヨウの仲間と一緒にいて、外敵となる肉食獣の接近をいち早く察知します。昼行性で日中の暑さが厳しいときは木陰に入り暑さをしのぎ休息しています。採食は早朝と夕方にそれぞれ約3時間採り、夜間にも採食しその割合は月明かりに左右され、暗い夜では22.4%に対して、明るい夜では33.6%という報告があります。反芻は休息中に行っています。乾燥には強いですが、通常は3日に一度ぐらい定期的に水のみ場を訪れます。近くに水場がない場合は、水分は採食する植物から補えるので、数週間ぐらい飲まなくとも平気です。睡眠は起立した状態で微睡(まどろみ)、安全が確認されれば、2~3時間座って休息することもあります。飼育下では、外敵からの脅威がないため完全に横臥して休息する姿が、ごくまれに観察されています。泳ぐことはできないと考えられ、川や湖及び生活場所として利用しない深い森や湿地帯は生息域の境界線となり、亜種判定の要件にしています。行動圏はオス、メスともに重なり合い25~160km²と生息地により違います。オスはなわばりを持たず,順位は背比べで背の高い個体が優位となります。メスにも順位制がみられますが、気に入った採食場で劣位のメスが場所をゆずるぐらいのことに限られています。
若いオスたちには、ふつう“ネッキング”と呼ばれる儀式的行動が見られます。2頭が平行に並び、首をゆっくりと振ってからませ体で押し合い優劣を決めるための儀式的なもので激しい争いになることはありません。しかし、発情中のメスを巡って成獣オスが交尾権を得ようとする場合、本格的な闘いになります。互いに相手の体に頭をぶつけあう激しいもので数時間に及び、時にはどちらか一方が死ぬこともあります。メスの頭骨は2.5~5kgに比べ、オスの頭骨の重量は8~14kgもあり、頸を大きく振り回し遠心力を利用して相手の頸部に叩きつける攻撃は相当な威力となるでしょう。大きな骨化した頭部はオス同士の闘争のときに脳を保護するために発達したものと考えられています。
水を飲んだり地上の餌を食べる時は、首と前足が長いために頭を下げるだけでは口が地面に届かないので、前足を大きく広げたり、ときには前足を軽く曲げたりしなくてはなりません。このような姿勢はキリンにとっては外敵にたいして全く無防備になるので、周囲に細心の注意を払います。体の高さにくらべて胴の長さが短く、前足と後足の間が狭いため、歩く時は同じ側の前足と後足を一緒に出す側対歩(そくたいほ)という歩き方します。最高時速は56kmで走ったとの報告があります。キリンは鳴かないと言われていましたが、現在は親子や個体間で低いウシのような声やブウブウ声、笛を吹くような声を交わしている、と報告されています。
体の特徴
オス | メス | |
体長 | 380~470cm | 300~350cm |
体高(肩高) | 260~350cm | 200~300cm |
角の先端までの高さ | 470~530cm | 390~450cm |
最大のものでは、オスで588cm,メスで517cm | ||
耳長 | 20~25cm | 20~22cm |
尾長 | 80~100cm | 75~90cm |
体重 | 970~1400kg | 700~950kg |
最も重い体重は、オス 1930kg、メス 1180kg |

ケニア、マサイキリンの親子。うしろでお母さんがしっかり見守っています。写真家 大高成元氏撮影
現存する動物中最も背が高く、後肢にくらべ前肢が長いため、首を伸ばすと頭頂から腰にかけて著しく傾斜した体形となります。前後肢共に第1指、2指、5指は退化し第3指(中指)と第4指(薬指)が蹄となっています。蹄の長さは25~30cm、幅は15~20cmあって敵に襲われた時に身を守る武器にもなります。
体にはオレンジ色がかった茶色から黒色まで様々な斑紋があり、大きさや形、色、あるいは前後肢の部位によって亜種検索をするときの指標のひとつになります。体色は年齢とともに変化しますが、斑紋の形は一生変わらないため個体識別に利用されています。木陰に入ると木の幹や枝、さらにそれらが作る明暗の中に溶け込んでしまい、外敵にたいするカモフラージュの役目を果たします。後頭部から肩にかけて濃い褐色のたてがみが生えています。毛の下の皮膚は灰色がかった色をしています。
角は雌雄共にあり、皮膚の下に骨のかたまりができ、それが伸びて頭の骨についてできたもので、毛の生えた皮膚で被われています。頭頂部にある1対の長めの角は主角と言い、全てのキリンにあり、先端には黒い房毛が生えています。オスの角は大きくて先端の房毛がなくなっている場合もあります。角の数は生息地により2本から5本まで違いがあります。
耳介は比較的小さく幅がせまくて尖り良く動き、聴覚がすぐれています。目は大きく顔の横に突出るようについているため周囲がよく見えます。視力もよく1kmぐらい離れた仲間を見分けることができ、色も赤、橙、黄緑、緑、青、紫を区別できます。黒く長いまつ毛があり、目を保護しています。
頸の長さは2~2.5mあり、鼻孔は自由に閉じることができ、鼻鏡はなく上唇は垂れ下がりよく動きます。しなやかな舌は青紫色で長さが40~45cmあります。
反芻動物で4室に分かれた大きな胃をもち、第1胃内には無数の微生物がいて、その働きで消化しにくい植物の繊維を利用しています。外見から長い頸を胃から吐きもどしたかたまりがゆっくりと口へ移動するのが観察できます。
歯式は門歯(切歯)0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。上額の門歯と犬歯はなく、門歯の部分の歯肉が厚くて硬くなっています。下額の門歯は幅広で縁が鋭く犬歯も平たくて広い咬合面を持ち、中央に裂け目があって2葉または3葉に分かれ、木の枝から葉を切りとり、しごいて食べるのに役立っています。臼歯は四角く頑丈で、固い植物をすりつぶすのに適しています。乳頭は2対鼠径部(そけいぶ)にあります。前後肢共に蹄間腺はありません。
えさ
主食は木の葉や若芽ですが、その他に草や木の実、花、果実、草なども食べます。最も好んで食べるのはマメ科のアカシア属、オジギソウ属、シクシン科のコンブレツム属などで蛋白質とカルシウムに富み骨の形成に役立っていると考えられています。季節により移動しながら100種以上の植物の中から最も栄養価の高いものを選び採食しています。1日のうち採食についやす割合はオスでは約43%、メス約55%で、採食量はオスで約70kg, メスでは約60kgと報告されています。
雌雄で背の高低差が大きくオスは頭と頸を真上にあげ約6mの高さの木の葉を採食するのに比べ、メスは水平に伸ばして届く高さの葉を食べます。このようにして、餌をめぐるオスとメスの競合が回避されています。
繁殖
キリンには決まった繁殖季節はなく、出産は一年中みられますが、乾季に多い傾向があります。発情は1~3日間続き、この時に妊娠しない場合は通常約1ヶ月ごとに発情を繰り返しますが、2週間ごとに発情がくるという報告もあります。オスは発情しているメスを見つけると寄り添い、メスの陰部や尿の臭いをかいで、上唇をめくり上げ歯をむきだしにしてフレーメンを呈します。妊娠期間は420~468日、平均457日です(多摩動物公園の記録では430~450日という報告があります)。妊娠8~10ヶ月で腹部のふくらみが顕著になり、陰部の腫れもはっきりしてきます。ふつう一産一子ですが、まれに双子の例もあります。野生では東トランスバールで双子の死産が観察されています。飼育下での双子の例は、これまでにカナダのアフリカ・サファリパーク(1975年)他数例あります。
野生では妊娠したメスは群を離れて、長い間使われてきた決まった場所で出産することが知られています。このような場所では子ども同士の群を見ることができます。セレンゲティ国立公園で生れた89頭の子どもうち、特定の出産場所以外で生れたのは、わずかに5頭であったといわれています。キリンは起立したままで出産するので、子どもは約2mの高さから、頭を下にして生み落とされますが、長い体が弓なりになって落ちてくることと、大切な頭部はこの時に地面近くにまでさがっているので、大きなショックはないようです。新生児は30分から1時間後に立ち上がり、初めて母乳を飲むのは生後約1時間30分、4肢がしっかりするのは生後1週間くらいかかります。生れた時の体重は50~70kg, 頭頂までの高さは約1.8mです。親にくらべると頭胴長に対して首の長さが短く、成長するにつれて変化してゆき、相対的に首の長さが増してゆきます。角はありますが、まだ頭骨にはついていず、前の方に倒れていて、生後1週間くらいでまっすぐ立ち上がります。体にはすでに斑紋があり、親にくらべるとやや薄い色をしていていますが、形は一生変わりません。生後1週間ぐらいの間、母親は子どものそばを離れず、外敵が近づくのを非常に警戒しています。生後1~2週間たつと、母親は朝ミルクを与えた後、子どもを安全な場所において採食に出かけます。この時に残された子どもは集まって小さな群れをつくり、その場所をほとんど動こうとしません。生後2~3週たつと木の葉を食べ始め、多摩動物公園の観察によれば生後1ヶ月齢で反芻をはじめる、と報告しています。生後6ヶ月齢で子どもだけの群から離れて、おとなのメスと行動を共にし、生後9ヶ月齢から10ヶ月齢で離乳します。その後、メスの子どもは母親の行動圏内で暮らし、オスは若いオスだけの群に入り、3~4歳で生まれた場所を離れます。性成熟はメスが3~4歳ですが、実際に妊娠可能になるのは5歳ぐらいです。オスの性成熟は4~5歳ですが、成長は8歳くらいまで続き、この頃になると交尾をするチャンスが巡ってきます。
外敵
最大の天敵はライオンで、オスのキリンさえも襲います。クルーガー国立公園で、25年以上にわたって調査したところによると、675頭の犠牲のうち、チーターとワニによるものがおよそ0.6%で、その他はすべてライオンであった、という報告があります。他にヒョウ、リカオン、ハイエナなどは子どもを襲います。セレンゲティ国立公園では生後6ヶ月以内に子どもの50%が死亡した、と報告しています。
長寿記録
野生では20年から25年といわれていますが、アメリカのマイアミにあるクランドンパーク動物園のアミメキリン(メス)は、1958年10月20日に来園、1981年1月15日にマイアミメトロ動物園へ移動し、1995年11月26日に死亡しました。飼育期間は37年1ヶ月になりますが、1956年5月頃に生れたと推測されるので、死亡時の年齢は推定39歳6ヶ月になります。
また、はっきり生まれた年がわかっている例では、オーストラリアのパース動物園で、1937年4月に生れたメスが、1973年6月26日に死亡しています。この時の年齢は36歳2ヶ月でした。
主な減少原因
人口増加に伴い生息地を農地とするため開発した結果生息地が減少したこと、及び密猟が主な原因とされています。
亜種
9~12亜種に分類されますが、日本で飼育されているのは次の2亜種です。
- アミメキリン Reticulated Giraffe Giraffa camelopardalis reticulate
ケニア山の北斜面からエチオピアの東南部にかけて - マサイキリン Masai Giraffe Giraffa camelopardalis tippelskirchi
ケニア山の南斜面からキリマンジャロ山、タンガニーカ中央部まで
データ
分類 | 偶蹄目(クジラ偶蹄目)キリン科 キリン属 |
分布 | アフリカ サハラ砂漠以南のサバンナ |
体長(頭胴長) | オス380~470cm メス300~350cm |
体重 | オス970~1400kg メス700~950kg |
体高(肩高) | オス260~350cm メス200~300cm |
尾長 | オス80~100cm メス75~90cm |
絶滅危機の程度 | 最近の調査によると約10万頭が生息し、地域によっては減少しているものの、分布域が広いことからさし迫って絶滅のおそれは少ないと判断され、IUCN(国際自然保護連合)は2014年版のレッドリストでLC(低危険種)に指定しています。しかし、ウガンダとナイジェリアの亜種は生息数の減少から絶滅のおそれが非常に高いとして、絶滅危惧種(EN)に指定されています。 |
主な参考文献
Dagg, A.I. | Mammalian Species No.5 Giraffa Camelopardalis The American Society of Mammalogists 1971 |
D.A.マクドナルド編 今泉吉典 (監修) |
動物大百科 4 大型草食獣 1986 |
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
今泉吉典 (監修) | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 | 偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ(財)東京動物園協会 1977. |
川口幸男・中里竜二 | 動物園 [真] 定番シリーズ⑤「キリン」 監修 エレファント・トーク In キリンの基礎知識 CCRE 2008. |
近藤忠男著 | 多摩動物公園のキリン In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ(財)東京動物園協会 1977 |
前田由里香 | キリン どうぶつと動物園 Vol.56 No.11 (財)東京動物園協会 2004 |
西木秀人著 | アミメキリン どうぶつと動物園 Vol.41 No.7 (財)東京動物園協会1989 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Weigl, R | Longevity of Mammals in Captivity; from the Living Collection of the World , Vertriebsverlag. 2005. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals,Lynx Edicion. 2011. |