No.145 へびの話 2013年

干支にちなんだ話ペットコラム

新年明けましておめでとうございます。

2013年もまた皆様の御健勝を心からお祈りいたします。

正月の恒例となりました『おもしろ動物大百科』の番外編として、今年の干支『ヘビ』にまつわる話題を紹介します。ヘビは世界中の人々から古代より注目されてきた動物で神話やさまざまな宗教の中にも登場します。

神話に登場するヘビ

日本最古の歴史書として有名な日本書紀(720年)と古事記(712年)は皆さんよくご存じと思いますが、この中にヤマタノオロチ神話が載せられています。この話は島根県出雲地方を題材にした巨大な大蛇(オロチ)を退治する物語です。

このオロチは途方もなく大きく八つの頭と八つの尾をもち、体には苔や杉、檜が生え、長さは八つの谷にまたがり、八つの山をこえるほどでした。オロチは肥の河(現在の斐伊川)に住んでおり、ときどき暴れて水害をもたらす困った神様で毎年生贄(いけにえ)として娘を差し出していました。そこで暴れ者の豪傑スサノオノミコト(スサノオの命)という神様に退治させ、度重なる災害から村々を守る物語になっています。この神話を題材にした本はたくさん出版されているのでお子様たちにご一読をお勧めいたします。

頭が複数あるヘビの物語は日本以外にもあり、インドでは5個の頭をもつヘビの物語、マダガスカル島のインドネシア系の住民の間には、7つの頭をもつ大蛇が酒を飲み、死んだ後に山のようになったという話などがあります。いずれの話も、古代の人々はヘビを恐れ、神聖化して崇めていました。実際には、双頭(頭が2個ある)のヘビは世界各地で生存が確認されていますが、5個や8個の頭部をもつヘビは物語の中だけでしょう。

ヘビは人間に役立っているのでしょうか

1)ペットで人気上昇中

ヘビを怖いと思う人々が多いのは確かですが、最近ではペットとして無毒で小型のヘビを飼う愛好家もいます。ミルクヘビなどは世界的に人気の高い種類ですが、帰宅すると足音で飼い主がわかる個体もいるそうです。国内では残念ながら人々の多くはヘビを怖いと思っているので、ペットとして飼う場合、同居している方や周囲の方々の十分な理解が必要です。動物病院も爬虫類を診療する医院は限られていますから、予め健康診断を受けて健康時のデータを記録しておくと良いでしょう。病気になった時、比較して診断できます。

本土に生息する美しい毒ヘビ、ヤマカガシです。写真家 大高成元氏 撮影

ミルクヘビはアメリカに広く生息し、地域によって大きさや体色に違いがあります。体長は50~200cmで白または黄色、黒、赤の三色の模様をもった美しいヘビです。名前の由来は、ウシやヤギの乳を飲むため大切な家畜の乳が出なくなったと汚名を着せられた結果のようです。もちろんヘビはミルクを飲みませんし、それどころか家畜の納屋に住むネズミを食べるために侵入した益獣なのにとんだ濡れ衣です。
すべての毒ヘビと無毒でも大型のアナコンダやニシキヘビ他いくつかの属は特定動物(人の生命、身体又は財産に害を加える恐れがある動物として政令で定める動物)に指定されており、飼養又は保管しようとする場合は、都道府県知事、政令市の許可が必要となりますので注意してください。

2)古民家の守り主

ネズミを主食とするアオダイショウは春から秋までの活動期に成体ならば1頭当たり100頭以上も食べるそうです。古来より日本の住宅は木造住宅が多く、アオダイショウは天井裏に通じる1~2cmの隙間があれば入り込んでいました。一方、彼らの主食となるネズミも同じくらいの隙間があれば潜り込めるので、アオダイショウが1頭いれば、天井裏や蔵に忍び込んでくるネズミはたちまち餌食となります。そのため、地方によってはフクムシ、あるいは守り神とも呼ばれて大切にされていました。

暖かくなりアオダイショウが活動する季節になっても、毎晩ネズミが天井裏で運動会のように駆けっこをしていると、アオダイショウがいなくなったと察した家主は、わざわざ捕まえてきてそっと天井裏や蔵に放したと言います。しかし、近代建築になり住宅はネズミが入り込む隙間がないとヘビも住めなくなります。ヘビが苦手な方は退治をするのではなく、餌となる動物を住まわせないことです。

3)人々の貴重な食料や革製品の利用

以前ラジオを聞いていたところ、タイの方からの電話で『先日、家の中にヘビが入ってきて家族がみんなで大騒ぎでした』と話していました。アナウンサーが、それは大変でしたね。それでどうしましたか、と尋ねると、『お父さんが捕まえて、夜みんなで食べて美味しかった』と話していました。

ヘビが多く住んでいる地方では貴重な蛋白源で、料理店ではメニューに載っていますし、家庭でも料理し、また干物にして保存食として年中食べる地域もあります。原産地でニシキヘビやアナコンダなど大型のヘビも捕えることができれば貴重な食料になることでしょう。私も半世紀も前ですが、おじいさんがマムシを捕り、串に刺して囲炉裏でカリカリに焼いたものを少し食べた記憶があります。

アジアや南米などヘビが生息する地域ではスープ、から揚げ、あるいは炒めるなどして食べており、また毒ヘビは薬用としても使われています。この他、ヘビ革製品はハンドバック、バンド、服などに利用されているのはご存じのとおりです。

4)ヘビ毒の利用

ヘビ毒には2種類のタイプがあり、1つは神経系に作用する神経毒と、もう一つは循環器系に作用する血管毒があります。いずれの種の毒にも複数の毒素成分がふくまれていますが、神経毒をもつ熱帯産のガラガラヘビは、その一つにニュートロキシンがあり、神経からとくに横隔膜や呼吸に関係する筋肉に伝達する経路を遮断する作用があります。マムシやクサリヘビの毒素成分は白血球溶解素やプロテオリジン、血液凝固阻害成分などで血液の溶血作用があります。さらに、コブラやウミヘビのように両方の毒を併せ持つ種類もいます。

多様な毒成分がどのように作用しているか解明することで人間の病気の治療に応用しています。たとえば、ヘビ毒成分の一部は高血圧症薬、鎮痛薬、抗凝血薬、抗ウイルス剤として、また心血管疾患や神経系のパーキンソン病、視神経疾患他多くの疾患に活用されています。

今後も主に免疫学、生理学や生化学などの分野では、さらに毒の成分の解析や作用について基礎的な研究を進めることが期待されています。

巨大なヘビの記録

いまから20~30年も前の話ですが、体長10mのヘビを見つけたら懸賞金1000万円支払っても良い、と言う話がテレビ局であったそうです。動物ギネスの記録によれば過去の最大記録としてアミメニシキヘビとアナコンダについて10~11mの記録を載せています。私も最大の動物には興味津々なので、2002年にスマトラ島で体長15m弱の巨大なニシキヘビが見つかり動物園で飼育している映像がテレビで流されたのを見た時には興奮しました。私はこのニュースが流れた翌日タイ国に滞在しており、友人と共に2度とこんな巨大なヘビは見られないだろうから、予定を変更して帰りにジャカルタの動物園に行くことにしました。タイでもこのニュースは流されており、すぐにこの話題になりましたが、タイの動物園関係者はさすがに誰もその話を信じていません。8m級のニシキヘビは全員見た経験がありますが10mはないそうで、15mなんてとんでもないというのです。もちろん、このニュースは世界中を駆け巡り、現地の動物園にいち早く調査に出向き、そのヘビが7m級であることが判明してわずか数日で一件落着となりました。

2013年版のギネス記録の動物版で認定している最大の生存個体は、北米ミズリー州で飼育しているアミメニシキヘビで体長7.5m、体重130kgと報告されています。私自身は1989年にニュヨークのブロンクス動物園で見た7m級のヘビが最大です。担当者の説明によれば、寄贈された時5.5mでしたが、その後成長し7m前後になったそうです。とぐろを巻いた状態でしたが4~5mの個体の倍くらいありそうな胴回りで圧倒されました。そして野生の大物は捕獲しても餌付けが難しいと話していました。その後、同園では1993年にボルネオから搬入した体長6.5m、体重70kgのニシキヘビが、8年後(2001年)の計測で全長7.9m、体重125kgになったということです。

上野動物園では1936年(昭和11年)に死んだニシキヘビが体長6.45m(21尺3寸)で体重101.5kg(27貫100匁)の記録が残っています。長寿記録としてはフィラデルフィア動物園で、来園時亜成体だったボールニシキヘビを47年間飼育した記録があります。ふつうヘビの寿命は20~30年と言いますからかなりの長寿となります。

ヘビの種類

現在世界中にいるヘビの総種類数は2700~3000種と推定され、このうち450~500種が毒ヘビで、ウミヘビは全て有毒です。

日本には約40種が生息していますが、大半は暖かい南西諸島に生息しています。九州以北に生息するのは、(1)タカチホヘビ、(2)シロマダラ、(3)アオダイショウ、(4)ジムグリ、(5)シマヘビ、(6)ヒバカリ、(7)ヤマカガシ、(8)ニホンマムシの8種で、(7)(8)の2種が毒ヘビです。そのほかに南西諸島の沿岸と日本近海に8種ほどのウミヘビが生息しています。

毒ヘビに噛まれた場合は、なるべく安静にして早く病院に行き血清を打ってもらうことが肝要です。この場合、ヘビの種類によって血清が違うのでヘビの特徴をよく覚えておき、本州ならばマムシかヤマカガシか医者に教えなければなりません。マムシはふつう成体で体長およそ50cm位ですが、ヤマカガシは1m前後です。両種共に体色はさまざまな変異がありますが、マムシは茶褐色から赤褐色で暗褐色の銭型の班紋があり、ヤマガカシは赤と白、黄色が複雑に混り、幼体や生息地で変異があります。ヤマカカシの毒牙は口の奥にあるため奥歯で咬まれると危険です。

ヘビも一生、蛞蝓(なめくじ)も一生と言うことわざがありますが、人の一生もまた賢愚の違いや境遇が違っても一生に変りはないようです。
マイペースで今年もよろしくお願い致します。

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