No.068 クビワオオコウモリ – おもしろ哺乳動物大百科 18 翼手目 オオコウモリ科

オオコウモリ科おもしろ哺乳動物大百科翼手目ペットコラム

オオコウモリ科

オオコウモリは旧世界の熱帯や亜熱帯に分布しており、1科約200種がいます。大きさは小型のものは翼開張約30cm、体重約15gから、大型のものでは翼開張が約2m、体重1500gになるものまでいます。日本産のオオコウモリは超音波を飛ばさず、目でものを見て飛行する有視界飛行です。唯一、アフリカ、パキスタン、南アジア、他に生息しているルーセット属のオオコウモリが簡単なエコロケーションを使い、しばしば数百万頭の大群を形成しています。いずれも熱帯や亜熱帯に住むため冬眠はしません。
日本ではオガサワラオオコウモリ、クビワオオコウモリ、オキナワオオコウモリの3種が記録されています。今回は琉球諸島の人々にはなじみの深いクビワオオコウモリを紹介しましょう。

クビワオオコウモリ

クビワオオコウモリ(ダイトウオオコウモリ)が好物のバナナを食べています。写真家 大高成元氏撮影

クビワオオコウモリはすんでいる地域によって、

  1. オリイオオコウモリ(沖縄諸島)
  2. エラブオオコウモリ(トカラ諸島)
  3. ヤエヤマオオコウモリ(八重山諸島)
  4. ダイトウオオコウモリ(大東諸島)
  5. タイワンオオコウモリ(台湾)

の5亜種に分類しています。現在各亜種の生息数は、ダイトウオオコウモリが、北大東島で50〜60頭、南大東島で60〜70頭で合わせて110〜130頭、エラブオオコウモリは200頭程度と報告されています。日本産の4亜種の中では高緯度に生息する亜種の体が大きいので、エラブオオコウモリが一番大きく、ヤエヤマオオコウモリは一番体が小さくて生息数も多いと報告しています。オリイオオコウモリは樹冠部の木の枝に1頭から数10頭でぶら下がり、生息数も多く沖縄の首里城や国際通りでも時々見られます。

すんでいる場所

オオコウモリは、夜行性で昼間はおもに常緑広葉樹の樹冠部、平地では高い木の樹冠や風が入りこまない斜面にいます。ルーセットオオコウモリのように大群は作らず、単独や10頭前後の小さな群れで分散して休んでいます。ねぐらの場所や群れのサイズは繁殖期と非繁殖期、季節によって変わる果実や昆虫及び4亜種の生息域環境により差があります。

からだの特徴

体毛は茶褐色や暗褐色で頸(首)の周りに白黄色の首環があり本種の名前が付いているのですが、ダイトウオオコウモリは他の亜種に比べ色が淡くとりわけオスにオレンジ色のものがいて美しさが際立っています。オスはメスよりも大きく、顔はキツネに似ているという人もいますが、マングースにも似ていると思います。小翼手亜目の場合、鉤爪は第1指(親指)のみにありますが、オオコウモリは、前肢の第1指に長い鉤爪、第2指には短い鉤爪があります。フンや尿をするときは、前肢の発達した第1指の鉤爪を枝に引っ掛けてぶらさがりお尻を下にして排泄します。第3.4.5指の指間と第5指から足首にかけて飛膜があります。食虫するコウモリの仲間と違い、かれらの飛行は餌場から休息場所までの移動なので、急旋回やすばやい動きは必要がありません。そのため、クビワオオコウモリは尾がなく、尾の部分は尾膜が欠如し切れ込んでいます。大きな目と鼻があり、視覚と嗅覚はよく発達しています。歯の数は門歯2/2、犬歯1/1、小臼歯3/3、大臼歯2/3、左右上下合わせて合計34本です。臼歯は主食となる植物質をすりつぶすのに適し臼状となっています。

繁殖

沖縄こどもの国園長、比嘉源和氏によるオリイオオコウモリの観察によれば、1妻多夫ですが、番(つがい)でも繁殖可能で、毎年10〜12月に交尾し、翌年の4月から6月にかけて出産した。出産時の姿勢は逆さにぶら下がって分娩し、赤ちゃんを両翼で受け止めた。赤ちゃんは体重約60gで乳歯はすでに生えており、目と耳は開いていた。生後1ヶ月齢頃から足でぶら下がりはじめ、1ヶ月半頃から親の餌を横取りし、生後2ヶ月半で親と同じ餌を食べ、1年目には親子の区別が付かないと報告しています。性成熟は2歳と推測されます。
寿命は良くわかっていませんが、飼育下のエラブオオコウモリのオスで3〜10年、メスが4〜14年という報告や、長寿例としては上野動物園でオリイオオコウモリの23年11カ月という飼育記録があります。

えさ

小翼手亜目の仲間は動物質が主食なのに比べ、こちらは植物が主食です。イチョウやガジュマルの葉、イチジク、バナナ、フクギ、クワ、パイナップルなどの果実のほか、花や蜜、夏季にはセミやカミキリムシなどの昆虫類も食べます。クビワオオコウモリの餌になる植物の種類数は約100種類が記録されています。

外敵

イリオモテヤマネコや、野生化したイヌとネコ、ワシ、タカなどの猛禽類、ヘビなどがいます。

その他

オオコウモリの中でも大型の種類は現地の人々に食用として珍重されています。昆虫食の種類は美味しくないようですが、果実や木の葉を食べるオオコウモリは美味といわれ、各地で古くから食べられています。

データ

分類 翼手目 オオコウモリ科
分布 日本(大隅諸島から琉球諸島) 台湾(緑島)
頭胴長
前腕長
19〜25cm
12〜15cm
体重 320〜530g
絶滅危機の程度 エラブオオコウモリとダイトウオオコウモリは、環境省発行の「日本の絶滅のおそれのある野生生物— 哺乳類(2002年改訂版)」で非常に絶滅の危険が高いものとして、絶滅危惧cmA類(CR)に指定されています。また、いずれも国の天然記念物の指定を受けています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
内田照章 著 こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
Kawai,K The Wild Mammalsof Japan
S.D.Ohdachi, Y.Ishibashi, M.A.Iwasa&T.Saitoh,eds.
SHOUKADOH Book Sellers 2009
コウモリの会 コウモリ学入門 (財)東京動物園協会 2002
比嘉源和 オリイオオコウモリの繁殖つづく どうぶつと動物園
(財)東京動物園協会 2002
船越公威 飛翔の生活史と生態  日本の哺乳類学(1)小型哺乳類
本川雅治編監修 大泰司紀之・三浦慎悟監修
東京大学出版会 2008
船越公威 オオコウモリ類 日本動物大百科 監修 日高敏隆
平凡社 1996
野生動物救護ハンドブック
編集委員会編
—日本産野生動物の取り扱いー
野生動物救護ハンドブック 文永堂出版 1996
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