オナガザル科 マカク属
ブタオザル
東南アジアとその周辺の島々にすんでいます。生息域は熱帯雨林の低地から高地まで、海岸から内陸の森林まで幅広く生息しています。北方系と南方系の2つに分けることもあり、ミャンマーのイラワジ川上流やアラカン山脈の標高およそ2000mにすんでいる北方系の個体は大型で冬の寒さにも対応できます。ミャンマー南部、マレー半島、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島とその周辺の島々の南方系の個体はやや小型になります。体型や顔つきも生息地によって多少異なり、それらを細かく亜種に分ける学者もいます。
昼行性で、成獣の雌雄と母系家族の混成で多くは20頭前後ですが、50〜80頭の群れもいます。地上、樹上の双方を利用していますが、地上生活が多く、外敵に追われると走って逃げます。遊動域はおよそ7kmで、1日に1〜3km前後を遊動します。
からだの特徴

子どもと一緒で幸せそうですね。写真家 大高成元氏撮影
南方系の個体は、全体的にオリーブがかった褐色で頭部に黒い毛の房か、黒くウマの蹄状の部位があり、頭頂部から背に沿って黒くなっています。北方系の個体は、金褐色で、腹部と脇腹は色が淡くなっています。南方系、北方系ともに尾は背のほうにクルリと回りブタの尾に似ています。この特徴がブタオザルの命名の由来です。
オスの体重は6〜15kg、メスは5〜11kgと雌雄及び生息地による性差があります。北方にすんでいる群れは、毛が長く、尾や顔に毛が生えていて、手足が短くてずんぐりとした体型ですが、南方系では、顔や耳、尾には長い毛が生えていません。
頬には頬袋があって一時食べ物を蓄えておくことができ、また雌雄共に尻だこがあります。4肢に5本ある指の爪はすべて平爪で、親指は他の4本の指と対向しており、物をつかんだり、握ったりできます。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯はメスより長くて強力で、性差が顕著です。
えさ
野生時は植物質が主食で果物が75%を占めた、と報告例があります。この他に昆虫などの無脊椎動物、木の芽、葉、茎、根、キノコ、などを食べており、雑食性です。
繁殖
交尾期は決まってなく年中見られますが、1月から3月にやや多くなります。妊娠期間は約170日、1産1子で、稀に双子が生まれます。出産間隔は18〜24ヶ月で、赤ちゃんの体重は400〜500gです。最初の1年間は母親が抱いて、授乳、移動、保護しています。他のメスたちも育児を手助けしますが、順位の低い母親は高い母親の赤ちゃんを抱いていると、攻撃される頻度が少なくなるため競って赤ちゃんを取り合うことがあります。
子ども時代は3歳半まで続き、メスの子どもはその群れに留まりますが、他の群れに入る個体もいます。メスの性成熟は3歳、発情中はお尻が赤く腫脹し肥大します。オスの性成熟は3.5〜4歳です。長寿記録としては、京都市動物園で1956年5月11日に生まれ、1994年1月2日に死亡した37年7ヶ月の飼育記録があります。
天敵
生息域によって違いますが、一番の外敵は人間です。そのほか、大陸では、トラやヒョウ、ウンピョウなどのネコ科動物が、大型のヘビはどこの生息地でも外敵となります。
絶滅に瀕した原因
森林を伐採し、材木として搬出、あるいは農地や住居に転換した結果、生息域が大幅に縮小したことが大きな要因の一つです。この他にも食料やペットにするために捕らえており、国や保護団体は狩猟の禁止や、保護区の住民に対し、森林保護の重要性を理解するように働きかけています。
絶滅危機の程度:国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定され、絶滅が懸念されています。
データ
分類 | 霊長目 オナガザル科 |
分布 | インドネシア、マレーシア、インド、タイ、バングラディシュ、中国、ミャンマー、カンボジア、ボルネオ島及び周辺の島々。 |
体長 | オス50〜60cm メス45〜55cm |
体重 | オス6〜15kg メス5〜11kg |
尾長 | オス・メス 15〜25cm |
主な参考文献
伊谷純一郎 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社1968 |
Lang, K.C. (Reviewed by Maestripieri, D.) |
Primate Factsheets: Pig-tailed macaque(Macaca nemestrina ) Taxonomy,Morphology,Ecology, Behavior & Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2005 |
Nowak , R.M. | Walker’s Mammals of the World Six Edition The Johns Hopkins University Press ,Baltimore 1999Parker ,S.P. (ed.) |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
杉山幸丸 編 | サルの百科 データハウス 1996 |
安間繁樹 | ボルネオ島 アニマル・ウォッチングガイド 文一総合出版 2002 |