No.029 樹上にベッドを作るオランウータン

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子どものころ、大きな椿の枝に棒を渡し、休憩できるようして得意になったことがあった。親からはそんなサルみたいな遊びは止めろ、と注意されたが高いところに上がるのは気分が良いものだ。さすがに子どもではプレイリードッグのように、地下に穴を掘ることはできないが、木の枝に2〜3本の棒を渡すくらいなら簡単だ。

オランウータンの保護センターに行くために、こんな小さなボートに乗って川を渡る。

スマトラのオランウータンを見に行ったときのことだ。
オランウータンの保護区は、川を挟んだ対岸にあったので、5〜6人しか乗れない小船に乗り渡った。川の流れの速さとその舟を見た一行は、本当に大丈夫?と心配する人もいた。川を渡ると、現地の人たちの集落があり、どこからともなく若者たちが現れて、我々を取り囲んだ。通訳の話によれば、荷物を持って一緒にオランウータンのいるところまで行ってあげる、と言うのだ。しかし、初めて見るゴム草履を突っかけた若者は正体が分からないので、「自分で持てますからいりません」と断固として断った人もいた。

いつの間にかオランウータンが我々のそばにきた。

高温多湿で足場が悪い急斜面を20分も登ると、たちまち滝のような汗が噴出し、青息吐息、気がつけば断固として断った御仁も、いつの間にか若者に荷物も持ってもらい手を引っ張られ、後ろから腰を押されながら必死で登っていた。
私は幸いなことに田舎育ち、山道は慣れていたがそれでもじっとりとした暑さには閉口しながら登って行った。するとガイドが袖を引きながら横を指差している。びっくりしたことに、私たちのすぐ横にオランウータンの子どもが歩いていた。山の中であまりにも自由にしているので、「これは野生のオランではないのか?」と聞いたところ、さまざまな事情で一度人間が飼っていた個体を保護センターで引き取り、山に戻す訓練をしているのだと言う。何のことはない、放し飼いのオランウータンといったところだ。
さらに登ると、木組みの台があり、そこが餌場となっていて、バナナや果物をもらっていた。野生のオランウータンは、イチジクやドリアン、ランブータンが好物だが、木の葉や昆虫、小動物なども食べる。

樹上にはかわいい母子もいる。

野生のオランウータンは宵闇迫れば10〜25mの樹上で、周りの枝を引き寄せ集め自分でベッドを作りお休みになる。ベッドは数日使うこともあれば、1日で変わることもある。いづれにしても単に回りの枝を寄せ集めるだけなので簡単にできる。熱帯では、高い樹上は風通しも良いし、外敵に襲われる心配もなく、最高の場所となるだろう。
母子は子どもが独立するまで一緒に生活し、若者や子どもたちはしばしば一緒に遊ぶが、成獣のオスは単独でゆうゆうと生活している。もちろん、発情期には雌雄で一緒に生活するが、その期間も一週間程度である。森の中の果物の木々の場所や果実の熟す時期を良く知っていて、人間たちの侵略がなければ悠々自適だ。

同じ類人猿の中でも、群れで生活するゴリラやチンパンジーに比べると、孤独性が強いためか顔の表情は乏しく、現地では彼らを「森の人=オランウータン」と呼ぶ。

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