No.149 オオヤマネコ(ヨーロッパオオヤマネコ) – おもしろ哺乳動物大百科 96 食肉目 ネコ科

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ネコ科

オオヤマネコ(ヨーロッパオオヤマネコ)

ユーラシア北部に分布し、主にヨーロッパとシベリアでは有蹄獣の生息する森林、中央アジアでは開けたまばらな森のある地域、ヒマラヤ山脈の北斜面では樹木限界線より上の荒れ地や岩地、半砂漠から密生した藪、チベット高原や北極圏では針葉樹と落葉樹の混成林などさまざまな環境下で生活しています。ネパールのダウラギリ山では標高4,500m地点で見られていますが、冬季には標高が低い場所に移動します。木登りや水泳も上手で狩りや身を隠す時に役立っています。夜行性で真夜中と日中は休憩し、活動時間のピークは薄暮の時間帯で日中の活動時間は25%以下です。ポーランドのビャウォヴィエジャ原生林における調査によれば、15時から翌朝の7時までの間に平均6.5時間活動し、活動時間はオスで夜間が73%、メスでは昼と夜が半々でしたが、子連れの母子は通常より2倍の活動しました。また、強い雨や気温が30度以上の暑いときは動きが少なくなっていました。1日の移動距離は数100m~40kmと開きがあり、平均でおよそ10kmです。基本的に単独生活ですが、母子と交尾期には雌雄が一緒に生活します。雌雄ともになわばりをもちオスのなわばりの中には1~3頭のメスがいます。行動圏の広さはいろいろで、ヨーロッパの中央及び西部では、オスが100~450km²、メスが45~250km²でした。行動圏の大きさは餌がどの程度確保できるかと密接に関連して、スカンジナビア半島ではオスは400~2,200km²、メスが200~1,850km²と広域を示しています。本種はネコの仲間で最も広い行動域を持つ1種ですが、そのうち75%余りをロシアが占め、北極圏の北緯72度まで生息しています。なわばりの主張は主に境界線上での排便と排尿のスプレイおよび頬腺からの分泌物をこすり付けて行います。発情期の恋泣き以外の声は小さくコミュニケーションには使わないようです。

からだの特徴

飼育していると少々肥満気味になりますね。短い尾も特徴の一つです。写真家 大高成元 氏撮影

全体的にがっしりとした体格で、短く密生した毛はふかふかで寒冷地に適応しています。他のネコの仲間にくらべ体色は多様ですが北方産の個体は斑点が薄くなります。体の模様も一様でなく、縞模様や斑点の有無、濃淡などがさまざまです。顔は丸く、耳は三角形で背面に白い虎耳状班はなく、先端の長さ6cmほどになる黒い房毛は音を聞くために重要な役割を担い、イヌよりも聴力が優れています。尾は短く、先端が黒くなっています。頬の長い毛はイエネコと同様に触覚の役割を果たしています。前肢より後肢の方が長く、指向性で前足に5本、後肢に4本の指があり、それぞれ引っ込めることのできる鈎爪があります。足底は他のネコの仲間に比べ大きくて、冬季には厚い毛に被われて広くなり、かんじきと同じように雪に埋もれることなく深い雪の中を歩くことができます。目は正面に位置し立体視できることから獲物までの距離を測ることができ、視力も優れています。虹彩は黄土色か黄緑色で、瞳孔は円形に収縮します。体長は80~130cm、尾長11~25cm、体重18~38kgで、オスはメスより約25%重くなります。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯2/2、臼歯1/1で合計28本です。乳頭数は2対です。

えさ

主食は生息地にすむ小型有蹄獣の仲間のノロジカ、ジャコウジカ、シャモワ、中国ではバーラル(ヤギの仲間)などで、これらの獲物が獲れない時に、ナキウサギやノウサギ、大型のげっ歯類、ライチョウを餌にしています。スカンジナビア半島では秋から冬にかけて小型のノウサギなどから大型の有蹄獣に代わり、北部では半家畜化したトナカイを獲ります。この他、家畜のヒツジ、ヤギ、飼育しているダマジカも襲います。自分の体重の3~4倍ある獲物を殺す能力があり、稀にアカシカ、イノシシ、アイベックスも捕えます。年間50~70頭の有蹄獣を捕え、1日あたり1~2.5kgを食べると報告されています。

繁殖

ロシアでの交尾期は1月から3月、出産期が4月から6月、また他の地域では3月から4月中旬が交尾期で、出産期が5月から6月初旬の報告もあります。いずれも出産期は5月が中心となっており餌となる動物たちの出産期と重なっています。妊娠期間は68~72日。1産で1~4子と幅がありますが通常2頭を出産します。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は約250gで、目は閉じて生まれ生後9~14日齢で開眼します。羽村市動物園で1979年6月12日に生まれた2頭の出産記録では、赤ちゃんの毛色は黒味がかり、生後11日齢で母親と同じように褐色に変化し、生後約61日齢の体重が1,570g、1,610gでした。生後50日齢ころ母親は固形物を持ち帰り離乳期に入り、およそ3ヶ月齢で離乳します。そしてこの頃になると子どもは母親の狩りに同行し、母親が次の交尾期に入る頃に独り立ちします。メスの性成熟は生後約22ヶ月齢でこの頃初めての繁殖期に入ります。オスの性成熟はおよそ生後約30ヶ月齢ですが、ノルウェーで生後31ヶ月齢や生後21ヶ月齢の報告例があります。高齢の繁殖年齢はメスが14歳、オスでは16~17歳の報告があります。
長寿記録としては、ポーランドのワルシャワ動物園で1980年5月17日に生まれた個体(オス)が、ポーランドのクラクフ動物園において、2004年1月20日現在23歳8ヶ月でなお飼育中の記録があります。

分類について

オオヤマネコは、(1)オオヤマネコ(ヨーロッパオオヤマネコ) (2)スペインオオヤマネコ (3)カナダオオヤマネコの3種に分類する場合と、(1)(3)を統合し2種としスペインオオヤマネコをその一亜種とする場合があります。本稿では3種に分類する説に従いました。

スペインオオヤマネコ

スペインオオヤマネコは、スペイン、ポルトガルの主に山岳地の針葉樹林に生息し、ヨーロッパオオヤマネコより一回り小型で、体格は、体長85~110cm、尾長12~13cm、体重12~20kgです。生態、体の特徴、繁殖はいずれもヨーロッパオオヤマネコと類似しています。

データ

分類 食肉目 ネコ科
分布 西ヨーロッパからシベリア、インド北部、中国、朝鮮半島
体長(頭胴長) 80~130cm
体重 18~38kg(オスの平均21.6kg、メスの平均18.1kg)
尾長 11~25cm
絶滅危機の程度 生息地の分断と消失、現在も続く密猟により生息数が減少している地域がありますが、分布も広く生息数は比較的安定していると考えられています。そのために今すぐに絶滅する恐れは少ないと判断され、IUCN(国際自然保護連合)発行の2013年版のレッドリストでは、LC(低懸念種)にランクされています。2003年の調査によると野生の生息個体数はロシアで30,000~35,000頭、ロシア以外のヨーロッパで約8,000頭と推測されています。そのほかに中国とモンゴルでは不確かな情報ですが、あわせて約10,000頭が生息していると考えられています。

主な参考文献

Estes, R.D. The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
羽村信義 シベリアオオヤマネコの繁殖 どうぶつと動物園 4月号 (財)東京動物園協会 1980.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
今泉忠明 野生ネコの百科  データハウス 1993
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
Nowell, K. & Jackson, P.(ed) Wild Cats―Status Survey and Conservation Action Plan― IUCN 1996
成島悦雄 ネコ科の分類 In世界の動物 分類と飼育 □2 食肉目:今泉吉典 監修、 (財)東京動物園協会 1991
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol. The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009.
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