No.187 亥年にちなんだイノシシの話

干支にちなんだ話ペットコラム

2019年 明けましておめでとうございます

動物の分類の変化

近年DNAの解析が進み動物の分類も変わってきています。その一つが偶蹄目で、以前はクジラ目として独自の目に分類されていましたが、約5000年前パキスタンの陸上でクジラの化石が発見され、現在のクジラは陸から海に生息場所を替えたことが判りました。DNAの検査結果からもクジラと近い種類はカバであることが証明され、カバと同様に半水生生活を送っていたと判明し、クジラ偶蹄目として分類するようになりました。
イノシシ亜目はアメリカ大陸にすんでいる仲間のペッカリー科とイノシシ科の2つに大別され、ペッカリー科は2属、クビワペッカリー属とチャコペッカリー属の2属、イノシシ科はイノシシ属、カワイノシシ属、イボイノシシ属、モリイノシシ属、バビルサ属の5属にそれぞれ分類されています。
中でも進化の進んだウシ科、シカ科、キリン科では消化器の胃が4室に分かれ反芻していますが、原始的な仲間であるイノシシ科では胃は1室で反芻をしません。鼻鏡は円盤状で湿っているので匂いの分子を拾いやすく、地面に着けて土中の食物探ります。鼻には吻鼻骨があり地面を掘ることもできます。上顎の門歯はイノシシ属とカワイノシシ属では3対、バビルサ属は2対、イボイノシシ属とモリイノシシ属では1対です。イノシシ属では上下の犬歯が牙となっています。
ニホンイノシシはアジア、アフリカ北部やヨーロッパに生息しているイノシシの1亜種で、本州以南に生息しています。また、南西諸島の奄美大島、沖縄、石垣島、西表島には一回り小型な亜種リュウキュウイノシシが生息しています。

イノシシ科

体の特徴

  • 体長(頭胴長)90~180cm
  • 肩高 55~110cm
  • 尾長 20~30cm
  • 体重 50~200kg
  • 体形は性的2型が見られ、雌は雄より一回り小型です。

家畜のブタと違いたくましい感じが漂います。写真家 大高成元氏撮影

犬歯は上下で4本の牙となりますが歯根部はありません。下顎の牙は上顎の犬歯より半円状に長くなり、上顎の犬歯とこすり合うことで研がれ鋭い牙となります。上半身が著しく発達していますが後躯は貧弱です。四肢は短いにもかかわらず時速40~50kmで走ることができます。イノシシは頭部から鼻先まで細長く伸び、反対に肩側に太くなっているので頸部と肩の区別ができません。骨格で見ると頸椎は7個で多くの哺乳動物と同じです。蹄は前後肢ともに4本で着地する蹄は前後肢共に第3指と第4指(中指と薬指)です。 第2指と第5指は側蹄(または副蹄)と呼び平地の場合地面につきませんが、坂道を登るときに滑り止めの役割を果たし、足跡が地面に残ります。同じ側蹄でもシカの仲間の側蹄は小さくて坂道を登る時にも足跡は残りません。
尾の長さは20~30cmでハエやアブなどを追い払うのに使います。毛は6月頃に厚い毛が抜けて夏毛になり、11月頃に今度はふさふさとした防寒用の冬毛に換わります。頸部には俗に「ミノ毛」と呼ぶ蓑(みの)のような、12~13cmの固い剛毛が生えて、藪の中を突っ走る時に鎧のようにガードされ皮膚が傷つくことはありません。また、毛を立てると体が大きく見えるので威嚇にも役立っていると考えられています。
イノシシの視力は測定が難しいようですが、家畜のブタの視力は0.1程度で弱く、動体視力は良いようです。夜行性動物は視力を補うために網膜の後ろに光の反射板(タペータム)があり、わずかな光を増幅して見ていますが人やブタ、ウサギなどにはありません。このため本来は昼行性動物でありながら生息環境を人間に追われ、人間が休息する夜間に活動するようになりました。人が介入しない地域では昼間に活動しています。
耳は自在に動かすことができ、人間には聞こえない小さな音でも反応します。嗅覚は特に優れイヌに匹敵し、500m先の匂いもわかるため警戒している彼らに忍び寄ることは至難の業です。イタリアやフランスでは改良したブタを馴らして土中に生える高級食材として著名なキノコ・トリュフ探しに使います。乳頭は5~6対あります。

生息環境

繁殖時期には気が荒くなり市街地に出没したイノシシが人を鋭い牙で突いてけがを負わせる報道を見かけます。本来は、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林及び里山に生息していました。やがて、農地の手入れが放棄された場所や、農作物が手っ取り早く餌となることを覚えたイノシシはサツマイモやジャガイモ、トウモロコシ、イネなどを手あたり次第に荒らすようになったのです。農家の人々はイノシシの侵入を防ぐために、柵で畑の周囲を囲みました。最初は100cmくらいだったのが飛び越され、今では120cmの高さを超えたイノシシの目撃情報もあります。
鼻で押し上げる力も強く、家畜のブタの記録では、体重40~50kgの個体が32kg、成獣で73.3kgを持ち上げた記録があります。幅は20cmでも頭部が入れば強引に通り抜けます。こんな体力のあるイノシシから畑を守ろうというのですから頭の痛いところです。
イノシシは汗腺があまり発達していないので、野生では沢や湧き水で泥浴びや、小川で水浴をしたり泳ぐこともできます。
飼育下では泥浴びを好むのはオスで、育児中のメスは乳が汚れるのを嫌がるとの報告があります。泥浴の場所はヌタバと呼びます。のたうち回るよう見えるので「ノタウチ」または「ヌタウチ」とも言います。イノシシにとってはとても重要な行動で、まさに泥パックと言ったところです。全身にくまなく塗りたくり寄生虫や害虫を防ぎ、暑さや寒さから身を守っているのです。
嗅覚に優れたイノシシは匂い付けでコミュニケーションをしています。

繁殖

イノシシはふつう単独で生活し、繁殖期になると群れを作り、一夫多妻のハレムを作り強いオスがメスを独占する場合と、メスの中には繁殖期もハレムに入らず単独で生活する個体もいます。交尾期は12月~2月の3ヵ月間で多くは1月です。発情期間は約35日で、妊娠期間は112~140日です。春に出産に失敗したメスは秋に産むケースも報告されています。産まれたばかりの赤ちゃんは約500gです。出産時期は4~6月で、ふつう5月、稀に9月にも見られます。出産場所は地面に浅い穴を掘り草や木の葉、枝を敷き、上にススキや笹などを嚙みきってかぶせて巣を作ります。一腹の産子数は3~8頭ですが、通常は4~5頭です。目は開いて生まれ、飼育下の観察によれば、生まれてすぐに歩くことができますが、母子が一緒に巣から外に出て歩いたのは生後10日齢ほどでした。体にマクワウリと似た模様があることからウリボウと呼んでいます。この模様は生後3ヵ月齢ころから徐々に消え、生後6ヵ月頃に完全に消えました。子どもは固形物を生後2~3週齢で採食を始めますが、哺乳も生後4~6ヵ月齢ころまで続きます。
雌雄ともに生後1.5歳~2歳齢で性成熟し繁殖します。寿命は野生では5~10年、飼育下では約20年です。

食性

雑食で何でも採食しますが報告のあった種類を列挙してみました。植物では、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、コンニャク、トウモロコシ、スイカ、イネ、ソバ、ヒエ、豆、大根、イモ、カヤ、クズ、ユリ根、シダの根、タケノコ、カキ、クリ、シイ、カシ。昆虫、爬虫類のヘビ、両生類のカエル、鳥類、卵、哺乳類のノウサギの子、モグラ、腐肉まで。甲殻類、サワガニ、節足動物のムカデ、腹足網のタニシ、環形動物のミミズ、その他キノコまで採食します。
作物ではサツマイモは好物で、根菜類は丈夫な鼻を使って掘って採食し、牙は使わないそうです。

外敵

日本には人間以外に外敵となる動物はいませんが、しいて挙げれば野犬、ツキノワグマ、キツネ、タヌキ、クマタカが幼獣を捕食します。
また、野生のイノシシが豚コレラで死亡しているのが報道されました。伝染病なので対応に苦労されたでしょう。他にも寄生虫のトキソプラズマなども発症すると大変です。イノシシのためにもこれらの恐ろしい病気にならないように祈るばかりです。

IUCN(国際自然保護連合)発行2018年版のレッドリストでは、現在は絶滅の危機は少ないとして、LC(低危急種)になっています。

イノシシとブタ

私が上野動物園に入った1959年(昭和34年)、今から60年前は奇しくも干支のイノシシ年でした。最初の担当はゾウ舎とシカ舎で、先輩の落合正吾さんと二人で受け持っていました。シカ舎は東園の芸大側にあり、その中の1部屋にイノブタがいました。イノブタは商業ベースで飼育し始めた頃で、一見の価値があったのでしょう。イノシシに似た感じで力強く、餌を持っていくと重い鉄柵を鼻で持ち上げガチャガチャさせて早く餌をくれとアッピールされていた記憶があります。
イノシシの分布域はアフリカおよびユーラシア大陸まで広く分布しています。人類が家畜化したと考えるイノシシの化石で一番古いものは、およそ1万年前に中国で出土し発祥の地とされています。その後各地で家畜化が進み、地域によって特徴のある品種となっていきました。今では400~500の品種が作出されています。
現在のブタの体形は原種となったイノシシに比べると、著しく変化しています。イノシシは上半身が著しく発達し頑丈で、猪突猛進するにふさわしい体形ですが、ブタは上半身の厳つさは消えていきます。品種改良の目的は以下の3点が主な点です。

  1. ハムやベーコン用ベーコンは脇腹が長く、ハムは後躯(モモ肉)から作ります。
    加工して作るので大型の骨太の種類多い。
    イギリスのようにベーコンの消費が多い国
    品種:大ヨークシャ種、ブリテッシュ・サドルバック種他。
  2. 脂肪用ラードを主目的としている品種で早熟・早肥が特徴。
    品種:中国で改良された脂肪用の中国種、スペインのエストラマドラ種他。
  3. 精肉用肉量が豊富です。
    品種:アメリカのハンプシャー種、デュロック種他。

日本人が好む食肉は農林水産省のデータによると豚肉です。現在世界中でどのくらいブタを飼育しているか統計を見ると、世界中の総計は2016年で約92億頭です。国別でみると中国がダントツで多く、約451,251,000頭、第2位は米国で71,000,000頭、3位ブラジルの39,000,000頭。日本は約9,200,000頭でした。
ところで、最近レストランでとみに三元豚と称する豚肉が高級食材として料理されているように感じるのは私だけだろうか。
改めて調べてみると、「三元豚」と言う種類はいなく、3種類のブタを交配してそれぞれの持つ長所を取る、つまり良いところ取りした雑種なのです。現在、日本の養豚業界で主流なのが「LWD」の組み合わせだそうです。

  1. 最初にL(メス)ランドレース×W(オス)大ヨークシャ
  2. 生まれたメス×D(オス)デュロックのオス
  3. ここで生まれたブタがL×W×D⇒雑種の三元豚です。

私たちが日頃食べる豚肉の多くは、数種の豚をかけ合わせることによって生産されています。その代表的な品種が、下記の5品種になります。これらの品種の優れた特徴を生かし合うことで、より美味しく、安定して供給できる豚肉が誕生するのです。ちなみに、バークシャー(黒豚)と中ヨークシャーは、単種のブランド豚(銘柄豚)としても人気があります。

人気の5品種

  1. ランドレース(L)
    デンマーク原産。オス約330kg、メス約270kg。白色の大型種。成長が早く日本で一番多く飼育されています。赤肉が多く肉質が良い品種です。
  2. 大ヨークシャー(W)
    イギリス原産。オス約370kg、メス約340kg。白色の大型種。ランドマークに次いで多く買われています。赤肉の割合が多く肉質の良い品種。
  3. デュロック(D)
    アメリカ原産。オス約380kg、メス約300kg。全身が茶色。体質が頑健で特に暑さに強い品種。
  4. 中ヨークシャー(Y)
    アメリカ原産。オス約250kg、メス約200kg。成長が遅いため日本ではあまり飼育されていません。
  5. バークシャー(B)
    イギリス原産。オス約250kg、メス約200kg。日本では「黒豚」として鹿児島県で多く飼育されています。肉質が良く美味しい品種です。

 

さーてと、今日あたり三元豚のブタのしゃぶしゃぶしゃかトンカツでも夕飯に出ないかなー。

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