No.158 アフリカサバンナゾウ(ヤブゾウ) – おもしろ哺乳動物大百科 104 長鼻目 ゾウ科

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ゾウ科

アフリカサバンナゾウ(ヤブゾウ)

アフリカサバンナゾウ(以下サバンナゾウ)はサハラ以南、主にアフリカ南部と東部に生息しています。国別で見るとカメルーン北部とチャド南部から南スーダン、エチオピア、エリトリア、アンゴラ、ザンビア、マラウイ、モザンビーク、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ、スワジランド、そして南アフリカまで、アフリカ西部ではギニアビサウとセネガル(いずれも絶滅の可能性があります)からニジェールにかけて分散して分布し、アフリカ54ヶ国中36ヶ国に生息しています。
生息場所は主に低木、潅木、疎林、森林を含む草原で、3,000m級の高山や半砂漠でも餌となる植物があれば生息しています。ゾウの群れは大量の餌が必要なために広い行動圏をゆっくりと移動しながら採食しています。移動と行動圏は相関関係にあり、一度採食した地域の草や木が再生する期間が必要となるため、乾季と雨季の季節の変わり目が一つの区切りになります。餌が少ない地域では1年間かけて行動圏を巡回し、反対に餌が豊富にある川のほとりや水辺に行動圏のある場合は、半年や3ヶ月間の短い周期で移動します。生活は雨季と乾季及びサバンナでも半砂漠か低木林や森林が近くにあるかなどの地理的条件や人間が生息域近くに移住しているかなどにより変化します。中央アフリカではマルミミゾウと分布域が重複しています。

サバンナゾウは開けた草原に生息することが多く、調査が行い易いため野生の生態調査が研究者の間で行われてきました。その中の1人ヘンドリックスの調査報告(文献2)はわかりやすいので、順次新しい数値も交えて紹介しましょう。

群れ構成は雌雄と乾季と雨季で異なります。

A オスとメス

  1. メスの群れ構成
    ゾウの群れは女系集団と称され、群れの基本は母と子どもで構成されています。
    1)母と子ども1頭、又は複数の子で、家族グループ1~3頭。
    2)1)の家族グループがいくつか集まり5~20頭の群れになります(4~14頭、3~25頭、平均は8~10頭の報告もあります)。
    ふつう、メスの子どもは成獣になり、自分の子どもが自立するまで母親と一緒に過ごします。母親の子どもが多くなり、乾季など餌が不足したときに一時母親と別れます。
    群の家長(リーダー)はふつう年長のメスがあたり、移動時には家長が先導し、次に年長の個体が最後尾を務めます。年長のメスが家長になるのは青草や水場などの場所、及び好物の果実が熟す頃を知っており、群れを誘導できるためと考えられます。繁殖期には一時的に成獣オスを伴う時もあります。
  2. オスの群れ構成
    オスは12歳くらいになると群れから離れ単独生活かオスだけのグループに入ります。
    オスグループは12歳から50歳位まで、2頭から8頭で構成されています。高年齢のオスの多くは単独生活です。

B乾季と雨季

  1. 乾季
    メスと子どもたちは10~20頭の小グループ、または30~60頭、平均約30頭で移動します。
  2. 雨季
    小グループが集まり平均280頭になります。この周辺部には単独のオス成獣、オスグループがいます。
    餌が豊富にある雨季や生息している地域、休息時間や夜間の寝る時間は家族グループがいくつか集まって過ごしますが、餌の少ない乾季などには分散しています。

行動圏は生息地により差が大きく、砂漠が含まれるアフリカ西部のマリ地方では30,000km²以上と広大ですが、アフリカ東部のタンザニア北部にあるマニャーラ湖国立公園は地下水があり、森林と豊かな草原が存在するため50km²、ツァボ・イースト国立公園では約100km²、餌と水が豊富ならば平均750km²、と言うように行動圏の差が顕著です。行動圏が狭い理由の一つは、本来はもっと広かったのが生息域の分断や人々の進出、密猟などで狭い地域での生活を余儀なくされており、本来の自然界での生活環境と異なっている点が挙げられます。一日の移動距離は平均してメスよりオスの方が多く、ふつう1日に5~13kmですが、マストのオスは10~17kmと少し広範囲になります。最高ではオスが約60km、メスが約55kmの報告があります。活動時間帯は早朝と夕方及び夜中で、睡眠は朝3時頃に2~3時間、暑い日中に1~2時間昼寝をしますが、えさを探し17時間以上歩くこともあります。人間と生活域が同じ場合、日中は人を避けて日陰で休みます。干ばつの時、水場を探すためツアボの国立公園の半不毛地域において15kmほど歩くのは珍しくありませんが、ジンバブエでは約25km以上探すこともあります。
コミュニケーションの方法は鼻端を相手の口の中に入れ、頭部や体の各部を触って匂いを嗅ぎ合う。耳をパタパタして相手の体に触れる、頭部や体をくっつけ合う、脚で蹴る、尾で触るなどの接し合う行動があります。音声を使う方法として、鼻から出すラッパ音、喉から出すキイキイ音、低い唸り声、人間は聞くことのできない低周波音、鼻を地面にたたきつけて出す威嚇音、人間には聞こえにくいゴロゴロ音など多様です。ラッパ音や低周波音は約1km先の個体識別や、2.5km先の個体と交信ができ、条件が良ければ音声はさらに遠方まで届きます。1頭の発する声から100頭以上の個体識別をしていると考えられています。

からだの特徴

強そうなお母さんですね。子どもが前足の脇から顔を入れて、お乳を飲んでいるのがかわいいです。写真家 大高成元氏撮影

サバンナゾウは現在陸上で最大の動物で、アメリカスミソニアン博物館に展示されている個体は1955年狩猟で捕えられ、横臥した状態で体長1,010cm、肩高が401cm(立ちあがった時は5%減少とすれば381cmと推測)、体重10,886kgと推定されています。現在はこのような巨大な個体は生存していないと考えられ、通常は頭胴長が600~750cm(鼻端から仙骨の間接部まで)、鼻長は200~220cmです。肩高は成獣のオスが平均320cm、メスで平均260cm、体重はオスが平均6,000kg、メスは平均2,800kg、尾長は100~150cmです。体重で雌雄を比較するとメスはオスの半分程度しかありません。
横から見ると背中の中央部がへこみ頭部が一番高い部位となります。骨格で見ると21対の胸椎(肋骨)の背側に棘突起があり、その稜線に沿って背が形成されています。耳はアジアゾウに比べると大きく耳の下葉(下の垂れ下がった部分)は細く尖っています。耳の大きさは生息地により特徴があり、アフリカ中央部に位置するスーダンやチャドに生息する個体は三角形で下葉が細長く下方に伸びて、長さが190cmに達します。しかし、大方の場合、扇状で広げると片方の横幅がおよそ150cmあり、両耳と顔の幅を合わせるとオスゾウでは400~450cmの横幅になります。大きな耳は集音器として働くばかりでなく、威嚇するときにも使い、広げて大声を発しながら頭部を左右に振って脅し、それでも相手がひるまない場合は突進します。また、耳の裏側には太い静脈が走行して暑い日は怒張しているのがわかり、泥や水をかけることで血液温度を5度程度下げることができ、体温調整の役割を担っています。
サバンナゾウの頭部はアジアゾウと違い頭頂に2つの山形はなくシャープに傾斜して鼻に続いています。顔は大きな牙を収めるために上顎が下顎より前方に突出て長く、成獣のオスの前頭部は丸みを帯びてがっしりしているのに対し、メスは角張り平たくなっています。頭部は長い鼻と大きな耳、重い歯の基部として強力な筋肉組織を付けるのに役立っています。
皮膚はマルミミゾウやアジアゾウに比べると明るく灰色を帯び、赤土の多い土地では赤く染まります。体全体に深い皺があり水浴びした後、泥浴びをして腹部や背中まで体全体に塗ったあと、高低差のある木や岩に腹部から背中、頭頂まで隈なくなく擦り付けます。深い皺の間に濡れた泥が詰まることで強力なツェツェバエ(体長が5~10mmの吸血性のハエで人畜共通伝染病を媒介します)に刺されるのを防ぐとともに、乾くときの気化熱で体温を下げ、熱い陽射しから身を守ります。
鼻は全長の3分の2は先端部より皮膚が厚く、粘土層のように力強く感じられます。先端部約50cmは皺が細かくなり自由自在に曲げることができるのは他の2種と同じです。鼻端の突起は上下に1対あって物をつかむときに使い、太い毛は触覚の役割を果たしています。健康な時は湿っていますが体長が悪いときは乾きます。
4肢はがっしりとして陸上の哺乳類の中で最も太く、前肢に4本、後肢に3本の蹄があります。足裏はほぼ平らで成獣の場合直径30~40cmありますが、骨格ではつま先だった状態で、踵の部位に10cm程度の脂肪組織があり、クッションの役割を果たしています。注意して見ると足に体重がかかった時に踵がへこむのが判ります。
アフリカゾウは雌雄ともに長い牙がありますが、ゾウの場合、犬歯ではなく、上顎の第2切歯(門歯)が長く伸びたものです。アフリカのサバンナには子ゾウを狙うライオンやブチハイエナ(大型の種でふつう群れ生活し、大きなオスの体重は約80kgになります)の群れが生息し、彼らに対抗するための武器として牙が大きな役割を果たしていると考えられます。そのためメスゾウにも立派な牙があり、一生伸び続けます。最大の牙は長さ3.5m、重量130kgの記録があります。
採食した餌は大腸内の腸内細菌の発酵作用によりセルロースを分解しています。このため後腸発酵動物ともいわれ、奇蹄類と共に栄養価が低く手に入りやすい植物を多量に採食しています。乳頭は前足の間に1対あります。

えさ

ゾウは草、小枝、茎、根、蔓、果実、種など植物のあらゆる部分を巧みに取り、年間では約150種類にのぼると報告されています。ただし生息地により主食となる植物は違い、草原での場合70%が草となり、木の密生した森林では木の芽や小枝が主食となります。マーチソン・フォール国立公園近くで射殺された47頭の胃の内容物を調査した結果、91%は草、8%が木と潅木、1%がその他でした。採食した草のうち青草は十分の一で残りは枯草でした。林と草原が混ざっているサバンナでは雨季と乾季で変わり、草は雨季で60%、乾季では5%に減少し、木の枝や枯れた草の根を掘り起こして採食します。ツァボ国立公園における6時~18時30分の調査報告では、草は乾季の方が雨季より多く、木は乾季と雨季の差がほとんどない、とそれぞれ違った報告がありますが、これは乾季と雨季、及び生息地の環境による差と考えられます。
野生状態の報告で一日に14~18時間採食する、との報告が多いのですが、この時間数は豊富にある草や木の枝を14時間以上連続して採食しているわけではありません。動物園で10kgの青草を与えて食べる時間を調査したところわずか10分足らずで食べます。これを野生ゾウに充てて考えると3時間でおよそ150kgは採食できるでしょう。広大なアフリカは地域により植物相に特徴があり、川や沼地、湖などで生活するゾウは水草を口いっぱいに頬張っているのに比べ、乾季で青草が枯れ、足で根を掘り起し、あるいは小枝から葉だけしごいて採食したりしている様子が見受けられます。雨季や餌となる植物が豊富にある場所では、おそらく手当たり次第に300kg以上食べ、草が不足する場合、一口に頬張る量が半量となり、一日量で100kg前後に下がるのではないか、と考えられます。採食時間と排便回数は密接に関係していると思いますが、野生での一日の排便回数7~29回と幅がありますが、動物園で行った調査では24時間の排便回数は8~10回でした。野生の場合、ふつう20回前後なので動物園の2倍排便していることになります。このことは動物園に比べ野生状態の採食時間が長いことを意味している、と思います。また草本と木本植物、果実では咀嚼回数と腸内通過時間が違います。

繁殖

マストとはオスが非常に凶暴になる時期がありこの時をマスト(ムスト)と呼んでいます。ふつう年に1回、数週間から3ヶ月間マストになり降水量の多い時期に発現します。兆候として、側頭腺からの分泌、頻尿、予期しない攻撃、テストステロンの増加などの症状が現れ、群れの中で優位個体となります。12歳位の若いオスの場合も、母親から別れるときにマストのような状態が見られますが、本当のマストは20~25歳以上とされています。
発情は雨季の後半と乾季のはじめが多くなり、発情期のメスはマストになった35~40歳のオスを交尾相手として選ぶ、と報告されています。メスの性成熟は12~15歳ですが、飼育下では8歳から12歳までの出産例があります。発情周期は15~16週間、妊娠期間は約22ヶ月です。青草が豊富にあり餌が十分食べられるときに生まれるケースが多く、栄養状態が悪い乾季にはメスの排卵が止まり、回復に1~2ヶ月必要となるため、発情のピークは雨季の後半から乾季の始めとなります。1産1子でごく稀に双子があります。出産は4~5年に一度ですが、栄養状態が悪い場合さらに間隔が伸びます。メスの繁殖のピークは25~45歳です。新生子の体重は60~150kgです。子どもは4ヶ月齢まではほぼ母乳だけを飲み、5ヶ月齢で母親の食べ物をとって口に入れます。6ヶ月齢を過ぎる頃、主食となる青草を消化するために必要な微生物を取り込むために母親の糞を食べます。8ヶ月齢以降はバナナや柔らかいものを食べ、10~12ヶ月齢で固めの餌を食べます。1歳くらいまでは母乳が主体ですが、その後、植物質の餌に変わっていきます。雌雄ともにフルサイズになるのは35~40歳です。
死亡率は通常ならば子どもが年間に10%、5歳から40歳の間が20%と推定されていますが、干ばつや間引き、密猟で大量に死亡した年の統計で大きく変わるときがあります。反対に野生ゾウの増加率も南アフリカのアドブッシュでは10%前後と推定され、死亡率を上回り個体数が増加しています。現在はタンザニアやケニアの自然公園の一部が自然の状態で保全されていますが、内戦や象牙の商取引を解禁すればたちまち減少するでしょう。
アフリカゾウの人工授精は、アメリカ・インディアナ州にあるインディアナポリス動物園で2000年に初めて成功後、北米、欧州、イスラエル、オーストラリア、タイなどで続々と成功例が報告され、2013年9月には凍結精子を使ってアフリカゾウの人工授精にウィーンのシェーンブルン動物園が成功し話題になりました。今後人工授精を希望する動物園は、メスゾウの発情期を特定し、オスからの採精やメスに人工授精するための訓練など、ゾウならではの解決すべき難問をクリアーして絶滅危惧種の保護に寄与する必要があります。

データ

分類 長鼻目 ゾウ科
分布 アフリカサハラ砂漠以南
体長(頭胴長) 600~750cm(体長は鼻端から尾の付け根まで)
体重 オス 平均320cm メス 平均260cm
肩高 オス 平均6,000kg メス平均2,800kg
尾長 100~150cm
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)は、1986年にサバンナゾウをレッドリストの「絶滅の恐れが高い危急種(VU)」に指定しました。その後、1996年に絶滅の恐れが非常に高い「絶滅危惧種(EN)」に指定していたのですが、2004年に危急種(VU)に戻され、最新の2014年版でもやはり危急種(VU)となっています。
アフリカゾウはワシントン条約附属書第1表に掲載されており、アフリカゾウの商取引は、一部地域(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカは第Ⅱ表)を除き禁止されています。
アフリカ大陸全体の生息数は2012年の報告では433,999~684,178頭と推定されています。アフリカの野生ゾウは1980年代の10年間で134万頭から62万頭に70万頭も減少しました。しかし、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカの4カ国は、ゾウの保護・管理がコントロールできているという理由で象牙取引を以下の条件で、2008年の1回に限り象牙の消費大国である日本と中国に許可しました。国際取引が認められた象牙は、附属書IIに掲載されている個体群のものです。以後9年間を「象牙の国際取引を認める提案が締約国会議に提出されない」ことも決定しています。

主な参考文献

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(柴崎篤洋 訳)
ディクディクとゾウ 思索社 1979.
イアン・レッドモンド(リリーフ・システムズ 訳) ビジュアル博物館「象」監修 川口幸男、同朋舎出版 1994.
今泉吉典 アフリカのゾウ 動物分類講座 どうぶつと動物園 Vol.20 No.5(財) 東京動物園協会 1968.
D.W.マクドナルド編
今泉吉典 監修
動物大百科4 大型草食獣 平凡社 1986.
川口幸男 ゾウ科の分類 In世界の動物 分類と飼育3長鼻目 (財)東京動物園協会 1991.
中村一恵 海を渡る象―その不思議な世界を探る インツール・システム 2012.
中村千秋 アフリカで象と暮らす 文春新書 文藝春秋社 2002.
小原秀雄 ゾウの歩んできた道 岩波ジュニア新書412 岩波書店 2002
Shoshani, J. Elephants. Rodale Press, Emmaus, Pennsylvania 1992.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed.) Handbook of The Mammals of The World. Vol.2 Hoofed Mammals,Lynx Edicions 2011.
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