No.169 イボイノシシ – おもしろ哺乳動物大百科 114 偶蹄目(クジラ偶蹄目)イノシシ科

イノシシ科おもしろ哺乳動物大百科偶蹄目(クジラ偶蹄目)ペットコラム

イノシシ科

偶蹄目の中では原始的な仲間で、アメリカ大陸にすんでいる仲間はペッカリー科、アフリカ、ヨーロッパからアジアに生息する仲間をイノシシ科の2つに大別しています。ペッカリー科は2属3種、イノシシ科は5属9~13種に分類され、日本には(ユーラシア)イノシシの亜種が本州以南(ニホンイノシシ)と南西諸島(奄美大島、沖縄、石垣島、西表島―リュウキュウイノシシ)に生息しています。
イノシシ科はイノシシ属、カワイノシシ属、イボイノシシ属、モリイノシシ属、バビルサ属の5属9~13種に分類されます。共通する特徴の1つは鼻端が円盤状になっている点です。また偶蹄類と称されるように蹄の数は前後肢ともに4本ですが、着地する蹄は前後肢共に第3指と第4指(中指と薬指)です。第2指と第5指は側蹄(または副蹄)といいふつうは地面につきませんが、坂道を登るとき滑り止めの役割を担い足跡がしっかり残ります。同じ側蹄でもシカの仲間は小さく坂道を登る時にも足跡は残りません。
上顎の門歯はイノシシ属とカワイノシシ属では3対ですが、バビルサ属は2対、イボイノシシ属とモリイノシシ属では1対です。イノシシでは犬歯は上下共に牙となっています。頬歯(前臼歯と臼歯)の咬合面は円い隆起が数個あり丘歯といます。隆起の部位は硬いエナメル質で、硬い草を採食するのに適応しています。消化器は偶蹄目のウシ科、シカ科、キリン科など進化の進んだ種類では胃が4室に分かれ反芻しますが、イノシシ科では胃は1室で反芻をしません。
なお、イボイノシシ属は1種に分類していましたが、最近の研究では歯式が違う点と生息域が違う点でサバクイノシシを別種として2種に分類する研究者がいます。

イボイノシシ

アフリカのサハラ以南、西アフリカから東アフリカ、さらには南アフリカにかけて、熱帯降雨林を取り囲むように、サバンナ疎林とサバンナ草原に広く分布しています。
森林と厚い下草のある場所は避けて開けた草原で生活し、昼行性で活動時間帯は早朝と夕方が多く、暗くなる前に巣穴に入り眠ります。母系集団で基本的な群れ構成は、1頭のメスと2歳までの子どもで通常5頭ほどです。これらの家族がいくつか集まりバンドを作り、さらにバンドが集まるときは血縁関係のない単独オスや群れから出た亜成獣も加わりクランと呼ばれる多数の集団をつくることがあります。亜成獣のグループから完全に成獣になった個体はふつう単独生活をします。行動圏は平均1.74km²(0.64~3.74km²)、1日の平均移動距離は約7kmの報告があります。ハイエナやライオンに襲われて逃げる時、ふだんならば、だらりと下げている尾をピンとあげ、一列に並んで逃げます。尾をあげるのは仲間への警戒の合図とも考えられ、最高時速55kmで走るといわれています。シマウマやヌー等の大型の草食動物と一緒に過ごすことで外敵の接近を察知しています。群れをつくらず子育てを母親だけで行うイボイノシシは、あの手この手で弱い子どもたちを守ります。休憩するときは自分が掘った巣穴や、岩陰の隙間、他の動物、とくにツチブタが捨てた空の巣穴を利用して休みます。巣穴は草原に何ヶ所かあり出産時の隠れ場所としても使い、中に入るときは臀部から入り、もし外敵が狙ってきたら牙で対抗して身を守ります。子どもを持ったメスは気が荒く牙を向けて突進するときもあります。暑い日には水場で転げ回り、水浴や泥浴をしますが、寄生虫を落としたり体温を冷やしたりする効果があります。独特な行動として、ジサイチョウやシママングースの巣穴に行き、かれらにダニや寄生虫をとってもらうためにグルーミングをしてもらうのが観察されています。乾季の数ヶ月間は水分の多い地下茎や球根を食べて水を飲まずに過ごします。子どもの死亡率は生後1歳までに肉食獣による捕食や他の原因で50%以上の地域もあります。
コミュニケーションは、泥浴び時の排尿以外とくにオスは額線を木にこすりつけて行います。この他押し合いや牙を使って闘争することもあります。

体の特徴

頭胴長 オス 125~150cm メス 105~140cm
体重 オス 60~150kg メス 50~75kg
尾長 35~40cm
肩高 55~85cm

泥浴びは至福のとき、子どもが背中でまどろんでいます。写真家 大高成元氏撮影

首は短く、頭部は大きくて、目の下側と牙の後ろには大きなこぶ状のイボがあるので他のイノシシの仲間と容易に識別できます。イボイノシシの名前の由来になっているこのイボは厚い皮膚と軟骨で出来ていて、特にオスで発達して約15cmあります。体色は全体に灰褐色で、頭頂部から背にかけて黄色がかったたてがみあります。日本のイノシシと比べると、足が長く筋肉質で一回り小型です。オスの目の周囲はハーダー腺からの分泌液によって黒ずんでいます。鼻は頑丈で穴掘りの他にも本来の役割である嗅覚に優れています。オスの牙(犬歯)は長く先端がエナメル質で被われて上顎で25~30cm、最長で67cmの記録があり、闘争時に武器として使います。メスは短く15.2~25.5cmです。上顎の犬歯ははじめ外側に向かって、続いて後上方に曲がって伸びます。歯式は、門歯1/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯3/3で合計34本です。ただし、サバクイボイノシシは上顎の門歯を欠き、下顎の門歯も欠如するか2対しかないので合計26~30本になります。乳頭は腹部に2対あります。

えさ

草食を主食とする雑食性で、草、根茎、茎の他に、果実、木の実、種子、葉、カヤの根、コケ、キノコ、ミミズ、カニ、タニシ、昆虫の幼虫、カエル、ヘビ、鳥の卵、時には腐肉を採食します。乾季には堅い地面も頑丈な鼻先と肢で掘り起こして地下の根も採食しますが牙は使いません。犬歯は草の茎を巻きつけて引き抜きぬくのに使われます。他のイノシシに比べ動物質の採食率は低いと見られています。採食姿勢は独特で、前肢が長いためひざまずいて採食します。着地する部位は皮膚が硬化しパッド状となり手首を保護しています。
かつて上野動物園で飼育していたイボイノシシは折れた牙をコリコリと音を立てながら採食していた、との報告があります。

繁殖

赤道周辺では1年中繁殖が可能ですが、他の地域では繁殖期は決まっていて、通常は乾季の初めに発情し、雨季の初めに出産のピークを迎えます。例えばジンバブエでは発情期は5月と6月で、出産は10月と11月にピークとなり、アフリカ南部では出産のピークは11月から12月にみられます。発情したメスは排尿回数が増加し陰部の腫脹が見られ、発情は3日間ぐらい続きます。オスは発情したメスの後をついてまわり、陰部の匂いを嗅いだりします。オスは発情したメスの間を歩き回り、複数のメスと交尾し、メスも1頭以上のオスと交尾します。繁殖のためにオスがメスを巡って争うこともあり、その場合は牙を使ったり、体当たりし合ったりして勝敗を決めます。妊娠期間は150~175日です。産子数は1~8頭でふつうは2~3頭で、子どもの体重は400~900gです。生まれたばかりの子どもはニホンイノシシのような「ウリ模様」がなく、親と同じような体色をしているのが独特と言えます。出産後1週間を母親は子どもと過ごし、3~6週齢では1日の哺乳回数は12~17回で、約40分おきに哺乳しました。子どもは巣穴を変えるときと遠出するとき以外、6~7週間は家族から離れて巣穴で過ごします。母親は、出産後1週間はめったに巣穴を出ず、数週間は採食量がふだんより少量となります。子どもは固形物を2~3週齢で採食し始めますが、哺乳は生後4~6ヶ月齢ころまで続きます。雌雄ともに1.5歳で性成熟しますが、オスが実際に交尾可能になるのは4歳ころになります。
飼育下の長寿記録としては、南アフリカのプレトリア動物園で1931年9月8日に生まれ、1952年7月24日に死亡した個体(メス)の20歳10ヶ月という記録があります。・・・

外敵

人間以外に、ライオン、ブチハイエナ、ヒョウ、リカオン、アフリカクマタカ、ナイルワニ等が挙げられますが、ハイエナが主な外敵となります。成獣より幼体が頻繁に狙われます。

4亜種に分類されています。

P.africanus. africanus africanus Gmelin,1788 サバンナ北部とサヘル地域(サハラ砂漠南縁部の半乾燥地帯);モーリタニアからエチオピアまで
P.a. aeliani Cretzschmar,1828 エリトリア、ジブチ、ソマリア北部
P.a.massaicus Lonnberg,1908 アフリカ東部からアフリカ中央部
P.a.sundevallii Lonnberg,1908 南アフリカ北部一帯

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目) イノシシ科 イボイノシシ属
分布 アフリカ サハラ以南:西はセネガル、モーリタニアから東はエチオピア、南は南アフリカ北部まで。
体長(頭胴長) オス 125~150cm メス 105~140cm
体重 オス 60~150kg メス 50~75kg
体高(肩高) 55~85cm
尾長 35~40cm
絶滅危機の程度 かつては開発による生息地の減少、狩猟圧、牛疫の流行により生息数が減少した地域もありましたが、現在は保護区内でも生息数は安定しています。そのために、IUCN(国際自然保護連合)発行2014年版のレッドリストでは、現在は絶滅の危機は少ないとして、LC(低危急種)になっています。

主な参考文献

Estes, R.D. The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
D.A.マクドナルド編
今泉吉典 (監修) R.A.ペルー(著)
動物大百科 4 大型草食獣 平凡社 1986.
今泉吉典 偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ(財)東京動物園協会 1977.
西山登志男 イボイノシシの飼育 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
中川志郎 キバを食べるイボイノシシIn世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ(財)東京動物園協会 1977
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 5, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
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