No.125 ホッキョクグマ – おもしろ哺乳動物大百科 73 食肉目 クマ科

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ホッキョクグマ属

1属1種で北極圏に分布し、クマ科の中で最大となり、体重が800kgの記録が報告されています。ホッキョクグマは分類学的にはヒグマに近縁なためクマ属に含まれる場合もあります。

ホッキョクグマ

ホッキョクグマは名前が示す通り北極圏沿岸からユーラシア大陸の流氷水域、アメリカ北部に分布しています。南限は流氷がどこまであるかによって違うという事ですが、北緯88°(度)のベーリング海のプライビロフ諸島、ニューファンドランド島、グリーンランド島の南端、アイスランド南部にかけて生息しています。ハドソン湾とジェームス湾の個体は、その沿岸や数100km以内の流氷域、および夏季になると内陸200kmほどの場所にいることもあります。行動圏は生息域によって差が大きく、1,000~600,000km²、あるいは20,000~250,000km²、また、アラスカからグリーンランドまで4ヶ月間に5,200km移動したなどの報告があります。
交尾期のオス、メスと母子連れ以外は通常単独で行動します。しかし、クジラなどの死体の周りで採食するときや、風雪が強くなると避難場所として大きな岩の割れ目に多くの個体が集まることもあります。
巣穴は長期間使用する出産用(冬眠用)のものと、一時的に夏と冬に作るものがあります。夏期の穴は風通しのよい場所を選んで地面を掘って作り、休息や直射日光、虫、外敵(人間)を避けるために使い、冬期に作るものは厳寒時の避難場所として利用します。冬眠は妊娠中の個体がおこない、オスや妊娠していないメスはしません。この時の出産用(冬眠用)の巣穴は通常海岸から8km以内にありますが、ハドソン湾南部周辺では30~60kmの内陸に集中して発見されています。泳ぎは上手で時速6.5kmで64kmの距離を泳ぐことができます。嗅覚と聴覚が鋭敏で潜水能力は約2分との報告があります。

からだの特徴

寒さに対しては万全なからだ。お母さんに寄りそって寝ているのは安心だから。写真家 大高成元氏 撮影

体はクマの中で最大になり、オスの最大級の体長は280cm、体重800kgの記録もありますが、通常はオスで420~500kg、メスは通常150~300kg、最大で340kgです。頸部が長く、頭部が小さくて、前足の掌も大きく泳ぐのに適応しています。体色は鼻端が黒ですが、他の部位は白色または黄色味がかった白色で、体は長さ5cmの下毛でびっしりとおおわれ、上毛は約15cmの長さがあります。夏の換毛で脱毛すると毛量が少なくなり地肌の黒い部分が見えます。4肢には5本の指があり爪はヒグマに比べ細く短めで、足裏の肉球の間に毛が生えており氷上で滑り止めの役割を果します。体には毛がびっしりと生え、それぞれの毛の中は空洞になっていて太陽光が当たると、ここに温まった空気が何層にも重なり保温効果を高めています。この他にも体内脂肪は厚く寒さから身を守っています。ホッキョクグマの肝臓にはビタミンAが大量に含まれていて有毒なため、イヌイットなどの先住民も肝臓を食べるのはタブーとしており、イヌにも与えません。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯2~4/2~4、臼歯2/3で左右上下合わせて34~42本です。乳頭は胸部に2対です。

えさ

おもにワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシ、タテゴトアザラシ、ズキンアザラシなどのアザラシ類を食べています。そのほかにセイウチ、シロイルカ、イッカク、ジャコウウシ、トナカイ、海鳥、卵、魚、カニ、クジラなどの死肉、夏と秋には漿果、海草などの植物も食べます。
主食となるアザラシを捕食するときは、優れた聴覚で氷の下にいる動物の匂いを察知し、強力な前足で氷をかき割り捕えるか、アザラシの呼吸用の穴で待ち伏せて捕えます。動物園では鶏肉や馬肉の他、ホッケ、ニンジン、リンゴ、牧草のクローバーなどを与えています。

繁殖

発情期は春から夏(3月から6月)にかけてみられ、オスは1~2頭のメスを1~3週間伴い、交尾するまで発情は続きます。妊娠期間は195~265日で着床遅延があります。メスは12月下旬から1月上旬にかけて雪の中に巣穴を掘り、その中で1~4子ふつうは2子を出産します。3月下旬から4月上旬に母子で巣穴を出ます。新生児の体重は約600g、全長約30cm、短い毛でおおわれています。目は閉じていますが約4週間で開きます。乳歯は生後1.5~2ヶ月齢で生えはじめ、生後5.5~11ヶ月齢で永久歯に代わっていきます。母乳は約30%の脂肪を含んでいますが、授乳後期には脂肪分も少なくなっています。授乳期間はおよそ2歳半までです。子どもは生後24~28ヶ月間母親とすごし、その後独立していきます。性成熟は4.6~7.2歳で、出産間隔は2~4年に1回です。
長寿記録としては、デトロイト動物園で1991年9月21日に死亡した個体(メス)の飼育期間42年10ヶ月、推定年齢43歳10ヶ月という記録があります。

外敵

人間以外の外敵として、近年稀に水中でシャチに襲われる例が確認されていますが、原因は流氷が減少し泳ぐ距離が長くなりシャチに襲われる危険性が高まったと予測されています。
成獣のオスが子どもを殺すことがあるので、子連れの母親はオスの接近を大変警戒しています。

生息数減少の原因

これまで流氷の上で繁殖するアザラシたちを襲って捕食していましたが、地球温暖化の影響で流氷地域が減少し、主食となるアザラシの繁殖域が少なくなり、いままでアザラシを主食としてきたホッキョクグマは餌の問題で窮地に立っています。この他、IUCNは油田開発により流出しした油がホッキョクグマの生存に悪影響を及ぼしていると表明しています。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 北極圏
体長(頭胴長) オス200~250cm メス180~200cm
体重 オス420~500kg(最大800kgの記録があります)
メス150~300kg(最大340kgの記録があります)
尾長 7~13cm
肩高(体高) 130~160cm
絶滅危機の程度 ホッキョクグマの生息数は現在約20,000~25,000頭と推測されており、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。日本では、2010年11月1日現在、23施設で45頭が飼育されています。
ハイブリッド(雑種) ホッキョクグマはおよそ15万年前にヒグマから分かれ、分類学的には非常に近縁な関係にあります。近年の地球温暖化の影響により、北上してきたヒグマと陸地に上がってきたホッキョクグマの生息域が重なった結果、両種の間の交雑による「ハイブリッド(雑種)」の存在が確認されています。ハイブリッド(雑種)は体毛がホッキョクグマのように白く、盛り上がった肩と長い爪などヒグマの特徴がみられます。

主な参考文献

DeMaster,D.P. & Stirling,I. Mammalian Species . No.145, Ursus maritimus.
The American Society of Mammalogists 1981.
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986 .
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981(p25)
川口 幸男 4. クマ科の分類, In. 世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill
Publishing Company 1990.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
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