No.129 ジャイアントパンダ – おもしろ哺乳動物大百科 77 食肉目 パンダ科

おもしろ哺乳動物大百科食肉目パンダ科ペットコラム

ジャイアントパンダ属

1属1種でジャイアントパンダがいます。中国の南西部の高地に生息し、竹が主食の肉食獣です。人間が好む体形と言われる大きな頭、よく目立つ黒と白のツートンカラー、たれ目のように見える目のまわり黒など外見的な特徴から世界的にもっとも人気の高い種の一つです。

ジャイアントパンダ

中国南西部の四川(しせん)省、甘粛(かんしゅく)省、陝西(せんせい)省の標高2,500~3,500mの竹林に生息しています。体のつくりは寒冷地に適応しているので暑さは苦手で、夏季には高地に冬季には低地に移動して生活しています。活発に動く時間帯は朝と夕方ですが、昼も夜も活動し採食します。肉食獣なので消化器が草食獣のようなシステムを持っていないため消化率が悪く、長時間かけて大量の竹を食べなくてはなりません。1日の活動時間では、採食が約55%、休息が約41%で2つの行動で1日の大半を占めています。行動圏は3.9km²~6.2km²です。歩行はクマと同じように足の裏を付けて歩く蹠行性でギャロップはできず、後肢で直立できます。座るときはお尻ではなく、背の下部が地面につくため座ったままでも排便ができます。また、ときどきつきたての餅のような粘性物(粘膜便とも言います)を糞と同じように肛門から排泄しますが、どうして出すのかその原因についてはまだ明確な答えは出ていないようです。

からだの特徴

こんな竹だってひと咬みですっぱりと切れます。写真家 大高成元氏 撮影

成獣になっても子グマのような体形で頭部が大きく全体的に丸みを帯びています。頬に大きな筋肉があり顎が張ったようになっていますが、かたい竹の茎を食べるために進化したものと考えられます。毛は粗くて油っぽく、体は黒と白のツートンカラーです。黒い部位は耳、目の周囲、後肢、肩から前足で、その他の部位は白です。白い部分の毛は1本ずつで見ると無色透明ですが光の反射で白く見え、地肌は肌色です。模様と黒の部位は個体により若干の違いがあり茶色っぽくなるものや、尾の色は白色ですが先端部に黒い毛が混じる個体もいます。からだは頑丈で4肢は短く各肢に5本の指があり、前足の爪は後肢より長く鋭くなり、足裏の肉球の間に毛が生えています。手首にある種子骨は5本の指に対向しており、物をつかむときに人間の親指と同じ役割を果たします。最近は小指側にある副手根骨の突起もまた、物を握るときに使用しているのでは、と指摘する学者もいます。音のする方に耳を動かすことができる点から聴覚は鋭いと考えられます。肛門と生殖器のまわりには分泌腺があり発情期には木にこすり、匂いを付けます。乳頭は2対、胸部と腹部に各1対あります。
体長は120~150cm、体高70~80cm、尾長約10~15cm、体重はオスで85~125kg、メスでは70~100kgですが、飼育下ではふとる傾向があり160kgの記録があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。臼歯の表面は大きくて沢山の隆起があり、主食の固い竹をひき臼のようにすりつぶして食べます。

えさ

主食は竹で99%を占め、約25種が知られており、季節によって竹の幹や葉など食べる部位が変わります。竹以外にもわずかですが他の植物の茎や葉、げっ歯類や有蹄獣の幼獣、死肉、人間の作った作物なども食べます。消化器は肉食獣並みで食物の腸内滞在時間は約8時間と短く、消化率は約20%です。野生のパンダは1日に約12kgの竹を採食します。
動物園では竹の他にパンダミルクやトウモロコシ団子、柿やサトウキビなども与えていましたが、最近では肥満を考慮し、餌を高い場所に吊るし、あるいは隠して探させるなどの工夫をしています。これには野生状態のパンダの休息時間がおよそ41%に対し、動物園の場合は64~81%に増加することから運動不足による肥満が問題となり、現在解決策の一つとして行っているものです。

繁殖

発情期は3~5月に1回くるのが普通ですが、春に来ない場合秋に来ることがあります。発情の兆候はヤギの声と似た声、フフフフンやエエエンと鳴くほか、食欲がなくなり、匂いつけをする回数が増え、さらに池に入って体を冷やす行動が見られます。この間に交尾するのはわずか1~3日です。野生の場合の出産は、岩の洞や大きな木のくぼんだ場所に小枝や木屑を入れてその中で行われます。妊娠期間は83~181日と幅がありますが、これは受精卵の着床遅延があるためと考えられています。上野動物園で3回出産したときの妊娠期間は100日、110日、121日でした。平均産子数は1.7頭ですが、3頭の例も報告されています。野生ではこのうち1頭生育するのが普通ですが、飼育下では最近パンダ用の人工乳が開発されたので、人工哺育や介添哺乳で2頭目も育てることに成功しています。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は100g前後で白色の産毛が生えています。尾の長さは体長の3分の1もあります。生後1週齢頃から体色が変化しはじめ生後約1ヶ月齢で親と同じ体色になります。歯は生えていず、目は閉じていますが、生後2~2.5ヶ月齢で開きます。生後2ヶ月半齢ころから後肢で体を支えて歩けるようになります。離乳は生後8~9ヶ月齢、母親と離れるのは生後1年半、性成熟はオスが7~9歳、メスは6~8才でメスの方が少し早いです。初産は5~7歳で20歳頃まで繫殖するので、条件が良ければ生涯で6回程度の出産が可能となります。
長寿記録としては、中国の武漢動物園で1999年7月22日に死亡した個体(メス)の飼育期間35年7ヶ月、推定年齢36歳10ヶ月という記録がありますが、通常の寿命は20~25年と推定されます。

外敵

成獣では外敵はほとんどいませんが、ヒョウ、ドール、ヒグマに襲われたという記録があります。子どもは巣穴にいる時にゴールデンキャット、イタチ、テンなどに狙われるおそれがあります。

生息数減少の原因

人口増加により生息地への道路が通り、農地、産業用地の開発が進んだ結果生息域が分断され、減少しました。また、毛皮や薬用として肉を採るための密猟などが主な原因でした。この他に主食となる竹の周期的な大規模な枯死で餌不足となり多くのパンダが犠牲になったこともあります。
これらの減少原因を踏まえて、中国政府、WWF、IUCNなどが中心となり、積極的に保護政策に取り組んでいます。

データ

分類 食肉目 パンダ科
分布 中国南西部(四川省、甘粛省、陝西省)
体長(頭胴長) 120~150cm
体重 オス85~125kg
メス70~100kg
体高(肩高) 70~80cm
尾長 10~15cm
起立したときの高さ 約170cm
絶滅危機の程度 野生における生息数は最近の調査では約1,600頭と推定され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定され絶滅が懸念されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載し、商業取引を禁止しています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
中川志郎 カンカンとランランの日記―パンダ飼育この一年の記録―、芸術生活社 1973.
中里竜二・佐川義明 ねぼすけパンダのフェイフェイ 学習研究社1985.
中里竜二 3.パンダ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典監修,(財)東京動物園協会 1991.
中里竜二 知っておきたい野生ジャイアントパンダの基礎知識 In.動物園【真】定番シリーズ(1) パンダ 写真/図鑑/データブック:監修 エレファント・トーク、CCRE 2008.
倉持 浩 パンダもの知り大図鑑. 誠文堂新光社 2011.
Schaller, G.B.(熊田清子訳) 野生のパンダ. どうぶつ社、1988.
Chorn, J. & Hoffmann, R. S. Mammalian Species . No.110 Ailuropoda melanoleuca.
The American Society of Mammalogists 1978.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores,
Lynx Edicions 2009.
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