No.067 キティブタバナコウモリ – おもしろ哺乳動物大百科 17 翼手目 ブタバナコウモリ科

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ブタバナコウモリ科

1000種類近くもいるコウモリの中からわずかな種類を紹介するのはたいへんなことです。今回はタイで私が見た世界で最小、しかも哺乳類の中でも最も小型と言われるキティブタバナコウモリの話にしました。本種は、1973年10月に発見され1974年に独自の種として認められました。タイ西部のカンチャナブリー県で発見されましたが、生息数が少なく希少種ということもあり、1981年に生息地の約500kcmをサイヨー国立公園に指定し保護しています。その後、2001年、ミャンマーの南東部でも発見されましたが、ミャンマーとは生息地のクワイ河を間に国境があるので、生息は当然のことかもしれません。生態の中でも繁殖関係については詳細が未だわかっていませんが、最小というのは興味があるところです。本種は1科1属1種です。

キティブタバナコウモリ

1頭なので大きさがわかりくいでしょうが、これが最小のコウモリです。写真は筆者

50年以上昔の1957年にイギリス映画で『戦場にかける橋』という作品がありました。第二次大戦にタイとミャンマー(ビルマ)の泰緬鉄道間に横たわる、クワイ河に木製の陸橋を架けたときの実話を元に作られています。この物語は戦争のもたらす悲劇を描いており、日本人としてみるに忍びないものがありますが、年配の方には懐かしい映画であり、クワイの名前は記憶に残っている方も多いでしょう。キティブタバナコウモリの生息地は現在のクワイ河鉄橋から車で北におよそ2時間行った自然公園内にあり、7〜8年前に数回見る機会をえました。タイで発見された群れは10〜15頭の小さな群れで合わせて200頭程度、最高でも約500頭と推定しています。しかし、自然公園以外の保護はされていませんし、焼畑農業は生息地を脅かし続けています。また、ミャンマーの生息数が不明なため総数は不明です。

すんでいる場所

こんな小さな洞窟に住んでいます。

サイヨーの自然公園管理人の案内で、私たちが観察した場所は、雑草が生い茂り、小低木やチーク材となる高い木がまばらに生えている場所でした。雑草をかきわけて進むと岩山があって人が楽に通れるほどの入り口がありました。その先に進むと岩の割れ目の下側に人がやっと通れるほどの隙間がありました。お腹をへこませてやっとすり抜けると幅が1〜2m、長さが10mくらいの入り組んだ鍾乳洞のような石灰岩の場所に出ました。案内人の指差す先を見ると天井や壁に小さな黒いコウモリが滑らかな岩肌にひょいと後ろ足を引っ掛けてとまっていました。わずか数メートルの距離しか離れていないのですが小型なので顔がはっきりわかりません。そこには10数頭のコウモリがいましたが、大集団に見られるような群れではなく点在していました。他にも近辺の森や農園のちょっとした岩場の間や、石灰岩の洞くつに小群で生息していると話してくれました。

からだの特徴

体の上面は褐色から赤みがかった個体や、灰色の個体まであり、下面のほうが淡く、飛膜は黒味を帯びています。ブタバナの名前のとおり、鼻がブタに似ていることからこの名前が付けられました。尾はなくて尾膜はわずかにある程度です。目は小さく柔らかい毛がかぶさっています。翼は長く飛ぶのに適応しています。前肢の親指は短くてかぎづめは鋭く、後肢は細く長くなっています。耳は大きく超音波を聞くのに適しています。超音波は周波数変動型(FM型)で、基本音の約35kHzから2倍の70KHz、そして105kHzと抑揚があって、周波数一定型(CF型)より多くの情報を得られるといいます。歯の数は門歯1/2、犬歯1/1、小臼歯1/2、大臼歯3/3、左右上下合わせて合計28本です。

繁殖

繁殖シーズンは4月末の乾季の初めから5月まで続きます。1産1子で母親はねぐらにいる時いつも抱いていますが、採食で外に出るとき赤ちゃんは置いていきます。その他、繁殖、冬眠、寿命に関する詳しいレポートは不明です。

えさ

クワイ河の開けた場所ですばやい飛行と方向転換を繰り返しながら小型の昆虫やクモを飛行しながら採食しています。採食する時間帯は夕暮れ時と夜明けでそれぞれ20〜30分間と報告しています。

データ

分類 翼手目 ブタバナコウモリ科
分布 タイ西部、ミャンマー南東部
体長 2.9〜3.3cm 翼開長 15〜17cm 前腕長 2.1〜2.6cm
体重 1.5〜3.0g
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
内田照章 著 こうもりの不思議 球磨村森林組合 1975
J.D.オルトリンガム コウモリ 進化・生態・行動 八坂書房 1998
松村澄子監修 コウモリの会翻訳グループ
Nowak,R.M. Walker’s Mammals of the world Six Edition Vol.1
The Johns Hopkins University Press 1999
Corbet,G.B.&Hill,J.E. A World List of Mammalian Species(Third edition)
Oxford University Press 1991
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